義姉さん2
シチュエーション


話は兄貴夫婦の結婚式の2、3週間前にさかのぼる
休日のその日、オレは駅で人を待っていた。流れる人混みの中からその人物を探していると、大きなバッグを持った女の子がオレのもとに駆け寄ってきた

「お兄ちゃん!」
「麻美(あさみ)ちゃん、久しぶり」
「あはっ、ホントに迎えにきてくれたんだ。よかったあ」
「何言ってんの、前から約束してたじゃない」
「まあね〜。お姉ちゃん達、式の準備で忙しいみたいだし、お兄ちゃんなら多分ヒマかな〜って」
「ハハ、まあそうだけどさ」
「普通さ、休みの日ってカノジョとかと遊んでるもんだし、ドタキャンされたらどうしよっかな〜って心配だったけど、全然大丈夫だったね」
「ああそうかい」
「持つべき物はヒマでモテない兄貴だね。アハハ」
「オレの事はいいだろうがよ!……もう行こうってば」
「あ、そうだ。引っ越し終わったらさ、一緒に出かけようよ」
「…どこに?」
「食べ物屋さんとか、お酒飲める所とか。あと服も買いたいもん。仕事始まったらあんまり遊べなくなるだろうし、今から見て回りたいの。あ、あと買い物もしたいし」
「え〜、また今度にしようよ…。つか買い物だけにしろって」
「いいじゃん別に。大きい荷物は引っ越し屋さんにまかせればいいしさ。お兄ちゃんは細かいのを適当にサッサって並べればいいよ。すぐ終わるって」
「簡単に言ってくれちゃって…」
「ここらへんで遊べる所は、ケータイとかで大体調べてあるからさ、パッとやってパッと遊びに行こうよ。ね?」
「…わかったわかった。じゃあパッとやってパッと終わらせようか」
「そうそう。それにいつかお兄ちゃんにカノジョができた時の練習になるしさ」
「ソウデスネ」
「あ、でもずーっとできない可能性もあるね。おじいちゃんになってもカノジョいなかったりして。アハハハハ」
「余計なお世話だよ!…行くの?行かないの?」
「は〜い。じゃあ行こ?お兄ちゃん」

麻美ちゃんのバッグを受け取ると、オレ達は車が停めてある駐車場へ向かった

麻美ちゃんは義姉さんの妹で、つまりオレの義理の妹にあたる。大きな黒い瞳と、ほのかにツンと鋭い目、活発な性格に合ったショートカットがとてもかわいらしい。
それにしてもこの一家、美人の血筋なんだろうか。お義母さんまでも、やたら美人だったのを覚えている
その麻美ちゃんは、つい最近まで大学生だった。だが在学中から就職活動がうまくいかず、卒業後もしばらく就職浪人を続けていた
それが最近になってようやく、この街にある会社に就職できる事になった
それでアパートを借りて暮らす事になったのだが、この街には知り合い・友人の類がおらず、頼りの義姉さん達も色々忙しいという事なので、万年ヒマ人のオレが、引っ越しの手伝いという、非常にメンドくさい作業を頼まれる事にあいなった

…とはいえ、正直言って今日の事は結構楽しみにしていた。ぶっちゃけ麻美ちゃんといると楽しいのだ
言いたい放題好きな事をしゃべってるように見えるけど、冗談である事はすぐにわかるし、何より彼女の笑顔と笑い声を感じていると、なんやかんやでこっちも明るい気分になる
麻美ちゃんのこと好きか?って聞かれたら、そりゃあ好きなんだろうが………ま、とりあえず今日は麻美ちゃんのためにがんばろう。かわいい義妹なんだしな!

「お兄ちゃん、今日はありがとねぇ」

麻美ちゃんの新居の玄関。引っ越し作業も無事済んだし、とりあえず必要な買い物も一通りすませたので、オレはそろそろ帰る事にした。時間は八時少し前をさしていた

「義姉さん達には連絡した?」
「うん。あと十五分くらいしたらこっちに着くと思うけど」
「そうかあ。じゃあよろしく言っといてよ」
「も〜、会っていけばいいのに」
「明日オレ、仕事早いからさ。七時出勤」
「え〜、ずいぶん早いね。大変だね…」
「麻美ちゃんもさ、そのうちそうなるよ。仕事やってたら」
「ふ〜ん…」
「じゃ、もう帰るね」
「あ、ちょっと待って」

