向日葵【第一話・屋上で青春を叫ぶ】(非エロ)
シチュエーション


我ながら、アホだと思う。

僕はその日、近所に住んでいる仲のいい小学生たちに公園でサッカーしないかと誘われた。
高校生にもなって小学生と遊ぶのは、初めのうちは少し抵抗があったけど、遊んでるうちにだんだんそれもなくなって、素直に楽しめるようになっていた。完全に童心に帰っていた。
そんな時、小学生の一人が蹴ったボールが、僕の頭上を超えて道路に飛んで行った。
ボールは道路の真ん中から少し端によったあたりまで転がり、そのまま動かなくなった。
そのボールに向かって、軽トラックが走り込んでいるのを見たとき、僕は思った。

『ボールが破裂する!!」

トラックのタイヤはしっかりとボールを捉えていて、このままだと破裂するのは目に見えていた。
小学生達はボールの予備をまだ持っていたけど、久しぶりの運動で興奮していた僕はなにを思ったのかそのまま道路へ突っ込み……軽トラックに吹っ飛ばされた。
そしてその時、その光景を見た小学生たちはこう語った。

『サイバ×マンの自爆を食らったヤ×チャみたいだった』

そして、おバカな僕は病院に入院することになった。

十六の夏だった……。

僕は驚愕した。

「今時の小学生も、ドラ×ンボール知ってるんだなぁ」
「いや、いきなりなに言ってんのよあんたは」

僕はトラックに跳ね飛ばされたあと、小学生たちが呼んだ救急車によってこの白城市立病院に運ばれ今に至るというわけだ。
そして、小学生たちは見舞いに来てくれたのだけれど、僕が跳ねられた時のことを身振り手振りで話して、ついでにお見舞いの品であるメロンやリンゴをすべて食い尽くすという残酷なことをしてから帰って行った。

……僕の夕張メロン……あとで食べようって残しておいたのに……。

そしてその際に、僕がヤムチャみたいな死に様だったよってことを話していた。
世代が違うと思ったんだけどなぁ……。

「ま、ドラゴ×ボールはやっぱり名作ってことだよね。ちょっと驚いたよ」
「そんなことどうでもいいわよ。……それにしても、ほんとに驚いたわ……」

ため息を一つ吐き、幼なじみの斎藤梨子が言った。

「やっぱり?でもさ、北×の拳は知らないって言うんだよ?中途半端だよね」
「そこじゃないわよ!そんなつまんないネタ、いつまでも続けないでよ!わたしが驚いたのは、なんでダンプカーに轢かれたのにあんたはそんな元気なのかってことよ!」

ああ、それか……って、

「ダンプカー?軽トラックじゃなかったっけ?」
「どっちにしろおかしいわよ!十メートルくらい吹っ飛んだって聞いたわよ!なのになんで全治一ヶ月程度の怪我だけなのよ!!あんたどんだけ頑丈なのよ!?」
「どんだけ〜」
「だまれ!!」

なんか、怒鳴っているうちに感情が高ぶってきたのか、声がどんどん大きくなってる気がするなあ……。

「でも、僕の記憶だとやっぱり冒頭の通り軽トラックだよ。ダンプカーだったら今頃僕は天国に逝ってるよ」
「冒頭ってなによ!?それ以前にあんたはいつも自分の記憶を改ざんしすぎなのよ!ていうか、どの口が天国に逝けるなんてほざいているのかしら!?調子乗るんじゃないわよ!あんたなんて地獄で充分よバーカ!!」

なんでこんなに怒ってるんだろう?
相変わらず不思議な生態をしている。

「まあなんにせよ、僕が轢かれたとき北×の拳のザコキャラばりの死に方をしたのは紛れもない事実なんだよね。自分で自分の頑丈さに呆れるよ」

ひでぶ!とか言いたくなるなぁ、と僕が自嘲のため息を漏らすと、リコも呆れたような疲れたようなため息を吐いた。

「また改ざんしてるわよ……はぁ……。あんたと話していると本当に疲れるわ……」

疲れているようだ。僕のせい?

「ま、それもご愛嬌ということで」
「……もういいわ」

リコはそう言うと、立ち上がって扉の方へ歩いていった。

「もう帰るの?」
「うん、結構無事そうだからそんなに長居する必要もないかなって」
「そう、じゃあまた明日」
「また明日って……来るコト前提?」
「え?来ないの?」
「いや、行くけど……」
「じゃあまた明日」
「…………また明日」

僕とリコは、小学校に入学する前からの付き合いで、家も近く家族ぐるみの付き合いでもある。

だから、お互いのコトは少なからず理解しているつもりだ。

最近は通っている高校が違うからか疎遠になってたけど、関係性は変わらず僕がボケてリコがつっこむ(ていうか叫ぶ?)といった形のままだった。

リコが釈然としないような顔で病室から出て行く。
リコの、病院だから丁寧に歩いているつもりなんだろうけどどこか雑な足音が遠ざかっていく……。

……よし。

入院してるといっても、リコが言っていたとおりたいした怪我じゃない。
一応検査の為に入院してるけど、僕の身体は頑丈だから多分異常はないだろう。

だから、むしろ元気いっぱいだ。

そして、退屈で寝ることしかやることがない病室では溜まった元気は発散できない。

となると、やることはひとつ。

「病院探索だ!」

ベッドから降り、スリッパでペタペタしながら病室を出る。
なんか、怪我をしているという実感がない。

試しに走ってみる。

「風にーなりーたいー!!」

…………。

数分後、当然の如く看護婦の方にこってりと絞られた。

やっぱり、人に迷惑をかけちゃダメだね。

でも、今の病院内を走り回っていて少しわかったことがある。

この病院のスタッフは美人が多い!

