翼或鬼異聞<前編>
シチュエーション


私”椿綾乃”の人生は順調とはいえないまでも、それなりに普通の人生だったと思う。


=『椿さん……口開けて?』
=肺腑の中の空気を全て奪い尽くす様に舌を絡められ咥内を嬲られる
=鋭い爪を持つ分厚い手で肌を弄られる度に若干の嫌悪感とそれを凌駕する快感が全身を苛む
=声を上げる事も出来ずはぁはぁと獣染みた息しか出す事が出来ない
=つい先日快楽を覚えたばかりの身体は甘美な毒を与える侵略者に酷く従順で
=あまりにも儚く脆い己の理性に、私は声をあげて叫びたくなる


小学校受験に失敗してからは、普通の公立学校に通い、
小中学校とバレーボールで汗を流したが
特に成績がよかった訳ではなかったので、普通に高校を受験した。
至って普通の偏差値の公立高校の普通科に入り、
スレてない、かといって垢抜けてもいない至極普通の友達が出来た。


=「やっ…嫌なのっ…そこ舐めたら…やぁっ!!」
=軽々と私の腰を抱き両足を抱え込み、男が太股の間に顔を埋めた
=「でも、こうしないと椿さんが辛いよ?」
=「やっ…駄目駄目駄目ぇえええっ!」
=一番敏感な処を咬みつく様に吸いつかれ、私は嬌声をあげて背を反らせるしか出来ない。
=身を捩って逃げようとしても軽々と捉えられ、赤く爛れた蕩ける内腑を長い舌で奥まで探られる
=ジュブジュブ…という粘質をもった音が響き耳の奥まで犯されている気がした
=その一方的に与えられる技巧に誘い出されるように溢れ出したはしたない私の体液は
=未だ股座に食らいついて離さない男の顔を覆う人外の証をべっとりと濡らしぽたぽたと滴っている。


容姿は身長が152cm、体重は40kgと少し小さい。
まぁ、スタイルは特別恵まれもせず、かといって問題がある訳でもなく、
一応胸は年齢相応に育っている…と思うし、顔は自分自身で判断はつかないけれど
整形したい位にここが嫌だという処もないので、まぁ際立って不細工ではないと思う。


=もう十二分に綻び潤いを持ったそこに野太い指が探るように侵入する
=「凄い…前と違ってキュウキュウ吸いついてくるみたいだ」
=指は私の中を探りながら、まだ足りぬとどんどん押し広げていく
=慣れぬ無粋な侵入者を締め付けるようにキュンと内壁が蠢けば
=男の指にびっしり生えた毛のささくれ立ち一本一本までも敏感な粘膜は感じとってしまい
=無意識にもっと深く激しい刺激を求めて腰が戦慄く
=「はうぅ…も…ダメ…ダメだからぁ…」
=獣のような男の舌で指で高みの渕まで連れていかれ、頭がチカチカしてくる


相も変わらず成績は良くもなく悪くもなく、
期末考査にはほどほどに真ん中位の順位になり、
補習を受けること無く無事夏休みを迎えられるお墨付きを貰った。
テストの最中は、教室の窓から快晴の空を見上げて思春期らしく
”高一の夏が一番刺激的って言ってたなぁ”とか、考えたりしていた。

=いや、獣のような男というのは語弊がある
=小山のような私を覆い隠す大きな体躯は四肢までも真っ黒い毛皮に覆われ、
=裂けた様な口からだらりと長い舌を垂れさせ、肉食獣特有の生臭い息を放つ
=鋭い凶悪な爪と眼はギラギラと光を放ちその顔<かんばせ>は狼そのものだ
=私を喰らおうと圧し掛かり蹂躙する男は、文字通り「獣」
=しかし、私はその異形に蹂躙される事に恐怖はなかった
=だって私はもう何度も彼に喰われていたから