麻美ちゃんはたたた、と冷蔵庫まで駆けていくと、中から缶ビールを取り出して、それをオレに投げ渡した

「はい、今日のお礼」
「一本だけかい」
「発泡酒じゃなくて、ビールだよ?」
「ハハ、ありがと。じゃ、お休み〜」
「うん、本当にありがとう。お休み〜!」

「ふぅ…」

車を走らせながらひと息つく。疲れはしたが、今日はなかなかいい一日だった

(ありがとうって…、やっぱり言われると嬉しいよな)

久しぶりに聞いた感謝の言葉に、思わず顔がほころぶ
そんな明るい余韻にひたっていると、ガタガタと車のパワーが無くなっていき、ついに止まってしまった

「…………ガス欠かよ」

今までの疲れがどっと出て、半笑いで車内の天井を仰ぐ。ドリンクホルダーの缶ビールは、だらだらと汗をかいていた

時間は戻って現在。麻美の姉夫婦のマンションのリビングでの出来事である

「え〜、会社がつぶれたぁ!?」

麻美の姉・えりかが驚きの声をあげる。麻美はソファに座り、暗い顔をしてうなだれている

「麻美ちゃん、どういう事なの?」
「…大口の取引先が倒産したの。結構大きい会社だったから、まわりもバタバタ潰れていっちゃって…。う、うちだけは大丈夫って言ってたのに…、朝出勤したら…」

麻美の声には涙がまじり始めた

「そう…。お母さんには、言ったの?」
「ううん、まだ……」
「じゃあね、まずお母さんに連絡して、これからの事を相談しなさい。お姉ちゃんもできる限りの事はするから。ね?」
「ねえ、お姉ちゃん…」
「なに?」
「…私も、お姉ちゃんと同じ仕事、やってみていいかな…」

姉の仕事とは、本番ありの風俗嬢だ。妹の言葉に、えりかは顔をしかめる

「麻美ちゃん…突然何を言い出すの?」
「私…エッチって嫌いじゃないし…。体力もちょっと自信あるし…だから…」
「何言ってるの。ヤケになったからって、そんなバカな事は言っちゃダメよ」
「でも…」
「ダメよ。麻美ちゃんいい加減にしなさい」
「うう…」

えりかは強い目で麻美を見据える。麻美は口をつぐんで押し黙るしかなかった

「お仕事はお姉ちゃんからも探してみてあげるから…。あまり無茶な事言わないで…。ね?」
「………わかった」


(でも、ホントにどうしようかなぁ…)

麻美は姉のマンションからの帰途、途中で職安に寄ってみたが、今の時代、なかなかいい仕事は紹介されていない

(やっぱり、何か資格ないと厳しいなぁ…)

資格と言えば運転免許くらいしかない。しかもペーパー。しかし今から資格をとるといっても、先立つもののあてなどない
はぁ、と歩道橋の真ん中でため息をつく。気が重くなると、足も重い。駅から自分のアパートまでそう遠くはないはずだが、何だかとても疲れを感じていた

とぼとぼと歩いて、ようやく近所にたどり着くと、目の前を消防車や救急車が猛スピードで横切っていく。向かった先はアパートがある方向だ。しかもそこからは、黒い煙りが立ち上っているのが見える

(………!?)

嫌な予感に麻美の脚は自然と走り出す。果たして、眼前に広がっているのは、無情な光景だった

(燃えてる……)

麻美のアパートは炎に包まれていた。火は濁流にも似た激しい音を立てながら燃え上がっており、黒煙は渦を巻いて空に昇っていく
麻美は、あまりの事に呆然としながら、ただ赤い炎を見つめていた

「え〜っ、アパートが火事にあってなくなった!?」

麻美は姉のマンションに戻ってきていた。涙を流しながらソファに座って嗚咽している
つけっぱなしにしているテレビから、アパートの火災のニュースが報道されている。これを見て、麻美はより一層激しく泣き出してしまった

「麻美ちゃん、しばらくここに泊まっていってもいいのよ。自分の家だと思って…。だから、ね?泣かないで…」

姉は泣きじゃくる妹の隣に座ると、麻美を抱きしめて髪を優しくなでた

「お姉ちゃん…」

涙まみれの顔を姉の胸にうずめながら、麻美が口を開く

「なぁに?」
「さっきの話…仕事…。やっぱりやってみたい…。お姉ちゃんの仕事…」
「麻美ちゃん…それはダメって言ったでしょ?」
「だって…、もう思いつかないんだもん…。私にできる事…」
「……」
「何でもやらなきゃいけないじゃん…。体を使う事だって…」

