翼或鬼異聞<後編>
シチュエーション


あの日、私が神山と交わした契約。

『その身が滅するまで人間の天敵と闘い続ける
盾となり、剣になりなさい

私の下僕になるなら貴方に命をあげる』


命を助ける代わりに、その身を捧げ使役する。
神々の現し世での器、人という身でありながら
畏怖と戦う唯一の力を持つ事が出来る
異形の戦士”神降ろしの形代”として生きる事。

それが命の代償。

その日から神山司狼は、
私が「畏怖」と対峙し続ける限り戦い続ける隷属の徒となった…筈だった。

ただ、私の中の一族の血がすっごく薄いせいで従順な下僕にする予定が
少々、狂った、訳ですが…


神山はぐるると喉を鳴らしながらその大きく裂けた獣の口を開いた。

「我が主よ、御命令を」

声色は彼のそれだけれども、口調は全然違う。
彼の体には私達の一族を守護する数多の獣神の内の1柱、
地の神・狼丸の魂が宿っている。
今彼の喉を震わせているのは狼丸なのだ。

『痛ーっ…体が作り替えられんのは何回やっても慣れないなぁ』

同じ声色でまた彼が口を開くが、こっちは神山本人の言葉だろう。
今、神山の体の中には狼丸と神山司狼の二つの人格が存在しているのだ。

人だった時よりも体が二回り位大きくなり、筋骨隆々としている。
獣の顔が人語を話す奇異にも慣れたつもりだったけど、こうやって至近距離で
それを見ると、やっぱり未だに不思議だ。
声帯だって人のそれとは違うだろうに…と私がまじまじと見てると
目の前の獣はその視線に困ったように人の姿だった頃と同じように少しだけ片眉をあげた。
毛むくじゃらの犬面なので表情はよくわからないけれど、そう見えた。

『ご主人サマー?早く片づけないと人が来るよー?』

抱えたままだった私を水飲み場の上に座らせて、
神山だった獣はニヤリと鋭い歯を剥いて笑う。

そうだった、何度見ても不思議な神降ろしに気を取られていたけれど、
今は緊急事態でした。
水飲み場の上に立ち上がって、畏怖に向き直ると両手を翳し精神を統一する。

畏怖の弱点を感じられる事
鬼の血が薄い私が使える数少ない能力だ。
ただし、すんごい集中しないと出来ないんだけども。

『なー、早くーめいれーしろよ。こんなデロデロの奴相手にすんの初めてなんだからさー』
「司狼、貴様はまだ主様にそのような口の聞き方しておるのか!」
「………」

集中…集中しなきゃ…無視よ、無視無視!

『えー、だって椿さんはクラスメイトだしー?今更無理っしょ。
いいじゃん、今は体半分犬太郎が傅いてんだから』
「我の名は狼丸じゃ!誰が犬太郎ぞ!ただの肉の器の分際で神をも愚弄するか、司狼!」
「二人ともうっさい!精神集中出来ないでしょ!喧嘩なら脳内でやりなさい脳内で!」

私が水飲み場に立ったせいで見下ろす形となった狼頭に
思い切りグーでゲンコツを落とした。
なんか狼丸も最近神山の影響からかすっとぼけた性格になっている気がする。

そうこうしている間にも、私達の周りを取り囲むように
ゲル状の畏怖がヌラヌラと泥寧のように広がっていく。
ただ先ほどまでとは違い己が天敵である獣神を前にして
不用意に襲ってくる真似はしてこない。
円を描くように間合いをとりこちらの様子を伺っているようだ。
改めて気をこめて畏怖に手を翳すと、ある一点で手のひらにジクリと痛みが走る。

あそこだ!

「右奥の泥濘の中にひと際強い念の塊を感じる!
きっとこの畏怖を形成している核があるわ。そこ中心を攻撃して」
「承知!」

言うが早いか、神山は右手を目の前の畏怖に振り上げた。
無尽蔵に広がっていた畏怖が潮が引くように後ずさる。
次の瞬間、獣の雄叫びをあげ神山は畏怖の中に飛び込んでいった。
まるでサバイバルナイフのような鋭利な獣の大きな爪が
無尽蔵に広がった畏怖を滅多切りしていくと、それは断末魔の叫びをあげて蒸発していく。

