黒き娼婦と白き王子 六章
シチュエーション


パザンにすればオーナーの首がすげかえられただけであるし、
そもそも良くしてくれるセドル王子ならなおさら問題はなかった。
だがこの先の未来までは考えない。
たとえサウラに骨の髄まで吸い取られようが、
まあそれはそれで一言物申すだけである。
けして冷たいわけではなく、経験上聞き入れてもらえない虚しさと、
サウラの小言とさり気ない嫌がらせが身にしみていたからだった。

そう考えていたが、長い冬が終わろうとしても、
王子は多少やつれたかもしれないが許容範囲内だった。
聞けばサウラの方がさり気に調整しているそうで、
伽をする相手を気遣う、これは異常事態であり、天変地異の前触れだとすら感じた。

********************

サウラは宮殿内を平気で闊歩する。
悲劇のヒロインというよりは歩く災厄として認識されたようで、すれ違う皆は一様に礼をした。
人があまり立ち寄らない奥へと行くと、一角にある熔炉からの廃熱を利用した温室に入った。
中は普段お目にかかることのない変わった草花が栽培されている。
厳しい自然と貧しい食生活のためだろうか、
薬草や香草が中心で、花はあまりなく殺風景だ。
群生するアロエを眺めつつ、人を待った。

「待たせましたかな」
「いえ。暇つぶしには丁度よいところで。なんとお呼びしたらよろしいかしら」
「そのままユーリンとお呼びください」

温室に入ってきた男はサウラに挨拶をした。
男は前にサウラを形の上で助けたことになっている神官だった。
先の処分において、サウラは名前を出さなかったからだ。
サウラを犯した神官を追い払ったのは事実で、その後は密室の上のため二人以外証人はいない。

「まさか素直に来るとは思ってませんでしたよ。
見たところ、誰も連れていませんようで。
まあ今更貴女に手を出す人はいませんでしょうがな」
「神官さまは違うようで?」
「当然ですよ。しかし何故私を助けたのですか。
これでは勘違いするのも、無理はないでしょう」
「ふふ、勘違いだなんて」

神官はサウラを抱き寄せた。
だが扇で口元を隠して接吻を拒絶される。

「ですがもう遅いですわ。私はすでに身も心もセドルさまのものですの」

こうもきっぱりと断言されると、えてして逆効果になるものだ。

「くっ……。ふ、ですが私とサウラ殿があそこで何をしていたか、殿下に報告してもよろしいのですよ」
「あら、そんなことをなされば、あなたも身の破滅では?」
「大した問題ではありません。殿下は貴女を知らなさ過ぎる。
だが私なら表も、裏も全て知り尽くしている。
果たして真実を知った殿下が、貴女を許すことが出来ますかな……」

熱くなる口調に合わせて、サウラは扇いで風を送った。

「ふふ、許してもらおうだなんて……少々そそられる言葉ですわ。
私は殿下に嫉妬してもらえるのも、罰せられるのも好きですのよ。
ああぁ、奴隷みたいに首輪をさせられて、一晩中調教される私……。
その苛烈な責めに耐え切れず、許しを請う私……。
想像するだけでステキですわぁ〜」
「あっ?」

ユーリンを尻目に、ひとり陶酔するサウラだった。
内股でくねくねと身を捩じらす。

「はあぁ、早速行きましょう」
「えっ?」
「殿下のところへですわ。善は急げとも。
明日は久々の……伽の日! 願ってもない状況ですの」
「い、いやその……」

手を引っ張られて、はたから見れば二人逃避行の図だった。
行き先は王子の執務室。
振りほどこうにも、勢いと意外に力強い握力によって出来なかった。
とうとう体当たりをするように、部屋へと転げ入った。

「セドルさま、お邪魔します」
「えっ!?」

突然の闖入者にセドルが驚くのも無理はない。
おまけにサウラだけでなく、息を切らした神官の姿もあったからだ。

「ふふ、少々お時間もらいます。この者の話を聞いてやってくださいな」
「は、はあ、まあ。……皆、悪いけど、いったん席を外してくれるかな」

セドルの机の前に並んでいた者が苦笑しつつ部屋から出て行く。
こうしてたまに仕事の邪魔をするのが定番と化していた。

「何かな。ええっと、ユーリン神官長補佐でよろしかったでしたか」
「その通りです。この度は突然ではありますが、直訴にまいりました。
このサウラを! 即刻、宮殿から叩き出すべきです!!」
「あれれ?」

いきなり別のことを言われたサウラだった。

「私は先に処罰された一連の者共のように、
肌の色云々でサウラが穢れた存在だなどど戯言は申しません。
ですが、悪しき性根と淫らな身体で持って、
セドル王子をたぶらかそうとしているのは明々白々であります。
これを見過ごすことは、神に仕える身として許せません!
王宮内に悪しき風土が蔓延する前に、即刻叩き出すべきです!!」

訴えの間、サウラはむすっと不機嫌な顔で腕組みをしていた。
黙って聞いていたのは内容がどうこう言う前に、
思った展開にならないのが不満だったためだった。

「話はよくわかりました」
「わかってもらえましたか。それでは」
「ですが、漂流し保護した者を追い出すなどもってのほかです」

毅然とした言いように、神官の方が一歩気おされる。

「で、ですが王子の下でなくとも」
「確かにそうですが、保護する制度も施設もありません。
地位も確立してないため、極論すれば彼らに何をしても罪に問えないのです。
くだんの事件もそういった影響もあったと思います。
ならば私が率先して保護するのが一番でしょう」
「それならば教会でも……」

ユーリンは言った後、しまったという顔をした。
セドルが優しく微笑むから、後悔の度合いは増していく。

「ようやく本音がでましたね。
私が追放したらまっさきに保護するくせに、と言っては言葉が過ぎるかもしれませんが。
……確かにサウラさんは悪しき者でしょう。
多くの人を惑わし、今もこうしてあなたをたぶらかす。
ですがその悪いところが、たまらなく魅力的でもある証左で、表裏一体のもの。
私はそんな悪いサウラさんをそのまま受け入れたいと思います。
それに今ではこう思います。悪くないサウラさんは、サウラさんではなく、
良いサウラさんなどおそらく魅力が半減するでしょう。
私も将来一国を束ねる者として、清濁あわせ呑むことも必要だと思っています」
「で、殿下〜」

