御曹司×おもちゃの女(非エロ)
シチュエーション


静かな屋敷だった。簡単な荷物のみをまとめ、大木 さやかはその門前に立ち尽くしていた。
家の回りの塀は高く、さらにその上に鉄柵が見えている。門の柱には『猛犬注意』というシールまで貼られている。
すでに帰りたい。そんな気持ちだが…大学生の夏休みのバイトとしては破格の値段で、面接に現れた50代のおじさんは、もし住み込みなら倍出すと言われた。
生徒の名前は、三宅 薫。年齢は、19歳。一年海外留学して来年大学を受験する。人見知りがひどく、予備校に行きたくないと我が儘な一面があってね。面接の時、そう言っておじさんは苦笑いした。
癇癪がひどく、これまでつけた家庭教師はことごとく全滅。プロの家庭教師より、似た年代の子が友達感覚の方がいいのかもしれないと親族で話し合いがあったらしい。

「でも…私」

プロの家庭教師がことごとく…と聞いてさすがに自信がない。すると慌てて、手を振られた。

「いや、気にしなくていい。薫さんも夏休みという感覚を味合わせてやりたいだけなんだ。ちょっと…親が厳しすぎてね」

ふと、さやか自身にも重なる部分があったので微かに笑った。
家族には自分達が泥沼かしているのがわからないが、回りから見て一息いれたらどうだというタイミングなのだろう。

「それで…夏休みいっぱい、住み込みと言う件はどうだろう?」

さやかは頷いた。もともと夏休みに実家に帰る習慣もない。

「お世話になります」

商談は成立した。

インターホンを鳴らすかどうか悩んでいるといきなり目の前の重厚な一枚板の扉が開いた。

「どちらさまで」

カッターシャツに身を包んでもがっしりした体格が分かる男が、さやかを見て聞く。抑揚のない低い声にさやかは少し怯えながら声を出した。

「大木と申します…家庭教師の」

あぁ、というように頷き男は大きく玄関を開けた。

バウッ!

「ひっ?!」

いきなり吠えられ、さやかが身を縮ませる。大きく開いた門板の影には男と一匹の犬がいた。大きい…。

「これが、門を気にしていたもので」

だから、インターホンを鳴らす前に気がついたのだろう。さやかは、恐る恐る中に入った。犬がさやかを唸りながら首を回す。

「栄音!やめ」

鋭い男の声で、栄音と呼ばれた犬は一気に興味を失ったようにくるっと身体の向きを替えた。

「薫様がお待ちです」

犬に気を取られていたが、はっと顔を上げたときなは男は庭の奥に向かい歩き始めていた。背の高い金木犀の影に隠れて行く。
門から玄関まで石が敷き詰められている。その回りには、膝あたりの低い灌木が並んでいる。人気がない…。
さやかは、キャスター付のスーツケースを軽く握り締めた。ゆっくりと玄関に向って歩き出した。

玄関には、一人の老婆がいた。てっきり薫の親族者だと思ったが違うらしい。表情のない顔で、さやかを黙って応接室に連れて行く。刺繍が施された高級感溢れたソファに座らされ、さやかは戸惑った。
てっきり薫、もしくはその両親が先にいると思ったのだ。まさか、独りで応接室に通されるとは思っていなかった分、いたたまれなかった。

「荷物は、お預かりいたします」

老婆の手が、さっさとスーツケースを持って行ってしまう。老婆が消えると完全に独りになってしまった。

「どう思う?」

白のスーツに身を包んだ20代の青年が面白そうに聞きながら煙草に火をつけた。マッチを軽く振って火を消しクリスタルの灰皿に投げ入れる。

「顔は、上等」

薄いブルーの絹のシャツを着たやはり20代の男が良く冷えたシャンパンを口にしながら答える。

「身体も、よさげじゃないか」

煙草の煙を吐き出しながら白いスーツの男が赤い革張りの安楽椅子に深く腰掛け足を組んだまだ若い青年を伺う。

「…薫、どうだ?」

三人の向こうにはマジックミラーに写るさやかの姿があった。さやかの前には、壁掛け鏡が飾ってありその縁に細かい飾りがついている。良く磨かれた鏡は触れる事すらためらわせるものがあった。