『何だ、大きさの割に対して強くもないな。トロくてモロい』

意識と実体をもっているとはいえ動きの遅いゲル状の畏怖は、
素早い獣神・狼丸の敵ではなかった。
あっという間に畏怖は当初の半分ほどまで小さく削られた。

その圧倒的な力の差に形勢不利と判断したのか逃走を図ろうと畏怖は
再び這いでてきた地面の割れ目に戻り始めた。

「むっ!逃げるか!」

地面の中に戻られると、再び地上に現れるまで待つしか
もう倒す方法はなくなってしまう。

大きな泥だまりのように動かなかった畏怖が
堰をきったように割れ目に流れ込み始めると、
ドス黒い物体の中に赤く光る小さなゴムボールのような固まりが覗いた。
その赤い塊が一際濃い瘴気を放っているのを私は見逃さなかった。

「割れ目に入っちゃう!あの赤いのを狙って」
『よっしゃ!あれだな!』


それは一瞬だった。
身構えた神山の両手が勢いよく空を斬る。
その瞬間、畏怖の泥の闇が一直線に斬り裂かれた。
そして地面を蹴り上げた影は一気に裂け目の末にたどり着き、
核を守らんと分厚く重なる泥寧の中より強引に畏怖の核を奪い取った。
核の周りにはまるで眼球に絡まる血管のように
畏怖の枝葉が纏わりついていたが無理やり引き千切る。
ブチブチと嫌な音がして核を引き剥がすと、畏怖は意志を失い絶叫をあげた後、
そのままドロリと固まったまま動かなくなった。

「滅せよ、異形め」

赤くまがまがしい光を放つ核を神山は思い切り爪をたてて握り潰す。
核はぶちゅりと気味の悪い音を立て潰れ、赤黒い液体を神山の右手に滴らせた。
その途端、辺りを包んでいた禍々しい気配は消え去り、
先程までと同じ、わんわんと蝉の鳴く蒸し暑い夏の午後に戻った。

「……やった…の?」

張り詰めていた空気が緩むのを感じ、私は大きく息をついた。

畏怖がいる場所には、どのような生物も本能的に恐怖を抱き近寄らない。
全ての生きとし生けるもの天敵である畏怖の気配を感じる事が出来ないのは、
生物としての色々な本能が薄れた人間位だ。
だから畏怖は容易に捕らえる事の出来る人を襲い、喰らう。

こうしてまた蝉がやかましい位に鳴いているという事は、
どうやら今回の畏怖も私達はきちんと始末出来たという事のようだ。

『……うぉおおおお、汚いぃぃぃ。何か臭いし』

何か喚く神山を見れば己の右手にまとわりつく赤黒い液体に愚痴を漏らしていた。

「仕方ないわよ。悪意の塊はヘドロみたいなモンなんだから、汚いわよ。」

畏怖を形成していた泥寧と同じような粘質を持ったそれに神山は、
耳を逆立て尻尾をパタパタさせて嫌がった。
悪臭を放つそれに大きな口をパクパクさせ、鼻をキュウキュウ鳴らして嫌がる
その様子は子犬の様で、先程まで咆哮をあげていた
恐ろしい人狼の表情とは全然違っていて、
私は思わず吹き出してしまった。

「アハハハ、そうしてると狼丸って本当に犬みたい」
「主様!狼丸は狼にございます、主様まで
人なぞに飼い慣らされた犬如きと一緒にしないで下さい」
『狼飼ってると犬になるんだろ?一緒じゃないか?』
「違うと言っておろう!貴様も一緒にするな、司狼!……むっ、誰か来る」

耳を欹てた神山が校舎の方に向き直ると、緊張が走った。

「何だ?そこに誰かいるのか?」

校舎の方から人の声。やばっ、見回りの先生か?それとも用務員?

