カナヅチに白スク
シチュエーション


「随分日焼けしたね」

アキは航太郎の二の腕を眺めると言った。白いTシャツの袖からはしっかりと筋肉の付いた強い腕が伸びている。

「昨日、一日中海にいたからなあ」
「また泳ぎに行ったの?」
「水泳部でバーベキューやったんだよ。ほれ、こないだの大会の打ち上げってことで」

航太郎は団扇で自分とアキを交互に扇ぎながら、縁側に座って投げ出した足をプラプラとさせる。
夕暮れの近い時間帯だが、まだ日差しは強い。風がないために軒先の風鈴は少しも音を立てなかった。

「いいなあ、バーベキュー、お肉」
「アキも誘えばよかったかな?」
「いいよ、ボクは。水泳部の連中に混ざるなんて完全にアウェイじゃん」
「気にすることないって。みんな知ってるだろ?」
「そうだけど……、どうせ泳いだんでしょ?」
「うん、まあ」
「『あのブイまで競争だー!』とかやったんでしょ?」
「そうそう」
「じゃあダメじゃーん」

アキはそう言うと、縁側にごろんと寝転がった。ノースリーブのシャツの裾がめくれて、色白の肌がちらりと覗いている。
航太郎は思わずアキの体から目を逸らした。団扇を忙しく動かすと、風鈴がちりちりとわずかに音を鳴らす。

「ボク、泳げないもん」

そう言ってふてくされたアキへ、

「陸の上ではあんなに速いのになあ」

と航太郎が茶化すと、アキは「しょうがないじゃん」とぼそっと言って、体を丸めた。
アキは五歳の時に海で溺れたことが原因で、それ以来水に顔を浸けることもできない。
海の至近の田舎町に住んでいるくせに自分だけが泳げないということで、それがコンプレックスになっていた。
基本的に運動は得意で、中学から高三の今まで続けている陸上では、200メートルと幅跳びの県記録を持っているほどだ。
しかし、そのせいで周りに持たれているイメージがますます泳げないことに対するアキ自身のコンプレックスを深めていた。

「航太郎みたいに、泳げるようになりたいな」
「この夏が終われば、もう学校で泳がされることもなくなるからいいじゃん。無理に泳げるようにならなくてもさ」

航太郎が気を遣ったふうにそう言うと、アキは眉間にしわを寄せた。

「もしもの時のために、泳げないよりは泳げた方がいいから……」

アキの声は小さくなっていく。

「もしもって言ったって、アキは水の近くに行くことだってないだろ。泳げなくたって平気、平気――」
「泳げるようになりたい!」

がばっと起き上がって、真っ直ぐな目でそう言うアキに航太郎は気圧されてしまった。

「本気かよ」
「うん。特訓してくれないかな、航太郎が」
「俺はかまわないけど……、本当に大丈夫か?まだ怖いんだろ?」
「頑張る」

日曜日の午前中、アキを荷台に乗せた自転車は坂道を滑って行く。
練習をしているところを人に見られるのは恥ずかしいと言うアキの希望で、人気の少ない海岸へ急いだ。
舗装されていない小径を縫ってしばらく進むと、緑色のアーチの向こうへ海が見えた。

「着いたよ」

アキは荷台からぴょんと飛び降りると、きょろきょろと辺りを見回した。

「初めて来た。こんな所あったんだ」
「穴場だろー」

猫の額ほどしかない小さな海岸だが、岩場は少なく、波も静かだ。航太郎はこの場所を誰にも教えたことがなかった。
子供だけで泳ぎに行ってはいけないという学校の決まりを無視して、小さな頃からここでこっそり何度も泳いだ。
そしていつかアキを連れて来たいと思っていた。