「頭も悪くない。親は、どちらかといえば堅めの職種だが…。誰か親の関係で知ってる奴いたか?」

すると、部屋の隅で存在を消していた50代の男が静かに答えた。さやかと面接した男だ。

「GK企業なら、森崎様が顧問でいらっしゃいます」
「どれぐらいの自由に出来る?」
「即解雇ぐらいなら」

男の声にスーツの男が笑った。

「充分じゃないか」

安楽椅子に腰をかけていた青年が切れ長の目でちらりと煙草を吸う男を見上げた。

「兄さん、自分の物にしたら?」

兄さんと呼ばれ、スーツの男が苦笑いしながら煙草を灰皿に押しつける。

「浅子に泣かれてしまうんでね」
「こっちに振るなよ?俺は今の所、美沙子で満足している」
「兄さんといい…徹哉といい」

薫は深く溜め息を吐き、安楽椅子に身体を沈めもう一度、目の前の鏡を見た。
誰も現れない事が不安で堪らないのだろう、薄いベージュのスーツのスカートの上で手を握ったり開いたりしている。手の平が汗ばんで気持ちが悪いだろう。
気がついたら、口元が笑っていた。なんだかんだと言っても、新しいおもちゃが楽しみじゃないわけがない。

「静様、徹哉様…お車が参りました」

さやかのスーツケースを持ったまま、お手伝いのふじが扉を開く。

「なにが入っていた?」

なんでもないような事で静と呼ばれたスーツの男が聞いた。ふじは別にと首を傾げる。

「安物ばかりでございました。捨ててよろしいですか?」
「処分して」

徹哉がシャンパンのグラスをテーブルに置きながら答える。

「さて、俺は下着でも買い揃えてあげようかな」
「…じゃあ、俺は服か」

静と徹哉が立ち上がる。軽く、薫の肩に手を置いて呟いた。

「栄音を庭に放すぞ。ボクサーだ。下手に噛まれたら死ぬと教えてあげろよ?」
「あと、この屋敷にはいろはとふじしかいないという事もね」

薫が頷く。
この屋敷には、さやかを出迎えたいろはと、お手伝いのふじ。そして自分とさやかしかいない。
さやかが持って来た荷物は全部処分される。さやかの親の処遇もこちらの手の中にある。この広い屋敷から逃げようと一歩外に出れば…栄音がいる。
「素敵なプレゼントだ」

こちらの話が聞こえているはずもないが、鏡の向こうでさやかが堪えられないよう半泣きの顔になった。

「…薫…さん?」

白のスラックスにバーバリーのポロシャツを着た青年が扉を開けた時、反射的に立ち上がったさやかは一瞬ほっとした顔をして、薫を見て驚いた顔をした。

「…薫様と」
「え…?」

薫の後ろからお茶をワゴンで運んできた老婆が鋭い目付きてさやかを見た。

「薫様と」
「ふじ。お茶が冷める。先にセッティングしてくれ」

命令することに慣れた口調で薫がふじを窘めた。ふじが低いガラステーブルの上に紅茶類を並べていく。
薫は庭に面した窓に立ち、栄音が嬉しそうに沈丁花の株を超えるのを見ていた。いろんな種類の樹々が植えられている。

広さから言えば、団地の公園など比にならない。高い塀にも遮られ、この屋敷はまるで異空間だった。
ワゴンが出ていく音がする。パタンと扉が閉められた。二人っきりになった応接室にさやかが困惑したように薫を見る。