「まずいっ…隠れなきゃ。神山こっち!」
『え?この畏怖の死骸どーする…』
「馬鹿!今のあんたが見つかる方がもっとマズいの!こっちこっち」

まだ大量のヘドロ化した畏怖の残骸とか残ってたけど、それどころじゃないし!
用務員さんには悪いけど、
これは謎のヘドロ投棄事件という事で後始末お願いしますっ。
えーっと、ここより人目に付かないって言うと…旧校舎?
私は神山の手を引っ張って、今はもう使われていない旧部室長屋まで走った。



3年前からほとんど使われなくなった木造の旧校舎は、玄関こそ鍵がかかっているけど
一階に並んだ教室の窓のいくつかは施錠されていない事は生徒達の間の公然の秘密。
たまに入り込んで落書きしたり悪さしたりしている不良さんもいるみたいだけど
今日みたいな茹だる様な暑さの昼日中、窓も開けられないような通気の悪い場所に
誰も好き好んで居座るような気合の入った馬鹿はいない。

ここならば今の時間でも目立つ狼男を隠せる。


『はー、冷たくて気持ちいいー…生き返るー』

まだ生きている水道で腕を洗っている神山の尻尾がぱたぱたと揺れている。
後姿だけを見ると服を着て後ろ脚で立つ大型犬といった風情だ。

「ハイハイ、どーでもいいから早くしてよね。
ここだっていつ先生来るかわかんないんだから」
『だいじょーぶだって。夜によーむいんのおっさんが見回りくるまで誰もこないって』
「ってこらっ!こっちに水飛ぶっ!洗うのは手だけにしなさいよ!」

水道の蛇口の下に頭まで潜り込んだ神山がぷるぷると身震いをして水気を飛ばす。

「申し訳ない主様…どうにも水を被るとこうせずにはおられず…」

どうやら神山の意志とはまた別に狼丸の無意識下の行動でもあるらしい。

『別にいいじゃん。暑いんだから椿さんにもお裾分けだよ、どうせすぐ乾くし』

細かい水飛沫がかかって私の制服も
神山のそれと同じようにびしょびしょになり、
もう剥がれかかったワックスの床にも大きな水たまりがひろがっていく。

「あー…もう! いくら暑くてすぐ乾いても制服張り付いて気持ち悪いでしょっ!」

飛沫を飛ばすのを止めようとしない神山に焦れて、
私は開けっぱなしだった水道の蛇口を閉めた。
憤慨遣る方なしといった顔で未だ蛇口の下に頭を潜らせたままの神山を見下ろすと
悪びれない琥珀色の獣が水を滴らせ私をチロリと見上げた。

『気持ち悪いなら、脱げば?』
「……え?」
『どうせ最初から脱ぐ予定だったんだから、今脱げばいいじゃん』

獣がぐるりと喉を鳴らした。



「ちょっ……こ、ここでするの?」
『だってここから出て他の場所でって訳にもいかないでしょ?
俺も早く戻りたいし。早く”神返し”しようよ』

神山が私の手を取り、ぐいぐいと校舎の奥へと引っ張っていく。
じたばたと焦れる私をガン無視した神山は目当ての部屋の前に来たのか、
強引に教室に押し込める。

「嫌よ!こんな埃っぽくて暑苦しい場所なんて……って、えっ!?」

教室の中に入って私は絶句した。
連れ込まれた教室はカーテンが閉め切られ、
黒板側に重ねられた椅子と机が寄せて積まれている。
が、大きくあけられている筈の床の上には
学校という場所には不似合いな物が堂々と鎮座していた。

「…何で教室の中にマットレス!?」

教室のど真ん中にはダブルサイズはあるだろう大きさの
黒いエアベッドマットレスが設えられていた。

『何だ、椿さん知らないの?ここ”保健体育の教室”って言われてんだよ?』
「はぁ!?何それ!」

そういえばよく見てみればこの教室、
扉には鍵がかかるようになっているし
窓が全部カーテンが引かれたままの状態で、
しかも扉の小窓には御丁寧に黒い紙が貼ってあり
外からは一切中の様子が見られないようになっている。

成程、思いっきり連れ込み仕様になっている。
”保健体育の教室”とはよく言ったものだ。

でも、いくら教師の目の届きづらい旧校舎だと知っていても、
まさかこんな所、連れ込み目的で使われているなんて知ってる訳ないでしょー!

