女太守と副官
シチュエーション


「閣下……しかし、幾らなんでも今宵というのは、急では?」

ウルフィは、困惑した顔で苦笑いを浮かべている。
その彼を山積みになった書類の隙間から、若い女性が愉快げに眺めている。
彼女が何者であるかは、細い銀髪の合間から突き出る鋭く尖った褐色の耳が雄弁に
物語っていた。

「お前は生娘か?それとも、私が相手だから覚悟がいるとでも」

子供が悪戯を思いついた時のように、真紅の瞳が細まる。
節くれ一つ無い細く長い指先で銀髪を弄びながら、呆然と立ち尽くすウルフィを彼女は
愉快げに見つめる。「閣下」と呼ばれた彼女の方が、二十五歳のウルフィよりも五つか六つ
ばかり若く見える。しかし、それはあくまで外見だけならば──の話だ。実年齢は、五百歳以上
離れている。

「いえ、滅相もない」

口籠もるウルフィを一瞥すると、彼女は笑いながらわざとらしく訊ねる。

「まさか、私に逆らうなどとは言わぬな?」
「それは──ッ」

言葉を失い、口籠もるウルフィを相手は楽しげに眺めている。

「明日から”これ”のせいで集中力が落ちて、執務の能率が下がると”お前が”困るのでないか?」
「……確かに」

痛いところを突くと、不承不承にウルフィは頷く。

「では、決まりだな」

話を一方的に打ち切った彼女は腰まで伸びるしなやかな髪を躍らせながら、さっさと部屋を
出て行ってしまう。一人残されたウルフィはただ首を振って、長い溜息をついた。

◆ ◇◆◇

「ウルフィ=クレナガン。三等書記官です」

黒髪の青年は直立不動の姿勢で促されるままに名乗る。
本人は平静を装っているつもりだが、膝はガクガクと笑っている。
これから彼が臨むのは、命を賭した審問である。少しでも相手が不快に思うようなことが
あれば、明日には彼の首と胴は別々になってしまう。
故に自分の意識とは別に、額には汗が滲み、心臓は早鐘のように打ち鳴らされてしまう。
緊張を隠そうとしても、顔をが強張り、血の気が引いていくのが自分でも分かる。
そして、そんな彼の前に審問者である”敵”は悠然と座っていた。

敵──妖魔は種毎の能力差はあるもの総じて、人間よりも優れた身体能力を有している。また、
上位種は並外れた知性を備え、人間など知る由もない高度な古代魔術にも長けている。
残念ながら、一対一では人間の歯が立つ相手ではない。だから、平和ボケしていた人間が
その領地の半分を彼に瞬く間に奪われたとしても驚くには値しない。
しかし、そんな妖魔にも欠点があった。彼らは繁殖力が極めて低いのだ。
だからこそ、緒戦で痛い目を見た人間は一致団結し文字通りの人海戦術で妖魔の進撃を
押しとどめた。しかし、それでも失地を回復するには遠く及ばず、やがて戦況は膠着を迎え、
長期戦の様相を呈し始めていた。

ウルフィの故郷、オルトス公国バルフォア領は、まさに人間達が呼ぶところの”失地”
──すなわち、妖魔に奪われた領土であった。

「ウルフィとやら、我々は”仲間”を探している」

屈強なオークの衛士を左右に控えさせ、人間の太守が使っていた執務机に座った相手が、
澄んだ声で告げた。その声は妖魔と云えども賞賛に値するほど魅力的なもので、ウルフィも
思わず聞き惚れてしまった。

「侵略し、略奪するだけであれば、我々でも充分足りるが、統治となるとそうはいかない」

さすがに妖魔の指揮官の一人である。その落ち着いた話しぶりからは、横に立つ下等な
オークなど及びもつかない知性が感じ取れる。

「……協力しろと?」
「違うな。お前が役に立つか、どうかは私が決める」

その言葉にウルフィの背筋が冷えた。一方の相手は瞳の色と同じ紅い宝玉の収まった
サークレットを指先で弄りながら、薄ら笑いを浮かべている。今更ながら敗北者とは命すら、
保証されていない存在なのだということを思い知らされる。

「これを読め。これが我々の統治方法だ」

投げ渡された小冊子には、人間の言葉で妖魔の支配のやり方が書かれていた。そして、
それを読むうちに、ウルフィは全身の血が沸騰していくのを覚えざるを得なかった。

「こ、これは──我々を家畜同然に扱うおつもりですか!」

ウルフィは大人しく生真面目な性格で、書記官の中で特に目立つ存在ではない。しかし、
誰よりも領民のためを思い働いてきた官吏である彼には、その冊子に書かれている人を
人とも思わぬ酷い統治方法は到底許せなかった。だから、後先考えずに、反射的に異議を
唱えてしまったのである。

