鶺鴒浴場(皆人×セキレイ)(非エロ)
番外編


ここは出雲荘

『はぁぁぁ…落ち着くなぁ……」

湯船に浸かり、皆人はのんびりとしていた。
出雲荘のお風呂は男女共用なので、いつ誰が入ってきてもおかしくはなかった。 普通の女性なら、男物の衣類を見れば中に入ろうとは思わないが、ここには逆に入ろうとする者ばかりがいた。

『…いつも時間ずらして遅くなっちゃうけど、仕方ないか…。みんな一緒に入りたがるのを毎日避けて、疲れて、何やってんだろ俺……』

ガラララララーー

「見つけたぞミナト! 今日こそ、討ち取ったりじゃ!」
「皆人さん、慎んできましたー」
「おにいちゃんと、いっしょに入る…」
「あらダメよ、静かにしないとせっかくの機会が無駄になっちゃうし」
「松は…ここで観察してるです」

『ァ――ッ!!!!!』

声にならない声の中、
突然風呂に入ってきたのは、皆人のセキレイ五人だった。

『ちょ…っ…なんでみんな…!?』

いくらタオルで隠れてるとはいえ、直視すると危険だと察した皆人は後ろを向きながら言った。

「汝がいつまでも吾を避けておるからじゃ。してやったのじゃ!」
「すいません皆人さん、みんなで計画的犯行にしました」
「くーも、一緒に入りたかったも」
「あらあら、皆人クン大人気ね」
「松は一部始終を見る係でいいです。皆たんをひたすら眺めてるです」

『そんな……あえて避けるようにしてた俺の努力は……』

「もっと別のところに使うがよい!」

月海が一蹴した。

「さ、それより早く湯船に浸からんと風邪をひいてしまう。…ミナトの横は、吾ということで…」
「うぅー!」
「月海さん、何言ってるんですか?」
「私も皆人クンの隣がいいわ〜」
「案の定こうなったです。 でも出雲荘の湯船は広いですし、皆たんを囲むように入れば全員が皆たんの隣ですよ?」

一同、納得したように頷いた。

『ちょ、ちょっとなんでそこで納得…って、ああぁっ!!』

皆人が抗議しようとする間も与えられず、松の提案通り皆人の周りをセキレイたちがぐるっと囲んだ。おしくらまんじゅうの逆のような陣形。
ボタボタと鼻血が止まらない。

『…鼻血…じゃなくてっ皆おちついて! 駄目だってこんな…』
「落ち着くのは汝の方じゃミナト。何も取って食うわけではない。ただ、一緒に…入るだけじゃ」
「え〜、それだけじゃ面白くないわよね?ね?」
「結はおもしろいですよ?」
「いっしょ…入れた」
「松はだんだん皆たんが可哀相に見えてきたです…」

『うぅ……(どこかへ飛んでしまいたい)』
「ミナト、どこを見ておる! 吾の方をみるがよい」

月海が皆人の顔を掴み、自分の方へと向けさせる。

「結の方がいいですよね、皆人さん」

今度は結が皆人の顔を自分の方へと向けさせる。

『く…くび、が…』
「二人ともやめなさい、皆人くんが苦しそうよ。 ほら、お姉さんが介抱してあげる…」

と言いつつ風花は皆人を抱き締めた。

ムギュッ

「うううーー!!」
「汝はどさくさに何をやっておるかー!!!」
「結もやりたいです!!」

『(なんだ、どうなったんだっけ…… あれ…頭がのぼせ……で、やわらかい…の何これ…)』

「あら、皆人クンの様子が変よ?」
「まっかっか」
「早く出るです! 湯船から皆たんを出すですよ!」
「結に任せてください! えいっ!」

ザパーッ

一本釣りのように釣り上げられた皆人は、真っ赤っかになりながら湯船から放り出された。 原因は刺激が強すぎたためだったが、一部のセキレイは自覚なしである。

『はぁ…はぁ……。あれ……俺どうしてたんだっけ…??』

ゴシ…ゴシゴシ…

「気が付いたかミナト。 まったくあれぐらいで湯当たりとはだらしのない。少し頭を冷やすがよい」
「くーもっやるも!」
「どうしていつも月海さんなんですかー?」

ブバッ

目が覚めた皆人は、気付いたら背中を流されていた。 月海がすぐ後ろに、そして結と草野も背中を流したがっている。

『だから…っ…勘弁して……』
「目が覚めて嬉しいわ皆人クン。お姉さん寂しかったもの」
「もう少しゆっくり休ませてあげた方がいいですよ。 またのぼせたら終わっちゃうです」

