消えぬ愛、胸に抱いて(非エロ)
シチュエーション


ガタンゴトン…ガタンゴトン…

今僕は電車に乗り、目的地へと向かっている。その場所とは、砂倉村。そこに行くようになった経緯はこうだ。
高校を卒業し、なにもなくフリーターとして過ごしていたある日、雑誌編集者をしている叔父から、人手が足らないからウチの会社にこないかと誘いが来た。
その手の技術は高校で学んだことがあるので、難なく入社。そしつ数か月したある日、叔父からこの砂倉村を取材して来るよう頼まれたのだ。
初めての取材の仕事で、わくわくしている。……のだが、あまりに興奮しすぎたせいで昨日は眠れず、電車の揺れで眠くなってきてしまった。
「ふぁ……」

まあいいや。砂倉村は終点らしいし、少しぐらい寝ても大丈夫だろう











夢をみた。小さな村。その広場の真ん中で、少女が血まみれになっている。なんだ?これ?だめだ、気持ち悪い。そんな、そんな目で、訴えるような目で僕を見ないでくれ!

「…………て」

え?

「た…けて、たすけて、たすけて、タスケテ!!!」
「うわああああ!!!」

勢いよく飛び上がる。

「はぁ、はぁ、はぁ……あれ?…ここは……」

そうだ、電車の中だ。どうやら眠ってしまったらしい。もう車内には客はいなく、ドアが開きっ放しのままになっていた。着いてから時間が経っているようだ。

「酷いな…起こしてくれてもいいのに。」

辺りを見回しても車掌や駅員は見当たらなかった。駅にしては人気の無い、というか人っ子一人いない。過疎化しているというのは本当だったのか。
電車を降り、駅を出ようとすると、いきなり電車のドアがしまり、発車してしまった。はて?運転室にいたのだろうか。
駅を出ると、そこに広がる風景は確かに過疎化を認められるほど、田舎な村だった。目に見えるのは田畑や、木と土壁でできた平屋。
駅前だと言うのにこれといって店は無く、駄菓子屋にも子供の活気は無い。こういう村には古くからの伝統や伝説があると言われるが、ここには何も無いように感じられる。

「えー…石崎一哉、これから砂倉村の取材を始めます。」

叔父から預かったテープレコーダー。ここに声で登録してこいだとか。予備の電池とテープもたくさんもらったので大丈夫だろう。

「時刻は……」

腕時計を見る。が、なぜか止まっていた。いつからだろうか。九のところで短針は止まっているため、電車乗って居た間だろうか。
電池切れ……は無いかな。となると故障か。参ったな……結構高かったのに。

「時刻は不明。」

仕方ないな。とりあえず取材だ。取材の初歩は聞き込みこの村のことは住民に聞くのが一番だ。手近な家に近付き、玄関をたたく。呼び鈴もないのか。

「はぁーい。」

しばらくし、中から声が聞こえ、がたがたと立て付けの悪いドアが開く。

「……どなたさんじゃい?」

中から出てきたのは、初老を向かえたぐらいのおばあさんだった。

「あの、僕こういう者ですが……」

そう言って名刺を渡す。それを奪うように取ると、じっくり凝視し、僕の顔を睨むように見比べる。……なにか機嫌が悪いのかな?

「帰れ…」
「え?」
「お前さんみたいなよそ者は帰れ!」

そう叫ぶと、名刺を僕に叩き付けてドアを閉めてしまった。うーん…やっぱり機嫌が悪かったかな?いきなり失敗しちゃったなぁ。まあいいか、まだ始まったばかりなんだし、ゆっくりいこう。

「参ったなぁ…」

この村を甘く見ていたのかもしれない。最初の老婆はきっと忙しくて、僕の相手を出来なかったんだろうと思い、他の村人達に聞いてみたけど……

「全滅なんてなぁ。」

誰に何を尋ねても門前払い。ヒドい時には顔を見た瞬間に玄関を閉められてしまった。この村には排他的な伝統でもあるのだろうか。
しかし、今日一日見て回り、一つ奇妙な事に気付いた。村人のなかで、誰一人男性を見ないのだ。通行人も店番も、畑を耕すのも家から出て来るのも、みんな女性なのだ。
まさかこの村には、女性しか居ないというのが伝説なのだろうか。