のぼせた表情でサウラが小躍りする。
しまいには抱きついてキスをねだった。
普通の感性なら微妙に貶されている気もするところだが。

「あ、あの。政務が控えてますから、ね」
「はう〜、残念です。けど予定通り明日、お待ちしてますわ殿下」
「うん。その……すごく楽しみにしてるから」

小声で囁くのを聞いて、サウラは仕方なしに離れる。
セドルにしてみれば、何故今日ではないのか疑問だった。
自分の技量にも自信を持てるようになり、そろそろ一日二日置きだって良いくらいだった。
ペースとして、まあこれはこれで悪い気はしないので充分我慢はできるのだが。

********************

翌日、セドルは書類にサインを終えて、控えている者に手渡す。

「よし、午前は終わった!!」

午前最後の業務を終え書記官が去っていくと、突然大声をあげた。
自分の所為もあるが、先回の綱紀粛正兼大処分によって、
一時的に空いたポストの一部を代任することとなり、大変に忙しかった。
明日は休日だが、それよりも何よりも、今日はサウラと触れ合える日であった。
それはどれほど待ち遠しいか、そろそろ二十歳を迎える男性には一日千秋と言っても過言ではない。
机の上の書類もそのままに、早足に昼食へと向かった。

サウラを手中にした当初、少々怖気ついた所為かもあり、
こちらから奉仕を要求するのは気がひけていた。
そのまま自然と、たまにサウラから指定のある日のみ許されるという、
地位から見れば明らかに逆転した関係が成り立っていたのだった。

王族高官専用の食堂に入ると、先にアズメイラが座っていた。
向こうが手招きをしたので、セドルは対面席に着く。
すると書類を手渡された。

「午後からの案件だ。頭に入れておけ」
「……ああなるほど」

概要は炭鉱採掘労働者への待遇改善の要望だった。
熔炉に必須なため、基幹産業の更に基盤となるデリケートな問題だった。
こういった陳述を聞くのは、国の慈悲の象徴たる王妃の役目であるが、
単純に女性の方が話しやすい意味もある。
それを官僚と話し合い、王ともども裁可を仰ぐわけだ。

書類の中身は担当者から出された去年の消費量と生産量。
人員と一日の産出を割り出し、どの程度休暇との兼ね合いが成り立つか計算してある。
生産が追いつかなければ、ほぼ全ての高炉がストップする。
そうなると、パザンの言葉を借りれば飢えと寒さが待っている。
どうしても余裕を持って見積もりたいのが本音だった。
読み進めながら、貯蓄量と熔鉱炉担当からも技術改善等々、
別方面からのアプローチが出来ないか考えた。

「はい、殿下。お召し上がりください」
「ん……置いてください」

書類にかかりきりのセドルは、そのまま読み続ける。
だが頭上から伸びてきた手によって、書類を奪い取られてしまった。

「えっ」
「殿下、熱いうちにどうぞ。
それにお昼くらいゆっくりなさらないとダメですわ」

振り向くとサウラがメイド姿で給仕していた。
実用性重視のシンプルなものだが、似合わないことこの上ない。
肌の露出がない格好など見慣れた身には奇妙極まりなく、
不健全な塊が健全な格好をする胡散臭さが凄まじい。
セドルはぽかんと呆気に取られたまま固まっていた。
もしかしたら昨日の神官との問答を気にして、彼女なりに真面目な格好をしてみたのだろうか。

「ふふ、似合いますか?」
「えっ、に、あうよ」

いけないと思っても、言いよどんでしまった。
サウラの顔がはっきりと引きつる。
もしかしたら受け狙いかと思ったが、やはり違っていたらしい。
微妙に気まずい空気が両者の間に流れた。

「……ごゆっくり」
「う、うん」

サウラはきびきびとした動作で厨房へと戻っていった。

「はあ〜」
「サウラとは上手くいってないのか。
まあ出立の時期が近く色々あるのはわかるが、しっかりしてくれよ」
「わかってますよ」
「私からも言っておくよ。
ふふ、今日は遅れても構わんぞ。
だいたい結論が出ないのはわかりきっているからな」

なにやら意味深な事を言ってアズメイラは出て行った。
残されたのはセドル一人だけで、とりあえずは食事に取り掛かることにした。
パンにチーズ、野菜と肉のスープ、ヨーグルトと腹に詰め込んでいく。
食生活に関しては、庶民とそれ程変わらない。
食べ終わったあたりにサウラが見はかって食器を下げた。

「殿下、デザートはどうかしら」
「お願いします」

今度は自然に言えたことに安堵する。
気にしすぎかもしれないが、下世話な話、今日は出来る日なのだ。
自分が王太子という身分も忘れて、ただ彼女の機嫌を損ねたくない一心であった。

突然顔を両手で固定され、サウラの顔が近づく。
親指が口角を押さえ、強引に舌を引き出すように啄ばまれた。

「ん、ん〜〜!!」
「んちゅ、じゅるる……あぁん、はあはあ」
「ぅうん……サ、サウラ? んん!」

サウラは戸惑うセドルを無視してもう一度口付けをした。
貪るように唾液を絡めとり、歯茎を舐め回す。
二人の間から零れ落ちたものが服を濡らした。

「デ、デザートってもしかして」
「ご名答です! たっぷり召し上がってください」
「いや……それちょっと違う」

止める間もなく股の間にもぐりこみ、取り出した男根に舌を這わせた。
熱い吐息が股間をくすぐる。
たかだか一週間ぶりくらいだが、その気持ちよさは折り紙つき。
亀頭から唇で丹念にしごかれ、付け根の袋を揉まれるたびに天を仰ぐ。
食べてるのは間違いなくサウラの方だった。

「ずっ…ん、ちゅる、んっぅん」
「ダ、ダメだよ。誰か来たらまずい」

だがサウラが止めるはずもなく、さらには何人か食堂へと入ってきた。
セドルはとっさにクロスを引っ張り寄せ、椅子を前に出して下半身を隠す。
目にも留まらぬ早技だった。

「これはセドルさま。昨日の議案はまとまりましたか」
「ど、どうも……。昨日の件は……明日もう一度叩き台を練るそうです」

王子に一礼して食卓に付くものだから、無理矢理普段どおりの表情をして返事をした。
音や匂いまでは誤魔化せないが、離れた席に座ってくれたのが幸いだった。
何気なしに書類を眺めつつ食後のお茶を味わう振りをする。
下で隠れながら、サウラは舐め、しゃぶりながら下半身の様子だけでうかがえる興奮の度合いを高めていく。
特に陰嚢を念入りに舐め、この中で濃厚なミルクを製造していると思うと愛しくほお擦りまでした。
このまま貫かれ、膣奥まで抉って何発も子宮を射抜いて欲しい。

