純愛はあきらめた
シチュエーション


「ねえ、一緒に帰らない?」

真島雪子はその端正な顔を上げた。そこにはにこにこ笑っているあどけない
少年がいた。放課後の教室はざわざわしていて、二人の様子を気に掛ける者
など誰もいなかった。教室の掃除当番が箒を持ち出してせわしなく動き出し
た。斜光が少年の短い栗色の髪をきらきら光らせている。
二人は一緒に教室の外に出た。

「湯沢って私の家と同じ方向だっけ・・?」
「おれ、真島さんちはどこか知らないけど・・。」

学ランの第一ボタンをはずしながら湯沢慎は目をぱちくりさせた。

・・・?

雪子は過去の慎との接点を思い返してみた。同じ班だった。
仲は悪くも良くもないはずだが。
無言のまま、下駄箱へ足を運ぶ。数人の男子生徒が雪子を振り返っていく。

・・誰と寝たか誰と寝てないかわからない。雪子はその細い指で長い髪を
耳にかける。
湯沢慎は自分も見られている気がしてならない。
すれ違う男子生徒の羨望の視線を感じる。それは前をゆく長い髪の美貌の少女の
せいだと鈍い慎でも気づいていた。
しかしもう1つほの暗い少女の視線もあることに慎は気づいていない。
今日はあの男の子か・・というまなざし。

下駄箱のところで雪子の歩幅に合わせていた慎は左に、雪子は右に
分かれる。
下駄箱を開けるとこもった自分の靴の匂いがした。上履きを入れる
と黒く光るローファーを放り出す。目の前に二本の白い足。
ふ、と視線を上げると雪子はショートボブの少女に見下ろされてい
た。たれ目で清楚な可憐さのある少女は雪子とは対照にいるようだ。
悲しい非難の視線で雪子を一瞥すると少女は上履きをはいて駆けて
いった。
湯沢慎は明るく屈託がなく笑ってみせた。今日の調理実習のこと、
嫌な教師がまた癇癪を起こした、という愚痴、次の委員会はなにに
するか?という質問。
慎が10しゃべって、雪子が4返す、といった感じになった。
あまりしゃべらないことは雪子の美徳だ。大きな声で笑うこともな
い。そのことが美しい切れ長の目とミステリアスな美貌を引き立て
ている。周囲を見回すと少女は少女、少年と少年と一緒にいる。
高校一年という年齢、そして六月という早い季節だからかまだ恋人
たちも出来上がっていないようだ。子猫のようにはしゃいで、じゃ
れあっている。あるものは仲良く評判のお好み焼き屋さんに入って
いく。部活のジャージ姿で校門に走っていく少年たち。それをこっ
そり見ている少女たち。
青臭い果物の香りを嗅いだようで雪子は眩暈がした。

その香りを最も感じるのは隣で嬉しそうにおしゃべりに興じている
少年だ。身振り手振りが大きい。時々雪子に親愛の情のような視線
を向けてくるのももどかしい。長い手足が雪子に合わせて動いている
。背丈だけはずんずん伸びてしまって心が追いついてない。心だけ大
人になった自分とは逆の生き物に見えた。
慎の手は女の自分よりは雑だけど美しい造形をしている、
と思った。あの指は誰によって穢されるのか、と思うとわたしは
この子を壊したいんだな、という気がしてきた。

「そうだね。私も掲示係がいい。湯沢、一緒にやろうよ。」

雪子はこれまでに無いくらいやさしい顔で笑うことができた。
見慣れたY路路がみえてきた。

「あ・・おれこっちなんだ。」

賑やかな商店街を指差す。一番手前には安いと評判の八百屋が見
えている。威勢のいい魚屋の呼び込みも聞こえる。買い物かごを
持った主婦とすれ違う。

「私はこっち。」

雪子の指差すのは閑静な住宅街だ。
じゃあね!と元気良く走り出そうとする少年のyシャツの袖を雪子
がつまむ。

「ねえ今日暇?」


「お邪魔します」

礼儀正しくスニーカーをそろえる慎。
雪子の家の玄関はフローラルの香りがする。目の前に廊下が広がり、
しゃれた手すりのついた階段が目の前にたたずんでいる。家の中は
ほの暗く、誰もいないかのように静かだ。

(誰もいない・・?のかな。まずくない・・?)

純真な少年とはいっても慎には自覚はある。思春期の男と女が二人
きりというのは・・そういう展開になってしまうのではないかという
。真島さんはそんな迂闊な子じゃない・・という思いと、二人きり
ならえっちな展開が待っている、という漫画みたいなこと現実では
ないよ・・なに考えているんだ・・という思い。どちらにしても
卑猥な妄想は止まらなかったが、慎の持ち前の優しさが不埒な思い
を打ち消しにかかっていた。大体経験のない慎にとってはそんなこと
はリアルではなかったのだ。

「さあどうぞ。」

階段を上がるとピンクの配色の小奇麗な部屋に通された。
扉を開けた途端、

(あぁ。これは真島さんの匂いだな。)

と慎は思った。雪子が一階に飲み物をとりに行っている間、
TVはつけられているが慎の中では単なる音響機器と成り下
がっていた。
よく冷えた午後の紅茶を飲みながら会話をしようとするのだが
うまくいかない。慎とは対照的に雪子はリラックスしているように
感じた。

(この子は何しにきたんだろう。)