『まぁ夏の間は暑苦しくて誰も近寄らないけどねー。ほら、椿さん、脱いで脱いで』

マットレスに座り込んだ神山は両手を広げて手招きをする。
その機嫌を現すように尻尾はパタパタと揺れ、
文字通り物欲しそうなダラシナイ躾のなっていない犬のように
ハッハッと舌を出している。

ああ可哀想に、狼丸。
戦っている時は凛々しい獣の王の品格なのに、
器が神山なばっかりにこんなアホ犬っぽくなって。


…何かこんな感じでだらしない顔で
準備万端に待たれると、思いっきり腰が引けてきた。

しかし、そんな私の気持ちなぞ知る由もない獣は
フンフンと耳元に鼻先を埋めながら
私のセーラー服のスカーフを、
先ほど畏怖を切り裂いた鋭い爪の先で器用に解いていく。

「も…もう少し涼しくなってからに、しない?」

大きな狼の顔を必死に押し返しても、
私よりもふた回り以上大きな身体はびくともしない。

『だってもうさっきから椿さんの汗の匂いとか超ヤバいんだって…早く突っ込みたい…』
「きゃーきゃーっ!何言ってんのよ、ばかみやっ……っひっ!」

スカート越しにお尻に物騒な塊を押し付けられた。
サカリのついた雄の激しい息が絶え間なく首筋に当たって
思わず私は身を縮こませる。

=うう…ケモノくさい……毛がうっとおしい……=

改めて自分の抱きかかえる神山が今は人外なのだと認識する。

「主様……不甲斐無くもこの狼丸、畏怖の血に昂っております。
先程の闘いが容易過ぎて不完全燃焼だった故と思われますが…
これ以上”神返し”を延ばされますと、我も主様を気遣えぬやもしれません」

物騒な事を呟きながら、私を抱きしめる獣の体に力が入る。

いつもは器たる神山の身勝手な行動を制御する獣神に気遣われなくなったら
…っていうか獣の神様に本気なんて出されたら色んな意味で壊される。

マジで。

真夏なのに薄ら寒くなった。

「……わかったから、服位自分で脱がせて?」

私は、観念して自分で制服のボタンを外した。

召喚された神は、召喚した者しか天つ国に戻す事は出来ない
故に、召喚された神を宿らせた”形代”から神を抜く事が出来るのも召喚した者
即ち形代の契約者のみである。

神降ろしとは、神を天つ国より召喚し形代に宿らせる儀式であり
翼或鬼一族の者が契約した神降ろしの形代に封印の石を埋め込む事で成立する
神返しとは、神降ろしをした形代より神を天つ国へと還す儀式であり
形代の神を気を契約者に戻す行為がそれにあたり
それは交接する事により、形代の陽物から放たれる神の気を
主の女陰に吐き出す事で成立する


……簡単な言い方をすれば、獣化した神山とセックスして中出しされなきゃ
狼丸は帰ってくれないって事だ、コンチクショー!
本当に何よそれ、それなんてエロゲ?みたいなさー!


「……ねえ神山、一生獣のまんまでいる気ない?」
『…さっきから何か上の空と思ったら、そんな事考えてたの?』

傷つけないように細心の注意を払いながら、
私の乳房にやわやわと牙を立て舌を這わせていた神山は
顔をあげて怪訝そうに眼を狭める。

「だって、そうすればいちいち呼び出さなくて済むしー、いちいち還さなくていいしー…
ほら、毎回畏怖が出現する度に呼び出してちゃ効率悪いじゃない!って
無視して先に進めないでよう」

何事もなかったかのようにそのゴツイ手で、再び私の体を弄り始めた。

『そんなの却下に決まってる』

獣の鋭い眼光でじとりと睨まれたようで私は思わず身を竦める…が、よく考えたら
私が御主人さまなんだから遠慮する必要なんてないんじゃない!

「ここは御主人様の言う通りに、一生獣のまんまという事で」
『僕、学校どーすんの。退学?ずーっと面倒みてくれるの?』

意外と冷静に正論を返されて、私は言葉を失う。
まぁ、こんな意見が普通に通るなんて思ってなかったけどさー…

「う…でもでも…ここは下僕は下僕らしくさー…」
「いけません、主様。獣神が務めを果たした後も現世に残るのは御法度です。
仮に滅する畏怖もない状態で現世に居座った場合、多くの獣神は荒ぶる神となり
畏怖よりも手のつけられない、人に仇成す怨敵になりましょうぞ」

うう…狼丸にまで忠言されたら何も言えないじゃない。

私が諦め悪く唇を尖らせていると、ぺろりと大きな舌先で舐められた。

『まぁ、妙な事は考えてないで、今日も一緒に気持ちよくなろうよ御主人サマ?』

目の前の獣がだらしなく笑う。

ぴんと張った地の王者の風格がある筈の耳をヘタらせ、
裂けた真っ赤な恐ろしい口の端をやんわりと上げ、
眼光鋭い筈の野生の眼は下弦を描く。
人間よりも表情筋は発達してないだろうに、
ここまでよくも獣の顔が崩せるものだと感心する。