ゴシゴシゴシ

『(何だっけ… 何がどうなって?…頭が…回らない)』
「ミナト、どうじゃ? たまにはこういうのも悪くないの… 夫婦として、吾は幸せじゃ…」

頬を染める月海をよそに、背後には熊が見えた。

「月海さん、もういいんじゃないですか? 結、代わりますよ?」
「くーも!くーもやる!!」
『は…はは、皆ありがとう、俺もうそろそろ…』

場の空気を察した皆人は、今すぐここから退散しようと考えた。 考えたが、それを見逃すほど全員よい子ではなかった。

ガシッ

「皆人クンもう帰っちゃうの? お姉さん寂しいわぁ〜」
『風花さん…腕に、胸が…っ』
「吾はまだ洗ってる最中じゃ。ミナト、隅々まで洗うまで帰さぬぞ」
「月海さんは、もう充分洗いました! 結が拳で洗います!」
「くーもっ洗うのー!!」
「皆たん…4人に抱きつかれて大変なことになってるです。 松は皆たんの反応を眺めてるだけで…クフフッ」

『みんなおちつい…ブバッ ちょっとタオルで隠し…ブバッ 腕に何か当たってっ…る』

ガクッ

皆人の意識はどこかに飛んでいった。

ガシャアアァァアァアアン!!!!

その刹那、風呂場の窓が割れたような音がした。 しかし割れたのは窓ではなく、風呂入り口のガラス戸だった。あまりに力強く開けられたため、その勢いでガラスが割れてしまった。

「皆さん、何を や って る んで す か?

「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」

しーーーーん。

全員が沈黙した。 風呂場に入ってきたのは出雲荘大家のその人、美哉である。
睨まれただけで固まってしまうほどに、美哉の目つきは鋭く、般若も怖くて、言葉にならないものがあった。

「わ、吾はミナトの背中を流…
「怒りますよ?」

発言が許されない、何を喋っても無にされそうなぐらい、般若が怖かった。

「吾が悪かった…」
「松も、悪かったです…」
「くーも…ごめんなさい…」
「結も、ごめんなさいでした」
「ちょっといきすぎたかもしれないわね…」

申し訳なさそうに出ていく五人。

「まったく、皆さん何を考えているのかしら……」

美哉は先ほど散らばったガラスの破片を集めていく。

『はっ!』

その時、ずっと放置されていた人物が目を覚ました。

「佐橋さん、気がつきましたか?」
『大家さん…俺……』
「多少は仕方のないことだと目を瞑ってきましたが、今回のようなことが多くあれば、ガラス代が半端ありません」
『…自分で割ったんじゃないっすか…』

キリッ

「ともかく、今のままではまた同じ事になります。なので佐橋さんには、各々の皆さんと一人ずつお風呂に入っていただこうと思います」
『え…!?なんでっていうかそれって駄目なんじゃ…?』
「もちろん、何かしら問題があった場合には、相応の覚悟をしてもらう必要がありますが、現状ではいたちごっこだと判断したためです」
『覚悟って……やっぱりそんな事しなくていいですよ大家さん』
「ガラス代が半端ありません」
『……。』

色々と突っ込みを入れたい皆人だったが、大家さんが怖いのと、少なからず自分にも非があったと思ったため、何も言わないでいた。

「では、よろしくお願いしますね」

『うう……何でこんな事に…。…っくし!』

身体を洗われ中途半端に放置された状態のまま、
風呂場には一人残された皆人の、何ともいえないくしゃみが響いた。
その後起こりうるであろう出来事は、今は考えないようにした。

続編:鶺鴒欲情 月海(佐橋皆人×月海)






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