待ってる男、野立クン
野立信次郎×大澤絵里子


前回:ため息2(池上浩×大澤絵里子)

マンションにたどり着くと、ドアが開いていた。

「またかけ忘れたか…」

とドアを開ける。
明るい室内から人の気配がする。

…野立?

鼓動が激しくなり、慌ててパンプスを脱ごうとして足がもつれその場に倒れこむ。

「何やってんだ?」

けたたましい足音とともに現れた野立は白いレースのエプロンをつけていた。

「な…なんなの…アンタ…」
「ああ、これか?」と襟元あたりのレースをつかんでみせる。
「今、皿洗ってたとこだ。溜めるなよ…この時期はすぐ臭い出す」

片頬を上げて野立の顔を見ていた絵里子の視線が再びエプロンに落とされる。

「…岩井からの貢ぎ物だ。女の子に着せようと思って…いいだろ、裸にエプロン」
「ぶわっかじゃないの!」
「それより、お前…飲んできたな?」

野立は絵里子を抱き起こし、リビングへと連れて行った。

「アンタのせいよ。あのアウラとか言うカクテル、美味しいもんだからさ、何杯も
おかわりしちゃって…そしたら気分よくなっちゃって、もう止まんないの」

イヒヒヒヒッと笑い声を上げる絵里子をソファに座らせ、野立も隣に座る。

「アル・ディ・ラ! アウラは俺が昔、利用してたラブホの名前だ。ったく、あれは強いんだ…
大体、カクテルをビールみたいにガブガブ飲むヤツがあるか」
「あ…そうだ、ありがとう。今日も立ち番、ご苦労様でした」

絵里子がペコリと頭を下げる。

「え?…ああ、ちゃんと鍵、閉まってたぞ」
「は? じゃあどうやって」

野立はポケットをまさぐり鍵を見せた。

「何、それ。うちの鍵…」
「押収品をちょっと複製しただけだ」
「はあ? …それって犯罪だよね」

と絵里子は目をむいて野立に顔を近づける。

「バーカ! 訓練だ。鍵を取られて気付くかどうかテストした。警察官たるものいついかなる
時もスキを見せてはいけない。スキを見せたお前が悪い。てかお前、スキだらけ」
「ぶあっかじゃないの!」

と、絵里子は野立に向かってぷっくりとふくらんだ唇を突き出す。

「アンタはバカですか、そうですか。どこの世界に部下の合鍵作って不法侵入する上司が…」

よく動くその唇は野立によってふさがれた。
柔らかい唇をすっぽり含みこむと、唇の端から端までついばむように唇で愛撫し舌を這わせる。
絵里子がゆっくりと目を閉じるのを確認し、半開きになっている絵里子の唇の奥深くへと
舌を滑り込ませ、絵里子の舌をまさぐりからませる。
野立が唇を解放すると絵里子の口から荒い息が漏れた。

「アルディラの香りだ…」

野立がひとり言のようにつぶやくと絵里子が潤んだ瞳であらぬ方に視線をそらす。
野立が再び絵里子の唇を求めようとすると、その顎を手で押さえた。
皮肉な展開…
絵里子は苦笑した。

「ねえ、すべてを越えた先には何があるって言うのよ」

絵里子はカクテルグラスを目の高さに持ち、日の光にキラキラと輝く海のような液体を眺めながら
バーテンダーに聞いた。

「すべてを越えた先にあるのは愛しい女性ですよ。太陽の輝きや星のきらめき、そんなこの世の
美しいものを越えて君が存在する。海よりも深く永遠の時さえも越えて…つまりそれだけ深く
愛しているという愛の告白ですね」

絵里子はフンと鼻で笑う。

「要するに野立が女を落とすための道具じゃない」
「さあ、どうでしょうか」とバーテンダーは柔らかく微笑む。
「好きな女性がいらっしゃるようにお見受けしましたけどね。その方のことを思って飲んでるの
ではないでしょうか…例えば、長い間思い続けていて、いまだかなわぬ恋とか…」

絵里子が大口を開けてヒャッヒャッと笑う。

「ナイ!ナイ!ナイ!ナイ! あいつに限って片思いなんて有り得ない。目を付けたら人妻だろうが
何だろうがお構いなしで突っ走る男よ。片思いなんてしおらしいことできるわけない」
「そうですか?野立様はシャイな方だから、なかなか本命の女性には素直になれない性格のような
気がしますよ」

「なんもわかってないねぇ。てかお兄さん、その人を見る目のなさは客商売には致命的よ。あいつは
女と見れば真正面からズカズカ行く厚顔無恥な男よ。シャイとは対局にある人種なの。20年見てきた
私が言うんだから間違いない!」