「うぅ……ん。サウラ?」

そう思うと口での愛撫を緩やかにしていく。
セドルにとっては拷問以外の何ものでもない、生殺し状態だった。
もどかしさのあまり、腰を浮かしそうになる。

「はあっ、はあっ。これはこれで、ツライ」
「殿下、どうされましたか」

近くに来ていた別のメイドに気付かず、荒い息をしていた。
見ればリリアベス、王妃付きの女性衛士もまた微妙に似合わないメイド姿だった。
(ああつまり、これってアズメイラ王妃のはからい……)
符丁がぴったりと合い、朦朧とする頭の中でそう考えた。

「い、いや、なんでもないから」
「そうですか? お茶のお代わりでも」
「うん。いただくよ。そういえば君ってサウラとも仲良かったかな」
「いえ、お目にかかったことはあるだけですわ。
代わりにと言ってはなんですが、シーフゥさまとは仲良くさせてもらってます」

この意味の無い会話が憎らしい。
ただ時間だけが早く過ぎるよう願った。
食器の音が遠く響く中、ひたすら耐える。
ようやく皆が出払い、誰もいなくなったところでサウラは表に出る。

「ふふ、殿下〜」
「そ、その、もう行かないと遅れるから」
「殿下も私も、きっとそれほど時間はかかりませんわ。
それにこのままにして、午後から集中できまして?」

さすがに難しいのか、セドルは俯いたまま動かない。
肯定の意と受けとめたサウラは淫らな笑みを浮かべた。

「ささ、メインディッシュです」

デザートではなかったのかと、愚にもつかないことが頭によぎった。
サウラの表情を見るまでもなく、完全に出来上がっている状態で、
自らスカートの裾を上げた。
そこはすでに内腿に垂れるほど蜜に濡れていた。

「もしかして、自分で準備していた?」
「うふふ、違いますわ。
殿下のものをお口で味わっているうちにこうなりましたの。
強引に入れられて、何回も中出しするのを想像すると濡れて来るんです」

実際そうなるだろうと思うと、セドルは赤面した。
だがひとつだけ違う点がある。

「強引になんてしないよ」
「あら、そうですか。
うふふ、もし私がこの場でお断りしたら、どうなさるおつもりで」

サウラは悪魔の笑みで、嬉々としながら話した。
ここでレイプされるのも一興だった。
むしろ望むところ。

「我慢するさ。だって私は……サウラをけがした奴らとは違う」
「で、殿下……。そんな殺し文句、サウラは幸せいっぱいですぅ〜」

思いがけない台詞にサウラは舞い上がり、
全身からハートマークが出そうなほどの勢いだった。
胸からアソコまできゅんきゅんと切なく、一刻も早く慰めて欲しい。
給仕の邪魔にならないよう結っていた髪を解き、風に舞うように首を振るった。
はっとするほど華麗で美しい仕草だ。

「はあぁ、これではサウラの方が我慢できません。
殿下の美味しそうなコ・レ・いただきます」
「ちょっ、ま、待って。本当に遅れるから」

器用のスカートの端を口にくわえ、手で怒張を押えて秘唇に導いた。
少しずつ飲み込まれていく淫らな光景が終わると、次は波状する快楽の営みが始まる。
向かい合いながら、サウラが腰を上げては下ろし、
隘路に男性器を納めながら愛液で潤していく。

「はうぅ、ごめんなさい。サウラが……サウラが無理矢理殿下を犯してますぅ……。
それなのに、ん、はあはあ……いつもより大きくなってませんか」
「あっっ、くあぁ!」

すでに焦らされ続けただけに、怒張は今にも爆発しそうなほど硬く大きくなっていた。
その瞬間を想像しながら、膣の奥まで感じるままにサウラは自由奔放に動く。
亀頭が膣に擦れて伸ばされ、収縮しては締め付ける繰り返し。
ひとつひとつを余すところなく感じて、性行為を執行した。

「はあぁっ! くぅ、本当にもうダメだから。で、出るよ」
「あっ、うんん……イいですわぁ、サウラの中に……いつでも来てください。
ずうっと我慢して溜めてきた、濃厚な子種を感じさせて欲しいですわ」

もう我慢ならず、セドルも腰を突き上げる。
この芸術品ともよべそうな身体を独占し、深奥まで蹂躙する牡の優越感が我を忘れさせた。
だがサウラも負けじと腰を捻ったり、奥まで咥え込んで尻を振る。
肉襞が引っ張られるほどに、ぴったりと吸い付いたままするものだから堪らない。
快楽に結合部が蕩けて境目が曖昧になるほど混じりあう。
激しくなる責め、自重をかけて剛直に貫かれる悦びに仰け反った。

「ああぁん! 深いわ、深ぁいところまで届いてるん!」
「ふうっ、ん……気持ちいいよ。すごくイイ!」
「くっ、くださぁい。あァん、イッパイに、あぅ……広がるほど白いので染めて!
溶けそうなほど中に熱いのください」

両手で尻を押さえ、猛然と怒張を送り込んだ。
服で隠されてる分、淫らに蠢く肉の感触が鮮明だった。
淫肉に翻弄されながらも、忠実に男としての役割を果たす。
子宮口まで穿つ剛直に、今度はサウラが我を忘れる。

「あぁああ、出すよ!
はあはあ、テーブル下でいじられた分まで、お返しするから!!」
「アん! このままサウラに濃厚な子種を恵んでくださいませ!」

セドルは尻を掴む手を強めた。
先走りと愛液に濡れた肉壷に、一際粘る白濁の子種汁が飛んだ。
子宮を総なめするような、延々と続く生殖の印を付ける。
サウラも閨中に注がれる熱い精液に嬉々としながらも、このままで終わらせるつもりはなかった。
腰を捻っては下ろし、淫唇で射精し続ける男根をしごきあげる。
慈悲も休息も与えぬサウラの責めに、睾丸から吸い取られる快感が背筋を駆け抜けた。

「んあ、はあっ、中で飛び跳ねてますぅ……。
まだぁ……まだオチンチンの先からびゅくびゅくいって暴れてますわ」
「はあはあ、ごめん。ちょっとこのままで……」
「ちゅ……ん、にゅちゅぅ」

上に乗ったまま、口付けをした。
肉槍は突き刺さったまま、輸精管から送られる精子を子壺へと注ぐ。
付け根から伝わる、痛いような心地良さが放出する快感に代わる瞬間。
これを女芯に包まれながら行うということが幸せだった。
セドルは自分でもどれだけ出すのか、段々と恥ずかしくなってきた。
ようやく終わると、意外にもサウラは素直に解放してくれた。