「それのどこが悪い。お前たちは敗者だ。勝者が敗者をどう扱おうと関係あるまい?それに、
私はお前を統治する側に加えてやろうと言うのだ。他人がどうなろうと関係あるまい」
「こんな尊厳を踏みにじるような扱いでは、いずれ人々は耐え切れなくなって反乱を起こす
でしょう!」
「ならば、鎮圧すれば良い。それだけのことだ」
「……ッ!しかし、これはひど過ぎる。民衆が疲弊するのは目に見えているではないですか!」
「それがどうした?疲弊すれば、代わりをつれてこれば良い。代わりがいなければ、
繁殖させれば良い」

口元を意地悪く歪める相手にウルフィは激しい怒りを覚えずにはいられなかった。

「まあ、いい。我々の考えに対するお前の意見は分かった。評価は追ってする。下がれ」

その言葉にウルフィはハッと現実に醒めたが、もう後の祭りだった。

「……分かりました」

ウルフィが一礼をすると、手がヒラヒラと振られる。”さっさと出て行け”ということである。
妖魔の司令官は手元の書類を読み始め、再び頭を下げて退室するウルフィには目も
くれなかった。

それから三日後、結論が出た。
ウルフィは半ば死を覚悟していた。運が良ければ、他の人間と同じく家畜のような扱いで
済むかもしれない。そのいずれにしろ、地獄であることに違いはなかった。

今にも逃げ出したくなる思いを堪えながら、太守の執務室で一人待つ。
程なくして控え室の扉が開き、細身の妖魔の司令官が漆黒のマントを翻して現れる。
腰まで伸びた銀髪は一本一本が絹糸のようにしなやかで、歩くたびに軽やかに揺れる。
そして、その容姿は同じ妖魔であっても豚鼻のオークなどとは比べものにならないほど美しい。
相手がゆっくりと肘掛け椅子に座るまでの間が、永遠の如き長さに感じられる。
妖魔の司令官の血に濡れたような紅い双眸に見据えられたウルフィは背筋が凍り、全身の
毛穴という毛穴から嫌な汗が吹き出た。

「さて、先日の審査の結果だが──」

褐色の肌に映える白い唇を僅かに緩め、浮かべた薄っすらとした笑み。

「……はい」

声が恐怖で掠れる。足元すら覚束なく、視界がグニャリと歪む。

「私に仕えろ、ウルフィ=クレナガン」
「えっ?」
「聞こえなかったのか?私の役に立ってもらうと言ったのだ、ウルフィ」
「ど、どうしてですか?」

ウルフィの口を突いて出たのは疑問だった。

「私はあなた達の計画に反対しているのですよ?」
「フフ……ハハハハ」

よく通るソプラノの哄笑が部屋に響き渡る。

「あんな無茶苦茶な計画で、占領地の統治ができると考えるほど、私は能天気でも、間抜け
でもない」

太守の椅子に座る相手は愉快げに、目を丸くしているウルフィを眺める。

「あれはお前を試したのだ。いや、お前だけではない、他の連中もな。だが、同胞のために
身を張ったのは、お前だけだったな」

すうっと、切れ長の瞳が細まる。

「私は”仲間”が必要だと言った。同族を簡単に裏切るような奴は、異種族など言うに及ばずだ。
分かるな?──お前ならば、我々を易く裏切ることもあるまい」
「……」
「統治するにあたっては、相手側の文化、慣習、論理を熟知しなければならない。そうでなくて、
どうして統治などできようか。圧政も良いがいずれ反発を招く。我々にはここで無駄に血を
流すつもりはない。良いな、ウルフィ=クレナガン。貴様には、領民の懐柔に一役買ってもらうぞ」

呆然自失のウルフィを前に、相手はニヤリと笑う。

「私の名は、ダークエルフ族のメトラン。妖魔王様の第六師団を任されている」

銀髪の数条を尖った耳に掛けると彼女はそう名乗り、ウルフィの前に歩み寄って手を差し伸べた。

◇◆◇◆

その後、ウルフィがダークエルフの女太守のもとで民衆の統治に携わって二年が経った。

最初は妖魔の支配者を怖れていた領民も、メトランの治世が驚くほど公平で
配慮の行き届いたものであったことから、今では彼女を慕う者が増えてきている。
中には、人間の領主よりも良いと言い出すものまで出る始末だった。
そこにはメトランの知性と英断に拠るところも多くあったが、ウルフィが人間の
慣習や文化を踏まえ、異種族の為政者が反感を買わぬようきめ細かな気配りを
絶やさなかった功が大きい。
メトランもまた、そんなウルフィを信頼し、副官にまで取り立てた。異例の抜擢だったが、
生真面目なウルフィはそれに応える働きぶりを見せ、メトランの期待を裏切ることは
なかった。
そんなある日のこと──午前の政務が終わり、ほっと一息ついた時に、余人を交えず
話がしたいとメトランから声が掛かった。
人払いがなされ、大柄なオークの衛士すら追い出されてしまった。

