お酒の勢い
藍沢耕作×白石恵


「ああいう所って…行った事あるの?」
「無い。初めてだった」
「そう…なんだ…。でも、落ち着いてたから…。
 あ、そっか…藍沢君はいつも落ち着いてるか…」

ポツリポツリとした会話をしながら繁華街の裏路地を歩いている。
白石は少し落ち着きの無い様子を隠せない
病院じゃない場所で、しかも私服で藍沢と居る事が奇妙に思えると同時に
初めて行ったオカマのショーパブという空間に驚いた余韻もあった。
そして何か普通を装わないとけいないという気持ちもあった

「メリージェーン洋子さん、ショーで見るほうが
入院してたときより綺麗に見えたね。お化粧とかかな…少し痩せたからかな」

「無理して話さなくていいから。」

「無理してないよ…。ごめんね?無理やりきてもらっちゃって…
 せっかく早く勤務終わったのに。でもどうしても一人じゃ行く勇気なくって…」

緋山も藤川も今夜が当直で誘えなかった
地元を出て病院の近くに一人暮らしをこの春からしたばかりで
気軽にそういう場所につきってもらえる友人もなく
だめもとで、偶然に病院の通用口で会った藍沢を誘ったのだ。
正確には「頼み込んだ」だが。

「そうだよな…大学教授のご令嬢がショーパブ初体験を一人でなんて
 できる訳ないよな。俺は別に“へぇ”って感じで済むけど。
 酒も少しだけど飲まなきゃいけない空気だしな、ああいう店は」


仕事以外の会話を初めてした、白石が驚きながら「うん…」と小さく頷いた。
地下鉄の駅までの近道として裏路地を歩いていくとどうしても沈黙が重苦しい…
再び白石は口を開いた

「大山さ…じゃないや、メリージェーン洋子さん、新しい彼氏できたのかな。
入院中にフラれちゃったんだって。でも今日綺麗になってたから新しい恋とかしたのかも。
藍沢君は、彼女とか…いるの?そういうのには興味ないって感じだよね…」

最後のほうは勢いで質問に繋げてみた。だけど聞いてからの空気の重さに
聞かなきゃよかったと後悔をする。2歩くらい先を歩く藍沢が振り向きもせずに答える

「興味は確かに無いな。今は。そんな暇ないし。」
「でも…彼女がいたとか、恋したことってある…よね?」
「過去に。それなりに。一応」

藍沢らしい手短な答え。しかし答えるという行動が藍沢らしくない。
そう驚いていると続けて藍沢が呟いた

「夜勤明けで少ししか寝てない時に酒飲むと、まわるな」

…酔ってるのかな…。でも別に口調や歩き方は変化ないし…
「そうだね…」弱弱しく答えて白石は観察するように藍沢の後姿を見ていた。

駅までは15分程歩くだろう…そんな事を考えながらはじまった無言に耐えていると
2歩前を歩いている藍沢がフラリとする。咄嗟に肩を支え

「大丈夫?…どうしたの?」
「ごめん…別に…何でも。」

支えた手を軽く払うと再び歩きはじめた。

「徹夜明けに久しぶりに酒なんて飲んだから、少し」

酔ったんだ?藍沢君が…?なんだか不思議な感じがする。
だけど彼も人間だからそれは当たり前なんだけど…

「ね、本当に大丈夫?」

2歩分、小走りをして藍沢の前に出ると、かなり眠そうな顔をしている。
心なしか少し歩き方も先程よりは千鳥足。そんな藍沢を見て驚いた顔をする白石に
藍沢は自分の酔いを感づかれた事に少し不満そうな表情になり

「帰ろう」
「あの…送ってってあげるよ…」
「いいよ別に」
「いいってば。ね、タクシー拾おう?」
「一人で帰れるから。まだ電車あるし」

あくまでも断る藍沢に対し、白石は心配からやっと出た大通りで手をあげてタクシーを拾った。

「藍沢君…明日ヘリ当番でしょ?私がつきあわせたせいで明日に響いたら悪いし…
だから送らせて?タクシー代出すから。」
「…。」

無言でタクシーに乗り込む二人。
再び無言が重苦しく思えて横目で藍沢を見ると寝ている事に気づいた。
あ…どうしよう…藍沢君の家の場所、聞くの忘れた…

「ねぇ、藍沢君、家って何処に…」

何度か揺するが起きる気配がない。それどころが揺すったらガクンと力が抜けて
熟睡している藍沢が自分の膝元に倒れ込んでしまった。
仕方なく、自宅の場所をタクシーの運転手に告げると膝を枕に熟睡している藍沢の顔を
何か緊張した気持ちで見つめ続けた。
そしてそっと、頬を指先で触れるが起きる気配はなく…
そのまま優しく髪を撫でてやる。緊張が、甘い緊張へと変わった。

