一時帰宅
シチュエーション


コンコン、と開いているドアを叩く。
薬品の匂いが、鼻を突いた。
中にいた少女は窓の外を見ていたのか、自分に背を向けながらベットに座っている。

「お嬢」

俺は少女に声をかけた。
今の今まで自分の存在に気付いていなかったのか、その小さく細い肩をビクリと震わせながらおそるおそる振り返ってくる。
まるで親を探している雛鳥のようだ。
俺の姿を補足すると、少女の顔に笑顔が広がる。

「大谷さんっ」
「準備、出来てるか。もう迎え、来てるから」

今日は、半月に一度あるかないかの一時帰宅の日。
半年前は、出なかった。
その時は大きな手術を一度し、一週間生死の堺を彷徨った。
今も本当はというと、とてもではないが家に帰れるような状態ではない。
だが、その半年前の手術が終って出た結論は“今の医学ではもうどうしようもない”という事であり、半ば医師に見捨てられた形の中、この一時帰宅が決まったのである。
もしここで帰る事が出来なければ、次に自宅に戻る時には、彼女は生きていないかもしれないのだ。

「うん、今行くね」

少女はベットから降りると、小さな鞄一つを持ってこちらの方へと歩いてくる。
この病室から、いや病院から出るなんて何時振りくらいの事だっただろうか。
俺も、いや彼女自身すらも覚えてはいないだろう。
そのくらい、彼女はこの狭い世界の中で生きすぎた。
病院の中、そりわけこの病室だけが彼女の世界であり、その他にもっともっと広い世界があるということを、彼女はあまりよく理解出来ていないのではないだろうか。
だから、病室から外へ出ようとする少女のトタトタとした歩みが不意に止まった時、その細い身体が僅かに震えているのに、気付けないわけもなかった。

「行こう」
「う、うん」

とはいうものの、それ以上何が出来るということでもなく。
俺は彼女の肩をそっと叩いて、病室を後にするのだった。

病院は騒がしい都会からかなり離れた静かな田舎町にあり、そこから彼女、智の自宅である屋敷までは車で二時間ほど移動しなければならない。
そのわずかばかりにおおがかりな移動距離が彼女の帰宅を困難にさせていた。
もし、帰り途中に何か容態に変化があればすぐに医者に診せてやることも出来ない。
簡単に言えばその様な事態を危惧しなければならないほど危険な状態なのだ。
いくらここ一ヶ月の容態がいいとはいえ、彼女の病気がよくなることはない。
しかし、残り僅かな時間を病院の中だけで過ごすには、何もなさすぎる。
病院の中しか知らない少女がそのままそこで一生を終える、なんてあまりにも酷だ。
だから、その為の時間。
14歳の少女が、せめて少しだけも普通の生活を、世界を知る為に設けられたその一時帰宅の時間で、俺は智に何をしてやれるんだろう。


「なんだか、別な人の家みたいな気がするね」

車の中の道中、無事というべきな何事もなく自宅にたどり着き、一年以上戻っていなかった自室に入った智は開口一番にそういった。
無理もない。小さい頃からの病院暮らしで、ココにいるのは年に数回だけ。去年一年それがなかったと考えると、そう感じてしまうだろう。
本来の使用者がここにいなくても、毎日のように手入れがされてきたその部屋は以前智がここい帰ってきた時と全く同じ姿を保っていた。

「でも、覚えてるよ、何処に何しまってたとか、何したとか」
「そうか」
「私、記憶力はいいよ」

そう笑って智は小さな時に両親からプレゼントされたという大きなクマのぬいぐるみに抱きつく。
見舞いに行くときに見せてくれるような、少し強張った物ではない、純粋な物だ。
それに応えるように俺も笑って見せると、そのぬいぐるみごと身体を後ろから抱きしめる。

「じゃあ、これは覚えてるか」
「え、」

なに、と続けようとした唇に自分のを重ねてしまった。
逃れようにもこの体制では出来まい。
少し息苦しそうな声が漏れて、キスから逃れようとしているのがわかった。
しかしそんな唇に無理やり舌を絡ませあうと、クチュリという水音が耳をついた。
感覚が溶かされてしまったのか、最初は抵抗していた智も、今は俺にされるがままになっている。
長く深いキスを終え、唇を離すと、高揚しているのかトロンとした表情の彼女と目が合う。