「砂、綺麗だね。誰もいないし、道路も遠いからここなら平気だね」

そう言ってアキは笑う。航太郎は甘酸っぱいような気持ちになりながら、いそいそと持って来た簡易テントを木陰に広げた。

「そういえばアキ、自分の水着持ってんの?」

アキが小脇に抱えている袋に目を遣って航太郎は尋ねた。

「ううん、持ってないよ。学校の水泳の授業ずっと休んでたもん」
「だよな」
「だからお姉ちゃんに借りてきた」
「じゃあテントあるから、着替えてきなよ。俺は着てきたから、外で待ってる」

航太郎はシャツと短パンを脱ぎ去ってアキに渡すと、波打ち際へと歩いて行った。腰まで水に浸かって、木陰の方を見遣る。
三人ほどがぎゅうぎゅうで眠れるくらいの大きさのテントの中で今、アキは着替えている。
やましい気持ちにならずにはいられなかったが、同時に裸のアキを想像してしまったことで罪悪感も募った。
小さな頃から好きな人を猥雑な妄想に浸すなんて最低、という意識は航太郎にもあるのだが、どうも抗えない。
しばらくすると水着姿のアキがテントから出てきた。航太郎は思わず目を見開いた。

「白かよ……」

アキが着ていたのは、真っ白なワンピースタイプの水着だった。

「え、変かな?」
「いや、変じゃないけどさ……」
「お姉ちゃんの持ってるやつ、他は全部派手なビキニでさ。まともなの、これしかなかったんだ」
「うん……」

航太郎は少し前に友人から借りて読んだ雑誌に載っていたセミヌードのグラビアを思い出していた。
もしそれと同じ類の物なら、アキが今着ているのは水泳用の水着ではない。
これの持ち主であるところのアキの姉は現在会社員で、ボーイッシュなアキとは違って昔から色っぽい格好を好んでいる。
高校時代から彼氏が途切れないというのもアキから聞いた。こういうものを持っていても何ら不思議はない。

「アキ、それってさ……」
「うん?」

航太郎は言葉を探したが、どう尋ねてもいやらしい意味になってしまう気がして、黙り込むしかなかった。
それにもしかするとアキが着ているのはちゃんとした水着で、自分が勘違いをしているだけなのかもしれないとも思った。
アキは無邪気にもビーチサンダルをひょいと脱ぎ捨てて、航太郎の方へ近づいてくる。

「膝くらいまでなら平気だよ」

ざぶざぶと波を分けて、アキは航太郎へ手を伸ばした。航太郎はその手を取って、ゆっくりと深い場所へ歩いて行く。

「やっぱりちょっと、腰の方まで水が来ると怖いね……」

アキは航太郎の腕を掴む手に力を込めた。

「大丈夫だよ、ちゃんと掴まってな」
「うん、ありがとう」

すっかり腰の方まで濡れてしまっているが、水面よりも下がどうなっているのかは航太郎にもよく見えなかった。

「手は絶対に離さないから、ちょっとバタ足してみるか?」
「どうすればいいの?」
「水に寝そべるようにしてみて。顔は浸けなくていいから」
「う……、やってみる……」

アキは意を決したような表情で少し震えながら、次の瞬間砂を蹴った。
しかし、何度足を蹴り上げても力が入り過ぎているせいか、うまく浮かぶことすらできない。
まるで逆上がりを失敗する子供のようだ。

「浮かない……」
「力入れないで」
「こわい……」

航太郎はふとアキの尻の方に視線を遣った。
尻の割れ目の線はくっきりと出てしまっていた。それどころか、うっすらと肌色が透けている。
このまま水から上がれば、航太郎の眼前でアキの全身が透けて見えてしまうのは明らかだった。
航太郎はもう、アキをまともに見ていられなかった。必死で視線を逸らす。

「航太郎、こわいよ、ちゃんと掴んでてよ」
「大丈夫だから……」
「こっち見ててよー!」

アキは必死に航太郎の腕にすがりついているせいで、水着が透けていることには気付いていない。

「アキ、駄目だ。上がろう」
「えっ?」

航太郎はいたたまれなくなってアキを肩に担ぎ上げた。そのままテントの方へ歩いて行く。

「わっ、航太郎、ちょっと!」

航太郎は慌てるアキをテントの中へ入れると、真っ先にバスタオルで体を覆ってやった。
しかし一瞬だけ、見てしまった。全身にぺったりと薄い生地が張りついて、乳首やへそや陰毛が透けて見えている様を。