私は多分、どこにでもいるような、普通の女子校生だった。
そうだった筈なのだ。


=「さぁ……椿…さ…いや、主様…」
=奥まで解された蜜肉の口に獣の雄が触れゆっくりと擦り付けられる
=黒々と屹立する獣の雄は、私の手首程の太さで血管を浮かび上がらせてビクンビクンと震えて
=堪えきれぬ昂りでその拳のような肉欲の先からヌラヌラと先走りを滾らせていた
=こんな太いの挿れられたら今度こそ裂けちゃうかもしれないとか他人事のようにボンヤリ見ていたら
=「”神返し”を始めましょう…っ」
=甘い声色の言葉と同時に残酷な程の剛直が私をゆっくりと割り裂いた
=「か…か…み…山…っ!あああああっ!!!」


あの日までは。


ちょうど昼近く、太陽はちょうど天の中央に上った辺りで一学期最後のチャイムが響く。
外ではワンワンとうるさい位に蝉が鳴いて、まるで初夏の暑さを演出しているようだ。
ホームルームを終えた私が机の中の物をサブバックに詰めていると、
後ろからトンと肩を叩かれた。

「椿さん。ちょっといいかな」

馴れ馴れしく肩に置いたままの手の感触に、私は思わず眉根を寄せた。
まさか教室でこんな風に声をかけてくるなんて思わなかった。
出来ればコイツとは関わらないままに夏休みを迎え、
そしてそのまま夏休みを終えるまで会うことがなければよかったのに。
これから一ヶ月半も会わないという選択肢は絶対選べないのだが、
心の中で舌打ちせずにはいられなかった。

「ねえ、何シカトしてんだよー、椿さぁん」
「…慣れ慣れしくしないでもらえる?神山くん」

振り向きざま周りから見えないように、
私は同級生の男、神山司狼(かみやましろう)の手を払う。
まさか手を払われるとは思っていなかったらしく、
一瞬の事に神山は目を白黒させている。
あんまりかと思ったけど、未だクラスメイトも残る教室内で、
学校外で会う時と同じ態度を取られると困るし。

神山司狼と椿綾乃がつき合ってるとかいう噂を立てられるなんて真っ平ごめんだ。
そういった意志を込めて、でかい態度と体で私を見下ろす神山の顔を、
下から睨みつけた。

あくまで、周りにはわからないように。

高校では目立たないように、努めて大人しくして、
人当たりが良くも悪くもないようにしつつ、人の視線を集めないようにしてきた。
それなのに、性格がちゃらんぽらんのお調子者のくせに二枚目顔で、
さらにクラスのムードメーカーな、とにかく無駄に目立つ派手な男とセットに考えられたら困る。
目立つのは嫌いだし、学校では埋もれた人間になりたいのに。

そんな私の顔を見て、神山はニヤリと人を小馬鹿にしたような腹の立つ笑顔で、
私の耳元に顔を寄せ囁いた。

「何、そんなにツンケンしてんの?今更他人の関係でもないじゃん?」

ひぃっ!
意識してだろう、本当に同じ年齢?と思うくらい低いイイ声で囁かれたのと、
その内容に思わずゾワワっと首筋が泡立つ。
悲鳴を声に出さなかった自分を誉めてやりたいよ、本当に。

「か…神山くん、あんまり仲良くもないのにこんな事されたら困るの。
なんか話があるならメールで…」

私の言葉に、ヤツは片眉を上げる。

「…仲良くない?」
「あ…当たり前じゃない。別に神山くんとは友達でもなんでもないじゃん。
ただの同級生で…」


「へー…椿綾乃さんは仲良くないただの同級生と、あーんな事するんだ?」


声を落としてボソリと呟かれた言葉に、私は凍り付いた。

「な……な…な…それはっ…」
「あんな事して、あんな事までさせておいて、ただの同級生?へぇ〜…そっかぁ」

詰るように私の机の前で、神山は腕を組んで見せつけるように首を傾げている。

「た…ただの…同級生に決まって…」
「本当に、本当にただの同級生?」

ヤバい…なんかコイツ…この状況、面白がってる。
イヤな予感するし、これ以上この話ここでは無理だっ!!!!!