「最初にキスしたのはいつだったかな」
「あ、う」

そう質問すると、顔を赤くしながら目を逸らしながら小さくいじわる、と呟いた。

その様子がたまらなく可愛くて、愛しくて、また抱きしめてしまう。離したくない。この身体を、この笑顔を。
智は、俺の事を頼りにしてくれる。
周りの人間は“お嬢は大谷さんがいないと生きていけない”と笑うのだ。
でも、そうではない。そうじゃあない。
智がいなくなって生きていけなくなるのは、俺の方だ。
この先、いつか訪れるそう遠くない未来のことを考えると、途端に息が苦しくなる。
世の中に、同じ様に病気で苦しんでいる奴は大勢いる。
だが、世界の人口で考えれば一握りだ。
そうだというのに、どうしてその一握りの中に智が含まれなくちゃいけないんだ。
含まれていなければ、きっと今頃。

「大谷さん、私、死んだらどうなるんだろう」

そんな悲しい言葉なんか無縁に、普通の14歳の女の子として生きていただろうに。

「死ぬのはね、怖くないんだ。でもね、私が死んでから、それから先の事ね、沢山時間が経ったら、大谷さん、私の事忘れちゃうんじゃないかなって」
「何、バカな」
「誓える、忘れないって」

今度、触れてきたのは智の方だった。
先ほどとは打って変わって、切なそうな表情を浮かべながらキュ、と抱きついてくる。
俺はその柔らかな髪をそっと撫でる。

「大谷さん、ウソツキだからちょっと信用出来ない。っていうのは冗談だけど、いつも少しだけ心配になるんだ」
「バカ」

そう言うと、智が笑いながら小さな口付けを落としてくる。
そして、唇を離すとしばらく見つめ合って、またキスをする。
同じ様な事を、しばらく繰り返していた。
まるで、俺に自分をしっかりと刻み付けるかのように。

「だから、いつまでも私の事覚えているくらい、記憶力、よくなって欲しいんだ」
「覚えてるよ、当たり前だ」
「そうかな、私との約束、一度だって覚えていてくれた事ないのに」
「それは」

その先の言葉が、またキスによって塞がれる。
愛しすぎて、でも大事にも出来なくて、どうしようも、なくて。

「私は、大谷さんの事、死んでも忘れない。忘れられないと思う。だって、今ここに生きている前に、私は大谷さんが好きなんだもん」

智は俺から体を離し、部屋にしかれていた布団の上にパッと倒れこむようにしながら大の字になる。
そして目を閉じた。
長時間の移動の後だ、疲れて眠るのかと思った。
この時期はまだ寒い。
布団をかけてやろうと手を伸ばすと、反対に智の腕につかまれていた。
わずかな力で引っ張られる。

「智」
「だからね、私にもっと大谷さんを刻み付けて。もっと、大谷さんに私を刻み付けて」

そう言う少女の体が、震えていた。
今日、あの病室から出てくるときと同じ様に。
狭い世界でしか生きてこれなかったのだから、きっとこれから先もその中でしか生きていけない。
でも、それでも。
その狭い世界の中に俺しかいないというのなら、俺はそこにいなければならない。例え、その先で主がそこを去ったとしても。
俺はいつまでもそこにいる。それだけは、しっかりと約束出来る。
頷くと、智の体に覆いかぶさるようにキスをした。

狭い部屋の中で、二人分の荒い息が重なり合う。
前だけ開かれた服の隙間から陶磁器のように白い肌が覗き、年の割には大きさのある乳房が揺れている。
その乳房の先端をまるで壊れ物でも扱うかのようにそっと舌先で舐めると、小さな体が弓なりにしなった。

「あ、はう、うんっ、ふ」

口から漏れる小さな喘ぎ声は、俺の欲望をかきたてるには十分すぎる物だった。
刺激を与える度にピクピクと痙攣するかのように震える体も、恥かしさのせいか真っ赤になっている顔も、その目からこぼれている涙も。
全てが愛しくて、だが壊したくて、頭の中で何かおかしなアドレナリンが出ているようだった。
やわらかい乳房を少々乱暴に扱うと、少しばかり痛かったのか苦痛そうな表情を浮かべたのだが、それを見ても止める気にはなれない。むしろ、もっとそういう表情を見たいとすら思う。
そうするには、こちら側の準備も必要だろう。
そう思ってすぐ、片手はショーツの上からその溝の部分をなぞっていた。