「か…神山はいいわよ。勝手に突っ込んで気持よくなる側なんだから!
そんな丸太みたいな物騒なモン突っ込まれるこっちの身にもなってよっ
い、痛いだけで…全然気持よくなんてないんだから」
『そうかなー?もう何回もしたから慣れたでしょ?ここ』

それでも大きな毛むくじゃらの腕の中で諦め悪くギャンギャンと喚いていると
何の前触れもなく人の股にその野太い指を遠慮も無しに突っ込んできた。

「ぎゃーっ!何勝手に指突っ込んでんのよ!ばかみやまっ、やだっ!やめて!」
『何だ、ホラ。ちゃんと濡れてきてるじゃない…っていうかヌルヌル?』

鋭い爪は収納がきくらしく大きめのつるりとした肉球と
固い毛の感触が私の敏感な部分に擦れる。
そこはもう音が聞こえてくる位に、十二分に潤いを帯びて獣の指を捕らえた。

「いやっ…っち…違うもんっ。汗!汗なの、それっ」
『そうかなぁ?汗ってこんなに粘っこくなかったような気がするけど……』

必死に押し倒されたマットレスの上へ上へと逃げようとするけれど叶わず
強引に仰向けにされた脚を広げさせられる。

夏の暑さもあって強引に割り広げられたそこは、むわっとした汗の匂いと共に
確かに淫らな牝の蜜の匂いがたつ。

「いやぁっ……開くな、馬鹿ぁっ!」

慌てて身体の間を隠そうと手を両手で隠そうとすると
神山の片手でやんわりと捕まえられてしまう。

「主様…しかし、慣らしませぬと辛ろうございます」
「やっ!こんな時にまた狼丸出てこないでっ!何かヤダっ!」

基本的に一族を守護する神は、守護という契約が存在する為に
己の意志で主たる一族の者に汚すような真似は出来ない。
しかし、その神が天つ国へと戻る為には主と身を交わらせなければ
ならないという言わば全く逆の制約がある。
それ故に、神返しを行う際は神の意志ではなく器である形代の意志が必要となる。
器である人間が主を汚すのを本来ならば黙って見ていなければならない…のだが、
狼丸は主たる私への従順さからか黙っていてくれない事が何度かあった。
行為へのアドバイスとか……

正直、本当に勘弁してもらいたい。
行為の参加人数的は2人だけど一人冷静に視姦で参加の3Pみたいな、
何とも形容しがたい気分になるからだ。

または犬の着ぐるみ被った人が一人二役腹話術、みたいな。

「……って、それどんなマニアックプレイ?」
『え、何。椿さん、マニアックプレイがいいの?』
「ぎゃーっ!違う違う、そんな訳ないでしょーっ!!」

思っていた事が思わず口から出てしまったらしく、
その鋭敏になった聴力で聞き取った神山が股の間から訊ねてくる。

『まぁこの状況でセックスも、充分にマニアックプレイだと思うけどなぁ』
「だからっあっ…やあっ!マニアックとか…言わないで…あああっ」

ぽってりと濡れたその秘裂を分厚くてざらつく舌がべろりとなぞる。
その長い鼻先を押し付け、溢れ出してくる蜜を全て舐めとるように舌は動く。
敏感な突起に硬い牙が掠めると、びくりと腰が浮きたった。

『狼男に襲われる女子校生…って十分マニアックだよ』
「はっ…あああっ!やあっ!中、嫌ぁっ!舌やだぁっ」

濡れた表面を舐めとるだけだった舌が、強引に私の奥を割り入ってくる。
長い舌は膣の締め付けに逆らい、獣の唾液と蜜を纏って敏感な膣内を自在に蠢く。
じゅぷじゅぷと勢いよく奥を突いたり、ぐねぐねと中を探るように動いたり
長大な舌の動きは到底人間にはマネの出来ないもので
人の身には過ぎる快感に、意識が白み焼き切れそうになる。

<…普通の人ともエッチした事ないのに…こんなのされたら私駄目になっちゃうぅ…>

一週間前までは、真っ更な処女だったのに。
神山と契約する前まではこんな快感知らなかったのにぃっ!

