そして馬車は行く(非エロ)
シチュエーション


「ねむいのじゃ・・・」

もう何度目の言葉であろうか、馬車の後ろでその‘少女,がつぶやいた。

「ならば少し眠られるとよいでしょうヘレナ・ガルディーニア・ミケーネ様、まだ先は長いです」

手綱を操りながら全身を黒に染めた男は言う

「・・・・この藁が服に入ってきてチクチクする、ここでは寝れないのじゃ」

『ヘレナ』 と呼ばれた少女は、馬車に敷き詰められたわら束を手で弄る。
豪華そうな衣服のあちらこちらには藁がくっついていた。

「なるほど、ではもう間も無く次の町に着きますそれまで辛抱ください」
「むぅ・・・さっきからそればかりじゃ、何時つくのじゃ」
「・・・100年とはかかりませんよ‘巫女殿,我々は貴方と違い悠久の時は生きられませんので」

手綱を握りながらイグニス家の家長 『バンパイア・ハンター』 アルディリア・イグニスは話しかける。

「・・・ずいぶん人を食った言葉じゃ」

生きた人間の色を思わせないほど白い色をした頬を大きく膨らませ、
ルビーよりも赤い瞳を、細く閉じる。

「私は人など食べませんよ‘巫女,ヘレナ・ガルディニーア・ミケーネあなたと同じでね」

くすくすと笑うとくるりと後ろを向く。
そこには膨れっ面をして恨めしそうに前の席の男を見る少女がいた。

「あまり詰まらんことを言ってばかりおると、力を貸さんぞ! イグニス家の坊やよ!」
「それは困ります、・・・では、急ぐとしますか!!」

ピシリ、馬に鞭を当てると、馬はスピードを上げた。

「っわわ、馬鹿者!!急にスピードを上げるものがおるか!!わわあ〜」ヘレナは叫ぶと馬車の縁にしがみ付いた。


「申し訳ないです、巫女殿こんな粗末な宿で」荷物を部屋に運び込みながらアルはヘレナに謝る。
「・・・この際じゃ贅沢は言わん、藁で寝るよりましじゃ」ベットを手でさすりながらヘレナはため息を突く。
「では、私は隣の部屋に行きますので何かあったらお申し付け下さい」

そう言うとアルは部屋を後にした。

「・・・・・」

その背中をヘレナは何も言わずに見送り。

その夜 。

アルは音も立てずに部屋に入ってきた侵入者の気配にきづくと、気づかぬ振りをしたまま布団をかぶった。

「気づいておろうイグニス家の坊や」

果たして其れはヘレナであった。
そのまま音もなくアルの眠るベットに近づく。

「明日の朝は早いです、早く寝ないと辛いですよ?」背を向けたままアルはヘレナに継げる。
「うるさい、子ども扱いする出ない!それよりも・・・」

ヘレナはそう言うとベットにするりと音も無く近づく。

「のう、イグニス家の坊や、、いや、アルよ、わらわはお主に力を貸すのじゃ、お主もわらわの力となっても罰は当たるまい?」

くるりとアルはヘレナに向き直る、ヘレナはすでに ‘闇明かり, だけをドレスとしていた。
闇明かりに照らされた肌は、昼間の太陽の光に照らされた時よりも美しく輝き、
ルビーのように赤かった瞳は、金色に光り輝いている。

「夜こそが真の世界、さあアルディリア・イグニスよ、その身を安らぎに満ちた夜の闇に溶け込ますがよい・・・」

詩を詠うような声でヘレナは囁く、まるでその言葉に惹かれるがごとくゆっくりとアルは自らの夜衣を脱ぎ
ヘレナにそっと抱きついた。

夜の闇が去り。

次の朝。

「・・・・・・・」
「なぜ浮かない顔をします? 巫女殿」

早朝、馬車の荷台に揺られながら口を尖らせたままのヘレナにアルは話しかける。

「……」
「快楽に満ちた夜の闇に溶け込めたではありませんか」

その言葉に、ヘレナは昨夜のことを思い出し、体の中心が一番下より。
『ギュッ!』と、強く持ち上がる錯覚にとらわれる。

「なっ……!? う、うるさい!! 無礼者!!」

ヘレナは東洋陶磁器のような真っ白な肌を、よく熟したりんごのように真っ赤に染め上げ。

ボフッ !

アルの頭に勢い良く藁束を投げつける。

それでも馬車は。

休むことなく進み。

この物語は。

静に終わる。






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