姉妹はしばし無言だったが、やがて姉の方から話し掛けた

「じゃあ麻美ちゃん…、ホントのホントにやってみる…?」

麻美は、姉と目を合わせると、こくんと首を縦に振った

「わかったわ…。じゃあ私がお店に連絡してみるから、明日一緒に行ってみましょ?ね?」
「わかった……」

麻美は、力の無い声で同意する

「じゃあ、お夕飯と麻美ちゃんのお着替えを買ってくるわ。すぐ戻ってくるから、少しお留守番しててね?」
「はい……」

エレベーターの中で、えりかは携帯を片手に思い悩んでいた。切羽詰まった状況とは言え、妹を自分と同じ仕事につかせる事には、やはりとまどいがある
しばらく眉間にしわを寄せて考えこんでいたが、ふいにある事を思いつくと、意を決して店へと連絡をつけた

【麻美ちゃんの事で相談があります】

このメールが義姉さんから届いたのは、会社の昼休みの時間だった
オレが火事の事を知ったのは夜、九時前の五分間ほどの短い地元のニュース番組だった。慌てて麻美ちゃんに連絡をとってみたが、携帯の電源が入っていないらしく、一向に繋がらない。義姉さんの方も、ずっと話し中か、留守電の状態だった

(あんな状況なら…仕方ないかもな…)

オレは一旦こちらからの連絡をあきらめ、向こうからの連絡してくれるのを待った。すると、先程のメールが届いたのだ

そんなわけで、オレは今、待ち合わせ場所である駅前で義姉さんを待っている。話し合いなら義姉さんの家ですればいいのになあ、と思いながらも、待っている間は麻美ちゃんの事で頭がいっぱいだった

住む所はどうするのだろう。今は義姉さん達の家にいるのだろうが、いずれ実家に戻るのだろうか。仕事も無くなったらしいけど、お金は?貯金はあるのだろうか。助けになってくれる友達はできただろうか…

そんな事を考えながら鼻でため息をつくと、背後から女性の声がした

「アキトくん」

義姉さんだ

「義姉さ…え?」

オレは義姉さんのナリを見てぎょっとした。ド派手な服に膝上何センチだよってくらい短いミニスカ、夜でも…いや、夜だからこそ映える強い化粧。これじゃまるで……

「おまたせ〜。待っちゃった?」
「い、いえ…」
「そう、よかったわ。それにしても久しぶりねぇ。初体験以来ね?」
「ちょっ!?ね、義姉さん…」

突然の刺激的発言に、汗をかいてたじろぐ

「ふふふ、あいかわらずかわいいわね。じゃ、早速行きましょうか」
「行くって…、どちらに?」
「うん、私のお店よ」
「お、お店?」
「そ。同伴出勤だね。うふふふ」
「え〜っ!?ちょっと何言ってるんスか、麻美ちゃんの話は?」
「もちろんするわよ。あなたの意見、聞かせてね?」
「言ってる意味がわかりませんが…」
「いいからいいから」

そう言うと、義姉さんはオレの右側に立ち、腕を組んできた

「あっ…」

右腕に押し付けられた柔らかい感触に、あの時の事を思い出し、心臓がどきりとなる

「うふん…思い出しちゃった?」

オレの考えを見透かして、義姉さんは意地悪な目線を送る

「い、いや…」
「立っちゃったとか?」
「な、何言ってるんですか…」

反射的に目をそらす

「ん〜っ、ほんっとかわいい〜!」

義姉さんは笑顔でオレの腕にすりすりとほお擦りする。これはこれで気持ちいいが…一体何しにきたんだこの人?大体、ここは人通りの多い駅前なので、かなり恥ずかしい

「あ、あの、義姉さん…」
「あんっ、そうだったわ。それじゃあエロティックパレスにレッツゴー!」

腕をからませたまま、義姉さんはつかつかと歩き出す。なんなんだこの展開は。一体これから何が始まるのか…

(結局連れて来られてしまった…)

