夏の最初
シチュエーション


※百合


夕暮れが街を包んでいく。人の疎らな校舎はとても静かで、グラウンドの向こう側でテニスの打ち合いでもしているのか、コツンコツンという音が高らかに響き渡っている。
実際にそうしている姿は見えないのだが。
そんなことはどうでもいい。
というか、何もかもがどうでもいい事なのだ。学院にいること、勉強している事、くだらない交友関係や学校生活、自分がここに生きているという、その事実すら、くだらなく、どうでもいい。
いつからこんな事を思うようになったのだろう。わからない。
辛うじてわかるのは、自分が何もかもに無関心になっている、という事だけだった。
夏とはいえ、もう夕方だ。
アブラゼミたちの鳴き声は、いつのまにかヒグラシ達へとバトンタッチをしていて、自らの寝床へと帰っていく。
今、グラウンドでテニスに興じている少女達も、そろそろ自分の家へと帰る頃合だろう。
下校を促す放送が、そろそろなり始める頃だ。明日から夏休み。家へと帰る足取りはさぞかし軽い事だろう。
普段は騒がしい学校という場所が、一気に静寂へと落とされる。この雰囲気を、意外に好きだと思ったのは去年の一学期の、終業式の日の事だった。

なんということはない。部活にも入っていない井上は、普段は終礼が終わるとそそくさと学院を後にする。
それが、その日は少しだけ面倒な事があったのだ。
朝、下駄箱を空けるとそこにピンク色の可愛らしい封筒が置いており、それが何であるかというのは相当鈍くない限りわかるわけであるのだが。
ともかくまあ、井上はそれを一度で理解した。ここは女子校だ、そういう事があっても不思議ではないし、すくなくとも自分は容姿は悪くない。むしろかなりいいと言っていい。
そう自覚しているから、、一部の生徒たちにそのような目で見られていてもおかしくはないだろう。自分がそれがいい、とは思わないが。
手紙には放課後に校舎裏に来て欲しい、とだけ書かれてあり、井上は時間通りにその場所に向かった。
案の定、そこには何度か顔だけ見たことがあるような年下の少女が待っていて、自分に思いを告げてきた。
その子がどういう決心をこれまでにつけてきて、どんな表情でそれを実行したのかはわからないが、そんなに必死になる理由が井上には理解出来ず、返事一つでそれを断った。
その女の子の名前も顔も今は覚えていない。
そんな事もあったせいか、なんとなしに気まずくなり、家に帰る事も出来ずに井上は図書室で時間をつぶしていたのだった。
あそこはいい。クーラーも効いているし、図書室の奥の方、本棚と本棚との死角になっている場所に置いてあるソファーは実に座り午後地がよかった。
普段は昼休みなどに利用しているその場所で、本を読んでいたのだが、いつの間にか眠ってしまい、時は既に夕刻をさしていたのだった。
そんな時にふらふらとたどり着いたのが、ここ、屋上。屋上に出た時に、なんとも言えない雰囲気に、包まれていたのである。
そう、今までの人生で感じたことのない、何と表現していいものかはわからないが。
人が生活している音が聞こえているのに、何処か遠く、消えて行ってしまいそうな、まるでこの後、この世界の全てが終息へと向かって行くような、幻想。
ともかくも、井上はそんな雰囲気が気に入ってしまったのだ。
だがしかし、そんな雰囲気を味わう事は一年に一度しか出来ないのだろう。
夏休みに入る前の、この終業式の一日だけ。だから今日も、井上は時間を見計らってこの屋上にやって来たのだった。
目の前に広がる街は夕焼けに包まれ、普通の女の子ならばその美しい光景にうっとりとしてしまう所だろうが、井上はそうではない。
この終わりの風景を楽しんでいるのだ。もし、このまま一瞬にしてこの夕焼けが、世界を滅ぼしてくれればいいのに、と思うほど。
少しだけ心地のよい風が、鬱陶しいスカートの裾を揺らす。
自分でもなんとなくは感じていた。自分があまりにも冷めている、と。
年頃の子達、とくに自分の学校にいるような子達がときめくような物に、自分が何一つ興味を持つことが出来ないのだ。
自分に熱い視線を向けている少女達の甘い思考、そうじゃなくても、特に恋愛という事項に関してはおどろく程に興味を抱くことが出来なかった。