「なんでしょうか?」
「ああ、大したことではないのだが──実は私は今、五十年に一度の生殖適応期を
迎えている」
「……ええっと、あの──それは?」
「簡単に言うとだな、私は男女の交わりを渇望しているということだ」

あっけらかんと、まるで今日は雨が降っていますよ、ぐらいの軽い感じでメトランは
とんでもないことを告げた。むしろ、聞いているウルフィの方が赤面してしまう。

「これまでは、同族かトロールの男どもに相手をさせていたが、残念ながら手近に
適当なのが見つからない」

トロールは、サイズ的には人間と同じだが額に短く突き出た角を生やした
上位妖魔である。オークをも凌ぐ屈強な肉体と強力な魔術を操るその能力は
人間にとって脅威以外の何ものでもなく、一匹で一国の騎士団を壊滅させたものすら
いるという。彼らであれば、ダークエルフのメトランを相手にしても遜色ない。

「というわけで、お前に白羽の矢を立てた。今宵、付き合え」
「か、閣下──私は人間ですよ?」

メトランに異性としての魅力を感じないわけではない。むしろ、ウルフィとしても日に
日に募っていく淡い感情にどうやってケリをつけるべきなのか煩悶していた。理知的な
美貌のダークエルフの女太守──人を困らせることが好きな点はいただけないが、
それでもそれも含めて彼女に魅かれていっていることぐらいウルフィも自覚していた。

「知っている。人間だったな、ウルフィ」
「……ええ」
「で、それが何か重要か?人間は器官上は、我々やトロールと同じだ。サイズ的にも
問題ないだろう」
「サ、サイズ?」

メトランはわざとらしく頷く。

「冗談ではないぞ、ウルフィ。オークなんかを相手にした日は、こちらの股が避けて
しまうし、ゴブリンなどではあまりに小さくて相手にならん。そもそも、ああいう醜悪な
連中を相手にする趣味など、私には無いが、な」
「はぁ」

気の抜けたウルフィの返事に、メトランの眦が釣りあがり、細く形の良い眉が顰められる。

「お前、私の話を軽く考えているだろう?」
「えっ、いや!」

必死に首を振って、弁解しようとするが、間髪入れずメトランが続ける。

「私だって、生殖適応期が来るのは憂鬱なのだぞ!こう腹の奥が疼くというか、熱くなって、
おまけに身体の到る所が敏感になって、集中力が削がれて、仕事が手につかなくなる。
なにかにつけて面倒で、厄介なのだ!」

かなり真剣な様子でメトランは不満をぶちまけ、長い溜息を吐く。滅多に見せない
その仕草から想像するに、自分が思っているよりも相当深刻なのだ、とウルフィは悟った。
しかし、幾らなんでもこれはあんまりだ、とウルフィは思う。定期的に訪れるどうしようもない
性欲を解消するため”だけの”相手──と暗に言いたげなメトランの口調は彼を気落ちさせるに
充分過ぎた。

が、やはり──ウルフィはメトランに勝てないのだ。

◇◆◇◆

ドアを開けて、中に入ると豪奢な家具が目に飛び込んでくる。全てに見事な装飾が
施され、随所に惜しみなく金をあしらったそれらに、ウルフィは思わず”ほう”と唸ってしまう。
ここは元領主の私室で、それをそのままメトランが使っている。ただし、今の太守は
五つもあった太守の部屋のうち一つしか使っていない。残りは、他の部下に割り与えられて
いるから、その分、現太守の方が慎ましいと言える。
この部屋の右隅には、レースの天蓋が付いた三人ぐらいは楽に眠れる大きな寝台が
置かれている。天井から吊り下げられた薄い布越しに片膝を立て、もう一方の脚を真っ直ぐ
伸ばした姿勢で座っている褐色の人物が透けて見える。

「……閣下」
「遅かったな、さっさと来い」

迷いや恥じらいの伺いしれない応えに、ウルフィは緊張していた自分の方が馬鹿に思えてくる。
長い毛足の絨毯のフワフワとした感触も相俟って、地に足のつかぬままウルフィは寝台の
横まで歩み寄る。白い布地の向こうの人物は身動ぎもせず、ただ座っていた。
ドア際からでは見えなかった女性らしい胸や臀部の膨らみ、優美な曲線美を描く身体のラインが
影としてくっきりと浮かび上がり、ウルフィは見惚れてしまう。