「……まさかな。」

それはありえない。生々しい話になるが、男が居ないと子供も作れず、そんな村人すぐに滅んでしまう。きっと昼の間はどこか他の所へ働きにでも行っているのだろう。
夜になれば戻ってくるはずさ。……夜で気付いたが、もう陽がだいぶ傾き、夕焼けとなっている。

「おお!凄いや!」

この村の夕焼けは、都会のものと比べるとまるで別物だった。澄んだ空気、透き通った空。そこに沈む太陽は初めて心から美しいと感じられるものだった。

「うっわぁー、やばいやばい!」

きれいな夕焼けを眺めて居たら、すっかり辺りは暗くなってしまった。時間を確認しようと携帯を取り出す。
十時。

「え?」

おかしい。さっき夕日が沈んだばかりなのに、もう十時なんてありえない。腕時計の故障ならまだしも、携帯の機能まで壊れるなんて滅多に無い。
電波も完全に圏外になっていた。電波のとどかない所なんてあったのか……よく周りを見てみると、電線らしきものも一本も見当たらない。この村には電気も通ってないのかな?
地下に走ってるわけでもなさそうだし……
そうこう考えているうちに、目的の宿屋に着いた。伯父からはここに泊まるように、予約をしてもらっている。

「すみませーん!」

中入り、声を掛ける。しばらく待っていると、奥から着物を着た女性……恐らくお女将さんだろうか……がやってきた。そこでまた気付いたことがある。彼女はまだ30代だろうか。
今日会った女性はみんな高齢だった。この年代の人は初めてみた……

「…なんの様でしょうか?」

だが、彼女もまた不審そうに僕を見ていた。やっぱり男だからだろうか…

「えっと……ここに予約を取ってあると思うんですけど……石崎一哉っていいます……」
「予約?……少しお待ちいただけますか?」
「は、はい。」

よかった。ここにまで話が繋がったのは初めてかもしれない。が、お女将さんが奥へ戻って行こうとすると……

「空き部屋はない!」

階段の上から威厳ある声がかかってきた。そこにはまた、老婆が一人立っていた。

「御母様……」

御母様?ていうことは、お女将さんの母親って事か……ん?空き部屋がない?

「えっと…予約したはずなんですけど……」
「そんなもん受取らん!さっさと出てけ!今夜は忙しいんじゃ!」

そう叫ぶと、力づくで追い出される。相手は老人なため、無理も出来ない。

「ちょ、ちょっと!じゃあ僕はどこに泊まれば……」
「ひっひっひっ……山の中で野宿でもするばいいじゃろ。」
「そんなぁ…」

それだけ言い終わると、老婆は本当に忙しそうにドアを閉めた。その奥で、お女将さんは申し訳なさそうな顔をしていた。もしかしたら彼女は一番まともかもしれない。今度会って話してみよう。
その前に寝る場所……

「山って…」

僕は言われた様に、山道えと歩いていった……


「はぁ、はぁ……い、いったいどこまでいけば……いいんだ?」

あれから半ば自棄になって山道を登っていったが、あるのはただの獣道。日も完全に沈んでしまい、一応持って来た懐中電灯の明かりが唯一のたよりだ。

「うーん……やっぱりひきかえすしかないかな……」

万が一の場合は野宿だ。だとしたら山の中で寝たらいつ野生の獣に襲われるかわからない。光のある村中の方がまだましだ。

「そうとなったらさっそく……うわっ!?」

引き返そうと後ろを向いた瞬間、暗闇に足を取られてしまい、バランスを崩す。すると…

ガサササッ!

