欲望と言う名の列車
シチュエーション


「珈琲を」

純白のドレスを着た少女が口を開く。
金色の髪が開け放たれた電車の窓からの風を受け、フワリと静かにたなびく。

「かしこまりました」

傍らに立つ青年が頷くと同時に、少女の手に湯気の立つカップが現れる。
それを当たり前のように口に運びながら、
少女は先ほどまでと同じように、窓の外を見た。

少女は思う。
世界が滅び、幾千の時が過ぎただろうか?
はたまた、それは数時間前の出来事であっただろうか?


何も、何も無い荒野を、蒸気機関車が大きな音を立て、
静かに走り続けている。

目的地へと、
当所も無い旅を続けている。


「停めて」

不意に純白の少女が口を開く。
不意で無かった時など無いのだが。

少女が口を開くのと、列車が止まるのはほぼ同時であった。

音も無く少女は立ち上がると、外へと繋がるドアへと立つ。
青年はドアの取っ手を掴み、蒸気機関車と、純白の少女と、そして、
荒れ果てた『現実』をつなげると、
彼女は、果たしてフワリと音も無く、荒野へと降り立った。

蒸気機関車の進路には一つのボロ布が落ちていた。

「退きなさい」

純白の少女が口を開く。
ボロ布は、ガサリと音を立てると、
伏せていた顔をゆっくりと上げた。

ボロ布とは、一人の女であった。

「お、お願いです! この列車は人の夢を叶えてくれると聞いてます」

女は少女のドレスを掴む。
一点の汚れも無い真っ白なドレスは、女の汚れた手をも白くするかのように、
一点の汚れも付かないままであった。

「お、お願いです、聞いてほしいことがあるのです!!」

よくある言葉を女は口にした。

「どうしても、どうしても叶えていただきたい事が……」

よくある話を女は口にした。

で、あるから、少女も。

「退きなさい」

再び、同じ言葉を口にした。

青年が彼女の執事を始めて、もう何十年になるであろう。
数年前に初めて少女に出会い、それ以来片時もそばを離れたことのない彼女の従者は、
彼女が同じ言葉を、三度発した事を聞いたことが無い。
三回目を耳にできる者等、どんな奇跡を束ねても居ないであろう。

古き時代 『ナザレの靴屋の息子』が偉大なる人に為った事よりも。

とある小さな国の、一人の王子が『偉大なる叡智』に目覚めた時よりも。

ずっと、ずっと、奇跡であると、青年は知っている。

だから、少女が、目の前の女に対して、

「乗りなさい」

と、言ったのを聞いた時は、
偉大なる奇跡よりも、はるかに価値のあるモノを目の当たりにし、

「どうぞお乗りください」

少女と共にその女も、自らの列車へとエスコートした。

「あ、ああ、ありがとうござ――」
「脱ぎなさい」

歓喜に震えた女が必死になり生命の一欠けらまでを凝縮させて礼の言葉を述べるのを、

少女はアッサリと中断させた。

一瞬、何を言われたか理解できずにいた女は、
だが、少女が二回目に口を開こうとするより前に、慌ててボロ布を脱ぎ捨てた。

「全部」

下着姿にになった女の方を見ようともせず、少女は呟くように命令する。
否、命令ではなく、普通に話す言葉も、
彼女以外のモノが聴けば命令となってしまうのであろう。

全てを脱ぎ捨てた女の肉体は、辺境の地で生きて来たに相応しく、程よく肉が付き、
手や足、そして腹などにはシッカリとした筋肉が付き、
肌は良く日に焼け、生命力に満ち溢れていた。

「動かないで」

すぅーっと、少女が静かに近づいてくる。
女の目を見ながらゆっくりと。
その吸い込まれそうなほど、美しい瞳を見つめ、女は少女に言われずとも、動けずにいた。

或いは、巨匠と呼ばれた芸術家の絵画を目の当たりにしたした時の心境か?
或いは、何十年に一度の、偉大なる自然現象を見たときの心境か?
或いは、神の奇跡を目の当たりにしたときの心境か?

或いは、死神の振り下ろす大鎌を見た病人の心境か?