「悪い…。」

タクシーから降りると寝起きの藍沢がぼそっと言う。

「大丈夫?あの…少し散らかってるけど…よかったら…」

ドアを開けて一人先に部屋へ上がり電気をつける。
片付いた部屋の中、机の上には付箋がしつこいくらいについている医学書が積まれている。
父ですら、まだこの部屋にきたことはない。自室に同僚といえ男性を招くのは緊張する
たとえ何もないとしても…。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出しコップに注ぐと横目で玄関を見る。
藍沢が躊躇っている様子…しかし水の注がれる音を聞いて、ひとつため息をついて靴を脱いでいる。

「水貰ったら、帰るわ…」
「うん…気持ち悪い?回ってる感じする?」
「問診するな。大丈夫だから」

コップの水を一気に飲む姿を見て、いつものような反論ができるくらいなら
大丈夫なんだろう、と少し安心した。空になったコップを白石が受け取ると
藍沢がソファにだらしなく座り、机の上の書籍を見て呟く

「――この部屋、男入れたことないだろ。変な生活感出すぎだ」
「…別に…いいじゃない…」

図星で気まずそうに答えると藍沢が続ける

「付き合ってる奴とか、いないんだな。見てわかる。」
「確かにいない…けど…。そういう暇、ないし…」

やっぱりまだ酔ってるんだ、プライベートの話題を自分からするなんて…
少し動揺しながら確信した。空になったコップを持ったままでいる白石の手を
突然藍沢が引いて、抱き寄せた。

「っえ…」

何が起こったか一瞬解らず…解った時には驚きと同時にバクンと心臓が強く動き始める。
かなり強く抱きしめられる…無言のままの藍沢にやっと声が出たが小さい声で

「どう…したの…?」

答えはない。「藍沢君…?」――やはり答えはない。ただわかったのは
自分と同じくらいに藍沢の心臓も速く動いているという事。
速い鼓動が伝わってくる。そしてアルコールの匂いが呼気から感じられる

「酔ってるんだ…?」
「酔ってるよ」

やっと答えてもらっても、「そうなんだ…」としか言えない答えで。
そのまま自然な流れで唇を重ねてくる…抱きしめる手の力が緩くなり
その代わりにいきなり深く舌が入り込んでくる。
戸惑いの感情が強かったが、藍沢の呼気のアルコールに便乗するように
それに応じようとされるがままに舌をねっとり絡ませていく。

数分…気づけば続いている。互いの呼吸音と自分の鼓動の音しか聞こえない。
反射的に、混ざり合った互いの唾液を飲み込んだ時にゆっくり唇が離れる
ふぅ…大きく空気をを吸うと、どれだけ自分が夢中になってたか気づいた。
それと同時にいきなり慌てだす。

「酔いすぎ、だよ…。よくないと思う…お酒の勢いとかそういう…」
「しておいて、今更慌てんなよ。」

いつもと変わらない冷静な藍沢が言葉を止めた。彼の言う通りすぎて。
だけどもこういうのは良くない、と思い立ち上がろうとするが藍沢の手が
白石の腕を掴んで離してくれない。それどころか、少し強引に引っ張られ
ソファーの下に倒れこまされる、そして藍沢がゆっくりとした動きで両腕を押さえ込んだ。
そして初めて、正面から視線が合う。再び無言の時間…
彼の無言は、思考が読めずに怖い。そう思うと勝手に言葉が出てきた。

「どうして…いつも、感情を殺すの…?」

予想外な質問をされて、一瞬相沢は「え?」という顔をする。

「殺してない。感情的にならないだけ。必要ないから」
「あの時みたいに…泣いたりしたって、誰も責めないよ…」

“あの時”が何時のことかはすぐに藍沢はわかった。
認知症の祖母の言葉で、院内の売店で涙が堪えられなかった時――
の少し驚いた様子だが口調は冷静なまま

「…見てたのかよ」
「うん…ごめん…」

なぜか謝ってしまう。それは彼が見られたくない場目だったのがわかるから。
だけども子供のように泣いて祖母にすがりつく姿は、どこか愛おしいような
そんな気持ちで見ていた感情を思い出すと、それまで驚いた顔のままだったが
少し温和な表情へと変わって、自分の両腕を封じている藍沢に話しかける。

