高遠の欲望
高遠遙一×七瀬美雪


「はぁ〜」

校門前で美雪は腕時計に目を落とした。

「七瀬さん、アイツ待っててもムダだよ。今日は先生がつきっきりでしごかれるみたいだからね。いつ帰れるかわからないよ。」

金田一を待っている間にすっかり日が落ち、美雪の帰りを心配した草太は先に美雪に帰るように促した。

「そうよね。もう帰ろうかな。はじめちゃん自業自得だし。」
「うん、それがいいよ。暗くなったし、オレ、送っていこうか?」
「ありがとう。でも大丈夫だから。」

このチャンスに美雪と2人きりに、と切り出すが、あっさりかわされてしまう。思えば草太は相当前から美雪に好意を寄せているのだが、当の美雪は全く気づかない。
いや、草太だけに限らず美雪に密かな思いを寄せている男たちは沢山いるが、それも全く気づかない美雪の鈍感さが草太をやきもきさせる。
しかし草太の性格上、一度断られたらしつこく言うこともできず、美雪と校門で別れた。
毎日通学で往復している道をいつもと同じように通り、いつもと変わらない家に帰る、そんな当たり前の、取り立てて考えることもない日常が今日は訪れないことを、このとき美雪は知らなかった。


細い路地に入るとすっかり暗くなっていて、その暗さと肌寒さが背筋を通り抜ける。だが、それは暗さと寒さのせいだけではなく、ある人物独特の、凍りつくような冷たさだと美雪が認識するのに時間はかからなかった。

「地獄の傀儡師…」

そう呼ばれた男はその冷ややかな目元はそのままに、口角だけを軽く上げた。

「今日は金田一くんは一緒じゃないのですか。」

いきなり高遠が目の前に現れたことにより、驚き動くこともできず言葉さえも失い、ただ呆然と立ちすくむ美雪に、まるで何事もなかったかのように近づくと、美雪の目前に薔薇を差し出した。
なぜ、自分でもそうしたかわからないが、気が付けば高遠に差し出されたその薔薇は美雪の手の中にあった。

「では、また会いましょう、と、金田一くんにお伝えください。Good Luck!」

手をあげ、お決まりのセリフを口にし、美雪に背を向けて去ろうとする高遠に、美雪はようやく搾り出した言葉を投げつけた。やがて後悔の嵐が押し寄せてくることを知らずに。

「あなたなんか、そのうち絶対はじめちゃんが捕まえてくれるんだから!」

去ろうとしていた高遠はその言葉を聞くなり、美雪の目の前に再び現れた。

「面白いことを言うお嬢さんだ。この私が金田一くんに捕まえられるとは、ずいぶんなめたことを言ってくれますね。」

相変わらず自分に投げかけられる凍てつく視線。その視線で見つめられると恐怖で震えが止まらなくなり、やがては立っているのも、かろうじて、というほどに恐怖にかられる。

(草太くん…1人で帰るんじゃなかった…はじめちゃん、助けて!はじめちゃん!!)

目に恐怖の色を浮かべ、心の中で必死に金田一に助けを求めるが、その叫びも空しく、その腕は高遠に容赦なく捕らえられる。

「私をなめた罪は重いですよ。身をもって体験してもらいましょうか。」

目の前で何かが弾けたと同時に、美雪の意識が遠くなってゆく。

(はじめちゃん…はじめちゃん…)

薄れゆく意識の中で、金田一の名前を呼び続けた。

目覚めると、知らない天井が視界に入る。

(ここは…?)

だるくて重い体を起こそうとするが思うように動かない。

(確か高遠と出会って、それから…思い出せない…夢…?)

ガチャリ、という重いドアの音が美雪の思考が遮られる。続けて聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

「これはこれは、お目覚めですか。」

声のほうを見やると夢の中で出会った男が立っていた。ようやく美雪はこれがまぎれもない現実だということを認め、再び体を強張らせた。

「そんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。私は別にあなたに危害を加えようとは思っていません。」
「じゃあ、なぜ…?」

かまわず叫びだしたい気分だったが、相手は何人もの人間を殺害したプロの殺人者。下手に騒ぐとこの殺人鬼に何をされるかわからない。

「私はなめられることが一番嫌いなのです。二度とそのようなことがないように少しお仕置きが必要だと思いましてね。」

背筋が凍りつく。高遠に見つめられていると無言の圧力に襲われる。が、どうすることもできない。逃げることも、助けを呼ぶことも。ここがどこだかすらわからない。ただ今は、高遠におびえながら伝わることもないSOSを心の中で発することしかできなかった。

