それでも私は(非エロ)
シチュエーション


ミーン、ミンミンミン。

陽光が燦々と照りつける真夏日に蝉の鳴き声が木霊する。

「今日も暑いですね」

お嬢様が私に声を掛けてきた。
彼女にとってはただの気紛れなのかも知れない。
だけど、そんなちっぽけな出来事が、
私にとっては心臓が飛び出るぐらい嬉しい事だった。
緊急時以外に使用人から声を掛けることは許されていない。
だからこれは、お嬢様と言葉を交える数少ない機会なのだ。

「あ、はい、そうですね」

手拭いで汗を拭いながら、私は振り返った。
お嬢様は額に張りいた髪が鬱陶しかったのか髪を人差し指でそっと払う。
そんな些細な動作の一つが育ちの良さを感じさせる。
顔を伝う汗の一滴が、ふくよかな顎の線を辿りぽつりと落ちた。
着物の合わせ目、真っ白な肌の奥へと滑り込むように。

「お飲み物、取ってきましょうか?」

一瞬、私の視線はお嬢様に釘付けになっていた。
邪な目でお嬢様を見てしまった。
お嬢様に気付かれなかっただろうか?
そんなことを考えながら、私は自分に新たな仕事を課した。

「お願いします」

優しく柔らかな微笑み。
この笑顔のためならば命を捧げても構わない。
そう思えるぐらい私がお嬢様に傾倒していたのは確かだった。
私は使用人で彼女は華族の一人娘。
最初から叶わない恋だったのは間違いない。
それでも私は、お嬢様のことを諦め切れなかった……






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