「ご、ごめん。また後でね」
「ふふ、あやまらなくてもよろしいですわ。
サウラには、殿下が苦労されていることをよく理解しています」

これまた意外な台詞だったが、
うわべだけではない確かな重みが口調に含まれていた。

********************

セドルは歩いて会議場に向かう。
もう今更走っても意味は無い。
扉の前に来るといささか緊張したが、ためらわずノックをした。

「もし、遅れてすみません」

反応が返ってこない。
不審に思いつつ扉を開けると、まだ王妃と数人の官僚だけだった。

「まだ大丈夫ですが」
「えっ? はあ……」

どうもしっくりとこない返事だった。
時間帯を間違えたかと時計を見ると、違和感の原因がわかった。

「あれ? あの時計、おかしくないですか」
「いえ、なにがですか」
「遅れているように思えますが」
「うん? 特に問題ないようですが……」

皆も同じ意見らしく、釈然としないながらも席に付く。

「どうした、早かったな。ふふ、それでサウラは満足していたか。
もっとゆっくりしても構わないと言ったであろうに。
念を押しておくが、この言葉に他意はないぞ」
「だ、大丈夫です……。まだ今日はありますし……」

アズメイラが周りに聞こえぬよう小声で伝えたが、
更に小声で呟くセドルだった。

********************

その晩は、一足早く夏が来たような熱さが一室に広がる。
情事などと呼ぶには生ぬるい、
健康的な美女と若者が絡み合う、壮絶な営みが絶え間なく続いていた。

先ほどサウラに口内射精を終えた男根を、サウラが口で奉仕する。
幾度となく絶頂にいかされた一物を愛しげにほお張り、
再び立ち上がらせんと満遍なく舌でなぶる。
若々しいさに溢れた男根には活力が漲っていた。

「んん、じゅ、ちゅるる……んく」
「ああぁ……もう、大丈夫だから」
「んはあ、あらすごいですわ。
ふふ、本当はお妃をもらい、子作りに励むものですのに。
でもよろしいですわ。サウラでたっぷりと予行練習を……」

セドルはしゃがんで目線を合わせ、抱きしめてながら唇をなぶる。
自分の後処理をしたのも構わず舌を絡ませた。

「んはぁ、れ、ちゅるぅ。はあぁ」
「練習とはちがうさ。これは本番」
「はあ、はあ……それは」

答えるよりも早く、サウラを押し倒すようにして片足を担ぎ、結合した。
脈動の音が聞こえそうなほど、密着する部分が震える。

「ああん! ダメれすの……サウラは娼婦なのに殿下との愛を育んでます」
「ダメじゃない。それに育むのは愛だけかな」

最奥まで挿入したまま、その先を捻るように刺激する。

「はん! もしかしてサウラを、アあぁ!! ほ、本当に私が殿下の御子を……?」
「帰るなんて寂しいことを言わないで、ここで一緒に居て欲しい」

さすがに何を示唆しているか気付く。
百戦錬磨を誇るサウラも、うぶに頬を赤らめた。
ここまで言われて、嬉しくないはずがない。
膣内へ男根が挿入されるたび、身体と一緒に心が蕩けていきそうだった。

「ふア! 本当は……殿下のお慰めをするだけでも、
んあ、はあぁ……恐れ多いですのに、そんなのダメですわ。
……サウラは何人もの男に汚されていますの」

横臥のままサウラの背後に回ってかぶりつくように交合する。
肩に手をかけ、太腿を持ち上げながら剛直が秘所を貫いた。
下半身からの衝撃を逃すことなく一身に受ける官能の責めに、喘ぐ意外には抵抗の手はない。
セドルは髪に顔をうずめ、頬擦りする。

「そんなことはもう関係ない。サウラは綺麗だよ。
もうどれくらいこうしてきたと思ってるの。隅々まで知ってるつもりだけど」
「はっ……はあァン! そ、ソコ……弱いのに」

弱くて甘い、そんな箇所を肉棒によって丁寧に擦られると、
他愛もなく肉体は屈し蜜があふれ出す。
そうかと思ったら、今度は唸りを上げて子宮口まで突いてくる。
サウラは背後に腕をまわし、顔を寄せてキスをする。
胸肉を両手に揉まれ、休むことなく律動は続いたままの接吻は格別だった。

「んちゅ、はん! 淫乱な娼婦のサウラが……殿下の御子を孕む……。
ああん!! ら、らめぇれす。許されませんのに、身体が言うことを聞いてくれませんわ……。
で、でも本当にダメぇ! 身体を売る汚れた女ですの。はあ、はあ……。
この国だけではなく、他のところでもサウラは肉奴隷ですわ。
代わる代わる男に抱かれ、犯されて、そのくせ嫌がりもしないで喜ぶ売女……。
ひゃん! だからダメですのに」
「全然ダメな理由になってない。サウラは本当に綺麗だよ」

本当に綺麗だから他に言いようがない。
そのくせこんな子供じみた嫌々を言われても可愛いだけだ。
今まで何度励んできたか、日数はそれほどでもなくとも、
回数に直せば数えるのも馬鹿らしい。

「んああ! でもでも、ダメです。
サウラは……金さえあれば誰にでも股を開く淫売ですのよ」
「じゃあ一生分のお金を払うよ。これでサウラの身体は私のもの。
さっ、後は問題なのは心だけ……サウラはどう思ってるのかな」

否とは言わせない。そんな感情のこもった熱い怒張に、
サウラは自分から脚を抱え上げて、心底犯されることを望んだ。
優しい言葉とは裏腹な、荒れ狂う男根が柔襞を蹂躙する。
まるで性器から火薬が弾けるような快感が脳髄まで走り、
制御の利かない身体が心というたがねをはじき飛ばす。

「サ、サウラはぁ……殿下をお慕いしておりますぅぅ!!」
「それじゃあまた、中に出すよ。いいね」
「ハイ!! ください! 中に濃い子種を注いでくださいませ!」
「サウラ……サウラと私の赤ちゃんがここにね」

サウラの贅肉のない引き締まった下腹部をなでる。
熱い身体とは違う暖かい手が胎内まで浸透するようで、
より鋭敏になる女の肉体が貫く剛直をはっきりと感じた。
目はあらぬ方向へ定まり、舌を出して歓喜に叫ぶ。

「ひん! やあぁ……許されません。
けど……ああん! ココに注ぐ殿下の赤ちゃんの元を想像するだけで震えますわ」
「欲しいって言ってくれないかな。そうしたらもっと頑張れるから」
「はぅ……」