「ひっ、や、あ、な、なにっ……」
「あ、智、こっちいじってなかったのに下着までもう濡れてるんだけど」
「ダ、ダメぇ……」

初めてそんな大事な部分を他人に触られたせいか、その刺激の強さに体が大きく反応する。
その様子が可愛くて、特に敏感だろう部分を重点的に攻めていく。

「あ、やぁっ……ダ、ダメ、なのっ……そん、なとこっ」

智の手が俺を突き放そうとするが、子供の手が大人の俺をどうにかする事も出来ない。
それどころか、愛撫されて力が抜けてしまうのか、抵抗する手はいつのまにんかせめて声を聞かれないようにと自らの口を押さえる物へと役割を変えていた。

「ふ、むうっ、ふむっ……」

手の隙間から声が漏れてくる。
可愛い声をきちんと聴く事が出来ないのは残念だったが、それもまたよくて思わず笑みをこぼしてしまう。
もっと、もっとだ。
俺の中にこの子を刻みつけて、この子の中に俺を刻み付けて。いつまでも彼女の事を覚えていたい。覚えていて、欲しい。
下着の上からでもわかる程、そこは秘部から溢れ出した液でヌルヌルとしめっていて、恥かしがっていながらもきちんと感じているのだと思うと嬉しくなってしまう。

「智、いつも一人で触ったりとかするのか」
「え、一人でって……」
「自分で気持ちよくしちゃうのかって事だよ」

智が赤面したかと思うと、触っていた部分がヒクリと反応した。
目が合う。
あまりにも恥かしかったのかすぐにそらされたが。

「ふーん、触ってるんだ」
「ち、違うもんっ」

頭を振って否定されるが、その限りではないと体が示している。少し意地悪をしたくなって、智の片手を取ると下着の中、陰部の方へと直接指をあてさせた。
突然の事に、智の体が震えて慌てているようにこちらを向く。

「お、大谷さん……」
「見せてよ、智がしてるとこ」

ウソ、という様に智がこちらを見上げてくる。
俺はニヤニヤとしたままその行為を促すだけだった。
彼女の体が、プルプルと震えている。
屈辱だ、と考えているのだろう。

「なあ、智、気持ちよくなりたいんだろ」
「く、う」
「ほら、見せて」

そう言いながらゆっくりと下着を脱がせていく。
先ほど誘導させた手のせいで多少は隠れているものの、うっすらと生えたアンダーヘアに包まれた大事な部分が顕わになった。

「わ、ダ、ダメ」
「すごく、キレイだ」
「あぅ」
「近くで見てもいいか」

返答を待たずに、かがんでその部分に顔を近づける。
ヒッという悲鳴にも似た智の声がするが、気になどしない。
間近で見るそれはキレイなピンク色をしていた。
遊んでいない証拠だ。
ヒクヒクと僅かに動いているのは、恥かしいのか、それとも反対に見られている事で興奮しているのだろうか。
可愛い。もしそうなら可愛すぎる。
好奇心からか、右手がそのひくついている部分を触っていた。

「きゃあぁぁっ」

そんな悲鳴が聞こえたかと思うと、次の瞬間彼女の体がぶるっと震えて、俺の顔に何か生温かい液体が降りかかっていた。
それはしばらく降りかかったのちに止んでいく。
智は“致してしまった”せいか、完全に力も気も抜けてしまったらしく、頭上で目を閉じながら息を整えている。
どうやらしてしまった事に関してそれ自体に自覚がないらしい。
しばらくの間、独特な匂いのそれと生温かく濡れた布団の上にいたのだが、気になって起き上がってみる。

「とーも」
「にゃ、ぅ……お、たにさ……わ、私……今、ど、なったの……」

俺の姿を確認すると、肩で深めの呼吸をしながらトロンとした表情で尋ねてくる。
おそらくは、軽く触ったことはあるが、軽くとはいえイクのは初めてだったのだろう。

「イッたんだよ」
「い、イ……?」
「すごく気持ちよくなったって事だよ。すごくよかったみたいだな、おもらしまでして」
「……お、もら……えっ」

言葉を復唱し、それから自分がしてしまった事の意味を捉えると、耳元まで赤面させてガバッと起き上がる。
そして、自分が“してしまった”跡を確認すると、それを隠したいのかその部分をパタパタと叩き始めた。
ああ、もう、可愛すぎるじゃないか。本当に。そういうのはむしろ嬉しいのに。
恥かしさも頂点に達したのか、遂に智が泣き出す始末だ。
顔を俺の胸に埋めて隠しながらポカポカと今度は背中を叩いてくる。