これは重要な問題だ。
なぜこんなに美人が多いのか……。

十分ほど考えてみたけど、院長がスケベ、という理由以外思いつかなかった。
結論、この病院の院長はスケベだ。

そういえば、友達の大沼くんの話によると病院の屋上は美少女とのエンカウント率が高いらしい。
どうせアニメや小説の情報だろうけど、暇だから行ってみようかな。

「というわけで、屋上に着きました」

早速あたりを捜索してみる。

「美少女はいねがー!イネがー!稲がー?イネガーイネガーイネガー!」

変な呪文を唱えながら屋上を徘徊する。
はたから見れば不審者もしくは精神障害者確定だろう。否定は出来ない。

一通り探してみたけど、美少女どころか猫一匹いなかった。あるのはベッドのシーツとかの洗濯物のみだ。

もしこのシーツが美少女が使っていたもので、洗ってないやつだったらどうしようなどと思春期の少年にありがち(?)な妄想をしてみる。

おそらく僕は当然の如く匂いを嗅ぎ、身体に巻きつけるだろう。変態だ。
ま、思春期だから仕方ない。仕方ないか?

「にしても暇だな〜」

屋上で身体に生乾きのシーツを巻きつけていると、不意にセカチューという言葉が脳裏をよぎった。

セカチュー。「世×の中心で愛を叫ぶ」もしくは「セカンドちゅー」、「世界一チュロス」。
一番後ろはなんか違う。

残り二つ……たぶん、「セカンドちゅー」は違うな。そっちより、「ファーストちゅー」の方がいいに決まってる。
慣れてなさがいいね。なんの話だ。

となると、「世界の×心で愛を叫ぶ」か。
叫ぶを絶叫に変えたらどうだろう。
おそらく、「好きだぃゃあああああああああああああ!!!」って感じだろう。

そういえば、友達の城崎くんが昔こう言っていた。
山頂でやっほーと叫んだりとか、海辺で海だーと叫ぶのは爽快らしい。

ちょっと気になったので、僕も何事か叫んでみることにした。

じゃあ、なんて叫ぶ?
愛を叫ぶ?いや、パクリはダメだろう。
それより、僕は高校生だ。
高校生といえば?
……そう、青春だ。

なんか無理矢理な気がしないでもないが、きっと気のせいだ。
それに、サブタイにもあるし。
むしろそっちが本音?まあいいや。

僕は屋上の手すりに手を置くと、思いっきり息を吸い込んだ。
そして叫ぶ。

「せい!しゅん!だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁ……ぁぁぁ……ぁ……ぁぁ…………」

最後の方はちょっと酸欠状態だった。情けない。
……叫んだだけなのに結構疲れてきた。息も乱れている。

関係ないけど、呼吸が乱れている女の子ってなんかエロいよね。本当に関係ねぇ。

やることがなくなったな。
そういうわけで、次はなにをしようか。まだまだ時間は沢山ある。看護婦さんでも視姦しようかな。
とりあえず、屋上から退散しよう。

大声を出したから、スタッフの方々が来るかもしれない。来ないかもしれない。
高校生にもなって正座でお説教はもう勘弁だ。

僕は手すりに背を向け(明日へ向かって)走り出した。人間、元気が一番。

病院内へのドアを開け、階段を駆け降りる。

……と、屋上への扉のすぐ下にある階段の踊り場を曲がろうとしたときだった。

「あっ!」

ちょうど下から上がってきた小柄な人影にぶつかってしまった。

人影がグラリと揺れ、後ろに倒れる。
下から上がってきたわけだから、当然後ろは階段、しかも下りだ。

頭から落ちたら怪我じゃ済まないだろう。

そう思った瞬間、身体が動いていた。

僕の身体は、人影の手を掴んで引き寄せていた。
しかし、ぶつかったときの勢いが強すぎたのか、不完全な態勢では完全に引き寄せられなかった。

このままではどちらも落ちてしまう。

ならいっそーーー落ちてしまおう。

ただし、痛い目をみるのは僕一人で充分だ。
あ、なんか今の台詞かっこ良くない?

身から出た錆。自業自得。一石二鳥。最後はなんか違う。

僕はこんな状況でも馬鹿なことを考えている呑気な自分の頭に感心した。さすが僕。

でも、ま、ダンプカーよりは安全だから当然か……ってあれ?軽トラだったっけ?ま、いいか。

そして僕は、誰かを抱きしめながら仰向けに階段を落ちていった。






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