「アキ、ごめん……。俺、出てるから、すぐに着替えな」
「えっ、何で?」

アキはまだ気付いていないようで、キョトンとしている。しかし、バスタオルの中へ視線を落とした瞬間に、

「うわっ、え、えええっ!?」

自分の状態を確認したようで、叫び声を上げた。

「なっ、何で!?ボク、こんなっ――」

オロオロするアキにかけてやれる言葉もなく、航太郎はテントから出ようとする。

「航太郎!」
「ごめん……」
「ボク、の……見た?」

航太郎は俯いたままで頷いた。

「あ、あのっ、こんなふうになるって知らなかったんだ!こういうものだって知らなくて!
ボクは別に……航太郎に見せようとか、そんなふうに思ってたわけじゃなくて……、本当に、ううぅ……」

アキの目からは涙が溢れ出した。

「見せつけて、誘惑しようとか……そんなふうに、考えてたんじゃなくてぇ……。うぐっ……、ひぐっ――」
「分かってるよ。知らなかったんだろ?」

アキは懸命に何度も頷いた。

「ボクのこと、エッチな子だって思わないで……」
「思ってないよ」

そう言っても、さっき見てしまったアキの体は航太郎の頭に焼きついて離れない。
こんな状況に欲情してしまって、いやらしいのはむしろ俺の方だと航太郎は自分の性を口惜しく思った。

「嫌、だったよね、ごめんね……」

一体何が?と航太郎は思う。

「幼馴染の裸なんて、見てもつまんないよね。気持ち悪いもの見せてごめんね……」

鼻をすすりながらアキは呟いた。

「気持ち悪いわけあるか……。綺麗、なんじゃないの、あんまハッキリ見てないけど」

ぶっきらぼうな口調で航太郎は少し言い訳混じりにそう言い放った。
アキの腰は陸上で鍛えられているせいか綺麗にくびれていた。
胸と尻は大きくはなかったが柔らかそうに膨らんで、
乳輪はふわんと花が咲くように色づいていて可愛らしい見た目をしていた。
航太郎が想像していたアキの裸よりも、実際のアキは美しかった。

「アキの方こそ、嫌じゃなかった?」
「なに……?」
「俺なんかに、その……見られて。好きでも何でもない男に見られてさ……」

航太郎がそう言うと、アキは黙り込んだ。そしてしばらく沈黙が続いたあと、恐る恐るアキは口を開いた。

「好きだよ……」

まだ少し目を潤ませたままそう言ったアキの頬は日焼けのせいなのか、
それとも上気しているのかほんのり赤く染まっていた。

「航太郎のことが好き……。ずっと、好きだったんだ、小さな頃から」

航太郎は全身の血が逆流しそうな心地を覚えた。アキは小声で続ける。

「一緒に泳げたらいいのにって、思ってた。いつも水泳部で楽しそうにしてたから、羨ましかった。
だから、ボク……教えて欲しくて、でも、こんな……、ごめ……」

言いかけて、アキの目にはまた涙が盛り上がってきていた。

「アキ、好きだ」

航太郎は小さく膝を抱えたアキをきつく抱き締めた。

「アキ……俺だってずっと好きだったよ」
「こう、たろ……」
「恥ずかしい思いさせてごめん。アキの方から言わせてごめんな」

アキは航太郎の腕の中でかぶりを振って、それから涙声で「嘘みたい、嬉しい」と囁くように言った。
航太郎がアキの髪を撫でると、アキは顔を上げる。どちらからともなく、キスをした。
ついばむようなキスを何度も繰り返すうち、アキの肩からはバスタオルがずり落ちて、湿った体の形が露になっていた。
アキもそれを隠すことはしない。キスに夢中で気付いていないわけではなさそうだった。
むしろ、自分から腕を伸ばして航太郎の頬を掴み、体を寄り添わせようとする。
航太郎は今度はまじまじとアキの体を見ながら、肩紐のところをいじりつつ言った。