「オレはあんなに気持ちよかったのになぁ、ご主人さ…」

ギャーーーーー!!!予感的中。

神山が最後まで言葉を紡ぐ前に、
私はヤツの手首を両手で引っ張って教室から飛び出すしかなかった。

「はぁ…はぁ……この…バカみやまー!」

校舎裏まで引っ張ってきて、辺りに誰もいないのを確認してから、
私は思いきり神山の頭をグーで殴ってやった。
普通にやってもヤツの頭に手が届かないからジャンプしたわよ。
ジャンピング拳固だ、バカめ。

「っ痛ってー!!!椿さん、関節の部分でゲンコしないでよ、マジで痛い!」
「マジで痛くしてんのよ、このおバカーっ!
あんだけ学校で慣れ慣れしくすんなって言ったでしょ!
し…しかも、き、もちいいとかご…ご…ごしゅじんさまって…」

怒りで口元も震えるわ、このアホタレ。
私と神山の関係は、学校では…というか私生活においては
どこまでも限りなく他人でなければならないのだ。
それを他の人間に邪推されたりする可能性のある言葉を、
人目につくような場所で言うなんて…

ああああ…明日から夏休みでよかったぁああああ!
少なくても、噂がドカンと広がるような事はないだろうし、
うまくいけば興味のない事で忘れていてくれるだろう。

「椿さんが人の事無視するから悪いんでしょ」
「な…私が悪いっていうの?!」
「あれ以来僕の事ガン無視するし、あれじゃ返って不自然だって。
せめて前みたいに普通のクラスメイトっぽくしたらいいのに」

校舎に背をもたれさせながら口をへの字に曲げる神山の言い種に、私も少しカチンとくる。
それが出来たら私だって苦労なんてしない。

「あ…あんな事しといて、今まで通りなんて無理に決まってるじゃない…」
「なら、もうつき合ってる設定でいいんじゃない?」
「アホみたいに目立つ神山なんかと恋人設定なんか絶対嫌っ!ってか無理っ!」
「じゃあ、どーすんの。これからも僕を無視し続けるの?無理じゃない?」

彼の言うとおり、正直無視し続けるのは限界だったのも事実だ。
仲の良い友達から神山くんと何かあったのかと、この一週間に何度か聞かれた。
笑って適当に誤魔化したけれど、それも限界がある。
でも、この男とつき合ってるなんて事にしたら、そっちの方が問題なのだ。

元々目立つのが嫌いだったのに、あの日から、”目立ってはいけない”になってしまった。
一週間前の自分のとってしまった行動に、私は頭を抱えるしかなかった。



『ねぇ、助けてあげようか』



「……何でこんな男を、”神降ろしの形代”にしちゃったんだろ…
もうちょっと選べば…もう少しマシ…だったのかなぁ?」
「今からでも変更きくなら変えれば?」
「それが出来たら悩まないわよ。こんな言うコト聞かない従者なんて、
契約なかったら速攻捨ててるもん!」
「はいはい、私はご主人様の意を汲めない反抗的な駄目下僕ですよ。」

自分を下僕といいながら全く私を敬うような気配も、
隷属する気もさらさら無いのが丸わかりで尚更腹が立つ。

一週間前の夜。

ある事件に巻き込まれた神山司狼を、或る条件を飲む事と引き換えに助けた。

『今日から貴方は私の……』

私と彼が結んだ契約。
…ああ、あの夜がなかったらよかったのに。


「もおいい……で、教室で言ってた話って何だったのよ。
重要じゃなかったらもう一発殴るからね」

私に問われて、思い出したというように神山がぽんと手を打つ。

「あー、そうだった。学校ん中で”畏怖”の気配がしたんだ」

「畏怖が校内に?どこよ?」
「え?ここ」

神山が何でもないように自分の足下の地面を指さす。

「……は?」
「いや、椿さんわかっててここまで僕を連れてきたんだと思ったんだけど、違うの?」

思わず足下をみると、何かドス黒いタールみたいなぬめりが
私と神山の間の地面から少量だが沸いていた。

「いやー、”畏怖”ってこんな風に地面から沸くもんなんだねー。初めて知った」

「早く言いなさいよーっ!!!まだ意識体になる前なら封印の石だけでどうにかなるんだから!」

慌ててバッグの中に仕舞ってある小さな卵大の尖った石を取り出したら、
その聖なる気を感じたのか目の前の粘体の闇が大きくうねる。
まだ闇の念の固まりだと思ったら、これはもうすでに意識と実体をもっている。