義姉さんに強引に店まで引っ張られて、その中の一室に案内されてしまった
その義姉さんは準備がある、と言い残し、部屋から出て行った
一人残されたオレは義姉さんの行動をいぶかしく思いながらも、ドキドキしながらベッドに座っていた

その時、コンコンとノックする音がして、ドアががちゃりと開いた

「お待たせしました〜」

義姉さんが部屋に入ってきた

「うっ!?」

なんと義姉さんは下着姿だった。白く柔らかく、美しいプロポーションの義姉さんの身体を、より白い純白の上下が包んでいる。ガーターベルトがまたセクシーだ

「どう?」

義姉さんはおどけた様子でキュッとポーズをとる

「すごく…綺麗です…」

こんな物を見せられては正直な感想しか言えない

「ありがと。…ほら、いつまでも恥ずかしがってないで、あなたも入ってらっしゃい」

義姉さんはドアの外に声をかける。誰かいるのだろうか。……もしかして二人同時に!?待て待て、オレは3Pの料金なんて払えないぞ…

「で、でもぉ…」
「ここまで来て何言ってんの。ほら、挨拶を忘れちゃダメよ?」

義姉さんの言葉にうながされ、脚の長い子が恐る恐る入ってくる

「こ、こんばんは…」
「あ、どうも………げっ、麻美ちゃん!?」
「あーーーっ!お兄ちゃん!?」

オレの前に現れたのは、下着姿の麻美ちゃんだった。……えっ、相談ってもしかしてこれ?

「きゃー!?な、何でお兄ちゃんがいるのぉ?」

麻美ちゃんは胸を隠しながら義姉さんの後ろにかくれる

「いや、オレにも全くわからないんだけど…。義姉さん、これどういう事なんです?」
「んふふ、それはね…」

義姉さんは麻美ちゃんの肩をつかむと、グイッと前に押し出す。麻美ちゃんはきゃっと小さな声を上げた

「麻美ちゃんの適性を見たいの」
「適性?」
「ん〜、どっちかって言うと練習台が近いかなぁ」
「話が見えないんですが…」
「アキトくん、麻美ちゃんが今大変だって知ってるでしょ?」
「は、はい。だからオレは…」
「それで麻美ちゃん、この仕事やってみたいって言ってるの」
「えっ!本当に!?」

麻美ちゃんは顔を赤くしてうつむいている

「そう。だからね、この子がこの仕事に向いてるかどうか、試してみたいの。つまりぃ、麻美ちゃんがあなたのお相手をして、楽しませてあげられたら合格ってわけ」
「お、お姉ちゃん!?何言ってんだよ!」