「みーちゃった」

そう言ったら少しだけ叩いてくる力が強くなる。
どうやらその怒りやら恥かしさやらなんやらを何処にぶつけていいかわからないらしい。
この行動が可愛くて、もっといじめてやりたくなる要因になるんだとどうして気付かないんだろう。
無自覚、というのもまた可愛い要素ではあるが。

「智」
「あうっ……」

手を掴むと、顔を近づけてキスをする。
頬の熱が伝わってくるが、そこに愛しさを感じた。

「可愛いよ」
「バ、カ……」

きゅう、と抱きついてくる智の体を抱き返した。
普通に抱き合うのもいいが、こうやって上半身だけでも直接肌を触れ合わせながら抱きしめるのはまた特別な気がする。
智も似たような気持ちでいてくれるのだろうか、伝わってくる心臓の鼓動は先ほどより強い。

「あのさ、智」
「何……」
「俺のも、気持ちよくしてくれないか」

その言葉を聞いてもイマイチピンとこないのか、智がキョトンとした顔でこちらを見上げている。
まだそういう知識はないらしい。
試しに立ち上がってズボンと下着を脱いで見せたが、智が驚いているのは初めて間近でダ男性器を見たからであって意図を汲み取ったわけではない。

「どう、するの」
「あの、口で」
「口で……」
「舐めたり、とかな」
「へ」

一瞬考えてしまったようだ。
おそらく実感がわかないのだろう。
智が恐る恐る立ち上がったペニスを指差して尋ねてくる。
頷くと、躊躇いがちに視線を落とした。

「頼む」
「う、うん……」

少女は恥かしそうにペニスを握るとしばらくそれを見つめていた。
そして何か決心をしたのか、小さく何度か頷くと、口を開いて口にふくんだ。

「く、ぁ……」
「ぬ、んんっ……ふ、」

小さな口には大きくなったペニスはまともに入らないのか、先端のかりの部分を口に含むだけでも精一杯のようだ。
竿を弱々しい力で握りながら、先端の部分をチロチロと舐めている。
与えられる刺激は見当ハズレの物ばかりで、快感とは程遠いのだがそれでも初めての行為を懸命に、俺の為にしてくれているその姿が愛おしい。

「ん、ぷ……ほう、ひたら、いい、かな……」

しばらくして、ペニスを咥えたまま智が不安そうに尋ねてくる。
これでいいのかどうかわからないのだろう。
俺は笑ってその頭を撫でてやると口を開いた。

「先だけじゃなくて、他も舐めてくれると嬉しい。無理に口に入れようとすんなよ、舌で舐めてくれるだけでいいからさ」
「わかった……」

ペニスから口が離れる。
ピチャ、小さな音ではあったがそんな水音が聞こえた。
智はそのままペニスを握ったまま、今度は竿の方に舌を這わせ始める。
アイスを舐めるように奉仕してくれる姿がたまらない。
先ほどの物よりは要領を覚えたのか、与えられる快感もいい物になっていた。

「にゅ、ふっ……く、ん……お、たにひゃ……気持ちいー……かな」
「ああ、いいよ、智」
「うんっ……」

たどたどしい愛撫ながらも、確実に形にはなってきている。
ピリピリとした弱い電流のような刺激が体を襲ってきた。
時折的確な快感が与えられ、ピクリと反応する。
声こそはあげないものの、俺のそんな様子を伺いつつ、智は一生懸命に舌を動かしていた。

そんな彼女の姿をみていると、妙な気分に襲われる。
このまま、好きなように、なんてことを。
何言ってるんだ。
俺はただ単に智とこういう事をしたいわけじゃない。
体だけを求めているんじゃない。
心も、存在もその全てを求めたくて、今こうしている筈だというのに。
無理矢理にでも犯して、いう事を聞かせて、一生ここに、なんてバカな思考が浮かんでくる。
結局、俺はこいつの事を離したくないのだ。
目の前にある理不尽な別れを、受け入れたくないのだ。
智は死ぬ事は怖くないと言っていたのに、おそらくは、この先の別れの事もきちんと受け止めているのだろう。

「ん、ちゅ、う……」

熱っぽい頭のまま、そんな事を考えながら智を見つめていた。
こちらに気付いた智は、穏やかな微笑みを返してくる。

「お、たにさ……」
「何」
「あの、ね……その……」

フェラチオを終えて、そう言いながら見上げてくる智の頬が染まっている。
もじもじとしながら体を摺り寄せて来た。
バカ、そんな事したら、もう。

「止められなくなるかもしれないけど、いいか」
「……ん」
「多分お前の体にかなりの負担を強いる事になる。それでも……俺と一緒になりたいか」
「……うん、なりたい、よ」