絵里子は一気にカクテルを飲み干して、ふうと息を吐く。
ずっと想い続けている女性がいる? あの男に?
ズキリと胸の奥深くが痛んだ。
じゃあ、あの時の待ってていいかってのは完全な言葉遊びだったんじゃない…
絵里子は片手で髪を書き上げその手でくしゃりと髪をつかみ肘をつく。
バカみたい…そんな言葉にすがって…
絵里子は二三度頭を振った。
いやいや別にすがってたわけじゃないけど…振り回されてた…2年も…
絵里子は、開き直ったようにグラスを前に押し出した。

「おかわり。このリキュールが無くなるまで飲むから」
「えっ?」

と引きつった笑みを見せたが、バーテンダーは

「かしこまりました」

と言ってグラスを下げる。
あいつが明日にでもここを訪れ、好きな女を思い感傷に浸りたいと思っても飲めないように全部飲んでやれ。
バカげたイタズラだと思いながら、絵里子のテンションは上がりひとりケラケラと笑った。

「怒ったのか? …絵里子…」

絵里子が野立に視線を合わせると、いつになく不安げな表情を見せている。
今、この男の中にいるのはどんな女だろうか…若くて可愛い? 大人っぽい美人?
絵里子を見つめる野立の澄んだ瞳が切なく見える。
野立もおちゃらけてる裏側で辛い恋をしてたってことか…
絵里子は大きなため息を吐いて弱々しい笑みを浮かべる。
今夜、終わりにしよう…浩のこと…野立のことも…何もかもすべて…終わりにする!

「いいよ、好きにして。今夜の私は酔ってるから…心神耗弱状態ってやつ…そうじゃなきゃできないよ、
こんなこと」

絵里子は野立の顎髭あたりに唇をつけた。舌で口の周りの髭にゆっくりと舌を這わせる。
野立がイラついたように絵里子の首筋から後ろ髪の間に長い指を滑り込ませ緩くつかんで、絵里子の
唇をとらえる。
口の中で荒々しく動く野立の舌が絵里子の思考を停止させていく。
からみあう舌が互いの口を行き来し、交じり合う唾液を堪能する。
野立の手がゆっくりと背中に降りて、心臓の鼓動を確かめるように絵里子の胸を自身の胸に引き付ける。
時々、意識が飛びそうになるのが酒のせいなのか酸欠だからかわからなかった。
野立が唇を離すと、半開きの絵里子の口元からツーっと唾液がたれる。それを追うように
野立の舌が顎から首筋、鎖骨へと降りていく。

シャツのボタンに野立の手がかかった瞬間、絵里子の脳裏に浩の痕跡が残る自身の身体が浮かんで、
その手を押さえた。

「あぁ?」

と顔を上げる野立。
荒い息を抑えるように襟もとに手をやり絵里子は下を向く。

「おい…ここに来て止めるなよ」

とりあえず目に入ったレースのエプロンを指差してみる。

「それ…」
「ふむ、これね。確かに興ざめだよな」

と言って、エプロンを剥ぎ取ると、

「お前に着せようと思ってさ…裸に…」

とニヤける。
ふと絵里子の頭にエプロンを身に付ける自分の姿が浮かび、頬が赤くなる。

「…なんだよ、てっきり張り手だと思ったのに…着てくれるの?」
「バカ、何言ってんの…そうじゃなくて……なんで聞かないの…その…浩のこととか…」

突然真顔に戻った野立を見て、照れ隠しに言葉を探して言うつもりのない名前を出したこと
をすぐに後悔した。
野立は絵里子の鼻先に自身の鼻先が付くほど顔を近づけ絵里子を見つめた。

「お前は男と付き合いながら、他の男とキスするような女じゃない。お前が俺のキスを
拒まなかったってことは、別れたってことだろ…違うか?」

絵里子はコクンと小さくうなずいた。

「なら、何の問題もない」

野立はひょいと絵里子を抱き上げるとベッドへと連れて行く。

「あの…野立…」

と何か言いたげな絵里子を無視してベッドの上に寝かせると、
シャツの襟もとを押さえたままの絵里子の手をはずそうとする。

「あの…電気消してくれる? 明るいところじゃ…」
「俺を信じろ、絵里子。俺だって手負いのドーベルマンを襲うようなことはしないぞ」
「誰がドーベルマンよ…」

絵里子はそう口を尖らせながら「手負い?」と怪訝な顔をする。
野立はおどけたような、しかし優しい笑みを浮かべている。

「安心しろ。おれは全部見てる。ついでに言っとくが、お前は酔っぱらっても全部は脱がない。
窮屈な下着から最後にお前を開放してやるのは俺の役目だ。もう、とっくに観察済みだ…」
「はあ? 野立…アンタ…」
「だから! だから…お前が俺に隠す必要はないんだ」