「おやおや?怖いのですか?先ほどは景気よく啖呵をきってくれましたけど、あの元気はどこへ行ったのでしょうねぇ。」

高遠が美雪の頬に手を添えると、美雪の体がビクッと小さく跳ねる。
熱いものが頬を伝う。どうすることもできない、怖い。しかし、高遠にとって恐怖の表情は彼を刺激する材料にしかならなかった。

「金田一くんの大切な人を手中にするのも悪くない。」
「だっ、誰があなたなんかに…」

言いかけた美雪の口は高遠の冷たい唇によって塞がれた。
ぬるりとした感触のものが美雪の口内を這いずり回る。必死に離そうと抵抗するが、男の力で押さえつけられては抜け出す術はない。高遠の口が離れるまでの時間は長く、長く思えた。
やっと離れたと思ったのも束の間、今度は後ろから抱きすくめられ、首筋を舌が伝う。
その感触に断固抵抗していた美雪の体から力が抜けた。

「ほう、ここがいいのですね。」

美雪の反応から弱点を見抜き、巧みなテクニックで攻め立てると、体が彼の技に反応してしまう。
高遠は余裕たっぷりに後ろから美雪を愛撫し、服のボタンを外すとその手を滑り込ませ、双丘の突起を捉えた。

「あっ…」

思わず漏れた声を聞き逃さなかった高遠は耳元を甘噛みし、囁きかけた。

「もうこんなに硬くなって、嫌らしい体ですね。」

美雪は恥ずかしさ顔を真っ赤にし、高遠を振り払おうとしたが、無駄な抵抗に終わる。
取り立てて考えたこともないが、初めての相手はきっと金田一なんだろう、と美雪は漠然と考えていた。
しかし、こんな形で高遠に触れられている今の状況がどうしても理解できなかった。しかも、嫌なはずなのに、体は言うことを聞いてくれない。あきらかに高遠の愛撫に反応している、その事実が金田一を裏切ったようで悲しかった。

(はじめちゃん、あたし、もうダメ…)

高遠は美雪の考えを見透かしたように、再び弱点を攻め立てた。

高遠は美雪も気づかない速さで下着以外の衣服を剥ぎ取り美雪をベッドに横たわらせ、組み敷いた。
下着の横から手を滑り込ませ、美雪の高校生とは思えないほどに発達した乳房を露わにすると、先端を丹念に舐めあげてゆく。
高遠の絶妙な舌使いに時には声が出そうになるのを飲み込み、時には吐息を漏らしながら、必死に抵抗する。が、まったく力が入らない。
美雪が少なからず感じている、そう確信すると高遠は胸を這わせていた舌を徐々に下へと移動させてゆき、その度にピクリ、ピクリと小刻みに反応する美雪の体を楽しんだ。

下腹部まで降りてくると高遠はいったん動きを止め、美雪の足をM字に折るとその真ん中がじんわり濡れているのを見つけると、クスッと一笑し、美雪にささやきかけた。

「もう、濡れているじゃないですか。そんなに私の口付けは感じましたか?」

高遠の言葉に、美雪は恥ずかしくて逃げ出したくなるが、足をがっちりと絡められ、顔は呼吸が聞こえるほどに近い位置にあり、到底抜け出すことなどできない。
高遠はもう一度美雪の唇に自分のそれを重ねた。

「私が絶頂をプレゼントしますよ。」

美雪は初めてまともに高遠の顔を見た。今までは地獄の傀儡師としてしか見たことがなかったので気づかなかったが、意外にも整った顔立ちで思わず見惚れてしまう。
その時美雪にできた一瞬のスキをうかがい、高遠は下着を剥ぎ取った。

「えっ!?」

美雪が気づいたときには、自分の体には一糸纏わぬ姿になっていて、高遠もいつの間にか下着姿で美雪の上に覆いかぶさっていた。

美雪の秘所に指を這わせ、敏感な突起を優しく触れると美雪の体は大きく震えた。
足を押さえつけ、ゆっくりと指を動かすと美雪の口から漏れる声を満足そうに聞くと、指を入れてゆく。
高遠の指を驚くほどすんなり受け入れると、その指はゆっくり、しかし、性格に急所を捉え、美雪の中を掻き乱した。
中指で中を乱し、親指は突起を刺激する。その度に美雪の体は揺れた。