耳元で囁かれると、混濁する思考がある一点で結ばれた。
内なる声が求めろと叫ぶ。

「お願い……欲しいですぅ……。
卑しいサウラの子宮に殿下の高貴な子種が欲しいです!!
孕むの……んんア! はあはあ、殿下の御子をサウラにくださいませ!!」

頑張れるという言葉に期待する身体が口を動かす。
抗えぬ喜びの爆発が灼熱の肉欲を伴って加速し、メーターの指針を完全に振り切っていた。
もうどうにも止まらない。

「うんいいよ。絶対受精するくらい……いくよ!!」
「はうぅ! 卑怯ですの。わ、罠ですわ。
やっ! はあはあ、でもぉ……本当に欲しいです。
イいよぉ……出して、たくさん出してぇ!! で、殿下との愛の結晶をみごもりますの〜!!
オチンチン奥、おくまで入れて、ア、中出し! してして!!」

肉と肉の打ちつける音が高くなり、言葉にならない喘ぎと絶叫が響いた。
射精へと誘う性器の抵抗が不規則に強くなり、
昂ぶりが最高潮に達したとき動きを止めた。
愛欲にみなぎる怒張から熱き精液が迸る。
子宮口から押し寄せる大量の牡汁が駆け巡り、卵子への邂逅を目指す。
ぐりぐりと深奥を押されながら、反応する膣がせがむように蠕動して精を吸い上げた。

「くぅァっ!! すごいよ……サウラのアソコ、びくびくして射精が終わらない!」
「あんあアん! こ、こんな、ありえませんわ……。
何度も何度も濃いのを注いでるのが、はっきりとわかるくらいにすごいの!
はあはあぁ……、ふあ……雄々しいですわ……。
子種を植えつけようと、隅々まで行き渡ってくるようですの」

中に注がれる熱い波動を感じながら、サウラの身体が震える。
身も心もさらけ出して果てる心地よい敗北感が、
受精という更なる隷属の烙印によって焼き尽くされる。
繰り返される膣内射精に胸は高鳴り、乳首は痛いほど張り詰めていた。

「あふん! アん……はあぁん! もうダメれすの……。
このまま……サウラが孕むまで犯してください。
子種汁で子宮をどろどろの、濃いので染めて!」

豊かな乳房を揉みしだきながら腰を打ち付ける。
余韻を楽しみながら、うなじから形の良い耳まで舐めて甘噛みをした。

「おっ、オチンポ硬いまま……そんなに動かれたらまた溶けるぅ!!
はうっん! すごくてぇ……べた惚れのオマンコが感じすぎてイキますの」
「もう……どこまでも」

今度は前面にまわり、快楽に喘ぐ表情を見ながら律動する。
至福の境地に漂うサウラの美貌だけでも勃起は止まりそうもなかった。
媚粘膜によって包み込まれるような圧迫感に、
揺れ動く円錐状の豊かな乳が牡を魅了して余計に奮い立つ。
挿入のたびに量を増す愛液に、匂い立つ発情した女の体臭が混ざり壮絶なまでに部屋内を淫らに染める。
肌に触れればどこもかしこも瑞々しく柔らかく張りがあり、性交の躍動感が全身に満ちていた。
最奥に何度も亀頭を叩きつけながら、いよいよストロークをさらに長く、早くしていく。
股間の奥で凝縮された生の源が沸きあがるのを感じながら、それを押し進める準備を着々と重ねていった。

サウラは硬く膨張する膣内の肉剛直に陶酔したまま、無意識に本能が快楽と牡器官を貪り喰らう。
膣襞がねっとりと蜜を絡ませて収縮し、牡の種付けの一助と共に性感を分かち合う悦び。
猶予のない切迫感が下腹部に渦巻きながらも、
子宮口との官能の接吻が先走り汁を滴らせながら余すところなく応えた。
フィナーレを飾る生殖へのデモンストレーションを繰り返しながら、
こうしている間もサウラはすでに幾度となく達し、卑猥な音をたて双方の体液がシーツを濡らしていく。

「イ、いいです! 奥までいっぱい感じて……イクの止まらないの!! 
殿下ので、はぁあん! サウラのオマンコぐちゅぐちゅでイきっぱなしですぅ!!」
「はあ、はあっ! もうすぐだからね」
「んん!! はい、嬉しいです……。
絶対に受精するくらいに注いでください、でんかの御子を宿しますのぉ!!
あア、想像だけでまたぁ!! はあはあ、くうんっステキ、ステキですわ!!
いいのぉ、中に出して……ぶちまけて、孕ませてください!!」
「ぐぅぅっ……はあああぁぁあああ!!」

ひと突きごとに濃縮され、白濁とした精液が子宮口を乱打する。
脈打つたびに感じる射精圧に、受精を待つように下がった子壷が悦びにわななく。
肉の割れ目をこじ開けられ、身体の芯を高密度の粘液が何度も貫き、
襲いかかる甘美な交配の時に容易く絶頂に果てた。

「ひゃアアん!! 殿下、殿下ァァ!! 愛情たっぷり精液が……た、たくさん。
一番奥までっ、今届いてる!
妊娠したがってるところに直接子種を浴びてますぅぅ!!
ら、らめェなの、イってる子宮に種付け!
熱いのが……はあン、溢れちゃうくらいたくさん……しあわせですわぁ……」

最奥まで穿ち、鈴口を押し付けゼロ距離からの精の射出。
嬌声を上げるサウラに対して、容赦なく胎内へと押し寄せるザーメン。
妊娠への頂を目指す至高の癒しに、疼く肉体は新たな段階へと昇る。
そこには肌の色も関係なしに、境目なく交じり合い、喜びを謳歌する二人だった。

精根尽き果てたセドルは、しばらく抱き合ったままサウラの頭をなでる。

「明日もいいかな。本当のことを言えば……毎日でもしたいよ」
「……それはアズメイラ王妃の思うつぼですわ」

セドルは意味がわからないらしく、怪訝な顔をする。

「まだ未婚の殿下が異国の娼婦にかまけるのは、やはり皆良くは思いません。
国民の信用を失ない、王妃に子が授かれば、世論が傾く可能性が少ないながらもあります。
私という存在を奪ったことで、陛下の信を損ねてしまい現実味が増してきました。
ティーサさまがご存命である内はまだしも、この先は予断を許さぬ状況になりましょう」

