えす&えむ
シチュエーション


秋陽高校の生徒、江洲聡史(えすさとし)と真園絵馬(まぞのえま)
は普段、旧化学準備室で昼食を取る事にしていた。
互いに向き合う形で、丸椅子に座っている。
聡史は一年生、絵馬は三年生と教室が違うし、化学部員である聡史は顧問か
らこっそりと鍵無しで準備室に侵入するコツを教えてもらっていたのだ。

「先輩。何だか三年生の方、すごかったらしいですね」

絵馬手作りの弁当に箸を運びながら、聡史は三時限目終了時の休み時間に起
こったという事件に水を向けてみた。分厚い眼鏡を掛けた、童顔小柄で学生服
の上に白衣を羽織った少年だ。
年下の彼氏の問いに、聡史と中身は同じ、ただし若干小さな弁当を食しつつ、
絵馬が頷く。黄色いリボンが目立つポニーテールにした、どちらかといえば活
動的な印象の女の子だ。実際、テニス部員である。

「うん。ウチの男子……私と同じテニス部なんだけど、彼が同級生の子二人相
手に二股掛けてたらしいの。で、それがバレて教室で修羅場になってたのよ」

「なるほど、それで。大変だったんですね」

しみじみと頷く聡史であった。まったくの他人事である。

「うん。時に聡史君」

一足先に食べ終わった絵馬が、弁当箱を閉じた。

「何ですか、先輩……このう巻きはとてもおいしいです」
「うん、それは自信作だったの。それよりも、浮気ってどう思う?いや、携
帯出さなくてもいいよ。聡史君が潔白なのは信じてるから」
「してるんですか?」

携帯電話をポケットにしまいながら、聡史は尋ねてみた。

「うわ、疑われてる」
「とりあえず言ってみました。あ、俺は嫌ですけど」

無神経な質問に普通の女の子なら怒るところだろうが、絵馬は微笑んでいる。
実際、聡史の言葉で絵馬が怒った事は皆無だ。
彼女が本気で怒るのを見たのは、他者が聡史を馬鹿にした時だけだ。相手は
持っていたラケットで半殺しにされた。聡史が止めなかったら、本当に死んで
いたかも知れない。
その絵馬が、慈しむような目を聡史に向けながら首を傾ける。

「私が他の男に抱かれるのは嫌?」
「当たり前です」
「実は、聡史君の知らない所で他の男子と会って――まあ例えばサッカー部の
エースって噂の二年の白鳥君辺りに――中出しされまくってて、彼無しではい
られない身体にされてて、精液便所になってたりとかしてたら?」
……相変わらず飛ばすなぁ、と聡史は内心、冷や汗を垂らした。
「ちょっと待ってください。もうすぐご飯食べ終わります」
「うん、待つね」

さすがに、ご飯を食べている時に、精液便所なんて単語は食が進まない。
一気に掻き込み、絵馬が差しだしてきたお茶で一服する。
窓の向こうから、グラウンドで遊ぶ生徒達の声が遠く響いていた。

「……お待たせしました。そうですね、浮気が事実ならとりあえずそこの消火
器もって二年の教室に殴り込みに行きます。まあ、そんな事はないと思いますけど」
「何故?」

先輩が、俺を愛しているからです。
などという答えは、絵馬は期待していない。
いや、これはこれで喜ぶだろうが、絵馬が欲しているのは『喜ぶ』ではなく
『悦ぶ』答えなのだ。
付き合い始めてから数週間、聡史はそれを学んでいた。そしてその回答は別
に飾る必要はない。聡史が素で答えれば、基本的に絵馬は悦ぶのである。まあ、
絵馬が聡史を愛しているというのも間違いではないのだが。

「先輩は……えーと、その、俺専用の性欲処理道具だからです。待った!お
あずけ。襲うのウェイト。ご主人様の命令です」

にじり寄り、聡史の股間に手をやる絵馬を、彼は制した。

「はぅ、ご主人様が意地悪だ」

唇を尖らせながら、絵馬は丸椅子に戻った。

「いや、ってゆーか、この話の核を聞いておかないと。先輩、何か隠してるで
しょ。はい、そこ明後日の方向見ない。人と話をする時は目を見て話す……目
をつぶらない。キスはしませんってば」
「……まだ、おあずけ?」