「一足遅かった……」

こうなったら封印の石では、どうにもならない。力で強引に畏怖を滅しなければならない。
どろりとした畏怖は大きくうねったと思うと、地べたに広がっていたその身を波打たせた。
粘菌のように私達を包み込んで食べる気らしい。

活動を始めたと同時に今まで押さえていたであろう禍々しい気配が辺りを包み込み始める。
気づけば少し大きな水たまり程度だった闇は、小さな車位の大きさに膨れ上がっていた。

「ってーか、デカっ。畏怖ってのは人型だけじゃないの?」

見る間に形を変えていくその姿に、畏怖を見慣れていない神山が眉根を寄せる。

「それこそピンからキリまでよ。口伝で残ってる話で一番大きかったのは、屋敷一つ丸々畏怖だったっていう」
「……そんなん来たら僕真っ先に逃げる」

まだ体が固定されていない畏怖がゆっくりと襲ってくるのをひらりと避けながら、神山が毒づく。

「アンタが戦わないで誰が戦うのよ、お馬鹿!契約したでしょ、契約!」

ベシャっと音を立てて畏怖が倒れ込むとまた少し闇が地面に広がると
思わず吐き気をもよおすような異臭が辺りに漂う。

「いや、人型だったら楽勝だと思ったんだって、人型位ならさー!」

人の天敵で人外の化け物、人を食らう恐ろしいあやかし”畏怖”を前にして
まじめにしなきゃいけない場面なんだろうけども…

「どーにかして半分くらいになんねーかな。コイツ」

コイツ…形代の分際で使役者の言うこと聞かなさすぎる!!

「もー、うるさい!とにかく今はどーにかする方が先なんだから!

早く、”神降ろし”するわよ!」

「よっしゃ、とっとと犬太郎でも蛇子でも降ろして。」
「神様の名前勝手に変えるなーっ!しかも、犬でもないし蛇でもないわよ!」

ムガ――――――っ!

この態度のどこが下僕?
主従って言葉の意味知ってんのか、この野郎。
どうしてもイライラが先に立ったが、今はそんな事している余裕もない。
このまま放置し続けたら、多分半刻もしない内に生徒なり先生なりが襲われるだろう。
冷静に、クールになって仕事をやるしかないのだ、どんなにイラついても、嫌でも。

「天つ国八百万の神々よ、我が傀儡に畏怖調伏の御力降ろしたまえ」

片手に持ったままだった封印の石を両手で包みながら、瞳を閉じ己を守護する神にその力を乞う。

「早くしてー、のんびりしてたら食われる。ご主人さま!」

急に体が浮き上がったと思ってはっとして目をあけると、神山の顔がすぐ傍にある。
抱き上げられた身体の下を見ればじわりじわりと、
新鮮な血を求めて畏怖はじりじりと私達との距離を詰めていた。
意識を集中するのに夢中で周りの状態が見えなくなっていたみたいだ。

「わ…わかってるわよ…石に力が集まらないと…」

不安定な状態が怖くて、不本意ながら私は神山の背中に両手を回した。

早く、早く、早く、降りて来い!

心の中で叫んだその時、手の中の石が強烈な熱を孕んだ。
それに呼応するように私までも、まるで全身の血液が沸騰したかのように熱くなる。

きたっ!

「聖なる鬼の末裔たる翼或鬼<つばき>一族の盟約により、召喚する!」

瞼の裏に映るその神の名を私は叫んだ。


「出でませ、狼丸様!」


絶叫しながら、私は神山の背中に封印の石を思い切り突き立てた。



その瞬間、目の前に広がったのは神山の血柱…ではなく目も眩む程のまっ白な光。
そして、地が揺れる程の激しい咆哮が轟く。

あまりの眩さに思わず閉じてしまった瞼をうっすらと開けると、
目の前には犬科の鼻口部が付きだされ、少しだけ開いた口の間からはチロりと真っ赤な舌が覗く。
私を抱きかかえる腕や夏服の間から見えていた肌は生えそろったふさふさの毛皮に覆われている。
これを形容するのは、ホラー映画で見たような『狼男』で全く差しさわりがないだろう。

私を抱きかかえていた男は、異形の人獣へと姿を変えていた。






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