「かみや…まっ……も…駄目っ…ダメなのっ」

もう耐えきれなくなった私の懇願を聞いてか戦慄き始めた私の内部から
長い舌がズルリと抜き取られる。
獣らしく舌をだらりと下げ忙しなくハアハアと息を上がらせる神山は
太い舌が抜かれてぱっくりと口を開けた肉色の秘裂に
臍まで反った太い欲望に手を添えてゴリゴリと擦りつけた。

『ね…もう入れていい?ハァっ…もう僕も我慢出来な…』

開けっぱなしの獣の口からはポタポタと涎が滴り、
擦りつけてくるその丸太のような狂暴な肉の棒からも先走りが滴り私のお腹を汚す。

「ひぃっん!いやぁっ…そんなの無理ぃっ!そんなの死んじゃうからぁっ」

硬く長大なだけでなくゴツゴツとした血管を浮き上がらせた
凶悪な欲望が秘裂に擦り付けられる度に、
握り拳の様な大きさの先端の張ったエラが敏感な突起を擦りあげる度に
私のそこはまるで娼婦のようにビクビクとはしたない蜜を溢れさせる。

「そんな腕みたいなのなんて入んないよぉっ!裂けちゃうっ!」

それでも、私はもうこの凶器に与えられる快楽を知ってしまっている。
そんな事したくないのに腰が更なる刺激を求めて動いてしまう。

『大丈夫だって…この間も入ったし…ほら、先っぽの方ぱっくり咥えこんでるしっ…』
「っ…やだぁっ!無理ぃ無理なのっそんなの駄目なのっだめだめだめぇっ!」

溢れ返りお尻の下まで濡らした蜜の湧き上がる元に、凶器の切っ先が強引にめり込んだ。

無理っ…本当に無理だよっ!
そんなの挿れたら、裂けちゃう!死んじゃう!
声に出して抗議しようにも音は喉に張り付いて前に出ず、
荒い息を吐いて力の入らないか細い腕で神山の胸を押し返す事しか出来なかった。
私の力ない抵抗などもう獣の肉欲の前には無力だ。

『ヤバい、もう無理無理。我慢なんか無理だからっ…くっ!』

神山が小さなため息をつくと、私の腰を強引に自分の元へと引き寄せた。
その刹那、まるで灼けた鉄の様な熱さをもった肉の楔が私の身を割り裂く。

「ひっぎ…いあああああああああああああああああああああああっ!!!!」

石のように硬く反り返った獣の雄は私の最奥を目指して突きこまれた。
その無慈悲な凶器は赤く熟れた蜜口をミチリと音がたつ位限界まで広げている。

『……椿さんっ…大丈夫?』

荒い息を吐いた神山が長い舌を出しながら私に問う。
全然大丈夫な訳ないの、わかってるくせに。

「はっ…無理って…言っ…たぁあああ」

口を開けば、悲鳴のような言葉しか出ない。
根元までそれが納められれば身を裂かれるような暴虐は一旦止まる。
深い所まで凶器が収められたようで、一番奥を切っ先でコツリと突かれる。
少し動かれるだけでも限界を超えて広げられた内壁は引きつり痛みが走るが
それ以上にピリッとした電気の様な痺れに似た熱さが奥に広がった。

「主様、力を抜いて下さい…力めばそれだけ身体に負担が」
「ふっ…ぅん…んんぅうう」

痛みとも快楽とも取れない刺激に引き攣った頬を
狼丸の優しい舌がぺろりと舐めあげる。
少し嫌悪を持っていたその獣臭さを何故か求めてしまい、
その慰める大きな舌に自ら舌を這わせた。

力なく下がっていた両手を獣の首に回し、ぬらりと涎を垂らす舌を夢中でしゃぶる。
人の何倍もある獣の舌は咥内に収める事は出来ないが、
上あごや内頬を探るように動く舌先はまるで膣を犯すかのように蠢き
それに合わせて肉杭を埋め込まれた下肢も無意識に動く。
衝撃に委縮していた内壁も口腔を探られるのに合わせて自然と蠢き、
肉体を侵食する異物を奥に誘い込むように締め付けはじめた。