不満不満不満ーと、絵馬は足をぶらつかせた。大変可愛らしい、と聡史は思
うがここは我慢した。ってゆーか聡史が理性のタガを外すと、誰も止められな
いのだ。
一般の人は気付かないが、基本的に絵馬のタガはデフォで外れているのであ
る。聡史が命じれば、どんな事だってするだろう。ケツの穴を舐めろと命じれ
ば悦んで舐めるし、小便を飲めと命じれば躊躇なく飲む。

「そんな捨てられた子犬みたいな目をしても駄目です。雌犬とはいえ、人間の
言葉を話すんですから。話さないと、チ○ポもしゃぶらせません」
「や、ついさっき、宣戦布告されちゃって」
「髪の毛縦巻きロールなお嬢様辺りに?」

聡史の頭に、真っ赤な薔薇の花びらを降らせながらおほほほほ、と笑う女帝
のイメージが浮かんだ。そんな奇特な知人は存在しないが。

「テニスは関係ないわよ。そうじゃなくて、脇谷さん。前に、聡史君が振った
子」
「あー」

脇谷佐保(わきやさほ)は聡史のクラスメイトだ。いかにも学級委員長、
というタイプの女の子で、実際委員長である。つい先日告白された(聡史とし
ては、物好きな人が校内に二人もいるのが驚きだ)が、俺には付き合っている
先輩がいるので委員長と付き合う事は出来ないよ、とお断りしてしまった。

「負けませんからって」

佐保から略奪宣言を受けた絵馬は、楽しそうに微笑んだ。

「それで?」

まだちょっと、話が見えない。
んー、と絵馬はまた首を傾げる。

「……私的には、他の男に抱かれるのは真っ平御免(ただし聡史君が命じれば
話は別)だけど」
「ちょっと待って。今、何か変なのが台詞の間に挟まってなかった?」
「気のせいよ」

ふふぅ、と悪戯っ子のような笑顔を崩さない絵馬である。

「……そうですか。まあ、その状況になるのはありえないと思うからいいけど」

コップに残っていた茶を口に運びながら、聡史はボヤく。実際、絵馬が他の
男に抱かれるなぞ、我慢ならない。
……まあ、正直想像するだけなら充分勃つシチュエーションなのだが、現実
と妄想の区別はつけなきゃならないだろう。

「私的に、他の女の子を交えてのさんぴーはありかなーと」

えらい事を、絵馬が夢見るような表情で言った。
噎せた。

「ぶほぉっ!げほっ、ごほっ……」
「はい、聡史君ティッシュ。……大丈夫?」
「だ、大丈夫……さ、3P?」
「うん。あ、別に4Pでも5Pでもオッケーだよ。その中にちゃんと私が入っ
てて、種付けしてくれるならノープロブレム!NTRも悪くないけど、やっ
ぱり私は観客よりも参加者よ!」

グッとサムズアップを決める絵馬だった。

「いや、そこは親指立てる所じゃないでしょ!?」
「そうね、こっちだわ」

反省した絵馬が違う指を立てる。

「小指でもなくて!」

再び、絵馬は聡史ににじり寄ってきた。
聡史の胸に頭を預けると、上目遣いに見つめてくる。

「……しょーじきな所、どーかなー。ご主人様的に他の女の子って抱きたくな
い?私以外の可愛くて綺麗な女の子とか、どう?例えばロリぺったんとか
エッチなんて全然知らなさそうな清楚な感じの子とか」
「あ、うう……」

そのまま、絵馬は股間を撫でてくる。聡史はこれに、実に弱い。

「一言命令してくれれば、調達するよー?どうかなぁ?」

興味がないといえば嘘になる。
だが、これはどちらかといえば、単純に絵馬がやってみたい行為なのは瞭然
であった。

「……あー、つまり先輩は、他の女の体液で汚れたチ○ポをしゃぶりたいと」
「うん」

いよいよ本格的に聡史に身体を預けながら、絵馬が猫のように目を細める。

「双頭バイブで女の子を犯しながら、自分もアナルを責められたいと」
「うんうん」
「すっごい目が輝いてるし……オッケー。俺好みの子を二、三人見繕って来い。
仕込みは任せる。上手くできたら褒美に、土日フルに使って犯してやる」

命令口調に切り替えつつ、聡史は絵馬の頭を撫でた。

「はい、頑張ります!……えと、でもその前にー」

聡史の胸板に頭を押しつけ、期待するような目で絵馬が見上げてきた。

「分かった。手付けに精液飲ませてやるよ。喉の奥に直接ね。ジッパーは口で
下ろすんだぞ」
「わーい♪」

絵馬は嬉しそうに聡史の股間に屈むと、ジッパーを口に挟んで引きずり下ろしていった。






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