「……」

と、そこに何かしらの気配を感じる。
長い髪を押さえながら気配の方へ振り返る。屋上の入り口のドア、そこに、女の子が立っていた。
なんでだろう、と思う。普段はこんな事があっても、自分は何も思わない筈なのに、どういう事だろう。
小柄な少女は何処か虚ろ気な表情で、こちらを見つめている。
なんとなしに、井上は少女の事が気になってしまう。あまりみたことのない少女ではあるが、何処かで会った事があるような気もする。会ったとすれば、何処でだろう。
こういう時、井上は自分の性格が少しだけ嫌になる。
いつも他人に関して無関心すぎるのだ。たまにこういう思いをする事があっても、その人を思い出せないだなんて。

「あ、の」

少女が申し訳なさげに声を上げる。どうやら困っているようだった。何を困っているかはわからないが。

「ご、ごめんなさい」

少女はいきなり謝ると、井上に背を向けてその場を去ろうとする。
ま、待って。
そう思った刹那、井上は少女の腕を掴んでいた。
だから、おかしいんだって。
少しだけ怯えている瞳と目が合う。一体、どうしたっていうんだろう。
いや、それはこの子ではなくて自分だ私は一体どうしてしまったんだ。どうしてこんなにも、この子の事が気になっているのだろう。おそらく初対面で、何も知らないというのに。
しかも、この私が。
掴んだ腕から伝わってくる、僅かな振動。震えている。自分の事を怖がっているのか。

「……あ、ごめん」
「……」

井上はすまなそうに腕を放した。少女は、安心したようにため息を吐く。
肩口で切りそろえられた髪を揺らしながら、肩で呼吸をしている。まるで折れてしまいそうな体つきだ。

「あなた」
「はい」
「あなた、名前は」
「え」

ちょこん、と首を傾げる。少女を指差すと、了解した、というように頷いた。なんとなしに、それがまるで小動物のようで可愛い、と思ってしまう。
ほら、まただ、おかしい。何かを可愛いと思うなんて。

「多川、です。多川、なつみ」
「え」

ああ、だからか。
井上はその名前に覚えがあった。というより、この学院に通っている生徒なら、噂くらいは聞いた事があるだろう。
二年生に、たまにしか学院に通うことが出来ない可憐なお姫様がいる、なんどという。小さい頃から病弱らしく、入退院を繰り返しているらしい。

「ふーん、あなたが」
「知ってるんですか」
「まあね」

噂程度にしか知らないことではあるが。自分を知っている、と聞いてか、なつみは何処となく安心したように笑った。
ジン、と、何処かが熱くなったような気がする。

「あの、ごめんなさい、今出て行きますから」
「待ってよ」

再び体を離そうとするなつみに、井上はまた語りかける。今はどうしてだろうか、この少女と話がしたいのだ。

「せっかくだからさ、一緒にどう」

なつみが、嬉しそうに頷いた

どうやら、病弱であまり学院に来られない、というのは本当らしい。
詳しい病名などの事は教えてくれなかったが、登校するよりも入院していたり、
自宅療養している事の方が多い、と苦笑いで彼女は語ってくれた。
今日もどうにか学院まで来られたのはいいものの、
終業式もホームルームもすでに終了してしまっていて、
誰もいない教室で一人、机にたまったプリントを処理していたらしい。
迎えが来るまで少し時間があるようだったから、
普段歩き回ることが出来ない学院の中をさ迷っていて、ここにたどり着いたようだった。

「今日って、成績表、貰えるじゃないですか」
「うん」
「……一応、もらったんですけど、ほら」

カバンの中から通知表が取り出される。
中には成績を記す為にテンプレートと、あるべき評価が下されている筈だ。
が、しかし。
なつみの通信簿にはテンプレートしか記されておらず、
成績を示す部分には何も書かれていなかった。

「いつもなんです。学校、ホントに行けてなくて。

一学期も、片手で足りちゃうくらいしか行けなかったんです」
そう言って丁寧に畳まれた通信簿は、またカバンの中にしまわれる。
少しだけ悲しそうな表情をしていたが、
通知表と同じようにすぐに内側にしまわれてしまった。
二人で手すりにもたれかかった。
風が吹く。
自分の体をそのまま包んで、何処かに行けてしまえばいいのに、
と井上はなんとなしに思っていた。