両者によって暖められた部屋の気温とは対照的に、背筋が冷えるような感触を味わった。
王妃にかけられた遅れても構わない、ゆっくりしていけという言葉が頭の中で反響する。
他意はないとは、どういう意味で言ったのか。
以前なら他意があったとでも、
サウラが去る時が近いからもう好きにすればいいということだったのか。
あの笑顔の裏はそんな策動が含まれていたのかと思うとぞっとした。
同時にシーフゥ、パザンに言われたサウラ像の不思議な輪郭がはっきりした瞬間だった。
侮ってはいけないこと、狡猾、油断ならないこと、
大胆な行動や言動も、現状を把握した分析の上で成り立ってるとすれば恐ろしいかぎり。

「サウラは……もしかして私の立場を気遣ってくれたのか?」
「殿下の働きかけに、サウラは本当に感謝してますわ」

微妙に真意をはぐらかす答えだったが、
セドルはこれ以上問い詰める気分にはなれなかった。

「そんな。当然のことをしてるだけだよ」
「……殿下は当然でも、皆が当然とは限りません。
ふふ、次にお礼として、少々変わった趣向をご用意いたしますわ。
楽しみにしていてください」
「う、うん」

そう応えるのが精一杯だった。
やもすれば、身の破滅も、今こうして何事もなく睦み合えるのも、
全ては彼女の掌の内にあったということだろうか。
パザンが言っていたとおり、確かにサウラの怖さを知ったセドルだった。

********************

今のサウラの格好は、昔懐かしい砂漠を渡り行商した頃に着ていた物だ。
勿論本物は海の底にあるので、今の衣装は特注で作らせた。
両手両足に細い金属の輪を幾重にも付けて、動くたびにシャラシャラと音が鳴った。

「これはまた懐かしい格好だな」
「明日から出発する準備しなきゃならないだろうし、今日が最後だろうからね。
これくらいはサービスサービス」

本当にサウラの言うとおりであった。
帰る船は用意してくれて気前良く寄贈、黄金はサウラの給金にプラスお土産付き。
ここまでしてくれると、返って申し訳ない気分になる。
サウラは当然だという顔をしていたが。

今だに純なシーフゥは、サウラの格好を見ただけで赤面した。
踊り子姿だが、その目的は言わずもかなであった。
下半身は腰から前後に布が垂れているだけでむっちりとした尻肉もはみだし、
胸元を見れば細い鎖の間から楽々と谷間がのぞけ、
縛り付けるものはなくただ腕を通して肩掛けのように纏う代物だ。
淫猥な肢体から視線を振り払い、
手元に持っている笛に集中して、練習した旋律をイメージして精神統一した。


セドルは招かれたサウラの格好を見て複雑な気分になる。
明らかに特別を装ってるだけに、別れの一幕を連想した。
本当は留まって欲しかったのだが、最後まで彼らは一同にそれを辞していた。

「今宵もご機嫌麗しく。最後に我らから……」

パザンが代表し一礼して弦を鳴らす。
グーリーは大小の手鼓でリズムをとり、シーフゥが笛を奏でる。
異国風のメロディが流れる中、誂えた高台の上でサウラは踊った。

暖炉の火と月明かりが差す中、幻想的でどこか原始的な光景だった。
リズムに手足をくねらせ、全身を使い躍動させる。
優雅さよりも野性的に、芸術よりも娯楽を目的としているが、
目を奪われるのはどちらも同じ。
太鼓に合わせてシャラシャラとした金属音がサウラの手足から鳴る。
爪先立ちに旋回すると、浮き上がる布地の下に思わず注視してしまった。
明かりが少なく、よく見えないところがいやに扇情的だった。

セドルは手拍子をしながら
この踊りだけは皆で楽しむべきだったかもしれないと少し後悔した。
それも野外で焚き火を囲み、これは今の季節では不可能だが、
もしくは町の酒場で野卑た歓声と共に。
肉感的でエロチックな性の躍動を観賞するには猥雑な熱気に包まれた雰囲気こそ相応しいが、
いかんせん宮殿内では個室内で鑑賞するのがせいぜいで、それがどうも寂しかった。

リズムが早くなり、踊りも激しくなっていく。
いつの間にか胸元の鎖が外れたのか、
舞うたびに上向きの美乳も上下に顔を覗かせて観衆に誘いかけた。
以前なら恥ずかしさのあまり目を背けたかもしれない。
だがそれは返って失礼なものと今なら思う。
いやらしさ、淫らさをしっかりと受け止め、
こういう世界があることを知るのもひとつの成長なのだろう。
いささか大げさだがそう考えた。

世界という言葉に思いをはせ、
彼らを留めるなど愚の骨頂だったのかもしれないと感じた。
この宮殿は勿論のこと、国自体が鳥かごのようなものだ。
そこに魅力を見出しても、虚しいだけなのだと思った。
太陽とは内に秘める情熱ではなく、外から照らすのが彼らにとって当然なのだ。
太陽の下でこそ、彼女を見るべきなのだろう。
結論が出たあたりに丁度音楽も終わり、
踊りを終えたサウラは格好に似合わず神妙に頭を下げた。

「今まで本当にありがとうございました。ここでお別れですわ」
「えっ!? 見送りくらいするよ」
「それはいけません。私と殿下、これは民の前で馴れ馴れしく見せる訳にはいきません。
出立の際、私は事前に船に乗って顔を出すことはありませんから、ここでお別れになります」
「で、でも! ん……」

王子は立ち上がって抗議しようとしたが、中断を余儀なくされた。

「はむ……ん、ん……ちゅ。
ふふ、私と殿下、住む世界が違います。
あなたは将来を担う王子、私は永遠に放浪する娼婦です。
普通の人にとってはひと時の薬になることが出来ても、あなたにとっては毒にもなります」