「どうした?」
「い、いえ。失礼致します」

怪訝そうなメトランの声にウルフィは現実へと帰り、二人の間を遮る布地を押し開ける。
そこには、美の女神ですら嫉妬せずにはいられないほどの見目麗しいダークエルフの女が、
生成りのシーツに腰を下ろしていた。
彼女──メトランは薄いシルク地の布を纏ってはいるが、それも胸と局所を隠すだけという
あまりに扇情的な衣装だ。そして、惜しげもなく晒された褐色の肌が蝋燭の灯りに艶めかしく輝く。

「少しは見直したか、ウルフィ?」

「見直す、とは?」
「誘いを断られかけたのはお前が初めてだ。お前のせいで、私は自分の容姿に自信を失いかけた」

メトランは愉快げに笑う。すると胸の二つの膨らみも軽く揺すぶられる。着痩するのか、
意外と量感のあるそれにウルフィの目は知らず知らずのうちに奪われる。

「人間と言う奴らは、つくづく変わった連中だ」
「申し訳ありません」

別に何が悪いわけではないものの、頭を下げてしまったのは副官故の職業病だろう。

「……違うな、お前が変わっているだけか。まったく、面倒な奴だ」

わざとらしく、ウルフィに聞こえるように息を吐く。

「まあ、いい。さあ、上がって来い」

婉然としたダークエルフの美女は、ゆっくりと人間の副官を手招く。

「し、失礼致します」

靴を脱ぎ、ウルフィは気後れしながらもベッドに上がる。その姿を眺めながらメトランは
腰をそっと浮かし、スペースを空けた。

「……閣下」
「心配するな。お前は何もしなくて良い」

何とも豪気な台詞を吐くと、メトランはウルフィの両肩を掴み、まるで豹の如き俊敏な
動きで寝台の上に押し倒す。目にも留まらぬ早業である。ウルフィの腰の辺りに
馬乗りになったメトランは、相手を見下しながら白く冷めた唇を緩める。

「しかし、本当に生娘を犯すような気分だな」
「閣下、それはあまりにも──」
「安心しろ。生娘を犯したことはないから、あくまでも勝手な想像だ」

そういう意味ではないと思ったウルフィだったが、ここは黙っておくことにした。
そんなウルフィを尻目にメトランは相手の纏っている服のボタンを次々と外していく。
されるがままのウルフィも手馴れたものだ、と感心してしまう。

「経験がご豊富ですね」
「冗談は止せ、ウルフィ。まだ、二十回目だ」

どこが、”冗談は止せ”なのだろうか、と思いつつ、このまま主導権を握られっぱなし
というのも何だか悔しくて、ウルフィはそっと主人の腰布に手を掛け結ばれた紐を解く。
その動きを察したメトランがニヤリと笑う。

「ほう、やっとその気になったか、この堅物」
「あまり、お世話になり過ぎるのも失礼かと存じまして。しかし、際どいご装束ですね」
「普段は眠るだけだからな、極力邪魔にならないものが良い。眠るときも、執務服を着る
ようなお前のような堅物と違って、な」

冗談交じりにウルフィの生真面目さを詰りながら、彼女は目尻を下げて心底楽しそうに
笑う。そんなやり取りを交わすうちに、ウルフィもメトランも一糸纏わぬ生まれたままの
姿になる。二人の肌は対照的で、ウルフィは日に焼けたことのない青白い肌、メトランは
闇の一族の証である褐色の肌。

「……さてと、そろそろ始めるか」

「ええ」

あまり乗り気ではないウルフィだったが、こうなっては止む無く頷くしかない。
それを確かめるとメトランはいきなり、しなやかな指でウルフィの男性器を握った。

「ッ!?」

柔らかく包み込んだそれをメトランはゆっくりとした動きで上下に擦りあげる。
しっとりした彼女の掌の感触だけでウルフィの雄の器官は隆々と立ち上がってくる。

「ふふん。朴念仁でも反応するものなのだな、勉強になった」
「…………うっ、わぁ」

だんまりを決め込んだウルフィだったが、性器の先端をメトランの指でねっとりと
撫ぜ回されるとると、堅く引き結んだつもりでも口から声が漏れてしまう。そして、
彼女はとどめとばかり指の腹で鈴口を軽く叩き、先端から滲み出た先走りでイヤらしい
糸を何度も引かせる。

「アハハハ、お前がそんな声を出すとは思わなかったぞ」

甚振り甲斐のある獲物を見つけた猫のように、彼女は獰猛な笑みを浮かべる。
それからタップリと、ウルフィはメトランに嬲られた。血管がゴツゴツと浮き出た
裏側を刷毛で掃くかの如くなぞり上げられ、先端の突起は掌で包み込まれると
絶妙な力加減で捏ね繰り回される。ウルフィ自身の分泌液とメトランが垂らした
唾液で濡れたペニスは痛い程に隆起し、チリチリと焼けるような堪え難い感覚に
蝕まれる。