あれからずっと黙っていた智が、いきなり泣き出した。

「……あ、れ……なんで、かな」

目じりからポタポタと涙が零れ落ち、膝の上濡らしている。
手の甲でそれを拭おうとしているようだったが、なかなかそれは止まらないようだ。


抱きついてくる体を抱き上げると、その下の、溝の部分に自分のペニスをあてがった。
智が息を漏らす。
緊張しているようだった。

「もう一度聞いとく。ホントにいいか、それにお前が思ってる以上に辛いぞ」
「いい、よ……辛くても、大丈夫……」
「そうか」

俺はため息をついた。
もう、今更後戻りも出来ないのだろう。
目の前で緊張に震えている少女に、もう一度だけキスをすると、そのまま、ゆっくりとその体の中にペニスを沈めていった。


「ど、しよ……こわ、いよ……怖いよ……嫌……怖い、怖い……こ、わい……ヤダ、嫌なの……死にたく、ないよ……私、まだ


その瞬間、智の表情が一気に苦痛へと歪んでいく。

「い、あ、ぅ、ひっ……あぐっ」

大人を受け入れるには、智の体はまだ小さすぎる。
当然だ。
やめよう、と小声で提案したが、智が首を振りそれを受け入れようとしない。
頭から抱きついて、俺から離れようとしなかった。
抱きつきながら、苦痛に耐えプルプルと震えている。

「ひいっ……いやぁぁぁぁぁ」

メリメリ、とそれでもペニスが中を進んで行く。
結合部から、鮮血が流れている。


「嫌だ……嫌だよ……助けて……何で、今更……」

智が、泣いていた。
少なくとも今まで一緒にいて、こんな涙は見た事がなかった。
こんな、言葉も。
怖いなんて一度も言った事がなかったから。
死にたくないとか、絶対にそんな事を言わないから。
いつも、何かそういう事は達観したような所があって。
ああきっと、生まれつきそういう運命を持っていたのだから、もう何処か諦めているのだろうと、俺はそんな風に勝手な事をずっと思っていた。
ずっと、そう思っていた。
だから泣きじゃくる智を見ても、気の利いた言葉など思い浮かぶ筈もなく。

「……そうだ、今度どっか遊びに行こう。好きな所、さ……何処でも、連れてってやるからさ……」

少女の悲痛な泣き声が響くその狭い部屋の中、どうしようもなくダメな男の呟きが吐き出された。

「ふうっ……はあぁっ……く、ぬ、ぅ……」

痛みをこらえているのか、叫ぶような声はなくなったものの、小刻みな震えが止まらない。
そんな様子を見ているととてつもなく不安になってしまう。
原因を作っているのは俺自信ではあったものの、やはり。

「やっぱり止めた方が……」
「ダ、メ……ダメ……」
「でも……」

智が積極的にキスをしてくる。
痛みを紛らわす為なのか、それとも別な意図があってなのか。

「わた、し、ね……幸せ、なの……しあ、わせ、だから……最後まで」

そうだ、俺達は幸せなんだ。
幸せな筈なんだ。
だから智のその幸せを崩してはいけない。
あと、幸せなのだから今の俺はきっとおかしい。
幸せなのに、どうしてこんなに苦しいなんて思うんだろう。

「智、愛してるよ」

俺はそう囁くと、性器が半分も納まっていない結合部をかき混ぜる為に腰を動かし始めた。
体は満たされているのに、何処か空虚な気がする。
いや、でも気のせいか。
幸せなのだから。
こうする事によって、智と俺間に何かが一つ増えて。
きっと俺は彼女を忘れなくなるのだから。
死んでも、彼女は俺を忘れないのだから。







「なあ、智……お前、幸せだったか」

彼女が過ぎ去った部屋の中、俺は壁にすがりながら返答のない質問を投げかける。
質問に答えるべき少女はこの部屋に存在する筈もなく、ここではない遠く、違う場所に存在していた。
もちろん俺の質問が届く筈もない。
あれから俺達はずっと何処か空虚な気持ちを抱えたまま生きてきて。
交わした約束も曖昧なまま、時間だけが過ぎていく。
残り少ない砂時計が時を刻んでいく。
過ごす毎日は生きた心地がするわけもなし。
ただ、お互いを思うときだけ心が苦しくなる。

「ああ、本当だ……生きてるよりも人を好きになる方がよっぽど大変なんだな……」






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