いつの間にか高台から降りたサウラがキスをする。
真直ぐと射抜くような瞳に、セドルは何も言えず直立するだけだった。

「私は蔑まれるべき者。疎まれるべき存在。
けれど……とても嬉しかったです、あなたが私を悪魔だと思わない、
そして迫害することを言語道断とまで、そう言ってくれたことが。
信じてもらえませんでしょうが、
……私の半身は……真実忌み嫌われる悪魔……それも死神のような強大なもの。
だけどもう片方は慈悲深い、それは女神とも呼ばれるものなのです。
ですがこの神の奇跡を呼びながら、冥府とも契約できること、
それは聖邪双方から迫害されるには充分な理由でした。
そういった境遇の所為かもしれませんが、私は次第に人に憧れました。
世の中には善い人もいれば悪い人もいて、一緒に暮らしている。
そして一人の人の中にも、善悪双方があること、
普段気付かないことでしょうが、これはとても素晴らしいことなのです。
勿論負の面も大いにあります。
地位や名誉、金、女を求めるあまり人を傷つけ、
安全を確保し安息に浸り、安寧へと進む中、安楽の果てに堕落し、腐敗する……。
ですが飽くなき探求、果てのない研鑽、未知への開拓、
人は欲求を動力として突き進みます。
欲求には善悪を内包しており、超越した先にあればこそ実現するもの。
人にしか持てない、強い強い欲望があればこそなせる業。
そう、私には悪の面があればこそ、人はここまで繁栄をできたのだと思います。
私自身がお互いの半身を憎み、引き裂かれそうな中、
人の世に交わり、偉人や傑物、英雄、悪漢と言われる人物を見て、いつしかようやく一つ悟りました。
陰と陽、これを律すること、それはどちらも飲み込む器を作ることです。
双方を戦わせるのでもなく、天秤にかけるのでもなく、一方が押さえつけるのでもなく、
自然に泳がせ、内なる声に耳を傾け、全てを受け入れること。
稀代の人物は皆、大器を持ち、自身は無論のこと他人の欲望すらも飲み込んでいるように思えました。
神は愛を授けることはできても、欲望はまた別の話。
悪魔は自身の欲のみを追求し、他人まで省みません。
これは人のみが可能な、偉大な心です。
このことを悟った時、私は進んで人の身に……と望みました。
しかし私は力が強すぎました。
だがそれでも人の身へと、『強い欲望』を持ったとき、一つの壁は突破されました。
やがて少しずつ、少しずつ、気の遠くなるような時間、転生と封印を繰り返してきました。
本当に運命とは皮肉なもの、まさかここで封印が解けそうになるとは思いませんでしたよ。
閉鎖的な土地柄が幸いしたのでしょう、
古来王族は神の血を引いてるからこそと、と言われております。
その血脈の所為でしょう。懐かしい感触、交わるたびに封印が軋むようでしたわ。
それに閨の中ではなかなか激しい……ふふ。いつ弾け飛ぶのかと冷や汗をかくほど」

懐かしむような含み笑いを漏らした後、次第に愁眉になるサウラは普段とは違う美が備わっていた。
憂いの含んだ陰のある魅力も、惜しむらくは今のセドルには意識に止めることが出来なかった。
身体の奥底から引き摺り下ろされるような、深い眠気が全身を襲っていた。
膝が崩れ落ちるのをサウラが抱きかかえ、椅子へと座らせる。

「……残念ですがここでお別れです。
私を手に入れるとき、あなたは悪の面を持って行動したと思います。
ですがそれは弱さだけではありません。
心してください、それは強くなったとも言えるのを。
覚えていてください、あなたが人を統べる際には、その汚れた強さも必要になるはずです。
すみません、前振りが長かったですね。
それでは私からのささやかな最初で……最後のプレゼントです」

サウラは自分の胸元に両手をあて、それをゆっくりと前に差し出す。
包みを解くように両手を広げ、そこに出現した光の粒子を頭上高く掲げ散開させた。
さながら月の欠片を舞い散らせたような淡い光が、徐々に強烈な太陽の日差しへと変わっていく。

シーフゥはひどく非現実的な光景を目の当たりにして、
先の独白はけして嘘ではなかったのかと理解していく。

パザンも実際にその力を見るのは初めてだった。
十年近くを共に行動し幾多の危険を乗り越えてきたときにも、
いくつか不可思議なできごとはあった。
しかしそれは身体的なこと、
例えば病気にならない、寒さ暑さはどうとでもなる、毒はうけつけない、
そういったことで、今回のような超常的なことではなかった。

********************

サウラと最初に会ったのは、まだ10にならないかの浮浪児だった。
孤児院を渡り歩き、ふらふらと当てのない旅をしていたらしい。
薄汚れた顔にも光る美貌、意外な知性を見出したとき、孤児院と交渉して引き取る事にした。
金をちらつかせると進んで差し出してきた。
曰く、まるでどこからの御使いみたいで。子供なのに大人みたいで気味が悪い。
始めは合点いかなかったが、顔を拭き身なりをきれいにして見れば、
すぐに言わんとするところがわかった。
後で聞いた話だが、サウラはわざと身なりを汚くしていたらしい。

パザンは当初の予定通り、そのまま知り合いの娼館へとサウラを売り払うことにした。
向こうはなかなかの高値をつけ、将来性の高さに喜んでいた。
そして後々、サウラも喜んでいく。人の世と交わるに、これほど最適なところはない。
今のサウラの性格の大部分は、ここで育まれていくことになる。
その後、順調に成長し客を取るようになると、
その輝く美貌と才気から一躍人気の娼婦となっていった。
18の頃、それは暗転する。
サウラが子供の頃から目をかけ可愛がってくれた先輩が、酔った客からしたたかに暴行を受けた
そこまでならまだ、客がたたき出されてお終いなのだが、その客がお忍びできたさる高貴な人物だった。
逆恨みをしたその男は手勢を連れて娼館から何人かの女をまとめて浚い、酷い残虐な仕打ちを行ったらしい。

********************

光の粒子が拡散して部屋を満たすと、一気に暗転した。
今度は一面闇に包まれる。
すでにセドルは意識を手放していた。
その中で、まだ子供の頃の夢を見る。
まだ多少なりとも元気で、明るい母の姿。

別の部屋でティーサは意識を取り戻した。
まぶたの下で緑が広がる。
そこで一人の人物が座っていた。
見たことのない褐色の肌に黒い髪、
一目して、前に会話した死神さんだと気付いた。
その不吉さとは無縁な美しく柔和な笑顔を向け、お隣はいかがと招く。
ティーサは慣れ親しんだ友人のように、そっと隣へ座った。
春の日差し、少し強いが暖かい風、それらは生命の息吹を感じさせる。
失ったはずの視覚が備わってる自分にも違和感はなかった。

*********************

仕打ちを行った『らしい』、とは実際に行った当事者があの世へと去り、
被害者もその傷は跡形もなく完治していたからだ。
だがサウラは違った。
全身血にまみれ、けれど傷一つない姿を晒し、現場に立っていた。
館主が有力者と一緒に談判に行ったとき全ては終わり、
呆然と立つサウラと、周りで怯える女たちを発見した。
そして隣室では文字通り肉塊と化した人間が数人分あった。
物理的に不可能であっても、だれが行ったか瞭然たる事実。
皮肉にもそれを裏付けたのは、完治した自分たちの外傷であった。
証言によれば、事切れていた人すら息を吹き返したらしい。

