むかしむかしある海岸で…(非エロ)
シチュエーション


「できた!みてみてぼくのおしろ。もちろんリシーがすむおへやもあるからね」
「だめよジョーイ!いっしょにくらすなんて」

リシーと呼ばれたその少女は、横で得意になっている男の子の言葉に
海より碧い大きな目をまんまるにしました。

「どうして?」
「だってドクシンのダンジョがおなじいえにくらすのははしたないことなのよ、ママがいってたもの」

ドクシン? ダンジョ?

春に3歳になったばかりのジョーイには意味のわからない言葉ばかり。
でもリシーの表情から、それがすごーくいけないことだけはわかりました。

「じゃあ、どうしたらいいの?」
「ケッコンするのよ」
「ケッコン?!なんで??」
「だっておはなしのおひめさまだって、まずはおうじさまとケッコンするでしょ」

砂浜に両膝をついたまま、手を腰に置くお得意のポーズでリシーは胸を張ります。
ジョーイはますますわかりません。
ケッコンという言葉の意味はなんとなく知っています。
この間いとこのイザベラおねえちゃんのケッコン式に行ったのです。
真っ白なドレスを着たおねえちゃんはまるで絵本に出てくる天使のようにきれいで、
とっても幸せそうでした。

(リシーもケッコンしたら白いドレス着るのかな…)
(きっとかわいいとおもうけど…)

でもどうしてリシーとケッコンしなくちゃならないんだろう。
ジョーイはただこの大きな砂のお城で、いっしょに遊びたいだけなのです。

二人はいつもいろんなことをして遊びます。
海賊ごっこや探検ごっこ、女の子だけど男の子みたいに木登りをして、
ヒラヒラやリボンがいっぱいついた服が汚れてもへっちゃら。
リシーは一番の仲よしで、一番だいすきでした。
それでも時々、こうやってよくわからない難しいことを言ってお姉さんぶるところはちょっとめんどうでした。
小さな眉間にシワを寄せて考えても、
やっぱりジョーイの頭の中で砂のお城とケッコンはつながりません。

でも、とっても上手にできた砂のお城で遊びたい。
リシーといっしょに遊びたい。
そう思ったジョーイは、自分より少し背の高い女の子を見上げて言いました。

「わかった。いいよ。ぼくとケッコンしよう」

返事を待っている榛色の瞳を黙って見つめる碧い眼がきらきらと輝いたことに、
たぶん少年は気がつかなかったでしょう。
それは瞬きをしたくらいのほんの僅かな間で、
次の瞬間には目の前にいたはずのリシーは砂のお城の反対側に飛びのき
「いや!」
とジョーイに砂をひとつかみ投げつけてきたのです。

訳のわからないこと続きの上、おまけに砂までかけられて、
辛抱強いジョーイもいい加減腹が立ってきました。
負けじと足元の砂をつかんでリシーの方へと投げ返します。

「もうきめたもん!ぼくがおうじさまになったらリシーはおひめさまで、
ぜったいケッコンするんだもん!」

ジョーイ3歳、リシー4歳。
これが初めてのプロポーズでした。






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