何れにしろ、女は少女から目をそらすことができず、その場に立ち尽くしていたので、

「ん!? ん、ん……」

少女の柔らかな唇が、わが身に触れたと感じたと理解したのは、その後であった。
ましてや、少女も同じく、生まれたままの姿になり、肌を重ねあわせてる事など、
気づいている訳も無かった。

「ふふふ、貴方の気持ち、心が、私の中に流れ込んでくる」

少女は嬉しそうに呟く。

いや、言葉を発したのは、『女』の方であった。
『女の口』から『女の言葉』が発せられる。

だが、言葉の‘言霊,は自分の体に優しく唇を這わしている『少女』の‘ソレ,であった。

「わかる? 貴方の心、私の心、それが今一つになっているの」

そう言いながら、―― その言葉を聴きながら ―― 少女は、
ゆっくりと女の胸へと手を掛ける。 

生きてる事を感じさせない真っ白な手が、
良く日に焼け、生命力に満ち溢れた女の両の胸を、揉みあげていく。

「「あっ」アぅ!!」

両者の口から悲鳴が上がる。
真っ白な両の手が一瞬ピクリと振るえ、だが、また女の体をゆっくりと解きほぐし続ける。
少女の手が自分の甘美なところを責め挙げ、蹂躙していき、
徐々に高みへと、押し上げて行くのを、女は、
『両の手のひらの感触』 で感じていた。

(わ、訳がわからなくなりそう……っ!)

現在感じているのは、少女の感覚なのか? 自分の感覚なのか?
それすらも訳がわからなくなるほど、女の身体が疼き、火照る。
少女の白い肌もやはり、薄桃色に染まっていく。

「ではそろそろ宜しいでしょうか、お嬢様」

不意に声をかけられ、女が声の方を向くと執事の青年がゆっくり近づいてくる。
少女は虚ろな目をしながら、だが歓喜に満ちた瞳で、

「こちらに」

女を指差した。

「お喜びください、お嬢様は貴方の事を大層気に入られたご様子です」

優しげな声を耳にしながら女は青年を見つめる。

「「!?」!」

これから何をされるのかという驚きと、コレから来る歓喜に身を震わす
そして、女の‘女としてのセイイキ,の中に、青年の生命のあふれる‘モノ,が侵入してくる。

「「……ー!!」うああっ!!」

悲鳴が同時に上がる。

大きな悲鳴が一つだけ上がった。
今まで感じた事の無い大きな感覚に女は大きく体を揺する。
声になら無い声を上げて、少女が、女の肉体に自身の身体を擦り付けていく。

自身の身体を今まで味わった事もないような大きな生命力が満ち溢れ。
だがそれと同時に、自身の身体が、柔らかな肉体の中を押し広げ、蹂躙していくのを感じる。
オンナの『それ』と、オトコの『其れ』を、女は同時に感じていた。

後ろから、男にオンナを責められ。

後ろから女を攻める男の感触を味わう。

後ろも、前も、口も、両胸を、陰核を。

髪の毛一本にいたるまで、二人ががりで『征服され』
二人を『征服していく』感覚を味わう。

『い、イイっ! アア、だ、ダ、ダメ!!』

口から悲鳴が上がる。

「ア、アアア――!!」

ガクガクト激しく身体を震わせながら、快感の極みに達すると、そのまま力なく、
ガクリと崩れ落ちていった。

‘どう? 貴方は一つになるの,

何かの声がぼんやりとした頭に響く。

‘貴方の思いの全て、夢や希望や願望も,

それは自分の声か、はたまた、別の何かの声なのか?
まるで全身が何かに溶け、意識が暗いくらい夢の中のスープに溶けたように、
全く意識がなくなりかけた中、
だが一つハッキリとわかったことがあった。
その声が何を言っているのか殆ど聞き取る事はできなかったが、
一つだけしっかりと聞き取ることができた言葉があった。

「そして、貴方の欲望も」

その言葉を聴き、

女は口端をニヤリと歪め、

ゆっくりと、夢のスープに溶けていった。

* * *

「珈琲を」

純白のドレスを着た少女が口を開く。
金色の髪が開け放たれた電車の窓からの風を受け、フワリと静かにたなびく。



ある日、ある町で一人の男が死んだ。
部屋の二階で寝ている時に死んだ。
死んだところを見た訳でもなく、
死体があったわけでもない。

ベッドの上に、男の服が、
列車に轢かれて落ちていた。



「かしこまりました」

傍らに立つ青年が頷くと同時に、少女の手に湯気の立つカップが現れる。
それを口に運ぶと、少女は先ほどまでと同じように、列車の外の景色に視線を戻す。



だが、この町の、いや、この世界のニンゲン達には十分であった。

ある日、町から消えた女が列車に乗れたのだろうと、皆が話した。


女は乗れたのだ。

この世界を走る只一つの列車。

―― 欲望 ―― と言う名の列車に。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