麻美ちゃんが驚きの声を上げる。オレも驚いた。全くとんでもない事を言い出す義姉さんだ

「ダメだよ!お兄ちゃんとするなんて絶対ありえないから!」
「あら、アキトくんの事、嫌い?」
「そういう問題じゃないでしょ!ヤバいってこんなの!」

全く麻美ちゃんの言う通りだが、義姉さんはあくまでマイペースを貫く

「そう?お姉ちゃん、アキトくんの事好きだけどなあ。キスも愛撫もとっても上手だしぃ…」

マイペース義姉さんの発言にオレは目を見開いたが、義姉さんの口は止まらない

「お姉ちゃん…なんでそんな事がわかんの…?」
「うん、だってお姉ちゃんね、この間アキトくんの事たべたべしちゃったの」

義姉さんはニコニコ顔でどえらい告白をしてしまった。…麻美ちゃんの顔は当然、ドン引きだった

「ちょっとお兄ちゃん…今の話マジ…?」

麻美ちゃんは嫌そ〜〜〜〜な目でオレを見る。一方オレは右手で口を押さえて目線をそらした。目玉はギョロンギョロン泳いでいる

「………キモい」

…出たぁ、たった三文字で完全な嫌悪感を表す魔法の言葉。とはいえ、反論もできない事実なのでどうにもならない。オレの目はまだ泳ぎ続けていた

「まあまあ二人とも。立ち話もなんだから、座ってお話しましょ。ね、麻美ちゃん」

義姉さんは麻美ちゃんをオレの隣に座らせると、彼女の右隣に腰掛ける
麻美ちゃんはザッと腰を動かしてオレから離れた。オレも気を使って座位置からちょっと移動する

「も〜、空気悪いなぁ。いつもは仲良さそうなのにぃ」

義姉さんが口を開く。…ってアンタのせいだろ。麻美ちゃんはムスっとして、こちらを向こうともしない

「ねえ、麻美ちゃん。お兄ちゃんとするの、そんなに嫌?」
「当たり前でしょ…」
「う〜ん、でもね、これはテストなの。受けないつもりなら、この場で不合格にするわ」
「え…」
「麻美ちゃん、このお仕事、やってみるんでしょ?ならお兄ちゃん一人くらいは気持ち良くさせてあげなきゃ」
「う…」
「私はあなたのお姉ちゃんだけど、ここでは新人の教育係でもあるの。私の言った事にきちんと応えないとダメじゃない」
「……」
「あなたからお願いした事なのよ?」

麻美ちゃんは、口をつぐんだままうなだれている

「アキトくんはどう?麻美ちゃんとは、したくない?」

義姉さんは場の空気とは掛け離れた明るい声で話し掛ける

「そ、そりゃそうですよ。大体、嫌がってる人とはできませんよ」
「そう?でも、麻美ちゃんてとっても綺麗だと思わない?」
「な、何を…」
「綺麗だわぁ。私、この子のお姉ちゃんでとっても嬉しい。でも女としてはちょっとうらやましいかな」

義姉さんの言葉に、横目でちらっと麻美ちゃんを見てみる
下着姿の麻美ちゃんの肌は、光を反射しているかのようにつややかだった。手足はすらりと長く伸びていて、義姉さんの方が身長はやや高いが、脚の長さは恐らく麻美ちゃんの方が長いだろう。確かに綺麗だ…

「男の人から見て、どう?素敵じゃない?」
「あ、あの…まあ…確かに…綺麗かと…」

オレの言葉に、義姉さんはニッコリと笑顔になる。一方麻美ちゃんは、また腰をザッと動かしてさらにオレから離れる

「うふふ、よかったわね。麻美ちゃんの事、綺麗だって」
「もうっ!何言ってんだよ…」

麻美ちゃんは目を吊り上げるが、義姉さんは無視してオレに声をかける

「じゃあアキトくんは麻美ちゃんの事気に入ったみたいだからぁ…この子の相手、お願いできる?」
「だ、だから無理ですって!大体、何でオレなんですか」

さっきからの疑問をぶつけた。適性をみるのに、何でこないだまで童貞だったオレが必要なんだ

「そうねえ…。あなたならきっと、麻美ちゃんの事を浮き彫りにしてくれると思ったからよ」
「浮き彫り…?」
「そ。優しいし、経験も少ないから、余計にね」
「ね、義姉さん!」

慌てて義姉さんを制した。これ以上オレの性体験を暴露されてはたまらん。それにしても義姉さんの言葉は不可解だ。浮き彫りって、何を?

「ん〜と…それじゃ、そろそろ始めましょうか、二人とも」

義姉さんはケロッとした顔で言い出す

「お、お姉ちゃん、ホントにするの…?」
「うん、ホントにするわ。がんばってね。ここで応援してあげるから」
「えっ、義姉さんの前でやるんですか!?」
「この子の適性を見るって言ったでしょ?あ、でもキミは気にしないで。3Pだと思えばいいんだから」

なんちゅう物の言い方だ…。しかし二度目のエッチがこんな形になるとは…トホホ…

「じゃ…どうすればいいの…」
「うん、そうねえ、まずはキスしてみたら?」
「キ…キス!?」
「そ。エッチの基本じゃない。アキトくん、キスが上手いから、すぐ仲良くなれるわよぉ〜?」
「……」

麻美ちゃんはこちらをチラ見すると、すぐまた無言になった

「ほらほら、そんなに恥ずかしがってないで…」

義姉さんは麻美ちゃんをずりずりと押してオレに密着させる

「う………わ、わかった……」

麻美ちゃんは観念したようで、ぎゅっと目をつむってぐいと唇を差し出した

(い、いいのかな…)

オレはまだ戸惑っていた。ホントにこんなんでいいのかよ?
…とはいえ、麻美ちゃんをこのままにしとくわけにはいかないし…
彼女はオレに唇を向けたまま、固まっている

(…ええい!やるしかないか…!)