「こういう…お酒の勢いで行動しちゃう所があっても不思議じゃないんだよね…
藍沢君だって人間だもん…。だけど、やっぱり解らない…」
「解りたいんだ…?」
「どうなんだろう…。解りたいっていうか…知りたい、のかな…」

漠然とした自分の気持ちを言った白石に、藍沢は再び唇を重ねる。
これ以上、自分の深層を探るような、揺さぶるような事を言わせないために。

結局は藍沢のペースに流されっぱなしで
フローリングの床で、気づけば下着だけの姿にされていた。
初めは余裕でもあるのかというようなゆっくりした動きで
肩先や首筋を舌を這わせ愛撫していた藍沢も
今は指が食い込む勢いで白石の手首を押さえつけている
器用に右手だけでブラジャーを取り、胸元へ舌を這わせていく。
不規則に小さくピクンと体を反応させながら、白石は甘いため息をついた。

「痛い…手…」

白石が呟くと藍沢は体を起こし手を離す。本人も無意識に力が入ってしまっていたようだ。
白い腕に、ピンク色に手錠のような跡…それを見ると藍沢が無愛想に「ごめん」と呟く
膝で立ったままで着ていたシャツを脱ぎ捨てると白石の残る下着に手をつける。
相手の体温が自分よりも高い…密着した時にそんな事を白石は思いながら目を閉じた。
そしてそこへと指先が擽るように触れてくる。「あ」と小さく声をあげて腰が逃げようと動く
そこを藍沢が膝で押さえ逃がさない。再び口付けで唇を塞がれると指が自分の中へと入り込む
かき混ぜるように動かされ、そのうち水音が聞こえ始める。暴れそうな体、それを押さえながら
責め続ける藍沢…。白石は薄く目を開くと指がもう1本…入ってきた。
クチャクチャという恥ずかしい音をさせられ、再びぎゅっと目を閉じる。
そして藍沢がジーンズを蹴るように脱ぎ、白石の両膝を立てて…
そこで白石は思わず呟いた

「ほんとに…するんだ…。っていうか…愛情とか、そういうのってあ」
「最中に会話したいタイプなのか」
「そうじゃなくって…」

結局は何を言っても藍沢の言葉に返り討ちされてしまう。
うるさい、といわんばかりに、入り口へと宛がわれると藍沢がアイコンタクトで合図をする。
それを白石が拒まないと、ゆっくりと指で解し潤ったそこへと挿れていく

勝手に全身がガクガクと小さく痙攣するよう。体全身が、快楽を表現してしまう。
ゆっくりと一番奥まで入ると、藍沢は深呼吸のように息を吐く。

「藍…沢くん…」
「俺、会話いらないタイプなんだ」

心なしか、いつもよりは口調が優しかった…そう思ったと同時にいきなりガン、と激しく貫かれる。
短い声をあげ、両腕で顔を隠すような仕草をする白石に、前後に動かし貫きながら
藍沢は再び白石の両腕を掴んで押さえる。そして表情を見つめながら、長いストロークで
深く深く、貫き続ける。泣きそうな顔で、受け入れ続けながら
自然に腰が浮き背中が弓なりになっている。角度が更に深くなり頭の先まで貫かれているように
快楽がビリビリとしびれるように襲ってくる。
鳴き声のような声を貫かれるたびに出す白石の表情を見続けながら藍沢は動きを止めると
両膝を持ち上げ、ぐい、と押す。白石の白く細い体が丸くなる。
そして再び動かすと挿入角度が変わり、さっきまでとは違う刺激に白石は更に泣きそうな声になる。
彼の言うように、会話は一切ない…自分はどういうつもりで、彼がどういうつもりで…
そんな事を一瞬考えたが、全て快楽で打ち消されていく。
しかし少し強引に展開が進みこうなり、快楽に溺れていく中で白石は呟いた

