源平物っぽいもの(非エロ)
シチュエーション


その琵琶法師は、深々と一礼をした後、ゆっくりと語り始めた。




夜闇の中、冷たい風が吹く。
そんな京の五条の橋の上、一人の少年が立っていた。

「いよいよ今日で1000人目だ長かったなぁ……」

ぶつぶつと言いながら少し可愛らしい顔立ちをしたその少年は、ここを通る者を待ち受けていた。
彼は何をしているのだろうか?
それを少し説明せねばなるまい。

彼がまさにこの世に生を受けんとしていたその日、彼の家の者達は女子が生まれてくるのを待ちわびていた。
彼の家では今この都、いや、この日の本で一番力を持ちたる一族
『平家』の長である平清盛のところに娘を嫁入りさせようとする計画が持ち上がっていた。
だが、肝心要の女子が生まれてこない。
そこに来て、熊野神社より 『この家に繁栄をもたらす子が生まれる』とのお告げがあり、
今や遅しと皆が待っていた。
だが生まれたのは男の子であった。
始め父親はこれを怒り殺そうとしたが、母が泣いて止め
2歳になった時、尼寺に娘として放り込んだのだ。
彼は『御尼若子(おにわこ)』と呼ばれてすくすくと育った。
だが、
「いやいや、僕男の子だよ」という気持ちがすくすくと芽生え、
ある日、尼寺での皆からの苛め(性的な意味での)に耐えきれず、
逃げ出したのであった。
ではそんな、彼女、いや、彼が何をしているのか?
それは、
彼がある日行くあてもなく木の根を枕に寝ていたところ。
夢枕に観音様が現れて、

「五条大橋で1000ぼんの刀を集めればお主は真の強き漢になれるであろう」

と、告げた。
そしてこの五条大橋にて通る人たちに喧嘩を売り続けること幾星霜、剣の修業を独学で積み、その見た目にコロリト騙される者数絶えず、今日が待ちわびた千人目で会った。

「だれか早く来ないかな……」

段々と夜が深くなって来る、と、そのとき、

シャリ、シャリ、

石を踏む音が近づいてくる。
音のほうに顔を向けると、
それは一人の少年であった。

「しめしめ」

心の中でほくそ笑むと若子はゆっくりと相手に近づいて行った。

「お、おい、ここをとおりたければ、このおれと勝負しろ!!」

目の前の少年はどこかの貴族の子供見たく見える、きっと怯えて刀を手渡すだろう。
そう思い精一杯凄んで見せる御尼若子、だが。

「ふ、む、わらわは、これから鎌倉の姉上の下に向かうのじゃ、邪魔するなら容赦せぬぞ?」

予想に反して、少年はさして恐れた風も無く、むしろ逆に若子を脅すように
目深にかぶった笠よりちらりと顔をのぞかせる。
その端正な顔に、一瞬ドキリとする。

(うう、可愛いかも) 

だが慌ててぶるぶると顔を振る。

(ぼ、僕は男の子だぞ、なんで男の子に可愛いなんて)

そんな若子の様子をじっと見ていたその少年は口を開いた。

「と、言いたいが、生憎と女子には手を出さん、さあ、帰るがいい」

その言葉は若子の心をグサリと撃った。

「ぼ、僕、いや俺様は男だ! つ、つべこべ言わず勝負しろ!!」

女人扱いされて思わず若子は声を張り上げる。
一瞬目の前の少年は驚きで目を見開くが、

「ほ、う、おぬし男、か、ふむ」

と言ったかと思うと、

ドス!!