「…あの…」
「なに」

さやかが困ったように首を傾げた。

「私、薫…さ、様って…女の子だと」

同年代の女の子だと思ったから、この話を受けたのだと言外にしたが、薫は聞いていなかった。テーブルに戻り、さやかの前に腰を下ろす。

「…私、勘違いしてしまって」

薫がマイセンのカップに手をかける。ふじが煎れる紅茶は、悪くない。

「…あの、お父様かお母様は…」
「さやかが来ると聞いて安心してスイスに行った。」
「え…」

さらに困った顔をする。柔らかいウェーブのかかった髪が肩の上で揺れる。ぱっちりしたアーモンド型の目がどうしたらいいのだろうという顔をする。細目に整えられた眉が軽く顰められた。

「私、帰ります。…お金、返しますから」

さやかが立ち上がろうとした瞬間、薫の手が大きく揺れた。

「きゃっ?!」

いきなり浴びせられた紅茶にさやかが思わず顔を庇おうと腕を上げる。

「さやかは、我が儘だな」

スーツの肩からスカートまで浴びせられた紅茶が染みていく。さやかは震え出した。

「僕の相手を住み込みでする。そう聞いていたはずだ。ただ、それだけだろう」
「私、女の子だと思ったんです!」
「知るか」

薫が立ち上がる。そしてぐいと、さやかの腕を取った。

「お金は振り込んだ。いったいなにが不満だ」
「親御さんが居ないなんて聞いていないわっ」
「親がいるかいないかで、バイト決めているのか?変な奴だ」
「違うっ!」

腕を取り戻そうと、さやかが暴れる。面倒になり薫は軽くさやかを突き飛ばしてソファにひっくり返した。

「きゃっ?!」

捲り上がったスカートをさらに膝で押し上げさやかの股の間で固定する。さやかは動けなくなりがたがたと身体を震わせた。
顔から血の気が引く。薫は約180近い身長で165ほどしかないさやかを簡単にソファに縫い止めていく。

「…乱暴…しないで」

歯の根が合わない。歯並びの良い白い歯がカチカチと細かい音を立てた。

「さやかが暴れたら、乱暴する」
「…暴れないから…乱暴しないで」

「もし、暴れたり逃げたりしなければ乱暴にしない」

薫のゆっくりとした口調にさやかはがくがくと頭を振って見せた。薫が目を覗きこんで…口元を上げて笑った。

「先に言っておいてやる。この屋敷には、さっきさやかを出迎えたいろはと、手伝いのふじしかいない。」

さやかの目が激しく動く。逃げる算段を考えているのだろう。

「庭には、栄音を放した」

はっとさやかが薫を見た。さっきの大型犬。

「勝手に庭に出たら食われるからな」

さやかの目に涙が浮かぶ。なんで…そこまでして…。

「お前は、この屋敷で俺と遊ぶ。それだけだ」

薫の手が、ためらいもなくスカートに潜り込んだ。ストッキングを破り、下着に触れられさやかは悲鳴を上げた。


「いろはっ!」
扉が開いていろはが音も立てず薫に近付く。悲鳴を上げてるさやかなどいないような振る舞いに、さやかの目から涙が迸る。目茶苦茶に暴れるさやかを面白そうに見ながら薫はいろはが差し出した革の拘束具を手慣れた様子でさやかにつけた。