オレもついに観念した
両手で頭を挟み込むと、ぐっと引き寄せて唇を重ねた

「…っ」

麻美ちゃんの全身が、ぴくっと固くなったのがわかった
両手にはさらさらと細い髪の毛、唇には柔らかな麻美ちゃんの感触
重ね合わせただけの短いキスを終えると、恥ずかしさに歪んだ彼女の表情が見えた。その顔が、とてもかわいらしく思った

「お、お姉ちゃん…」

麻美ちゃんは赤い顔で義姉さんに顔を向ける

「うん、とってもかわいかったわ。アキトくんはどう?」
「あ、はい…よかったです…」

さっきの麻美ちゃんの表情が頭から離れない。心臓がまだドキドキしている

「そう、私も嬉しいわ。…で、麻美ちゃん、ちょっと質問なんだけど…」
「え……?」
「今まで何人くらいの男の人と経験した?」

すごい質問だ…。あ、でも経験した人数が多いとやっぱ上手いんだろうし…

「…えっ?、い、言うの?」
「ええ、言ってちょうだい。正直に言うのよ?」
「うん…。あんまりわかんないけど……30人くらい……。あと一回だけの人なら、もっと…」

…30人ってのはすごいな。プロでもないのに…。まあ麻美ちゃんはかわいいし明るいし、やっぱモテるんだろう。しかし自分の今までを思い返すと、欝になってしまう数ですなぁ

「そう!たくさん経験してるのね。楽しみだわぁ」

義姉さんは満面の笑みを浮かべる。…でも目は笑ってないように見える

「じゃあキスもして仲良くなった事だしぃ…そろそろ裸のお付き合いしちゃおっか」
「!!」

裸キターーー!!…なんてアホな事考えてる場合じゃない。麻美ちゃんは胸を隠して縮こまってるし。これは義姉さんの時の百倍は緊張するぞ…

「麻美ちゃん、早速アキトくんを裸んぼにしてあげて」
「えっ、マ、マジで!?」

いきなりレベルの高い要求。これならオレが自分ですっぽんぽんになった方が遥かに気が楽だ

「あ、いや、そこは自分でやりますから…」
「だーめ。お客様の服を脱がせてあげるのも、重要なサービスなんだから。これもテストのうちなのよ」

…徹底してオレはテスト対象扱い。もう開き直って楽しんだ方がいいような気がしてくる

「さ、麻美ちゃん」
「わ…わかった……」

麻美ちゃんがオレの服の裾を恐る恐るつかむ。いよいよか………と思ったら、麻美ちゃんの動きはその姿勢のまま固まってしまった。…緊張して体が動かないのかな?

「…アキトくん、この子脱がせるの苦手みたいだから、バンザイしてあげて」
「あ、はい…」

言われるがまま、両手を上に伸ばす

「ほら、少し脱がせやすくなったわ」
「……」
「早くしてあげなさい。いつまでもお兄ちゃんにこんな格好させておくつもり?」

半裸の女性二人の前でバンザイポーズ。これは確かに『こんな格好』だ
だが麻美ちゃんは固まったまま動こうともしない。それどころか目の焦点が合っていないようだ

「どうしたの?あなたがやった事があるようにやればいいのよ」
「…だ、だって…わかんないし……」
「…わかんないって?」
「みんな自分で脱いじゃうし…。だ、だから…そういう物なんだなぁって…」

…ちょっと意外な答え。まぁ、プライベートなんて脱ぎたい方からさっさと脱げばいいと思うし…これくらいいいんじゃないかな?
とはいえ、麻美ちゃんくらいの遊び人…もとい、経験豊富な子がなぁ…とは感じる

「そう…。ちょっと聞くけど、男の人が裸になってくれたら、あなたも自分からお洋服脱いだ?」
「……」
「みーんな男の人にやらせてた?」
「………うん」
「…じゃあ二人とも全部脱いだとするわね。そしたらあなたは男の人に何かしてあげた?」
「え…?」
「麻美ちゃん、これはとっても大切な事よ?男の人に何かしてもらうんじゃなくて、『あなたが』何をしてあげたかって聞いてるの」
「……」
「どうしたの麻美ちゃん。あなたのセックスは女の子が何にもしないでベッドで待ってる事?」
「…だっ!…だって……、エッチは女の子が主役で、大事にされるもので…。男は女を気持ち良くさせなきゃいけないから…。だから……」