「さてと、そろそろ良いか」

身悶えして、ぐったりと疲れ切ったウルフィを横目にメトランはペニスに手を添え、
そこ目掛けて腰を下ろそうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……なんだ?」

そろそろというところで止められたメトランは不満を隠さず眉根を寄せて答える。一方の
ウルフィは上半身を起こして逃げるように後退りしたお蔭で、メトランの手から自分のモノを
スルリと引き抜くのに成功した。

「あの──その……い、挿れるんですか?」
「人間の男女の交わりは、挿れないで済むものなのか?」

ウルフィの言葉に対してメトランは苛立たしげに返す。

「いえ。しかし、この状態で交わって痛くはないのですか?」
「……痛いが、それが何だ?仕方ないだろ、そうしないと疼きが収まらないのだから」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

獲物を追い詰めるようににじり寄ってくるメトランをウルフィは押しとどめる。

「何だ!どういうつもりだ!ウルフィ!」

少し癇癪気味にメトランが叫ぶ。

「ええっと、あの──できれば人間のやり方でさせてもらえませんか?」
「えっ?」
「ダメでしょうか?」

暫く探るようにウルフィを眺めた後、メトランはプイと横を向いて「勝手にしろ」と呟いた。
メトランには疼きさえ収まるなら何でも良いという思いが少なからずあったのだ。
それほど彼女にとって、生殖適応期の身体の変化は煩わしいものだった。

「ありがとうございます。では、閣下、横になって頂いても宜しいでしょうか?」

彼女はウルフィの言葉に従ってベッドに横たわる。白いシーツに褐色の裸身が映える。

「……ふん。、これで良いのか」
「結構です、閣下」

ウルフィは負担が掛からないように、メトランのキュッと括れた腰の辺りに膝立ちになる。
これで先ほどまでと姿勢が逆転したことになる。ウルフィはメトランを見下ろし、彼女は
自分の副官を見上げていた。

「上官を見下して、良い気分か、ウルフィ?」

棘のある言葉に、ウルフィは苦笑することしかできなかった。

「そんなつもりは毛頭ありません」
「ああ、そうか──どちらでも良いから、さっさと終わらせろ」

気の無いように答え、横を向きメトランは短い溜息を漏らす。
しかし、ウルフィは彼女の言葉に反して、まずメトランの柔らかな銀髪の指どおりを
確かめながら優しく撫でる。その行為にメトランは身をビクリと震わせ、眦を吊り上げて
ウルフィを睨みつけた。

「な、何のつもりだ!?何をしている!」
「えっ──いえ、これが人間のやり方でして……」
「髪に触ることに何の意味がある?こんなことをして、どうやって私の疼きを満たす
というのだ!?」
「ええっと、言葉で説明するのは難しいので、今しばらくお時間を下さい」
「……くっ──好きにしろ」

言い捨てると、再びメトランはプイと顔を背ける。
困った表情をしながらウルフィは数回メトランの髪を梳った後、彼女の首筋を掌で
撫ぜる。

「!?」

今度もまた慣れない刺激に戸惑いはしたが、メトランは唇を噛み締め何も言わない。
首筋、肩、鎖骨と辿り、薄っすらと骨の浮いた脇腹を確かめ、そっと胸の盛り上がりへと
ウルフィは手を伸ばす。こんもりと盛り上がった柔らかな膨らみは、均整が取れ、
その頂には桜色の控えめな突起がのっている。ウルフィが下側から掬い上げると乳房は、
従順に指を受け入れて形を変える。

「……んっ」

浅い吐息が、メトランの口元から漏れた。彼女の瞳は固く閉ざされ、折り重なった睫毛が
時折微かに震える。だらりと投げ出されていた手に力が籠もり、長い指はシーツを握り
締めていた。
断続的に聞こえる微かなメトランの喘ぎが、ウルフィの欲情を加速させていく。
ウルフィは左手で褐色の乳房を捏ねながら、もう一方の手で腰の湾曲したラインを辿り、
薄っすらと汗の浮いた肌理の細かいメトランの肌の感触を掌で堪能する。
魅力的な身体のラインと女性らしい豊かな膨らみが合わさったメトランの肉体にウルフィの
心は虜になってしまった。
やがてウルフィの手が薄っすらと生えた柔毛を撫で、閉ざされた股間に滑り込んで肉つきの
良い太腿を押し開く段になって、初めて慌てたメトランが様子で目を見開く。