「なりゆきで、みたいに思うかもしれないけど、俺はアキとずっとこうしたかったから。後悔させないから」
「うん……」

航太郎はアキをゆっくりと横たえてやると、さっきよりも深く口づける。
アキもそれに応じて少し唇を開き、航太郎の舌が入り込んでくるのを待った。
航太郎の方から舌を差し出して、それをアキの口の中で絡ませ合う。
何のテクニックもないやり方だったが、経験のない二人を興奮させるには十分過ぎるほど官能的だった。
航太郎はアキの短い髪を何度もかき上げて、貪るように唇を吸った。
応えるようにアキも懸命に航太郎の舌を愛撫しようとする。
ちゅぷちゅぷと音を立て、舌をまるでフェラでもするかのように唇で挟み、ぬるぬるとしごく。
ぷはぁ、と唾液で粘つく唇を離すと、航太郎はアキの頬に軽くキスをして、そしてまた唇に舌を差し込む。
どれだけ触れ合い続けても全く飽きることがないように二人には感じられた。
次第にキスに慣れてきたのか二人とも大きく口を開けて、ねぶるようにゆっくり、ねっとりと舌を動かし始める。
続けながら、航太郎は白い水着の上からそっとアキの胸を触った。

「んっ」

それだけでアキの体がぴくんと跳ねる。構わず航太郎はまさぐるようにアキの乳房を撫でた。
航太郎の手にすっぽりと収まるサイズのアキの胸の膨らみは男には有り得ない柔らかさと弾力を持っている。
表面を撫でるだけではもちろん足りなくて、円を描くように揉み込むとアキは身をくねらせた。

「あ、あっ……」

海水と汗で湿ってぺっとりと肌に貼りついた水着はひどく薄っぺらい。
乳首は既に硬く先を尖らせている。航太郎はそこを摘まんで、くにくにと弄んだ。

「やっ、あ、んっ――」

アキは思わず唇を航太郎の顔から離して、横を向いて恥ずかしそうに指を噛んだ。
頬はすっかり紅潮しきって、ふうふうと浅い呼吸をしている。
体に触れられる初めての快感に震えているようだった。
航太郎は右の乳首を弄りながら、左の乳首へ舌を這わせようとする。裾から頂へ、舐め上げる。
乳輪のふちを舌でくるくると円を描きながら唾液を塗り込めてやると、
アキはぎゅっと目をつぶって「ん、ん」と吐息を漏らした。
かぷっと乳首を食んで、舌でチロチロと舐めて遊ぶ。
まだ海水の染み出してくる水着ごと、じゅうっと吸い上げて離す。
再び口に含み甘噛みするとアキはぴくりと震えた。
口には出さないが痛かったのかもしれない。航太郎は癒すようにそこをまた舐め回した。
布越しの刺激はじれったいのか、アキはむずがるように「ふぅん、ふぅん」としきりに鼻声を洩らしている。
乳房を直に口に含もうと、航太郎は水着を肩からずり下ろしてそれを露にした。
口づけると、先ほどの水着の感触とはまた違った、きめ細やかな肌の吸いつくような心地が舌に甘さを感じさせる。
乳首を丁寧に転がし、ちゅっちゅっと小刻みに吸いつく。
手は胸から脇腹を伝って腰へ、腰を柔らかく撫で回したあとで、股間へと動く。
脚の間に指を潜ませて、まずは水着の上からそこをなぞるとアキはびくんと背中を浮かせた。