「いやっ!帰してっ、うちに帰してっ」
「商談は成立した。お前はそれを受けた」
「こんなのは違うっ!聞いてないっ!」
「…この格好で帰りますか?」

いろはに言われて、はっとさやかが己の姿を見た。スーツの半分は紅茶で汚され、ストッキングは破かれている。だが…

「着替えがありますっ!」

悲鳴混じりに叫ばれ、いろはが首を傾げた。

「お持ちになりましたか?」

いろはの言葉の意味がわからずに、さやかは嗚咽を上げた。荷物はふじというお手伝いに渡したはずだ。

「ふじさん…が」
「ふじはもう帰った。夜はここには俺といろはしかいない」

ああ、と付け足す。

「栄音がいたか」

さやかはもう一度悲鳴を上げた。

いろはが新しい紅茶をカップに注いだ。軽く口に含み、薫が顔をしかめる。

「渋い…ミルクをいれてくれ」
「煎れ直しましょうか?」

いろはの言葉に首を振った。いろはが、カップにミルクを垂らす。渦を巻きながら紅茶が乳白色に変わっていく。

「さやかが暴れたせいですっかりお茶がまずくなった」

窓の真ん中にさやかが吊されていた。拘束具のクリップをフックにかけられて不自由な手では解く事もできない。無理矢理伸ばされた腕に顔を埋め泣いていた。
スーツはすでにしわくちゃでみすぼらしく、ブラウスはボタンが全て外されている。中のキャミソールのレースの縁取りがさやかのまだ幼さを可愛らしく見せていた。ブラジャーもキャミソールと同じデザインだ。

「いろは。さやかは何カップだと思う?」
「Dだと」

目算で答えたいろはに、さやかが視線から逃げようと身体を捩った。

「鳩胸か?」
「それは、外してみなければ」

いろはの言葉にさやかの泣き声が高くなる。その泣き声を気持ち良さそうに聞きながら、薫は紅茶を口に含んだ。

「あとでいい。なら、下はどうだと思う」

下と聞いて、さやかが足をきつく閉じる。ストッキングは吊される前にいろはにはぎ取られた。下着まで取られるのではと怖かったが、いろははそのままさやかを吊ったのだ。

「さて、質問の意味が」
「下着だよ」
「ああ。安物ですが、一応一通りでしょう」

安物と言われ、顔がほてる。ひどい…新たに涙が流れた。今度は羞恥だ。

「邪魔だな。」

薫の一言でいろはが立ち上がった。クリスタルを飾ってある棚の引き出しから鋏を取り出す。

「いやぁっ?!」

さやかが悲鳴を上げ、身体を大きく捩らせた。だが、いろはの腕がさやかの片足を抱え上げスカートのジッパーを下ろす。そしてその開いて窓から下着の端を引っ張りだしためらいもなく切った。
いろはの指が引っ張りだした下着を再びスカートの中に戻し…
ぱさ、と音がしてもと下着だった布が床に落ちた。
さやかがしゃくり上げる。もしこのまま、いろはが腕を放したら…スカートも床に落ちてしまう。

「おや、栄音」

いきなり、窓を叩く音にいろはが顔を向けた。ボクサーが後ろ足で立ち上がり中を伺っている。

「ヒイッ?!」

目の高さと変わらぬ栄音の大きさにさやかは、思わずいろはに身体を預けた。

「勘弁してくれよ…涎まみれじゃないか」

薫が笑う。栄音がガラスに鼻面を押しつける度、ガラスが白く曇った。

「このまま、庭にでますか?」

いろはの言葉に度肝を抜かれさやかが振り返る。いろはは別にそれでも構わないという顔をしていた。

「窓を開けたら飛び込んで来ますよ」

さやかは、言葉を発する事も出来ずただ、首を大きく横に振る。身体をじっとりと脂汗が滲む。

「なら、薫様にお許しを得ねばいけません」

訳が分からない。お許し?なにを?なんの?
バン!またガラスが揺れた。栄音がまるで獲物の見るようにさやかを見ている。
さやかは、出来る限りいろはに身体を寄せがたがたと震えていた。その形のいい耳にいろはが囁く。

「我が儘を言って、申し訳ありませんでした」

いろはの言葉にさやかが目を見開いていく。

「これからはさやかは、我が儘を申しません。薫様のおっしゃるとおりにいたします…と」

震える唇が、そんな…と呟く。いろはが、無表情にさやかを見下ろした。

「いろは。鍵を開けろ」

薫の言葉にいろはの指が窓の鍵にかかる。はっとさやかがそれを見た。

「いやっ!やめてっ!」

いろはは、カチンと音を立てて摘みを上げた。
それを窓の外から栄音も見ている。

もし…窓が開いたら…。

気が遠くなりそうだった。血の気が引き、頭が白くなる。
意識を失ったのを確認していろはが、さやかを担ぎ上げた。






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