急に腹部へと重い一撃を叩き込んだ。

「あ!? あ、あがぁぁ……」

口からゴフリと涎を垂らし、前かがみの姿勢になった若子をじっと見下すと

「ふん、ホントに男らしいの、じゃがまるで女子の如き弱さじゃ」

そう呟き、お腹を押さえながらうずくまる若子をじっと見ながらクスクスと少年は笑った。

「ひ、ひどい、よ、急に」

ごほごほと咳をしながらな瞳に涙を浮かべて恨みがましそうに見上げる若子。

「泣くな! そもそもおぬしが先に挑んできたのだろう……」
「だ、だからって……」

いつまでもしくしく泣く若子を見てやがてその少年は意を決したように言った。

「わかった! ほら、お主も腹を叩け! それで合い対無しじゃ、よいな?」

ペロリ、

少年が着ていた上着を脱ぎ上半身裸になるとそこでは初めて若子は彼の性別を知った。

「えっ!? き、きみ女の子だったの?」
「だからなんじゃ! ほ、ほら、はようせい」

胸がわずかに膨らみ、それが彼が女であることを告げていた。

「で、でも女の子のお腹なんて叩け……」
「なら私がお前の腹を今一度叩くぞ!! それで良いのか?」
「わ、わかったよ、わかったよ」

少女の剣幕に押されて、よろよろと立ちあがると、少女のお腹に手を当てる。
ほっそりとし、白く柔らかい感覚と同時に、しっかりとした筋肉の硬さも伝わってくる。
どうやら相当鍛えているらしい。

「じゃ、じゃあいくよ」
「う、うむ!」

手を頭の上で組みぐっとお腹に力をこめる。
と、

「え、えーい!」

男にしては情けなく、可愛らしい掛け声と共に、

ボス!

少女のお腹に大きく拳が叩き込まれる。

「あ! くっ、うううぅぅ」

ゴフリ、口から少年と同じように涎を飛ばすと、がくがくとひざを震わせる。

「ううう、お、おい、変な声を出すな!!力が抜けたわ!」
「ご、ごめん、でも、ただ掛け声を……」

痛そうにお腹をさすっていた少女は、痛みをこらえ、すうっと立ち上がり、

「これで会い対無しじゃ」

上着を着込むと歩き出そうとする。
さっさと歩きだそうとする少女を慌てて少年が止める。

「ね、ねえ、きみお姉さんに会いに行くんだろ? ぼ、僕も一緒に行ってあげるよ」

突然の物言いに一瞬怪訝そうな顔をした少女は、だが、じっと少年の顔を見やると、

「ふむ、足手纏いに成りそうじゃがの……、まあ良い、名は?」
「え、ぼ、ぼく『御尼若子』ていうんだ」
「そうか、で、そう言えばお主なぜこんな所に居る?」

其れについて御尼若子はぽつぽつと観音様の夢の話を語り始める。

「成程、ならばまだ真の男には程遠い難儀じゃのう」
「えっ!?」

驚く御尼若子の顔を見て逆に少女は不思議そうな顔をする。

「そうであろう、お主はまだこの剣を手にしておらぬからのう」
「え!?で、でも……」
「……そうじゃ! おぬし部下になったのだから名を新しくやるとしよう!弁財天のようにかわいく、わらわと出会いめでたき故『慶』の字を加え『弁慶』と名乗るがよいぞ」
「ちょ、ちょっと勝手に決めないでよ!! それに何で僕が君の部下なの!?」

少年が猛抗議を始めると、それまで楽しそうだった少女の顔が曇る。

「弁慶はわらわが嫌いなのか?」

じっと、少年の顔を見つめて今にも泣きそうな顔をする。

「え!?」
「きらい………か?」
「えっ、い、いや、そうじゃないけど……うう、いいよ、弁慶で」
「よし! 今日から宜しくな弁慶!!」

一瞬にしてパアッと明るい顔を取り戻すとナデナデと『御尼若子』改め『弁慶』の頭を
嬉しそうに撫でる少女。

「はううう、僕、真の男の子になろうと思ってたのに……」

今度は弁慶の顔が暗くなる。

「おおそうじゃ! こちらの名をまだ名乗っておらんかったのう、

わらわは源氏の棟梁、源頼朝が妹、九郎義経じゃ、よろしくのぅ」
そんな弁慶の気持ちを知ってか知らずか、そう名乗ると大きな口を開けてにっこりと笑う義経、その笑い顔に先ほどのように一瞬ドキリとする弁慶。


京の五条の橋の上、こうして二人は運命的な出会いを遂げるのであった。






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