「すき…かも…」

聞こえているか、いないのか。藍沢は無反応で早まる呼吸だけをしている。
フローリングの床の上、背中や肩に自分の体重と藍沢の力がかかり痛みを感じはじめる
床の上でなんて、したことがない…。だけども屈辱的な気分でもない…。
頭の隅でそんな思いが浮かんでいると、藍沢の指がそれを察知するかのように
敏感になっているそこを押しつぶすように刺激し始めた。
それと同時に白石の体が、跳ねた。短い悲鳴のような声をあげる。
再び暴れはじめた体に、更に指で刺激を続けながら強まった収縮に顔を歪ませる藍沢。
その表情を薄目で見た白石は、全部、藍沢に委ねた。もう、理性が飛んだ…

「い、く…っ」

打ち付けるように強く、子宮を突く勢いで藍沢が貫く。
白石はもう、限界だった

「あっあっ…あいざ、わ…くんっ…」

ガクガクガクっと腰が大きく震えると全身が力んでいく。達してしまったのだ。
もう少し、と藍沢は閉じようと力の入る白石の膝を体重をかけて広げると
力加減も考えずにただただ快楽を求めて、打ちつけた。
そして生き物のように収縮する刺激に後押しされ、歯を食いしばるような表情になり

「っく…!」

奥で果てたいという衝動を抑え、引き抜くと白石の腹部に白い物を放つ。
肩で激しく息をして、床に両手をついて暫く息切れをする藍沢を
残る快楽でぼんやりとしたまま白石が見つめる。
視線が合うと、藍沢は封じる役割ではない口付けを
優しく、白石の頬と唇に落とした。
その優しい感触に…白石は微笑んだ。

「ティッシュ…何処」
「あ…テーブルの、上」

それがやっと交わした会話。白石の腹部を丁寧にふき取る。
まだ少し荒い呼吸のままでティッシュで自身を拭いたりする藍沢の背中を
白石は見つめながら体を起こす

「痛っ…床の上だと、体が痛いね…」

返事もない藍沢。彼に全て委ねてしまった…全部を見られてしまった…
ふと、背中に抱きついて

「泊まって…く…?」

恐る恐る聞くと、丸めたティッシュをゴミ箱へと投げて、そっと白石の手を放すように促し
立ち上がり下着とジーンズを履きながら背中を向けたままで藍沢が答えた。

「帰るよ…。水、また貰う」

勝手に冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのボトルを取る藍沢を見ながら
「そう…」と答える白石。脱ぎ散らかされた自分の服の中から下着を探し始める。
そしてまた、同じ質問を投げずにいられなかった

「ねえ、どうしてそんなに…感情を押し殺すのかな…」

果てた直後の優しいキス…
それが彼の、唯一の感情に思えて仕方なかった。それは自惚れなのか、わからない。
シャツを着ながら振り向き藍沢が答える

「必要ないから出さないだけで、押し殺してる訳じゃないよ」

口調はどこか、優しかった。内容はあまり優しくなかったが…
白石はそれにたいして「そうなんだ」と答える事しかできなかった。

「ねぇねぇ、昨日行ったんでしょ?モーリシャス京子」
「メリージェン洋子。うん、行ってきた。ステージメイクと衣装のせいかな
綺麗だったよ。ダイエットも成功したみたいで少し痩せてたし」

医局で緋山が聞いてきた質問に訂正しながら答える。
売店で買ったドーナツを持って藤川が医局に入ってくると
ノートパソコンに向かう白石に駆け寄ってテンション高く話しかける

「行ったのか?ショーパブってやつに。グランベリーカズコ!」
「メリージェーン洋子。初めて行ったけど、すごかったよ。びっくりちゃった」

そこへ藍沢が医局に入ってくる。一瞬合う視線、そしてすぐ離れる視線。
そんな事には気づかずに緋山が藤川のドーナツを1つ奪いながら続ける

「白石、一人で行ったの?」
「ううん…あの…友達、と…」

少し歯切れが悪くなった白石の様子に気づく事もなく「へぇ〜いいな〜」
自分も行ってみたそうに緋山が言う。ちらりと横目で藍沢を見ると
いつもと変わらない様子でカルテに記入をしている。
その視線の中に藤川が横切り、藍沢に暑苦しく話しかけていた

「藍沢は?行ったことあるか?オカマバーっていうか、ショーパブっていうか」

カルテに記入をしながら無愛想に藍沢が答えた

「あるよ。友達と。付き合いで。」

意外な答えに緋山と藤川が「えっ!?」と驚く。
白石も違う意味で「えっ!?」と思わず声をあげた。
そして用事が終わったのか、驚く3人を無視するように席を立ち
医局から出ていった。

続編:最後(藍沢耕作×三井環奈)






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