「井上さんは、どうしてここに」
「ん、別に……好きだからかな」

好き、となつみが聞き返してくる。
どうしてかわからないらしい。まあ、そういう物だろう。
こんな時間にこんな場所にいるのは、酔狂な人間だ、きっと。

「この感じ好きなだけ。夕焼けのさ」
「キレイ、ですもんね」
「いや、そうじゃなくて」
「え」

夕焼けの赤。終わりの色だ。
赤が終わりなら、空の青色はきっと始まりの色なのだろう。
青は嫌いだ。
無意味な日常生活が、これから先もずっと続いていくような感じがする。
それはたまらなく、苦痛なのだ。
だから赤がいい。すべてを終わりに導いてくれる。
どうしようもなくくだらなくてどうしようもなく嫌いなこの世界を、
終わらせてくれるに違いない。

「多分さ、違う何処かに行きたいんだと思う」
「……」

行ける訳がない、というのも十分に理解している。
だからこそこんな願望を持ってしまうこと事態が下らなく思えてしまって、
井上は自嘲気味に笑った。
なつみは、じっとそんな井上を見つめている。

「……行ってみたいです、私も」
「え」
「ここじゃない何処か。
私も、毎日同じことばっかりで、飽きちゃいましたし」

そういうことじゃない、と井上は言おうとしたが、
なつみが学校に来ることも出来ず、病院にずっといるのだと言うのなら、
そう思ってしまっても仕方ないな、と考えた。
退屈する間もなく、彼女は全力で毎日を生きているだけなのだ。
もし、自分が同じ立場に立っていたら同じことを思うかもしれない。
今の自分が、毎日を退屈に思う事よりも強く。
きっとそれは、想像もつかないような物なんだろう。

「そんな事言っても、怖くて外にも、出て行けないんですけどね」
「怖い、ね」
「はい。……私は、私の周りの世界の事しか知らないから。
ホントにそれだけしか知らなくて……外に出て行く事が、出来ないんです。
……ごめんなさい、こんな話、退屈ですね」
「いや、別に」

井上はなんとなく頭をかいてみせた。
ちらりとなつみの方に目をやる。
夕焼けの赤に照らされた横顔が、なんとなく神秘的に見える。
また、何処かが熱くなった気がした。

「井上さんは、夏休みは何をするんですか」

くるっとなつみの体が回り、楽しげにそんな言葉を紡いだ。
空気が少し硬くなったと思ったのだろう。
赤に染まっている筈なのに、何処か違うような気がする。
それはまるで、自分の嫌いな青に、始まりの青色に染まっているような。
夏休みに、きっと何か特別な思いをはせているのだ。

「さあ、まだ決めてない」

曖昧な言葉を紡ぎだして答える。実際まだ何も決めていないのだ。
自分は、長い夏休みの中で、いつも同じことを考えるんだろう。
このまま全てなくなってしまえばいいと。
赤の静寂に、包まれればいいと。
彼女は、どうなんだろう。何を思い、何をして日々を紡ぐのか。

「私は、やりたい事をしたいと思ってます」
「やりたい事?」
「はい、やりたい事。
沢山あるから、全部出来るかどうかはわからないんですけどね。
今まで、私は何もしてこなかったから、せめて今だけは、
何かをしようって。……そう思わせてくれた人が、いるんです」

少しだけ恥ずかしそうに、なつみが顔を赤らめる。
とはいえ夕焼けのせいでそんなにわかりもしないのだが。
でも、なんとなくそうなっているような気がした。
きっと思わせてくれたという人の事を、なつみは少なからずとも思っているんだろう。
思春期の女の子だ、そういう淡い思いを抱いてもおかしくはないだろう。

……面白くはないが。

面白くないとは何だ。わけのわからない思考が頭を走る。
少しイラつく。自分にだ。今日の自分は本当におかしい。
さっきなつみに会ってから、
自分の中のバランスの何かが崩れてしまっているような、そんな感じがして。
これは、何だ? これは、これは。

「井上さん?」
「え、」
「どうかしましたか」

なんでもない、という代わりに首を振った。
違う、違う。そういうのではないのだ。
でも、なんとなくではあるが、それでもいいような気がするのだ。
この子なら、この子になら。
何かもどかしい物が頭を渦巻く。
体の奥が熱くなる。これを、どうにかしたい。

「あの、さ」
「はい」

ああ、本当に、本当に調子が狂う。
こんなこと、どうしてこの私が言おうとしているんだろう。
言ってしまいたいような、言いたくないような、今とても曖昧な気持ちになっている。
どうしたんだろう、本当に。
いや、わかっている。どうしてこんな気持ちなのか。
私は、この子の事がとても好きなんだ。
ありえるはずもない一目ぼれをしてしまった、多分そういう事になるんだと思う。