「航太郎……、こう、たろ……、あっ――」

アキは航太郎の日焼けした肩を撫でながら、うわごとのように名前を呼ぶ。
いつもよりも甘く上ずった声で呼ばれるだけで、航太郎は全身が疼いた。
水着の内側で性器ははち切れそうに漲ってしまっている。

「んあぁっ!」

敏感に反応するアキが可愛らしく思えて、航太郎は股の部分に何度も指を擦りつけた。
染み出した愛液をぬるぬると馴染ませて、割れ目をきゅっきゅっとなぞっていく。

「やっ、んんっ……あ、待っ……ふぅんっ――」

航太郎の手を制止しようとアキは手を出すが、しきりに与えられる快感によって行先も定まらない。
航太郎は乳首から唇を離し、アキの手をぎゅっと握ってやった。
そのままアキの足の方へ移動し、股ぐらに顔を埋めようとする。

「だめっ、それはダメだよ!」

航太郎は体を捩って嫌がるアキの脚を無理やり開いて、噛みつくように陰唇を食んだ。
相当愛液が染みているらしくべたべたになっていて、口の中で糸を引くほどだった。
わざとぴちゃぴちゃといやらしい音を立てながら舐め上げる。

「いっ、ひぃっ……、だめ……だめ、やぁ……」

ぱっくりと開いているのに水着が張りついているせいで形がよく分からない。
クリトリスが硬くなっているのも舌に感じられるのだが、どうにもじれったかった。水着を除け、舌を入れる。

「航太郎っ、だめえぇっ!ホントに、も……あぁ――」

航太郎が直接クリトリスを啜ったその瞬間にアキはぶるぶると震えた。
唇を離して陰部をじっと観察すると、膣がわずかに痙攣しているのが航太郎にも分かった。
アキはクリトリスへの刺激で達してしまったのだ。

「あぁ……ハァ……」

アキは胸を震わせながら呼吸をしている。

「いったの?」

アキは航太郎の方を見ずに頷いた。

「俺も、もう限界なんだけど……」

体を起こした航太郎はアキの開いた脚の間から乗り上げて抱き締めた。アキの体はさっきよりも熱かった。

「着たまま、とか……なんか変態っぽいかな」
「ボクは、どっちでも……」
「じゃあ、このまま入れるよ」

アキは頷いた。航太郎は再び体を起こし、アキの水着の股の部分の布と貼り付く陰毛を除けて性器をあてがった。
溢れ出しているお互いの蜜を馴染ませ合いながら腰を進めると、アキは脚を閉じようとする。

「ん……」
「怖いか?」

アキはふるふると首を振った。航太郎はアキの入口を割って入る。そこは信じられないほど熱くて狭かった。
こんな狭いところに入れるなんて辛いのも当然だと航太郎はアキを痛ましく思った。
航太郎は進んで退くのをそっと繰り返している。亀頭で膣壁をほぐすように、じりじりと奥へ進入する。
アキの内側のひだがカリへ絡みつき、腰を引くたびに全身の肌が粟立つように感じた。
最奥まで到達する前に果ててしまいそうになるのを航太郎は必死に耐えていた。

「ハァ……、俺ばっか気持ち良くて、ごめん」
「航太郎、気持ちいいの……?」

航太郎は頷いた。

「良かったあ……」

アキは航太郎の肩に手を伸ばして自分の方へ引き寄せると、強く抱き締めた。

「航太郎が気持ち良かったらそれでいいかな。ボクの方は、初めてって痛いものだし?」

アキは軽い口調でそう言ったが、痛みを我慢しているのは確かだ。
航太郎はたまらなくなってアキへ口づけると口内をめちゃくちゃに侵した。
好きだ、欲しい、でも優しくしたい。感情は混沌となるばかりだった。