『椿さん、ねぇもう痛くない…でしょ?』
「ひっ…い…嫌ぁ…」

私の体の反応に気を良くした神山は腰を尚深く押し付け、
奥に到達させた凶器で何度も最奥を探る。
子宮の硬い口をコツリコツリと小刻みに突かれる度に鋭い刺激が腰の奥に走った。
痛みはまだ確かにあるが身体の限界を、快楽が凌駕する。

「やだぁ…痛いのも、気持ちぃ…のも…やぁっ!」

軽く腰を引かれて、一気に奥まで打ち込まれると思い切り仰け反った。

余裕のない肉壁は相変わらずギチギチと凶器を締め付けるが
内側より溢れ出した愛液が、銜え込んだそれが前後するのを助ける。

「ひぃっ!ぃいいっ…嫌ぁっ」

奥まで強引に割り開かれているのに、
こんなの痛くなければいけないのに
脳髄が焼けるような快感が全身を苛む。

もう神山の動きに遠慮などなく、
腰骨の辺りを両手で掴みガツガツと腰を振り始めた。
突きあげられるままに、放り出された私の上半身がその衝撃に何度も弧を描く。

『本当スゴいな…こんな太いの入っちゃうんだからっ』
「違うぅ…違うのぉっ!こんなの嫌なのっ」

儀式的な事だけでいえば、神山が中ですぐ果ててくれれば終わる。
私がこれだけ感じる必要もないのに。
こんな狂暴な肉塊を身体の中に収めて快楽に酔っている。

『あー…ヤバい、もうイキそう』

早いスピードで打ちつけられる腰が粘液でぱちゅぱちゅと音がする。
繋がった部分から漏れ出す愛液なのか体液なのか
もうわからない液体は泡立っていた。

「っ、もう出して、終わってっ…終わってよぉっ」
『ごめん。もーちょっとだけ…後もうちょい』

暑さでどろどろだし、中もどろどろ、
頭の中もどろどろで考えるのをやめた。
ラストスパートに激しく腰を振り始めた獣の首にしがみついて
中で乱暴に暴れまわる快楽に身を任せた。

限界は不意に訪れて、目の前が真っ白になる。

「あっ駄目っ、イクっイッちゃう…!」
『あ…出る…出るよ…んっ!』

中に埋め込まれた凶器が中でひと際大きく膨張する。
それと同時にきゅうぅと肉壁が強烈に奥へと締め付けるように戦慄いた。

『イくよ…椿さ…ん!』
「あっ…ああああああ――――っ!」

絶頂を迎える内部に獣が最後の一突きをすると、亀頭の先が硬い子宮口に
ゴリリと押し付けられる。
そしてそのまま、中に熱い精液が噴き出された。

『くぅっ…!』
「あ……あぅ…ん…」

びゅくびゅくと細かく震える凶器から注がれるのを感じられる程
大量の精子が迸り、長い時間をかけて無遠慮に子宮に流し込まれ続ける。

「あっ…ひゃああぁぁぁ…奥に…熱いのがぁ…」

染み渡るように広がる精液の熱さに、
また奥にジワジワと絶頂の余韻が広がった。

全てを吐き出し終えた陰茎がぐぷりと音を立てて抜き取られる。
あまりに太いモノで蹂躙されたそこは
ぽっかりと穴が空いたように口を開けたままヒクついた。

私の上に倒れ込んでくる神山を抱きしめれば、
つるりとした汗ばむ肌の感触。
そこには頬を紅潮させたクラスメイトの男がいるだけで
獣の姿はなくなっていた。

「……っは…ぁん」

喪失感に腰を震わせると、膣の中から
どろりとした粘液が零れおちてくるのを感じた。
圧倒的な存在感で私の中を蹂躙し
最奥で爆ぜた大量の液が流れだしてきたのだ。

「あっ…あぅっ!出る…出ちゃう…っ!」

その大量の精液の滑りの中に、
敏感な肉壁をゴリゴリと刺激する異物が生まれ
私の奥で蠢くのを感じた。

中の敏感な粘膜を刺激しながら、精液塗れの卵大の塊が
膣の圧に押され絞り出され秘裂より顔を覗かせる。

「あっ…あああっ…またイっちゃ…ぅうん!」

ゴポリと音を立てて生み出されるそれは、
私に最後の軽い絶頂を与えて、マットレスの上に転がり落ちる。

“神降ろし“の時に、
神山の身に付きたてられた筈のその石は
ぬらりと白濁した液体に塗れて、仄かな光を放っていた。

子宮へと吐き出された獣神の陽の気は、再び封印の石と形を換える。
封印の石が再び契約者の手に戻る事で”神返し”の儀式は完了した。

「……最っ低……」

旧校舎を出る頃には、もう辺りは暗くなっていた。
ガツガツと遠慮なしに突き上げられた腰はガクガクで、
歩調が乱れまっすぐ歩くのも辛い。
自転車小屋を通るまでに、結構な時間を有した。

