夜鷹
シチュエーション


とっぷりと暮れた江戸の町は、濃い闇に覆われている。
夜目にも明るい提灯が、蛍のようにちらほらと瞬くほかには、ただただ深い闇があるばかりだ。
草むらで横たわった男は、ぬめりと流れる川と、江戸の町を見渡しながら煙管に火打石で火をつける。
ぽう、と点った橙色の炎が揺らめいて、男の精悍な横顔と、すぐ隣で横たわる女の乱れてなお美しい絹糸のような黒髪を照らし出した。

「姐さんも吸うかい?」

くたりと力を抜いて、こちらにやたらと色っぽい流し目を寄越す女に、ひとつ問いかけると、女は頷いて煙管をとった。
手馴れた仕草で煙を吸い込み、ゆったりと吐き出す。
乱れ髪に手をやって気だるげに煙管を吸う女の姿は、暗闇に艶やかに浮かび上がって、なにやら物の怪めいて美しい。

「口吸い煙管を、旦那にもらうたァ、あべこべだねェ」

とっぷりと煙を吐き出した女は、くすくす笑って男にもたれかかった。
吉原あたりでは、花魁の口吸い煙管を吸わせてもらうことが一種の勲章になっているらしいが、男には、そういった粋な遊びはとんと分からなかった。
その日その日を生き抜くのに精一杯の我が身では、粋な遊びなんぞしてみたくともかなわねえ、拗ねた考えで女から差し出された煙管に口をつけ、乱暴に煙を吸い込んだ。

「身体に毒だよゥ」

男の仕草を、白い手を伸ばしてたしなめた女は、乱れた着物をかき寄せることもせずにくすくすと笑っている。

「毒はもともとサ。こうしてお前さんといるのも、毒がまわった証拠かもしれねェ」

混ぜっかえして悠々と煙草を吸う男は、にやりと笑って女のほうをうかがった。

「それはあんまり酷い言いざま」
「こりゃあやまった。しかしまた、なんでお前さんみてェないい女が夜鷹なんざやってんだかなァ。最初に声かけられた時ァ、てっきり狐あたりに化かされてるもんだと思ったぜ」

口元に手を当てて目元を緩ませる女の媚態に、目を細めて見惚れながら男はそう言って女の身体を抱き寄せた。
すっぽりと男の胸板に納まった、小さく華奢な身体がかすかに震える。
着乱れて大きく開いた襟元からのぞく、白いうなじにかかるほつれ毛が、なんともそそるありさまだ。
思わず唾を飲み込んだ自分が気恥ずかしく、男は誤魔化すようにつづけた。

「姐さんくらいの器量なら、どこぞの大旦那つかまえて別宅きどりも楽だろうに」
「別宅づとめはこりごりですよゥ」

くすくすと笑った女は、腕の中で男を振り仰いだ。
白い腕を男の首に回し、口づけを強請るように目を瞑る。

「んんっ……ふう、んんぅ……はっ」

ねっとりと絡み合った舌と舌がたてる卑猥な水音と、押し殺した女のかすかな喘ぎが静かな川原に響く。
男の腕が次第に女の着崩された着物の襟に忍び込み、白く柔らかい乳房をやさしく揉みしだいた。

「ああっ……旦那ァっ……んぅ……はぁ……」

身をくねらせる女を宥めるように口づけを落とし、男ははだけた着物の裾に手を伸ばす。
すべすべとした肌触りの、吸い付くような太ももを撫で回し、さらにその奥へと手を進めた。

「綺麗なもんだ……」
「はぁっ……ふっ……あはぁっ……」

思わずぽつりと漏れた呟きにもきづかず、女はすすり泣くように喘ぎ声をあげる。
大げさな嬌声ではなく、微かにもれる吐息のような声は、派手な声をあげる岡場所の女より余程男を興奮させた。
刺青どころかしみひとつない白い体は、男の手の中でゆるくうねる。

「なァ、姐さん。金は払うから、アンタを今晩貸切にさせてくれ」
「いいですよゥ……あぁっ……やっ……はぁあ……」

先ほど果てたばかりだというのに、むくむくと頭をもたげる一物をもてあまし気味に、男は女の身体に手を這わせながら尋ねた。
どうにも、一度どころでは収まりがつきそうにない、と苦笑いを浮かべて、女の了承の言葉を聞くと、男はしっとりと潤った秘裂へ指を伸ばした。

「あんっ……はぁっ……あぅうっ……旦那ァ」
「おうよ」

ちゅくちゅくと、弄るごとに潤いをます秘裂に指を出し入れすると、女は悦楽に濡れた瞳で男に口づけをねだった。
可愛らしいおねだりに、男はにやりと笑ってこたえる。
しばし、川原に水音が満ちた。

「もう、挿れいくださいなァ……はうっ……あはぁっ……んんっ……」
「もちっと堪えな、姐さん。俺のもそろそろいい頃合だァ」

絶え間なく出し入れされる指に、女の蜜がからみ、しとどに濡れていく。
女はそれを身をくねらせて受け入れながら、柳のような風情の腰を揺らして男を熱っぽく見つめた。
瓜実がたの白い面に朱をのぼらせて、柳眉をよせて口を開いた女は匂い立つような色香がある。
弁天さまもかくや、という風情の女にしな垂れかかれて哀願され、男の一物はすでにはちきれんばかりに腹をたたいていた。