「具合でも、悪いですか?」

なつみが顔を覗き込んでくる。
胸が高鳴った。
無駄に体温がジン、と熱くなっているような気がする。
熱いのは夏のせいではない。
大きな瞳、白い肌、小さいけど柔らかそうな唇。
今日初めて顔を合わせた、この少女の全てに、
自分はどうにも狂わされてしまっている。
だからというわけではないのだが、
井上の両手はなつみの頬に触れていた。
柔らかい。
なつみが不思議そうな表情でこちらを見上げていた。
その無垢な表情に、この胸はまた高鳴る。
それを感じた瞬間に、井上はなつみの唇を奪っていた。

ああ、もうそれでやめてしまえばよかったのに。
目を閉じてなつみを感じていると、
もっと、もっとと何か急かされているような気がしてならなくなり、
触れているだけだった唇は、彼女をもっと味わう為のディープな物へと変わる。
なつみが、うっと小さく呻いた。
気になどしない。
小さな腕がもがきでようと自分の体を押し返そうとしていたが、
病弱で非力な少女の力など微々たる物で、
強く抱きしめてしまえばそれまでだった。

「ん、んうっ……」

自分でもどうしてこんなに積極的になっているんだろうと、不思議に思う。
一目ぼれどころか、他人を好きになるなんてとても低俗でくだらなくて、
他人に触れるなどもってのほかだというのに。
しかし、今はどうにもこの少女が愛おしくて仕方がない。
自分が信念として掲げてきた事さえ捻じ曲げる事が出来る、
この少女は一体何者なのだろう。
いや、そんな事は至極どうでもいい。
今はただ、この少女を自分の意のままにしたい、
ただそれだけなのだ。
舌が、なつみの口内を侵すように動き、彼女の物とまた絡み合う。
うっすらと目を開けると、目尻からわずかに涙を溢しているなつみがみえる。
自分の中に得体の知れない感情が、また沸きあがるのを感じた。
この子は一体どんな声で泣くのだろう。
いや、鳴くのだろう。
片手が、なつみの細い腰周りの辺りを撫でている。
人に触られなれていないのか、動くたびになつみがびくりと体を震わせる。
さすがに自分も息苦しくなり、ようやく唇を解放してやる。
なつみが、肩で呼吸をしながらヘナヘナとその場に崩れ落ちた。

「いの……えさ……」
「どうかした、なつみ?」
「どうして……」

こんな事を、と聞きたいのだろう。
しかし、言わせてしまう前にまたふさいでしまえば面倒な言葉は出てこない。
数秒程甘美な感覚をまた味わった後、
放す間際に軽くなつみの唇を歯で噛んだ。

「なつみ」
「……っ」
「やりたい事がしたいなら、私がさせてあげる。
行きたい所があるなら、私が連れて行ってあげる」

だからね、と井上の手はなつみの頬を撫でた。
口元が嫌ににやけているのがわかる。
私は今とても楽しい、そう感じているのだと。

「だから、ね」

思っている人がいるなんて些細な事だ。
それが気に入らないのなら無理やりにでも奪ってしまえばいい。
井上は微笑みながらなつみの制服の前に手をかける。
恐怖に怯えているのか、なつみはただただ震えているだけだ。
それがむしろ好都合であり、すんなりと開く事が出来た。
白い下着に包まれた胸がめにつく。
想像しているよりも大きかった。
大きかった、といっても考えていたほど、の程度ではあるが。
ブラジャーを、くい、と乳房の上へと押し上げた。

「……可愛い胸ね」
「……っ」

いやいや、というようになつみが首を横に振った。
胸の下に、手術の跡のような物がある。
井上はそれを指先でそっと撫でると、今度はそこに口付けを落とした。

「やっ……」
「声も可愛い……ねえ、もっと聞かせてよ」

そう言いながらなつみの乳房にそっと手をかける。
柔らかい。触っているだけで気持ちがいいと感じてしまう。
なつみは何か言いたげな表情を浮かべていたが、
くっと歯を食いしばったまま目から涙を流している。
ああ、素晴らしいなと井上は思う。
病院暮らしの長いなつみはこういう行為が存在するという事すら、
満足に知りはしないのだろう。
未知の経験と感覚に戸惑い、
恐怖に涙する少女を意のままにするのは実に心地がよかった。
撫でるように、掴むように胸をまさぐると、
なつみは時折敏感に体を跳ねさせながらすすり泣いていた。

「あれ、泣くほど気持ちがいいの?」
「や、ちがっ……」
「初めてのくせに……変態」

事実、最初は泣いているだけだったなつみの表情が、
今は少しばかりうっとりとしたものに変わっている。
それをいい事に、井上はそのままなつみの衣服を全て脱がせてしまった。

