夫の口癖
シチュエーション


俺に恥をかかせるな

それが、夫の口癖である


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

三つ指をつき、平伏して客を出迎える。それが、作法である

「今晩は奥さん。また、お世話になりますよ」

玄関には、背広姿の男が立っている。白髪混じりの髪は、後頭部まで後退し、だらしなく膨れた腹をしている

「はい。私も、楽しみにしておりました」

えりかが面を上げると、そこには満開の花のような笑顔。男はそれを、下品さ丸出しの目で見下ろす

「それでは、ご挨拶をさせて頂きます…」

えりかはなめらかに、床音一つも無く立ち上がると、男の首に腕を回し、唇を合わせた

「おお…んむっ…」

キスをすれば、即座に舌を潜り込ませるのが、この男の好みである。それに応じると、不快な臭気が口内に広がる
普段であれば、嗅いだ瞬間顔を背けてしまうだろう
だが、今は違う
顔を背ける暇があるなら、男の舌を舐め回さなければならない。ぐちゅぐちゅと粘った音を立てながら、悩ましげに唇を吸うのだ
それにこんな口臭は初めてではないし、この男だけではない。もう、慣れたものだ

「あぁ…はぁ…。本当にお上手ですわ…。私も疼いて参りました…」

口を離すと、生臭い唾液が未練がましく糸を引く
蕩けた目線を投げ掛ければ、肉欲に血走っている男の目が見える

「まあ……。ここもこんなに逞しくなっていらっしゃって……」

男の股間には、既に三角錐が出来上がっている。そこを撫でるよりもか弱く刺激すると、男の鼻息はより強くなる

「はは…。奥さんとこうしていれば、自然とこうなってしまいますよ」
「嬉しい…光栄です…。女にとって、最高の褒め言葉でございますわ…」

そう言って、媚びた笑みを浮かべると、柔らかに男の手を取った

「さ、それではこちらへ…。また、私を褒めて下さいませ…」

静々と、淑女の歩みで寝室へと案内する。男は股を突っ張らせながら、にやけた面でえりかの尻を凝視していた


俺に恥をかかせるな

それが夫の口癖であり、言い付けである


「あぁ…やぁ、んっ…す、すごい…はぁん…」

皮と脂肪がだるんと垂れた、染みだらけの、だらしない体
それが、えりかの美しい肉体に覆い被さっている
乳首を口に含んでねぶり回し、老いた指が秘部を無遠慮に刺激する。それに合わせて淫らな声を上げれば、男の口元は下卑た征服感で吊り上がる

「く、はあっ……、んあぁ……、ああ、ふぁぁん……」
「いやらしいな…。相変わらず、奥さんは感じやすい…」
「ああ…嫌…おっしゃらないで下さい…。こんな風にされたら…淫らになってしまいます…。ああっ、んあぁ…」
「はは…。高城君は幸せ者だ…。こんな淫乱な奥さんを貰って…」

夫の言い付けで、男性を自宅に招き入れ、抱かれる
今に始まった事ではない。結婚前、恋人時代からやっていた事だ
地位がある、もしくは影響力のある男や上司を誘って、女や妻を抱かせる。周りに知られてはまずい義理が作れるし、上手くすれば弱みを握る事にもなる。これが、夫の昔からの処世術…の一つだった

男を魅きつける美しい容姿の上、性技に長けるえりかは、まさにうってつけの逸材であった。交際と結婚に踏み切った理由も、大半はそれである

「あんっ…、夫がお世話になっている方に、お、お礼をするのは…妻として当然……あぁ…」
「いやあ…本当にご主人思いの奥さんだ…。うらやましい…」

男の指が、えりかの淫豆をぐりっと押し潰す
痛い

「はうぅぅん!そ、そこは感じすぎますぅ…!」


決して、男の行為を拒んではいけない
嫌な顔一つしてはいけない
もし機嫌を損ねれば、夫の立場がどうなる事か

いつもの通りにやればいいのだ
自分が長年、仕事でやってきたように
気乗りのしないセックス。生理的に受け付けない相手とのセックス。そんなの物はいつもの事ではないか
私はプロだ。どんな時でも、どんな相手でも受け入れて、満足させてきた自負がある
だから、こんな男に抱かれるなど何でもない
それが、夫の為だ
えりかはいつもの様に、そう自分に言い聞かせると、自ら花弁を開いた