まあいい…この男も気まぐれにいつもと毛色が違う女に手を出そうとしているだけ…
自嘲の笑みを浮かべ、襟元を抑えていた手が緩む。同時に野立が慣れた手つきでボタンをはずしていく。
野立の口が再び絵里子の唇をふさぎ、絵里子の舌をもてあそぶ。

野立の長い指が絵里子の下着を脱がしながら、首筋から胸、腕、わき腹から背中へとしなやかな
タッチで滑っていく。
時々、変わる絵里子の息づかいを確認するように同じところを何度かなぞり、腹部からヒップ、
太もも、そして薄いシルクの下で熱くなっている秘所を二、三度さすり、再び冒険にでも出るように
絵里子の肌の上をするすると薄いタッチで滑らせ、思い出したように蜜をにじませている熱いシルクの
ふくらみへと戻る。
野立の唇が絵里子の口元を離れ、首筋から胸の膨らみへ、その肌に滑らせた手の後を追うように舌を走らせる。
ツンと天井を向いた固い突起を軽く転がし、脇下から腕、長い指先までも優しく舌を這わせ、時折、
前の男の痕跡を舌先に感じ取ると、それを消し去り癒すように自身の唾液を執拗にからみつける。
そして、絵里子の身体が小さく痙攣すると、その高揚がおさまるのを待つようにじっと動きを止める。
絵里子の上で野立が動く度にその煮えたぎる塊が肌に触れ、絵里子の吐息をさらに荒くさせる。
絵里子は腰から胸を大きくのけ反らせると導かれるように両膝をたて、未だシルクにくるまれてはいるが、
すでに蜜が溢れ、漏れ出ている秘所を野立の前に晒した。
野立は漏れ出た蜜を丁寧に舌でぬぐうと下着をずらす。

小さな固い突起を口に含み吸い上げ転がし、一、二度痙攣させた後、濡れ光るぷっくりふくらんだ秘唇に
舌を這わせ、その先の密壷へと向かう。
そしてその舌先が残酷な亀裂をとらえた瞬間、絵里子の身体が硬直し「あぅっ…」とうめき声が漏れた。
野立は顔を上げると眉間にシワを寄せる。

「あれじゃ足りなかったな。あと5、6発殴っとくんだった…」

そう呟くと、下着を元に戻し絵里子の両膝に両肘をかけため息をついた。

「…えぇ?」

顔を上げて野立を見つめている絵里子の瞳はうっすら充血し潤んでいた。乱れた髪と上気した頬の
せいか幼く見える絵里子を見て、野立が優しく微笑んだ。

「俺は痛がる女とやる趣味はない…安心しろ、ちゃんとイかせてやるから…」

絵里子はむっくり起き上がり野立の手を払いのけると下着を脱ぎ捨て、野立の上にまたがった。
野立の首に手を回すと挑むように野立を見下ろす。

「ここに来て止めないでよ…」

絵里子はゆっくりと腰を下ろし反り立つ野立の熱い肉塊を受け入れた。
治りかけていた裂傷を野立の肉塊がピリピリと裂いていき、絵里子はたまらず野立の首元に顔をうずめ
唇を噛んだ。同時に膣壁が硬直し野立の顔がゆがむ。
数回、荒く息を吐き出した後、思い切ったように絵里子は腰を上下に動かした。

「ああぁぁっ…」

身体を貫く激痛にたまらず噛んでいた唇がはずれ声が漏れる。
野立は絵里子を抱きしめその動きを止めた。
ドクンドクンと絵里子の体内に響きわたる疼きが、自身に刻まれたいくつもの傷口がいっせいに悲鳴を
上げているからなのか、野立の灼熱の脈動が絵里子の芯まで震わせているからなのかわからなかった。
野立は絵里子を壊れ物でも扱うように優しくしっかりと抱きかかえたまま、ゆっくりベッドに寝かせた。
苦痛にゆがむ絵里子の額にまぶたに頬に唇に、軽いキスを優しく浴びせ、耳の周りに舌を這わせ耳たぶを
甘噛みする。