「アキ……、アキ……好きだ」

口に出すと、体まで呼応して熱くなる。航太郎は腰の動きを制することができなくなりそうだった。

「アキ……、ごめん……」

ゆっくりと、だが大きく腰を打ちながら航太郎が言うと、
アキは苦しそうな表情の上に微笑みを上塗りして航太郎の髪を撫でた。

「平気……。謝んないで?ね?」

キスをしながら、下半身を揺さぶる。
もっと長いこと快感にたゆたっていたいと思ったが、
目の前で痛みに耐えながらキスの合間に荒い呼吸を続けているアキを見ると、申し訳なさの方が勝った。

「もう……、いくよ、アキ」
「ん……」

最後だけだから、と航太郎は動きを激しくする。

「あっ、あっ、あっ……ハァッ――。こうたろっ――」

苦しそうにアキは声を上げた。航太郎の熱は腹の中心へぎゅっと集まっていく。
激しい突き上げをアキの中で四回、五回と繰り返し、射精を促す。
瞬間、引き抜くと航太郎はアキの腹の上へ三回に分けて精液を吐き出した。

「だいすき」

と言ったアキの声は掠れて消え入りそうなくせに、やけに甘い。

海沿いの道を二人乗りの自転車がのろのろと走っていた。太陽は南の空に随分と高くなった。
真上から二人の短い影を地面に焼き付けている。

「お腹空かない?」

アキは航太郎の背中にぺったりと耳を当てて尋ねた。

「朝日亭行くか」
「ボク、冷やし中華食べたい」
「あ、俺も」
「航太郎はいつもの辛味噌ラーメン食べてなよ」
「嫌だよ、暑いのに」

二人の横を車が走り抜けていく。
海から少し離れた県道沿いのラーメン屋へ到着すると、航太郎は自転車を停めてスタンドを下した。
数台しか入らない駐車場には既に車がぎっしりと並んでいる。
カウンターの席へ腰かけると、アキはテレビを見上げた。

「タモリ」
「ああ、もう昼回ったか、早いな」

家を出たときにはまだ朝方だった。
さっきまでの行為にどれだけ時間をかけていたのかを考えると、航太郎は少し面映ゆい気持ちになるのだった。

「アキ、泳ぎはまあ、ゆっくりやってこうな」
「うん」
「今年中には無理かもしんないけど、来年もちゃんと練習付き合うし」
「ありがとう」

二人の間で交わされる会話はちゃんと恋人同士のそれだ。
そうしてしばらく話していると、会社の休憩時間であるせいで店内は混みだした。

「あら、アキと航ちゃん」

その声に二人が入口へ振り向くと、スーツ姿の遥が同僚と一緒に店へ入って来た。遥はひらひらと手を振る。

「あ、私の妹。と、その彼氏」

遥は同僚へそう紹介しながら、航太郎の隣へ腰かけた。

「彼氏って……」
「あれ、まだ?」
「いや……」

何故、もう遥がそれを知っているのか。答は簡単だ。

「なんだー、じゃあやっぱりうまくいったんじゃない。アキ、良かったね」
「えっ、ちょっとお姉ちゃん!」
「し・ろ・ス・ク」

遥はニヤニヤしながらそう言った。アキがあの水着を選ぶように仕向けたのだ。

「航太郎っ、違うからねっ!ボクは本当に知らなかったんだから!」

今にも泣きそうな表情で慌てだすアキをなだめて、航太郎は遥を睨みつけた。

「妹をハメたな?」
「ふふふー。航ちゃんも私の大事な妹にハメたから、お互い様ってことで」
「えっ、何の話?ハメたって何?」

遥の言う意味が分かっていないのはアキだけらしく、屈託なくそう尋ねる。

「遥姉、下品。アキにいらんこと教えるなよ」

航太郎がそう言うと、

「何だよー、ずるい!教えてよ」

アキが子供のように航太郎へすがりつく。

「仲のよろしいこと」
「お前のせいだろうが」とツッコミを入れたかったが、

なにぶん遥のおかげでアキの気持ちを知ることができたのも確かなので、航太郎は何も言えない。
ちらりとアキを見ると、アキは今しがた運ばれてきた冷やし中華を美味そうに啜っている。






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