いたずら
シチュエーション


「お姫様」

可笑しな奴だ。
それでも文句も言わず、己の悲運を嘆きもせず。
ただ死んだ目をしながら、笑ってみせるのである。
家を失い、借金を抱え落ちぶれた末に感情が無くなってしまったと人は言った。

しかし、本当に感情は無いのだろうか。
些細な疑問が、チリリと焦げつくような不思議な何かと共に沸いた。

「お姫様」

もはや皮肉にしか聞こえない名を呼べば、こちらを軽く一瞥してまた空を眺め始めた。
こっそり後ろに立ち、わッと大きな声を上げて背中を強く押す。

「――っ、!」

慌てて振り向いたお姫様が少し目を丸くさせ、顔を逸らした。

「驚いた?」

返事はなかった。

代わりに背中につけたままの手のひらから伝わる早い鼓動が、驚きと混乱を表していた。
感情を無くしたはずのお姫様の、人間っぽい一面に触れたのは、それが初めてだった。

渡り廊下での出来事をきっかけに、様々ないたずらを仕掛けた。
いきなり大声を出すなど日常茶飯事。
布団番という職を利用して、布団に蛇と瓜二つのカラクリを忍び込ませたりもした。

結果、相手はこちらを警戒するようになったがその行動すら人間っぽくて面白い。
大抵のいたずらは許してくれた。
気づけば、お姫様はよく笑っていた。
楼主も最近客からの評判が良いと上機嫌で言った。

正直なところ客関係云々に興味はなかった。
いたずらを仕掛けて、お姫様の人間的な感情に触れられたら満足だった。

満足したはずだった。






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