生まれたままの姿のなつみ。
未成熟で発達途中の体。
人形みたいだな、と井上は思う。

「キレイ……」
「……ぁ」
「ねえ、これからどうしようか?」

そう言いながらも、井上の指はなつみの股間の方へ伸びている。
何かを感じとったのか、なつみの体がびくっと震えた。

「聞くまでもない、か」

股間の割れ目の部分にそっと触れる。
わずかに、クチュ、という水音がした。

「ダ、ダメ」
「ダメって?……あんたここ濡らしてるじゃん」
「ぇ……」
「あれ、どうして濡れてるかわかんない?
……そうね、あんたそういう知識疎そうだもんね。
なつみ……あんたは私に触られて感じてるんだよ。
他人にこんな風に触られたの初めて?
初めてなのに、気持ちよくて感じてる変態なのよ、あんた」

強い口調で言ってしまったせいか、
さすがになつみが声をあげてすんすんと泣き始める。
しかし、井上の注目はそこではなく、
今触れているその割れ目の方へと向かっていた。
心なしか、さっきよりも濡れているような気がする。
ドキドキする。
触れている指を、そのままズプ、と進めていく。

「ひっ……!」

なつみの中、
そう考えるだけも頭が痺れそうになるくらいドキドキするというのに、
キツイながらも、こうもすんなりと指が進んでいる事に、
井上はこれ以上ない程に興奮を覚えていた。

「あ、あぁっ……」
「なつみ……すごい、私の指のみこんでるよ」
「っ……」

うつむこうとするなつみの顎を、
空いている手が無理やりこちらを向かせる。
逃しはしない。

「私をみなさい」
「ぅっ……」
「なつみ」

なつみは、おそるおそる、
しかし真っ直ぐに井上の顔をみつめてた。
井上は一度軽い口付けを与えてから微笑みかけると、
なつみの中に入っていた指をそっと引き抜き、
その指を彼女の前で広げてみせた。
二本の指にたっぷりとなつみの蜜が絡みつき、糸を引いている。
なつみの表情が固くなる。

「……や、やめて、くださ」
「舐めなさい」

言葉を遮る様に、井上はそう言い放つ。
なつみはその言葉に怯えながらも、いやいや、と首を振った。

「舐めなさいと言ってるんだけど」
「……ゃ、です」
「なつみ、舐めなさい」

強い口調で命令しながら、井上は指をなつみの口に無理やり押し当てる。
それで観念したのか、なつみはおそるおそる口を開き、
指を舐め始めた。
ちゅぷ、と唾液と指についたなつみ自身の蜜が混ざりあう音がする。
指を舐めているなつみの姿を見ながら、井上は満足げに微笑んだ。
私は今までこういう子を探していたのかもしれないな、と。
学院に通う少女達のしている『お付き合い』というやつは、
ただのつまらない『友情』の延長でしかなくて、
とてもくだらない。
井上はこんな風に、誰かを、
とりわけなつみのような、極端に何も知らない、
無垢で美しい少女を屈服させてみたかったのだ。
だから、周りの普通の少女達に思いを告げられる事があっても、
何も感じなかった。
彼女たちは井上の興味の範疇ではないから。
しかし今日いきなり目の前に、
儚げで美しく、そして何も知らない少女が現れた事で、
自分すら気づいていなかった欲望を知る事になった。
なつみの幼い舌が自分の指をおそるおそる舐めるその様子が、
体の奥を熱くさせるほどゾクゾクとする。
私、この子を離したくない。

「もういい」

そう言うと、ちゅぷ、と音をたてながら名残惜しげになつみの口が離れた。

「……ご苦労様。可愛かったわよ」
「……」
「なつみ、少し足を開いて」
「いやっ……」
「なつみ」

強く言えば、なつみはそれに従う。
井上はそう確信していた。
きっとなつみはそういう子なのだ。
井上の声に怯えたなつみは、事実おずおずと足を開いてみせる。

「ふふ……いい子ね」

井上はそのやわらかい髪にそっとキスをする。
体がプルプルと震えていた。
まるで小動物のようだ。
諦めてしまっているのか、
力なく横を向いているなつみの股間を指で広げる。
むき出しになっているクリトリスを指でそっと撫でた。