「焦るなよ…時間はたっぷりある…」

そう耳元でささやくと、ゆっくり自身を引き抜いた。

一瞬、「うぅっ…」とうめいた絵里子の目から涙がこぼれる。

「痛い…野立…痛いよ…バカ…野立のバカ…」
「…悪かった」

野立は添い寝するように絵里子の傍らに横たわり、その美しい横顔を見つめた。

「好きにしていいって言ったでしょ…恥かかせるな…バカ」
「…お前が壊れる」
「…らしくないよ…お前は壊れるようなヤワなヤツじゃない、でしょ…」
「…だな」

野立は絵里子を抱き寄せると、絵里子は腕を野立の首に回しその逞しい胸に顔をうずめた。

「アンタ…最低…大嫌い」
「…全くだ」と言って絵里子の頭を顎で数回なでキスをし頬ずりする。
「もう帰ってよ…情けない男」
「そうだな…」
「明日になったら、みんな忘れる…何事もなかったみたいに…芝居は得意なんだから…」
「だよな…」
「みんな忘れる…アンタを待ってたことも…2年間も…バカみたいに…バカ野立…」
「…2年…ね」と、苦笑する。
「さっさとアルディラの女とどっか行っちゃえ…大嫌い…アンタ…なんか……キラ…イ」

野立は大きなため息をつく。

「長かったよ…本当に…長かった…」とつぶやき絵里子を一瞬強く抱きしめた。
「お前さあ…いい加減気づけよ…」
「…」
「絵里子…」
「…」
「絵里子?」

絵里子は、野立の胸の上で力つきたようにスースー寝息をたてていた。

絵里子は、ベッド脇にだらりと伸ばされた手をペロペロと執拗になめられている感触で目覚めた。

「ぅうん…の…だて…」

絵里子が重いまぶたを開きかけた時、そこに細く長い顔らしきものがぼんやり映る。

「ん…もう…のだ…」

と言葉を発したところで、絵里子はギャアッと声を上げ、手を引っ込め飛び起きた。
ベッドサイドには大きな犬がつぶらな瞳で絵里子を見ている。

「どうした?」

と言って現れた野立は、すでに背広姿でコーヒーを手にしていた。

「な…なんなの、この犬」
「ボルゾイだ。どうだ?この銀色に輝く毛並み、気品に満ち溢れたスマートな体のライン…美しいだろう?
キャリアの俺にはピッタリの風格だと思わないか?」

野立は涼しげな顔でコーヒーを口にしている。

「だからなんでアンタの犬がここにいるのかって聞いてるの!」
「ひとりで置いとくのは可哀想だからな。昨夜からいたけど気づかなかったか?」

「はあ? アンタねー…」

と声を張り上げた瞬間、絵里子は頭の中に鉛でも入っているような
激しい頭痛におそわれ頭を抱えた。

「二日酔いの薬をテーブルに置いておいたから飲め」

そう言うと、野立はニヤついた顔で絵里子を眺め、「かなりやばいな」と絵里子にサインを送る。
その満足げな視線の先をふと見ると、自身の肌に張り付くレースのエプロンが目に入る。

「何なの、これ!」

と、剥ぎ取ろうとすると、

「おお!脱げ脱げ」

と笑う。
慌ててブランケットで身を包む。

「どうだ、これ」

と言って絵里子の目の前に指し出された野立の携帯には、裸にエプロン姿で
ベッドに横たわる絵里子の姿態があった。

「これをおかずに3杯はいけるな」
「のだてぇぇぇ…それ盗撮だから、は…犯罪だから」

と声が裏返る。

「いいぞ。被害届けでも何でも出せ。いつでも逮捕されてやる」
「バ…バカじゃないの」と言う絵里子の声には力が入らない。
「さて、俺はそろそろ行くけど、二日酔いで遅刻なんて勘弁してくださいよ、ボス」

目を細めクールな笑みを浮かべると、ボルゾイに向かって「行くぞ!」と手を上げる。

ボルゾイはヒョイッとベッドに駆け上ると絵里子を押し倒した。

「ギャアァァァ! なんなのこの犬!」
「こら! エリーゼ! そいつは犬じゃない! 人間だ…一応」

エリーゼは大人しく絵里子から離れる。

「エ、エ、エリーゼ…しっし…ベッドから降りて降りて…」と絵里子が手で払う。
「まったく買主に似て失礼なヤツ…ヒ、ヒトのことオス犬と間違うなんて…」
「エリーゼは立派なオス犬だ。チンチン付いてるだろ。よく見ろ」
「ま…紛らわしい名前付けるんじゃないわよ!」
「よかったなあ、一応メスだと認められて」

と茶化した笑いで返す。

「あんたねえ…」

と怒る絵里子を無視して、野立は自分の傍らに来たエリーゼにリードを
つけると喉元をなでる。

「アイツは俺の女だ、手を出すな。そのうちお前にもちゃんとガールフレンドを探してやる。
男は我慢だ。我慢して待ってろ」

野立はエリーゼのリードを引くと、絵里子を見ることなく背を向け寝室を後にする。

「さ、家に帰ろうな。よかったなあ、おうちが二つもできたぞ。これからはきっと留守番
するのも楽しいぞ」

そんな声が絵里子の耳に届いた後、バタンとドアの閉まる音がした。






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