麻美ちゃんはやや涙声だった

「やっぱりね…」

義姉さんはフーッと深くため息をついて、眉間にしわをよせる

「私ね、あなたが最初にこの仕事したいって言った時に、風俗で働くって事を軽く見てるな、って思ったの。それ以外に心配事もあったけど、それはもうはっきりしたわ」
「な、何…」
「セックスの事も軽く思ってるって事よ」
「そ、そんな事は…」
「さっきだってそうよ。お洋服を脱がせた事が無くったって、アキトくんに手伝ってもらったりすれば、例え手間取ってもできる事なのよ?」
「うぅ…」
「あなたその時、『何で私が』じゃなくて、『何で女の子が』って思ってたんじゃないの?違う?」
「………」
「麻美ちゃん、さっきエッチは女の子が主役って言ったわよね。でもこの仕事はお客様が主役なの。あなたが気持ち良くさせてあげようとしないといけないの。ゴロンと寝っ転がって、されるがままの子に大金が入る仕事だと思った?」
「うぐっ…ぐすっ…」
「確かにマグロ女を扱ってる所もあるわ。それでいいなら、自分でそのお店を探してそこに勤めなさい。でも、このお店ではそんな子は絶対許さないわよ」

麻美ちゃんはとうとう泣き出してしまった
しかし怖い…。義姉さんはこの仕事、ひいてはエッチに対して相当真剣なんだな。オレはやや感動した
それにしても…このバンザイポーズ、もう下ろしてもいいかな…

部屋の中は麻美ちゃんの泣き声で満ちている
確かに、自分の性体験を真っ向から否定されるのはつらい。しかも彼女の場合、順風満帆以上の男性遍歴を送ってきたのだから、なおさらだろう。でもなぁ…

「ね、義姉さん、ちょっと言い過ぎじゃあ…」
「そうね…。でもこの子はね、物心ついた時から、周りに男の子がいなくなったって事が、なかったの」
「そうなんですか…」
「昔から本当にかわいかったもの…。でも、だからこそ、自分は男の子に何でもしてもらえるんだ、自分からは何もしなくていいんだって思うようになったのかも知れないわ…。かわいそうよね…」
「そんな…もんですかね…」

先程の厳しい顔は消え失せ、慈しむような、哀れむような目で麻美ちゃんを見つめている

「プライベートな事なら、別に口を挟まないわ。でも、体のやり取りに対してそういう意識しか持っていないのに、この仕事をやろうとするのなら…私はそれは違うって言うしかないのよね。妹を泣かせるような事になっても」
「すごいな…。本当のプロなんですね…」

オレはもう素直に感心してしまった

「そうよ?私、この仕事もセックスも大好きなんだから」

義姉さんはパッと明るい声になると、ティッシュを何枚か抜き取り、麻美ちゃんの目頭に当てて涙を拭いてあげる

「ほぉら、もう泣かないで。ね?」

さっきよりは大分落ち着いたものの、麻美ちゃんは声を詰まらせながら涙を流している。かわいい顔がぐしゃぐしゃになっていて、見ているのがつらい
「…わ、私……ダメなんだ…」
「ダメって?何が?」
「だ、だって、お姉ちゃん、私じゃダメだって…うっ、うえぇん…」

麻美ちゃんはまた泣き出してしまった。そんな彼女を、義姉さんは優しく抱きしめる。それは、妹をなぐさめる姉の姿だった

「わ、私、ダメなんでしょ?ふ、ふ、ふ、不合格なんでしょ?」
「ううん、私、麻美ちゃんが不合格だなんて一度も言ってないわ」
「で、でも、さっきぃ…」
「確かに今までのあなたじゃダメよ。だけどね、本当に不合格なら、はっきりそう言うわ」
「じゃ、じゃあ…何…?」

義姉さんは麻美ちゃんからすっと離れると、彼女の肩に手を乗せ、真っすぐに目を見て、言った

「麻美ちゃん、テストはまだ続いてるの。お兄ちゃんを楽しませてあげなさい?」

…まだ続けるの!?ぶっちゃけ、条件変えてやり直した方がいいと思うが…

「で、でも…、私、わかんないよ…」
「ううん、わからないなんて事はないわ。…わかんなくってもいいの。あなたが思った事、何でもアキトくんにしてみてあげなさい。それが、私が本当に見たいあなたの適性なの」
「私が…お兄ちゃんに…?」
「そうよ。…それにね、アキトくんは童貞も同然なんだから、たいていの事は喜んでくれるわ、多分」






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