「っ……!」
「いやらしい子……」
「ち、ちが……」
「何が違うって?
初めてで、しかもここ屋上だよ?
そこでアソコをこんなに濡らして……とんだ変態ね」

首を振りながらも、なつみのアソコがひくひくと僅かに動いている。
クリトリスを弄られているのだから、そこからは更に蜜が溢れ出してきていた。
否定しようがない、と突きつけてしまえばそれまでだ。

「そんな変態は、ここを触ってるだけじゃ満足できないよね?」
「いや、やめ……」
「さっきより奥に入れてあげる」

先ほどまでなつみに舐めさせていた指を、
再びその割れ目へと指を当て進ませていく。

「あ、あっ……いやぁぁぁぁぁ!」
「そんなに悲鳴あげて……可哀想。でも、すぐによくしてあげるからね」

指を根元まで入れてしまう頃には、
なつみは失神してしまったかのようにぐったりとしてしまっている。
おや、まだこれからが本番なのに、と井上は笑った。
額にそっとキスを落とす。

「……なつみ、好き」

中に入れた指。
なつみの中はとても暖かくて、しばらくそのままでいたかった。
ああ、今だけ、今だけは男が羨ましい。
自分にもなつみを犯す事が出来る男性器があればいいのに。
なつみの中をこれ以上ないってくらいにグチャグチャにしたい。
指じゃあ限界があるじゃない、
まだ始めたばかりだけどそれだけはなんとなくわかる。
そんなもどかしい気持ちを覚えながらも、井上は指を動かし始めた。

「いっ……!あ、あ、あぁぁぁっ!!」

指を入れる事が出来る範囲でグチャグチャと動かし始める。
初めてだから勝手が分らないが、なつみは感じていてくれているだろうか。
なつみはもう意識が飛んでいるようではあったが、
悲鳴のような声と共に時折別な声も上げてくれている。

「あっ、あんっ、ふぁっ……!」
「なつみ、ねえ、なつみ……気持ちいいの?気持ちいい?」
「んんっ……!」

なつみは答えてはくれない。
しかし、性器から溢れている蜜が品のない音を響かせ、
少なからずとも彼女が感じているのだという事を教えてくれた。
こんなにしているのだから気持ちよくないというわけはないだろう。
むしろ、ここまで濡らしているのだから、相当彼女は感じている筈だ。
それどころか。
いつの間にかなつみの腰が自ら少しではあるが動き出している。

「そんなに、そんなにいい?自分からおねだりするなんて、あんたホントに……」

井上は指を動かす速度を速める。
それに合わせるかのように、なつみの喘ぐ声も段々と甲高いものに変わっていくのだ。

「は、はぁぁっ、あんっ、やっ……!」
「どうしたの?イきたいの?イってもいいのよ?」

ねえ、ほら、と急かすように、
井上の指は突くと一番強い反応を示すその場面を重点的に突き始めた。

「ふぃっ」

反応が、今までとはあきらかに違うものに変わる。
太股が僅かながら痙攣し始めている。
限界が近いのだなと思うと、
井上は指を一気に突き上げた。

「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

なんとも言えない、官能的な悲鳴を上げながら、
なつみは足を開いたまま放尿した。
シャアッと勢いよく黄色の液体が飛び出し、井上の手のひらを濡らしていた。
ゾクゾクとした感覚が止まらない。
なつみ、あんたをこのまま放したくない。
そう思いながら、
ようやく我を取り戻したのか顔を赤くしながら泣き始めているなつみの頭を抱き、
何度も何度もキスをした。

「なつみ……好きよ、愛してる。
私の物になりなさい……ううん、絶対に離さない」

臆病ななつみの性格の事だ。
この出来事は誰にもいう事は出来ないだろうし、
今日の事を話に出せば、彼女は私から離れることが出来ない筈だ。
今は無理やりでも、夏休みは長い。
これから先じっくりと調教すればいいだろう。
きっと彼女はそういう事に逆らえない子だ。
その辺りに放り投げられていたなつみのカバンから、携帯電話が覗いている。
それを拾い上げ、ディスプレイを開いた。
不在着信が何件か入っている。
今の時間に、おそらくはなつみを迎えに来た誰かから電話がかかっていたのだろう。

「……ぁ……ぁ……」

胸の中のなつみが、小さく息をしている。
息をしながら、誰かを呼んでいるような気がした。
気になって屋上から校門の方を見ると、
そこに見慣れない黒塗りの車が停まっており、
長身の男が誰かを待っているようだった。

「……気に入らない」

そう小さく呟くと、井上は携帯の電源をそのまま切った。
もう辺りは暗い。
夏の最初の夜が、始まろうとしていた。

おわり。






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