「ウ、ウルフィ!」
「何でしょう、閣下?」

先ほどまでとは、立場が逆転してしまったな、とウルフィは苦笑する。

「……に、人間はこんなにも時間を掛けるのか?」
「ええ。お望みなら一晩中でも」
「そんなに時間を無駄にできるものか!」

込み上げて来る笑いを堪えながら、メトランが堅く閉ざしている両脚の隙間にウルフィは
右手を差し込む。

「ッ、あ!ぃ──やぁ」

短い悲鳴と共に、メトランが首を左右に振る。すると銀色の髪が光芒を引きながら、
数条、汗ばんだ首筋や額に纏いつく。さっきまであれほど明け透けだったにも関わらず、
メトランは今や恥じらいの色さえ浮かべていた。
ウルフィが手を滑り込ませたそこは、じっとりと熱く潤みを帯びていた。それを確かめた
彼は無意識のうちに、安堵の溜息を吐いていた。
一つは、ダークエルフでも人間と同じく性的に興奮するという自分の見立てが間違って
いなかったこと、そして、自分がメトランの情欲をある程度、昂ぶらせることに成功した
という達成感からである。
むっちりとした両腿に挟まれてはいたものの、僅かに自由が効く指先で愛撫を続けると
くちゅ、くちゅりと淫猥な音が部屋に響く。

「な、な……」

言葉にならない驚愕の声を上げたメトランは慌てて口元を手で抑える。今まで知らなかった
感覚に、彼女自身戸惑いを隠せないのだ。

「……んっ……ん、くっ……」

だが、抑えた指の隙間から、徐々に鼻にかかった喘ぎが漏れ出すのに時間はさほど
かからなかった。意外に可愛い、と不覚にもウルフィは思ってしまう。年齢差にして五百歳以上、
ダークエルフと人間、征服者と被征服民──そして、普段の傲岸不遜なメトランをよく知るだけに、
そんな想いをまさか抱くとは思ってもみなかった。

「ぁ、ん……んんぅ」

堪えようとしても漏れ出すメトランの声にそそられ、ウルフィは半ば強引に彼女の
閉じ合わさった両脚を割り開く。一度鋭い眼光を放って睨みつけたメトランだったが、
結局は何も言わないまま、大人しくウルフィの行為を受け入れた。
これは後が怖いな、と思いながらも、ウルフィは眼前に曝け出されたメトランの秘所を
見つめる。そこは人間のものと変わらない形状で、人間のものより鮮やかな桜色をして
いた。膣口から溢れ出るぬらぬらとした愛液で濡れそぼり、ウルフィを誘うように妖しく
ヒクついていた。
そして、そこに迷わずウルフィは口付ける。

「……お、おい!……あぁ、うぁぁ、はっ」

強力な刺激が背中を伝って這いずり上がり、彼女の理性を奪い取る。
生殖適応期の度にメトランは何度も異性と交わってきた──それにも関わらず、この人間の男は
これまで一度として味わったことの無い強い感覚を呼び覚まし、彼女の心を掻き乱す。

「こ、こら、ウルフィ!お前、どういうつもりだ!?」
「はっ?」
「人間どもの遣り方では疼きが、全然収まらんではないか!むしろ、ますます
酷くなっている。いい加減にしろ!」
褐色の頬を上気させながらも、細い眉を吊り上げてウルフィを睨みつける。
「──私は、この疼きが収まればそれで良いのだ!意味のないことは必要ない!」

暫し、視線を交わした後、不承不承ながらもウルフィが小さく頷く。

「分かりました。恐らく……もう大丈夫だと思いますから」
「何が、だ?」
「いえ、こちらの話です」

不可解そうに見つめるメトランの視線を無視して、ウルフィは自分の硬くなった性器を
桜色の割れ目に宛がう。その先端が触れた瞬間、メトランの身体が一度小さく震える。
それでも簡単にはメトランの”そこ”はウルフィを受け入れてはくれなかった。メトランの
言葉に間違いがないとするならば、彼女が他人を受け入れたのは前回の生殖適応期である
五十年前、そして、それから次の生殖適応期──すなわち、今日までの間一度も性交渉が
なかったことになる。当然、秘部は”慣れ”を失い、未経験に近い状態にまで戻っていても
おかしくない。
だから、ウルフィはそしてすぐにでも突き込みたいという欲望を必死に抑えつつ、少しずつ
自分をメトランの内側に埋めていった。そこは彼の予想通り激しい締め付けのもてなしが
待っていた。一方でその内側は柔らかく温かな秘肉が充溢し、奥から溢れ出てくる愛液が
ウルフィのペニスに絡みつく。