「い…や…」
「そんなはずはないんですがね。」

消え入りそうな美雪の言葉を、この先起こることを予測して自信たっぷりに発した高遠の言葉は容赦なく否定した。

「もう、これ以上は…」
「なにを言っているのです?お楽しみはこれからでしょう?まだ何もしていないじゃないですか。」

美雪の体は高遠の愛撫ですでに絶頂寸前までのぼりつめていた。

「あっ…うん…」

思わず漏れる声に自分でも驚き飲み込もうとするが、もはや抑えるのが困難となってきていた。

(もう、どうなっても…)

絶頂を迎える寸前、美雪の理性は弾けかけたが、高遠の指は引き抜かれた。

「え・・・」

予想外の高遠の行動に美雪は拍子抜けし、高遠を見ると、彼は含み笑いを浮かべ、美雪の頬に手を沿え、耳元でささやく。

「もう、終われると思ったのですか?」

潤んだ瞳で自分を見つめる美雪の耳たぶを甘噛みすると、すでに硬くなった剛直を美雪の秘所にあてがう。

「私を、ナメてもらっては困りますよ。」

言うと、高遠は自身を美雪の泉に擦り付けた。ゆっくり、何度も、美雪の官能の芽を開かせるがごとく。
その行為は、絶頂寸前の美雪にとって焦らし以外のなにものでもない。
目の前にいる男が高遠でもいい、早く自分の熱をクールダウンしてほしい、理性が音を立てて崩れていくのがわかった。

まだ余裕のある高遠はそんな美雪を察してなお、先端だけ軽く挿入して掻き回し、さらに美雪を焦らす。
どうしても美雪の方から求められたい。金田一に最大の屈辱を与えたい。その高遠の欲望は性欲よりも遥かに勝っていた。

「もう・・・ダメ・・・」
「何がダメなんですか?ちゃんと言ってもらわないとわかりませんよ。」
「そんなコト…」

(もう少しだ。もう少しであの男に最大の屈辱を味合わせられる。早く堕ちろ!)

高遠が強く念じたとき、奇跡は起こった。開かれるはずのないドアは鈍い音を立てて開いた。2人の視線がドアに集まる。

「クッ…!」
「明智さん!!」

開かれたドアから入ってきたのは明智だった。

「高遠!?七瀬さん!?」

一瞬、あっけにとられたがすぐに詰め寄ると美雪から高遠を引き離した。
状況で何があったか明智には瞬時に理解できた。しかしあまりに予想外の状況に、美雪の姿を見て少々怯み、高遠が逃げ出すための十分な時間を与えてしまう。
いつの間にか高遠は服を着て、明智と十分な距離を取っていた。

「後少しだったんですけどね。なぜここがわかったのですか?」
「私の警察官としてのカン、とでも言いましょうか。まさかキミがいるとは思わなかったが。」
「いいところだったけれど、お楽しみは次回にとっておきましょう。Good Luck!明智警視。また会いましょう…」

言うと高遠は煙とともに消えた。

「大丈夫か?七瀬さん!!」
「あっ…明智警視…来てくれたんですね…」

明智はシーツを引き剥がし美雪をくるむと、緊張の糸が切れたのか、明智の胸に倒れこむ美雪を両腕で優しく包み込む。

「もう、大丈夫です。ヤツは捕まえられなかったけど、なんとかキミを救えたようだ。」
「明智警視…こ、こわかった…」

安心した美雪の目から大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。

「とにかく、服を着てください。家まで送りますから。」
「……」

反応がないのを不思議に思い、黙り込む美雪を覗き込む。

「どうしました?」
「帰りたくないんです…」
「失礼。そうですね。こんなことがあった直後に人に顔を合わせられませんね。」

黙って頷く美雪を放ってはおけない、そう考え、

「気の利いたものは何もありませんが、今夜は私の家にお泊めしますよ。」
「でも、それでは明智さんにご迷惑ですから…」
「私のことは気にしなくていい。今はキミの傷を癒すことだけを考えてください。」
とめどなくあふれ出す涙を指で遮り、そっと美雪を抱きしめる腕に安らぎを感じながら、ただ、明智に身を任せた。

美雪の目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

続編:高遠の欲望 続編(明智健悟×七瀬美雪)






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