TV画面を見つめながら、一生懸命の慎の横顔を見ながら雪子は
思った・・。

「ごめん。窮屈だから着替えていい?」
「あっ・・ごめんね。気づかなくって・・ちょっ・・?!」

雪子は躊躇せずブラウスのボタンをはずす。白い胸元が徐々に
あらわになる。心がぱっと明るくなるような明るい水色の小花
模様のブラジャーが見える。ブラウスから透けているのを盗み
見た、青だ。

「・・真島さん・・」

顔が熱くなった慎はうつむく。

「そのつもりで来たのでしょ?」

カーテンから差し込む夕方の光が雪子の華奢な体を美しく照ら
す。慎はかぶりを振った。
萎縮している慎の体を抱きしめ、ベッドにそっと誘導する。
ベッドに座った慎は不安そうに雪子を見る。色素の薄い瞳をう
らやましいと思った。手を重ねて唇に触れてみる。少し厚い唇
がこじ開けられていく。雪子の背中の手に力がこもっていく。
さらさらしている慎の唾液を雪子が舐める。

「はぁ・・はぁ・・」

慎の呼吸音が高まっていく。雪子の部屋のCO2濃度が高まって
いくようだ。そんなに息を吐いてばかりでちゃんと吸っているんだ
ろうか。外は雨が降ってきたようだ。最初のぽつんぽつんという音が
じゃじゃ降りになって音を高めていく。
慎は雪子を見上げた。細身の割りに大きな乳房が窮屈そうに揺れた。

(真島さん・・真島さん・・。)

乳房を触ってみる。先端に小さな突起があって、そこをつまんでみる
と雪子がため息を漏らした。

「っはぁ・・あ・・湯沢かわいい・・」

クールな雪子が今はただの売春婦に成り下がっている。自分の鎖骨の
あたりをむしゃぶっている。
スカートのなかに手を入れてみる。布がその役割を果たさず、じんわ
りとしめっていた。

「あっ・・あん・・。だめ・・突然入れちゃ・・」

潤滑油としての役割を果たしすぎている。慎の指が意識せず、雪子の
なかに入ってしまった。もう自分の理性がどこかに引っ越してしまっ
たことを慎は頭の隅で気づいた。

「あ・・あっ・うふぅ・・」

小さな突起を親指と人差し指でつまんで中指と薬指を差し込んだ。
めちゃめちゃに動かしてみる。どろどろでしゃりしゃりしていた。
慎の指が知らない粘膜で汚されていく。

「わたしも湯沢を気持ちよくしてあげる」

少女の小さいと思っていた口が自分のこれまで誰も見せたことのな
い場所を包む。それだけで達しそうになってこらえる。

「真島さん・・だめ・・だめっ・・だって・あっ・・んっ」

悪魔のような笑顔で雪子は慎のペニスの先端を舐めながら、手も
ゆるめない。激しくこすって時折慎の顔をみる。
自分で触れたときには感じなかった興奮が押し寄せてきて、
雪子の小さな唇から白濁した液体があふれ出す。細い指でぬぐうと
舌で口の周りを舐めた。それだけでは納まりきれず、口からあふれた
精液は雪子の鎖骨にポタ、と落ちた。
その姿を見ただけで今達したばかりだというのに慎は熱いものがこみ
あげてくるのを感じた。

「しん・・上手・・んふぅ・・そうよ。そうするの・・」

もはや慎の理性は完全に吹っ飛び、雪子の体にむしゃぶりついてい
る。雪子の性器にゆっくりと挿入する。どこかわからないかと思っ
いたが、雪子が体をそらして誘導してくれた。

「でも、だめだよ。そんない激しく動かしたら・・んっすぐ・・あっ」

無理やりバックの体勢に持っていく。雪子の乳房は完熟の果実のよう
に乳首を立たせている。そこを攻めてやる。背中を舐め上げて、乳房
をもみしだく。

「あっ・ああああああ・・だめ・・いく・・」

顔が見たいと思って、正上位に戻した。雪子の膣がきゅんきゅん締め
あげてくるのを感じる。乳房がぶるんぶるんと弾む。

「あっ・・真島さん出ちゃうよ・・」

雪子の体が痙攣して慎の精液を受け入れた。
だめだ、と頭ではわかっていたのに、慎は雪子を抱きしめる手を離さな
かった・・。

「初めてなんでしょ?上手ね。」

慎が顔を手で隠している。雪子をちらりとも見ない。
どうして?これまでの男たちは体を与えてやれば、こう言ってやれば
満足したはずだ。慎の腕の裏は体の表面とは違う白だった。
無理やり腕をつかむ。生暖かい水が雪子の指につく。
慎が黒めがちの瞳からぼろぼろ、その水を流し続けていた。
なぜか胸が痛んだ。

「真島さんのこと好きだ。女子が変な噂しているの聞いて絶対
嘘だと思って。いや・・本当でもおれが止めてみせると思って
いたのに。おれ最悪だよね・・。」

噂とやらに雪子は心あたりがあった。自分の悪癖がもたらした
ものだから雪子自体は仕方がないと思っていたのだけれど。

「わたしは自業自得だから。湯沢が気にすることはないのよ。」

ショートボブの女の子が泣きながら憎しみの眼を向けてきたこと
を思い出す。あのとき友達はあきらめた。そのつれあいの少年と
キスしていたとき、純愛はあきらめた。
裸のまま慎を抱きしめる。まだまだ狭い肩幅をなぞりながら目を
閉じる。
真島さん、それでも好きなんだ、と何回でもつぶやいている。いつの間にか
雨は小降りになって、陽は翳っていた。

(馬鹿だね。)

そう思いながら雪子は、今日は湯沢の匂いを嗅ぎながら眠れるんだ・・
と矛盾したことを思っていた。






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