畏敬とあからさまな謙譲、だが奥に潜む恐怖の眼差し、
特に良くしてくれた先輩からそういう特別扱いをされたのは悲しかった。
いたたまれなくなったサウラは館を出ることにし、そしてパザンが引き取ることになった。
引き取る際に館主から話は聞いていたが、そのときは半信半疑どころか一信九疑。
一緒に商いと旅を繰り返す中、サウラは娼婦として培った能力を発揮し
秘密を引き出す話術、便利な諜報、
進んで親善の手向けに自らを差し出し、有利な条件を引き出したこともあった。
特に貴重な情報に対する嗅覚はパザンすら及ばない。
やがて普通の人間ではありえない事実がいくつか出てくるとき、
次第に館主の言葉を信じていくようになる。
猛毒を持つヘビに咬まれ、現地のガイドが慌てる中、
平然とヘビを引き裂くサウラの姿を見れば信じざるを得ない。
だが今に至るまで、ここまであからさまに超常的な力の発露はなかった。
独白から察するに、迫害、差別を恐れてるためか。

********************

座ったまま遠く雪を冠した山脈を眺める。
この冬を越せたのは、ひとえに春を迎えればひょっとして、
などと欲があったからなのかもしれない。
ティーサは自分でも可笑しくなる。
いまさら何を望むのかと。

「良いお顔をなさってますよ」
「私が? そう見えますか」
「そうです。楽しそう」
「確かに、仰るとおりです」

ティーサは静かに頷いた。
春の息吹を全身で感じることなど、もう出来ないと思っていた。
たとえこれが夢幻の中だとしても、感謝せざるを得ない。

「さ、春になりました。あなたの心の中に花は咲きましたか?」
「いえ、とても」
「それはどうして?」
「初めてお目にかかったとき、仰ったと思いますが、
生き延びることが出来たとしても、息子の成長した姿が見れないのは……」
「ふふ、息子さんはとても立派になられました。
将来国を背負う才覚、気概、人情、どれをとっても不足はないでしょう。
う〜ん、でも女性を見る目は、今ひとつのような気もしますが」
「あら。それはいけませんねえ。私がしっかりしなければ」

二人は笑う。
自嘲の意もあったが、明るい笑い声だった。

「………私はもういいのですよ。最後にこの景色を見れただけでも充分です。
もしあなたが本当に死神なら、私を連れて行ってください。
そのほうがセドルも吹っ切れてくれることでしょう」
「あなたの真の望みがそうであれば、私は一も二もなくかなえます。
ですが本当は違う、そうですよね」
「…………」
「ふふ、この国の方は耐えることに関しては本当にお強い。
それは高貴な魂ゆえか、それともこの厳しい自然のためか。
ですが、あなたがすぐにでも棺に入ることを良しとされるなら、
この場で何を言っても許されましょう」

ティーサの形が少しずつ薄れて、その境目が失われていく。
問いかける側は、時間があまり残されていないことに気付いた。
だが優しい笑みは絶やさない。
楽観こそ美徳とみなす気風の持ち主。

「……私は数多の人を見て、知り合い、時には触れ合いました。
人の欲とは面白いものです。
焦がれるあまり、私にすら願う者もおりました。
そしてまだ日が浅い頃、気まぐれでその者の願いをかなえたことがありました。
するとその者はまた別の願いを言うのです。
それも次第にエスカレートする、
善良で世の中を思った願いも、他者を貶め自己の利益を追求した願いもです。
最後にはどうなると思いますか?
まあ大抵全能の神にならんと願います。
なぜ? それは身の丈に合わぬ……器に入りきらぬと気付くからです。
でももう遅い、その先に待っているのは反動です。
大きな津波のようなものから、雨のしずくが大石を穿つがごとく静かなものまで。
時の洗礼は、意外にも平等ではありませんが、結末は同じです」

差し伸べられる手をみると、光に溢れていた。
それが大地に零れ落ちると、芝生が波紋を描くように活力を増していく。
波は遠く遠く、遥か山脈を越えていく。

「本来ならば人は賢い、過ぎたる欲望は身を滅ぼすことを学んでいる。
器に入りきらぬものをおさめようとすると、
ひび割れて中身が流れ出し、全てを失くすように。
自分の手を汚さず、歩みを忘れた底の浅い人間が偶然手中にした末路とは、
そのようにかくも儚いものです。
――さあ、今一度伺います。
あなたのその望みは唯一にしてこれ以上ないもの、そうではありませんか。
自分の願いがどのような類のものか、よく理解されているはず。
ならば私が悪魔だとしても恐れることもありません。
神だとしても恥じ入ることはありませんのですよ」

ティーサはひどく険しい顔をした。なんて甘美な誘惑だろうか。
だがその浅ましさが他の身に及ぶのはどうしても避けなければならなかった。

「……いいえ。もしあなたが悪魔なら、対価が必要なはず。
黙っていますが、本当は何か取っていくのではありませんか。
セドルの命……など」
「えっ?」

引き裂かれそうな心の中、ティーサは絞るような声を出した。
理性では何と言おうが、
感情が生きながらえセドルの成長が見れるなら他の全てを差し出しても構わないと叫ぶ。
これが狂気の淵にいる人間の考えることだと、心の中でもわかっていた。
わかっていたが、狂おしい欲望がそれを止めることは出来なかった。
しかし口に出した瞬間、後悔が襲った。
もしここで息子の命に関わらないら、どんな代償だって払うとわかっていたから。

「ああなるほど。寓話でそういった話はありますね。
ふ、ふふ……ぷっ、あはは、はははは、
確かに少しばかり寿命を縮めてしまったかしら。あははは」
「な、何が可笑しいんですか」

相手の心の内とは対照的に、軽く笑い飛ばす。一週間だろうか、一ヶ月だろうか。
もしかしたら伸ばした可能性だって大いにある。溜めておくのだって、身体によくないはず。

ティーサにしてみれば、まるで自分の浅ましさを笑われているようで、
恥ずかしさのあまり憤慨してしまった。
それは己を省みて、狂気の淵にあったはずの心が救われた瞬間でもあった。

「すみません。私もまだまだ人の世に疎い、そういうことです。
安心してください。対価など充分にもらいましたわ。
いやいやそれとも、あなたがいない方がもっとたくさんもらえそうですね」
「そ、それはいけません。私が命に代えても許しません!」

断固たる口調に微笑ましく思う。
これこそがティーサにとってもっとも前向きな生きる理由ではなかろうか。
生を諦めた者に、命に代えてもなどとは言えるはずもない。

「な・ら・ば・あなたがしっかりするしかないでしょう、悪い虫が付かないように。
はっきり言って、あなたの息子さん、女性を見る目がまーったくありませんから」

二人は目を合わせた後、笑いあう。
ティーサはひとつわかった。
この人は、セドルのことをよく知っているのだと。






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