「旦那ァ……あはぁっ……お願いですよゥ……んぅっ……はぅっ……」
「色っぺえな、姐さん」

男の首に両手を回し、覗き込むようにして男を見つめる女の目は、黒曜石のように濡れた輝きを放っている。
くらくらと、目も眩むような心地で女に口づけを落とした男は、女の襦袢をぐいとおし開き、胡坐をかいた己の股座にすりあわせる。

「はぁっ……あぁん……あぅっ……旦那……」
「おうよ。極楽につれてっとくれや、姐さん」

互いの陰部が摺り合わされる、そのもどかしい快楽に、女は小さく喘いで男を求めた。
女の懐に入れた男の手は、すべすべとした白い乳房の上を這い回り、それが女をさらに煽りたてる。
耐え切れない、と男を見やる女の何度目かの懇願に、男はようやくにやりと笑って女を抱えあげ、いきりたった一物の上に女をしずめ、突き刺した。

「あはぁぁぁっ! あぅっ! いい……はぁっ……」
「姐さん……すげえ具合だ……熱くて……やわっこくて……」

それまでの堪えたようなすすり泣きが、派手な嬌声にとってかわり、それがさらに男を煽り立てる。
座位のまま男に揺さぶられている女は、がくがくと足をひきつらせ、与えられる乱暴な悦楽に眉根をよせて耐えた。
ひくひくと痙攣する女の内部は、男をきつく緩く締め付けていく。
身をくねらせ腰を揺らす女の、後ろ髪からかすかに漂う香の匂いすら、男の情動を煽る。

「はあっんっ! あぁあっ! だん、なぁっ! はぁっ!」
「弁天さまみてえだな、ほんとに」

見返り美人、と呟きながら、男はこちらを見つめる女の顎をつかみ、濡れた目と赤い唇からかすかにのぞく舌をまじまじと見つめる。
全身を朱に染めた女の身体は、例えようもなく美しく、心地よかった。
きれぎれに喘ぐ女の唇を己のもので塞ぎながら、両手で細い腰をつかみ、奥へ奥へと突き入れる。

「うぅっ! あはぁっ! いいっ! うぁっ!」
「姐さん、」

身体を突っ張らせて痙攣をはじめた女の首筋を舐め上げて、男はさらに激しく腰を動かす。
結合部からはひっきりなしに互いの粘液がこすれあう音がする。

「いやぁぁぁぁっ!」

一段と高い嬌声のあと、女は激しく身体を引き攣らせ、やがてぐったりと男にもたれかかった。
激しい締め付けと、女の媚態に、男もまた女の中に欲望を撒き散らし、互いの荒い息を重ねるように、幾度か口づけを交わす。

暗い川原で、茣蓙を引いてすわり込んだ男と女は、肩を並べてふたたび一服を始めた。
橙色の明かりが、二度目の情事の後が色濃く残った二人の男女を映し出す。
煙管片手に女の肩を抱く男は、胡坐をかいたままの姿勢で、もたれる女を見下ろして言った。

「なァ、姐さん。夜鷹なんざやめて、俺んちにこねえか?」
「そりゃァ、嬉しいはなしだねェ」

男の厚い胸板に顔を擦り付けるようにして、女は弾んだ声をあげる。
おそるおそる言った提案が、まさか受け入れられるとは思ってもみなかった男は、にやりと笑った。

「最初に声、掛けられたときから、俺ァ、あんたに岡惚れしてんだ」
「口が上手いよ、旦那」

冗談めかして笑った男の唇に白く細い指を押し当てて、女は寂しげに笑った。

「俺ァ、冗談は好きだが、嘘は言わねェ。俺と所帯もってくんな」
「旦那ァ……」

女のその顔を見て、男は慌てたように唇を引き結んで真面目な顔をして続ける。
一世一代の告白を、冗談に流されては敵わない。
男の常にはない、熱っぽくも真剣な眼差しに、女は戸惑ったように身を震わせた。

「べつに、今すぐなんて無理は言わねェよ。もう二年も通ってんだ。いっくらでも待つ気はあるさ」
「……でもねェ、あたしはこんな女だし……きっと旦那が嫌になるよゥ」

男の腕の中で居心地悪そうにもぞもぞと動いていた女は、熱心に掻き口説く男の姿に、やがて諦めたように身を任せる。
乱れた髪を指で掬い取り、目を伏せてそれをなぞると、女はぽつりと言った。

「好いた男にゃ、好かれたままでいてほしいんだよゥ」

かすかに目元に血を上らせて、着物の袖で口元を覆い隠す女の姿は、長い二年の付き合いの中でも見た事が無い。
まるで初心な生娘のような風情の女に、男はしどろもどろになりながら言い募った。

「……姐さん、俺ァ、どんなことがあってもあんたを嫌いにゃなれねェよ。なァ、頼まァ。拝むぜ、姐さん。俺と一緒になってくれ」

必死に言葉をつづける、不器用な男の額を、くすくすと笑いながら小突いて女は言った。

「仕様のない御方だねェ」
「それじゃ……いいのかい? 姐さん」

男の問い掛けに、女は何もこたえず、その肉厚な唇を男の薄いそれに合わせる。
二人の影は絡み合い、重なって、川原にはまたしばらく、熱い吐息が零れ落ちた。






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