「歩けないなら無理しないで俺に捕まってよ」
「っ……ここまでやらかした馬鹿が何言ってんのよ、絶対嫌っ!」

さり気に腰に手を回してきた神山の手を思い切り叩いて足を速めた…が
思うように力がまだ入らずまた足がふらつく。

「わかったから…触らないけど鞄は持つから。ほら、貸して?」
「………やだ…」

差し伸べられた手に眉をしかめて顔を反らせる。
正直、”神返し”の後にこうして普通にしていられる事が理解出来ない。
契約者の私がそれを未だ受け入れ難く思ってるのに、神山が順応しすぎなんだ。

赤らんだ頬を自覚して唇を噛んで目を伏せてると、
ぱっと手の中の鞄を奪われた。

「それくらい奉仕させてよ、ゴシュジンサマ」
「ばっ!……だから、そんな事外で言わないでって…っ!」

奪われた鞄を取り戻そうと振り上げた手を取られたと思ったら、
ふわりと体が宙に浮く。
考える間もなく、自転車の後ろに横座りに乗せられていた。

「下僕なんだから、これくらいはね?」

私が呆気に取られている間に神山は二人分の鞄をカゴに入れて、自転車に跨った。
大声をあげてやろうかと思ったけれど、
ここは大人しく運ばれた方が目立たないのかもしれない。
夏休みの終業式の夕方。
どうせもうこんな時間、ここらに私達の事を知っている人はいないのだ。

「……壊れモノ載せてると思って、丁寧に運転してよね」

抵抗するのを諦めた私は、大人しく神山の制服の腰に手を回す。
近くに感じる夏服のシャツに、さっきまでの獣臭さは無いが
その代りに、神山の男の子の匂いが鼻先を擽る。

「それってお願い?」
「バカ…命令よ」

獣の時よりも幾分小さくなった背中を見上げると、
封印の石を突き立てた箇所に小さな穴が開いている。
それに先程までの情交を思い出し、私はまた顔を赤らめた。

私、椿綾乃の人生は順調とはいえないまでも、それなりに普通の人生だったと思う。
私は多分、どこにでもいるような、普通の女子校生だった。

そうだった筈なのだ。
あの日までは。

もう薄れてしまった筈の鬼の血が目覚め
畏怖という人間の敵の駆除を課せられと、
駄目下僕の人生がプラスされたあの日までは。

交わってしまった運命は、今更元に戻す事は出来ないけれど
契約をしてしまったあの日に戻れるのならば
あの日の自分を引き止めてやりたいとこんな時いつも思う。

日々後悔する事は、これまでの普通の人生でもデフォルトだ。

けれども。

「やっぱり、身捨てる事出来ないんだろうな…」

それと同時に、あの日血だまりの中で倒れる神山の姿も思い出すのだ。
あの日、私と契約していなければ彼は間違いなく死んでいた。

「えー?椿さん、何か言った?」
「…何でもないわよ」

何度考えても仕方がない事だ。
契約した事は後悔しても、彼の命を助けた事は後悔していないんだし。

この先、気の遠くなるような長い付き合いになるのだから
今は言う事聞かなくても、まぁこの先従順になるかもしれない。

……それまで持つかなぁ、私が

馬鹿な下僕に体が壊されるのが先か、
それとも奴が隷属するようになるのが先か

「いやー、それにしても学校の中ってスリルがあって燃えたなー!」
「!!!馬鹿、突然何言い出すのよっ」
「今度はさー、脱がないで制服のままでする?」
「いやーっ!もう降りる!っていうか降ろせっ!這ってでも帰るーっ!」

……体が壊れる方が早い気がする。



「これは命令なの、降ろしなさい――――っ!」






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