「う、うわぁぁぁっ!!?」

道から外れてしまったのか、まるで崖のような場所に落ちてしまった。短いようで長く感じる間、木々の中を落下していく。そして……

ドスン!

「うわたっ……いたたた……」

やっとこ地面に激突した。その衝撃で肘を強打してしまい、痛烈な痛みが走る。

「あたた……やっちゃったなぁ……」

軽く動かしてみるが、折れてはいないみたいだ。恐らく無傷では無いだろう。かすり傷程度だといいけど………

「はぁ……今日は本当についてないなぁ……厄日かな……」

周りを確かめるために懐中電灯でてらす。と……

「あ…ああっ!」

地獄の中に天国。建物らしき物が見えた。痛い体を引きずりながらその建物に近付く。するとそれは………

「神社だ……こんな山中に……」

いくら村から離れた場所にあるとは言え、これは離れ過ぎだ。一体何が目的でこんな場所に建てたのだろう。

「とりあえずなかに……」

いやいや、考えるのは後だ。今は一刻も早く休みたい。奇想天外ばかりで今日はくたくただ。境内に足を踏み入れる。中はなにも置いていない、
もはや奉る神もいないのだろうか。それともただの廃屋なのだろうか。それにしてはやけに綺麗な気もするが……
まぁどうでもいいことか。無神論者の僕としては罰当たりなんておそるるにたらず。シャツを脱ぎ捨て、今日はもう休むことにした。

「しかし……本当に変な村だ。……排他的とはいえ、僕のことを蔑視しすぎだよなぁ……くぁ…まあいいや、寝よう…」

それから何を考えるまもなく、深い眠りについた………………

ガサガサ……

「んん…んぅ……」

寝ているとなにか顔に当たる。堅い、細い、木のようなものが。

ガサガサ…

「……いたいって……やめて……んん……」

払うと顔を触るのを止めた。昨日は疲れたんだ……まだ寝かして……

ガサガサ…

顔への攻撃はまだ続く。……一体なんなんだ。まだ夜……

「うぅ……あ、あれ?」

じゃなかった。もう日は昇り、鳥達が鳴いていた。そんな……ほんの少ししか寝てないきが……ああ、つかれてたからか……

「ふぁぁ……あ、あ……あれ?」

そういえばさっきの顔に当たっていたものは?気になって後ろを振り返る。すると……

「…!」

少女がいた。見た目からして……僕より少し下。高校生だろうか。かわいい…というより綺麗な顔をしている。
僕が振り向いた瞬間、驚いたように体をすくめる。僕に見られた事がそんなにびっくりしたんだろうか。
何より目を引いたのはその服装かもしれない。俗にいう巫女服。リアルで見るのは初めてかもしれない。そしてその手には竹ぼうき………ほうき?

「あ、もしかして……ここの掃除に来たの?」

コクコク

言葉に出さず、ただ首肯する。つまりここで寝てた僕は邪魔だったということか。だから箒で顔を……だったら一言かけて起こしてほしかったなぁ。

「ご、ごめん。今出てくから。」

そそくさと神社の外へ出る。その間、彼女は僕と一定の距離を保つように移動する。なんか……避けられてる?それもそうか。
見ず知らずの男がこんなところで寝てたんだし。不審がらないほうがへんだもんな。

「さて……」

神社から出ると、さっそく彼女は掃除を始める。そんな彼女を尻目に、今後の計画を立てようと背伸びを………

ぐぅ〜〜〜〜〜……

した途端おなかがなった。そういえばこの村に来てからなにも食べて無かった。取りあえずは食料の調達だ。
振り向いて彼女をみてみると………

「……っ!?」

サッサッサッサッ……

おなかの音が聞こえたのか、こっちを見ていたため目が合い、また恥ずかしそうに掃除を開始した。

「あのさ……」

声をかけてもこっちを向かない。けど、一応言っておこう……

「もし泊まる場所無かったら……またここで寝ちゃうかもしれないけど、そのときはごめん。先に謝っておくよ。」

それだけ言って、村へとむかった………






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