「あぁ…、く、下さい…。もう我慢できません…」

「はぁ…はぁ…。奥さん、何が、何処に欲しいんです…?」

男の舌が、白い首筋を、なめくじのようにねちゃりと舐める。むちむちとした太ももには、勃起したペニスが押し当てられていた

「い、意地悪をおっしゃらないで…。貴方の物を…私の中に…」
「はっきり言ってもらわないと、わかりませんなあ」男は口角に唾を溜めてほくそ笑んでいた。このようなやり取りも、男の好みである
「ぼ、勃起したカリ太おちんぽを…私のいやらしいおまんこに入れて下さい…!ああ…、は、早くぅ…」

えりかは少女のような声で肉棒を催促し、秘裂を一層大きく割り広げた
その様子に男は満足したようで、勃起してなお軟度の残る男根を、女の入口に押し当てた

「で、では、奥さん…」
「ああ…イカせて下さい…」

コンドームも着けていない、生のペニスが、ずぶりと突き刺さった

「うあああぁぁぁ!!イ、イくうぅぅ〜〜!!」
「おお…。入れただけでイッてしまうとは…。よほど欲しかったんですなぁ」
「はあぁぁ…、あぁぁ…。だ、だって、凄すぎますぅ…」
「ふふふ…。では、またイッて下さい…」
「あっ、あんっ、あっ、あっ、そ、そんなに早くされたらっ…、あっ!あぁっ!」

男は嬉々として腰の動きを早めるが、えりかには快感も何もない。肉の圧迫感。あるのはそれだけだ
だが、ペニスがハマってしまえば、後は楽な物だ。長年の経験から、体が勝手に声を出して、膣と腰を動かしてくれる
その間は、色々と物思いに耽りながら、射精を待つ
明日の出勤の事、学生時代の事、家族の事、夫、母、妹と義弟、それから結婚前の自分…

あの頃のえりかは、子供のように浮かれていた。愛する男と結婚し、おいしい食事を作って帰りを待ち、赤ん坊を産み、育てる
こんな自分にも、当たり前で、暖かい家庭が築けると思っていた。夫が連れて来る「客」の相手もしなくてすむようになる、そう信じていた

だが、現状はどうか
「客」の相手はしなくてすむどころか、以前より数が増えている。夫は月に二、三度しか帰ってこず、たまに帰ってくれば妻の手料理も食べずに、さっさと寝るだけだ
結婚してから、夫との睦事は一つも無い。いや、夫自身は毎日のように誰かとセックスをしているだろう。その痕跡は、多々ある
夢に描いた新婚家庭とは掛け離れた、今の自分。夫と一緒に選んだ高級マンションで繰り広げられるのは、独り寝、独りの食事、独りの生活、接待という名の、夫に売られて重ねる情事

昔の自分が見たら、この現実をどう思うだろう
怒るのか、泣くのか、それとも、商売女上がりが、やはり普通の家庭を築けるはずはないんだと、嘆き悲しむのか……

「くうぅぅ!お、奥さん、もう…!」
「あっ、はぁっ、な、中に、あぁん、下さい、おまんこの中にっ、いっぱい出してぇぇ〜〜!!」
「ぬおぉぉぉっ!」
「ふわあああぁぁぁ!イクぅぅっ!またイッちゃううぅぅ〜〜〜!!」

男のペニスが脈打って、えりかの胎内に欲望を撒き散らす

大丈夫、薬は飲んでいる。妊娠の心配は無い

そうしてまた、自分に言い聞かせる

「ああ…。沢山出して頂いて…ありがとうございます…」

汗まみれの醜い体を抱きしめながら、さも愛おしげに、膣内射精の礼を言う
これもまた、作法である



「奥さん、今日もありがとうございました。いやぁ〜、本当に良かった」
「お楽しみ頂けましたか?私ばかりが気持ち良くなってしまって、恥ずかしいですわ…」
「はは、そんな事はありませんよ。私も子供みたいに、ハッスルしてしまいました」
「…まあ、お優しい言葉までかけて頂けるなんて…。本当にありがとうございます…」
「いえいえ。…それでは奥さん、私はこれで…」
「はい。もう夜中ですから、帰り道はお気をつけ下さい」
「ありがとうございます。では…」

出迎えの時と同じ様に、三つ指をついて、平伏して客を送り出す。これも、作法である

「本日は誠にありがとうございました。また、おいで下さいませ」


男が出て行った後も、えりかはそのままの姿勢で固まっていた
顔を伏せたまま床を睨みつけ、力の限り歯を食い縛るのは、作法などではない






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