「……くっ、ううぅぅ」

苦しげに目を瞑り、喘ぎというよりは苦悶の呻きに近いものを漏らす上司の姿をウルフィは、
申し訳なさげに見守る。先っぽだけでもこれでは、全部どころか半分収めるのも無理かも
しれない、と彼は感じる。
だが、理性と裏腹に腰はじわりじわりと勝手に動き、その度にメトランが壊れたふいごのように
声にならない息を漏らす。気遣わなければと分かっていても、ウルフィのオスの本能がもっとこの
ダークエルフの美女の内側に突き入れろと喚きたてて、どうしようもないのだ。

「んんんっ、あああ!!!」

ついに根元までメトランの中に収まった瞬間、堪え切れなくなった彼女の口から声が迸る。
それと同時に彼女の細身が微かに跳ねる。
身体を裂かれるようないつもの痛みとともに、メトランは痺れにも似た甘美な感覚があることを
薄れかかった意識の中で感じ取った。今日は驚くことばかりだ、と彼女は内心で自嘲する。
そして、メトランは自分を組み敷いている誠実を画に描いたような男の顔を眺める。
一方のウルフィもまた、身体を重ねているダークエルフの美女を改めてまじまじと見つめる。

普段は圧倒的な自尊心に満ちた光を放つ紅い瞳は、焦点が定まらず胡乱なままウルフィを
見つめていた。白い唇はわなわなと震えながら、漏れ出しそうになる何かを必死に堪えている。
銀色の髪の隙間から突き出た鋭く尖った耳も時折ビクりと跳ねる。

「はっ……はっ──あっ、はっぅ」

荒い呼吸に併せて、形の良い乳房が上下する。

「痛みますか?」

括れた腰を優しく撫でながらウルフィが訊ねる。

「……っ、う、煩い!」

言っている内容はきついが、口調は弱々しい。
ウルフィは掌を円を描くように引き締まった腹部を撫で、それから少しずつ上へと移動させる。

「これぐらい──お、お前に心配されるまでもない。さっさと、出すものを出して済ませろ!」

妖魔のエリート相手に被征服民である人間の自分が同等の立場に立てるとは思わないが、
こんなことをしているのだから、もう少し──こう、何かが芽生えるものがあってもいいのではないか、
というウルフィの淡い期待は今の一言で見事に打ち砕かれた。
がっくり肩を落とすが、それでも失意のウルフィはメトランに配慮し、すぐに抽挿を始めるのではなく、
労わるようにメトランの身体を愛撫する。

「こ、こら!いつまで、そうやって私の身体を触っているつもりだ……んっ!」
「いきなりですと、やはり負担が掛かりますので──」
「何を言って……っぁ、んん、言っている!?」
「人間の場合は──ですけど」

わざと惚けた口調で誤魔化してウルフィはメトランの胸を捏ねる。それだけでは飽き
足らず、上体を倒して舌先で桜色の蕾みを口に含む。

「んぁあ!な、何を考えているんだ、ぁあ……ウルフィ!そんなところ……くっ、ぁ──
舐めても何も出ない!」

別に出るとは自分も思わない、と応えることすらもどかしく、ウルフィは含んだ乳頭を
啄み、舌先で器用に突き、時に押し潰し、焦らす様に舐め上げ、そして優しく吸い上げる。
その度に、メトランの内側に入ったウルフィの男性器は甘く締め付けられる。
丹念な愛撫により、メトランの奥からは次々と蜜が溢れ出て、襞が彼女の意思とは無関係に
侵入した異物をさわさわと撫ぜる。意識的か無意識かは別にして、それは間違いなくウルフィの
行為に悦んでいることを意味していた。
暫くそれを続けた後、ウルフィはゆっくりと上体を起こし、メトランの太腿に手を絡める。
そして、それが始まりの合図だった。

「……やっと、その気になったか」

疎ましげに答えた自分の声が、まるで違う他の誰かのもののようにメトランには聞こえた。

「お待たせしました」

返事と同時に律動を始める。
最初は、浅く弱くゆっくりとしたペースで動き出す。
ギチギチとした締め付けは相変わらずだが、滾々と湧き出る愛液が潤滑油となり少しは
動く余裕がある。

「ぁっ……っぅ……はっ、ぅ」

鼻にかかった甘い嬌声がメトランの口から零れるのに、そう時間は掛からなかった。
痛みに混ざりながら、はっきりと感得できる性交の快楽に彼女は戸惑いを覚えていた。それ
をウルフィに悟られないように、シーツに爪を立て自制心を保持する。しかし、弱く遅いペース
ながら、ウルフィの動きは少しずつメトランの理性を追い詰めていく。

「んんぁぁ、はぁ……ぁう、ウルフィ」

知らず知らずのうちに、彼女は副官の名前を呼んでしまう。呼ばれたウルフィは動きを一旦止め、
メトランの顔を覗きこむ。

「──はい」

こんな時も気真面目な奴だ、と頭の片隅で思いながら、黒髪黒目の到って普通な副官を
ボンヤリと眺める。すると、散々見慣れたはずの顔なのに、今まで感じたことがない感情が
込み上げて来る。それは擦り切れそうな甘い痛みで心を掻き毟り、メトランをどうしようもなく
落ち着かない気分にさせる。

「こ、これは何だ?」
「はぁ──ええっと、人間が行う性交です」
「これは何かの術か?」
「と、申されますと?」
「いつもは酷い痛みだけだが、今日は痛み以外にも何かを感じる。これは一体何だ、ウルフィ?」
「不快な感覚ですか?」

メトランは弱々しく首を振る。

「違う──だが、私には分らない。上手く説明できない」

すると、ウルフィが安堵の表情と共に微笑を浮かべる。

「そうですか。不快でないならば何よりです」
「どういう──意味だ」

訝しげに訊ねるメトランに今度は、はっきりとウルフィが笑顔で応える。

「普段は痛いだけなのでしょう?それが少しでも紛れたならば、人間のやり方でやった
甲斐があったというものです」
「……」

中断された抽挿が再開され緩やかだった律動も徐々に速度を増し、彼女の奥まで
突き上げる頃になると、互いの荒い呼吸だけが静まり返った寝室に木霊するようになった。
二人とも一心不乱に、快楽を貪ることに没頭している──もっとも、メトランはまだそれが
”女としての悦び”だとは知らなかったが。
そして、その時はやって来てた。
ウルフィの性器がメトランの身体の奥に突き込まれ、彼女の細い身体が弓なりに反る。
あまりに強い刺激に特徴的な耳をヒクつかせ、髪を振り乱しながら必死に悶える。彼女の中で
渦巻いていた昂ぶりは限界を迎えた。

「っ……ぁん、ウ、ウルフィ──く、来る」

半ば手放し掛けた意識の中で、うわ言のようにメトランの口から言葉が零れ出る。
と同時に膣壁が収縮し、突き込まれた男性器を離すまいと締め上げる。
その強烈な刺激にウルフィもコントロールを失い、込み上げる欲望のままに
解き放ってしまう。

「っう……ぅ」

奥歯を噛み締めたウルフィの口から短い呻きが漏れる。
ウルフィの性器は熱い精液を吐き出し、メトランの内側はそれを最後の一滴まで
搾り出させようと柔々と包み込む。二人は暫く、身体を重ねたまま互いの温もりを
感じあっていた。

◇◆◇◆

だるそうに肢体を寝台の上に投げ出すメトランをウルフィはそっと眺める。
並んで横になった二人の間に僅かな隙間があるのは、主従の遠慮からである。いくら、
情を交わしたと云えども、ウルフィにとってメトランは征服者であり、そして上司であることに
変わりは無い。
その彼女は太陽を仰ぎ見る時のように額に前腕をあて、まだ整わぬ荒い呼吸を繰り返して
いる。時折、突き出た耳が小刻みに痙攣しているのが愛らしく見える。
あまりに魅惑的なメトランの姿にもう一回──という邪な気持ちがウルフィに無い訳では
ないが、これ以上調子に乗ると、彼女の性格からして手痛いしっぺ返しを喰うに違いない、
と必死に自重しているのだ。
そのため、こうやっていては間が持たないと感じたウルフィは水でも飲もうと身を起こした

──その瞬間、手首に細い指が巻きつき、引き留められる。

「ウルフィ」
「か、閣下!?」

まだ、情交の余韻にまどろんでいるのか、と思われたメトランに呼び止める。

「……だるい。酷くだるい」
「は、はぁ」
「いつもは痛みは残るが、こんな気だるい感じはしない。どういうことだ、説明しろ」

詰問口調だが、メトランの声にはどこか先ほどまでの余情が残っていた。

「あの、人間のやり方ですと──そうなるのが普通なのです」
「……」
「嘘じゃありません。そういうものですから」

それでも訝しげに睨みつけるメトランから強引に目を背ける。別に、嘘はついていないのだが、
何だかウルフィは逃げ出したい気分だった。

「いずれにしても、これでは明日の政務は取り止めだ。だるくてかなわないから、な」
「そ、そんな閣下!未決裁の書類があれほど──」
「知らんな。大体、お前が自分で言い出したのだろ、”人間のやり方でやりたい”と」

明日のことを考えてうろたえるウルフィを、メトランは目を細めて、悪戯っぽい笑みを
浮かべる。

「私は休む。明日はお前が私の分も働け」

そう言うと彼女は掛け布に包まり、ウルフィに背を向け目を閉じた。






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