囚われてサキュバス(非エロ)
シチュエーション


「とっとと来なさいよ。使えない奴隷ね」

その侮辱の言葉に、思わず頭上のリゼを睨み付けた。
夜空に浮かぶ、コウモリの翼とムチのようにしなる長い尻尾を持つ淫魔。

「お前のような汚れたサキュバスなんぞに…なぜこの私が…くそっ」

私は自分の両手の銀の輪を憎々しげに見つめた。この首にも同じ輪がはめられている。
神を呪う文字と魔の紋章が刻まれたその輪は、神官である私の力を吸い取り無力化させてしまう。
本来ならばこのような下等で下品な魔物など、神霊の御力で叩き潰してやるところだ。それが、それが――…

「あっそ、負け犬の遠吠えお疲れ様でぇす。いい加減に学習して大人しくしてくださぁい」

リゼはチロリと赤い舌を出すと、人差し指をピンと私に向けた。

ビリッ

「ふぎゃあああぁ!いだだだっ!」

痛い!私は悲鳴を上げて膝を折る。
一瞬だが、三つの輪から魔力の電流が流れ私の全身に痛みをもたらす。
冬場の静電気ですら苦手なこの私に、なんという非道な仕打ちをするのだ…!痛みにジワッと涙が溢れてきた。

「だいたいね、私だってあんたみたいな使えない小物狙ってなかったんだから」

リゼは小馬鹿にするように手をひらひらと振っりながら言った。

「なっ…誰が小物だ!」

聞き捨てならん!私は痺れの残る体でヨロヨロと立ち上がった。
リゼはそんな私を虫を見るように見下しながら、ワインのロゼのような紅い髪をかき上げる。

……くそ。

大変不愉快なことだが、挑発するようなリゼのその姿は、見とれてしまうほどに…美しい。
妖しくうねった長い髪が月光を受け艶を帯びていた。一見幼く従順そうですらある可憐な顔と、甘い桃色の瞳。肌も露な黒い革の衣装に、童顔には不釣り合いな豊満な体を押し込んでいる。
男を惑わすために生まれた淫魔は、女の魅力をこれでもかと凝縮した容姿を持つ。視線を奪われるのは不可抗力だ…。

「誰ってあんたよ、あんた。口ばっかり小うるさくて体力無いし、神霊力が無かったらただのもやしじゃない」

も、もやしは禁句だ!淫魔めが…っ。

腹腸が煮えくりかえるが、また機嫌を損ねて電流攻撃をされるのは辛い。私は歯ぎしりをして堪えた。

「せっかく高い魔具を用意して大神官狙ってたのにさぁ。あんたみたいなヒラが引っかかっちゃって大損だよ」

魔具とは私を苦しめているこの銀の輪のことだ。対神官用として魔族共が作り上げた道具らしいが、神官を生け捕りにして何をするつもりなのだ…。まあいい。

「フン!残念だったな。貴様ごときに大神官様の御身は指一本も触れさせぬ」

大神官様のご無事だけが、奴隷扱いを強いられる日々の中で唯一の心の支えだった。
あればまだ一週間前。神殿に夜襲をかけたリゼの魔手から、この私が大神官様をかばい身代わりに捕えられたのだ。
なんと勇敢で高潔な我が行い!私は自らの麗しい自己犠牲に誇らしく胸を反らしてみせた。

ビリリッ

「うぎゃああっ!」

痛い痛いだから痛い!電流を流され私は地面にひっくり返る。

「余計なことをしてくれたよねー…。あーあ、本当なら今頃ヘルミナ様に大神官を進呈してさ、たっくさん褒めていただいてナデナデしてもらって〜…」

リゼはヘルミナ様とやらの妄想に浸ってくねくねと尻尾を揺らせた。…どうやらこの女の上司にあたる魔物がいるらしい。

「はー…、ただの神官なんかじゃ喜んでいただけないよ。それに、」

言葉を区切ると、リゼはヒラリと私の前に降下した。倒れた私の体にに被さる様に近付き、ずいっと顔を覗き込んでくる。
ち、近い…。馬鹿。そんなに寄ったら、その。
磨きあげられた玉の様な肌が鼻先に寄せられる。む、胸の谷間もまる見えで目のやり場に困るだろうが!

「な…なんだ…」

顔を赤くしながら聞くが、リゼはそれには答えず私の顔を両手で包んだ。熱い顔に当てられた手はひんやりと冷たい。バクンと胸が跳ね上がった。

「ふわっ、ちょ…っや、やめ…むぐ!」

ちうっ

私の唇はリゼのそれで塞がれる。
甘い蜜を注ぐ様に柔らかな舌が滑り込み、私の舌に絡みついた。

ちゅる…くちゅっ…ちゅく…

口中をゆっくりと味わうリゼの舌。優しくまさぐられると頭の中がトロンと溶けてしまいそうになる。

く…だめだ。こいつとの口付けは…やっぱり気持ちいい…。

思わずリゼの背中に私は手を伸ばしかけた。だがその前にふっと口を離されてしまう。私とリゼの唇に銀の糸が伸びた。
あ、もうちょっと…。い、いや、断じて名残惜しいという分けではないが。

「あー、やっぱダメ。神官の精気なんて食べれたモンじゃない」

リゼは顔をしかめるとうえぇと舌を出した。
失敬な!!お前がキスしたんだろうが!
拳を上げて怒鳴ろうとして、私は自分の体がひどく重いことに気付いた。

「ぅ…ぐ…っ…」

…だめだ、起き上がれない。今のキスでずいぶんと精気を吸われてしまったらしい。

「食料としても使えないなんてサイアク〜」

吐き捨ててリゼはふわっと空に舞い上がった。

そうなのだ。男の精気を糧として生きるサキュバスだが、神に属する物の気だけは苦手で受け付けない。
魔具で抑えられてはいても、神官である私の体には常に清い御力の加護が流れている。おかげで私はリゼの食料として食い潰される心配はないのだが…。

「ほらぁ!だから早く家に帰るのよ。とっとと夕食を用意しなさい」
「動け…な…からっ…精気は…吸うなと…言っている…だろうがっ…」

ハアハアと苦しい息の下で私は訴える。
命に危険がある程には吸われはしないが、それでも激しい運動をした程には疲弊する。
数分横になれば回復するのだが、私の様な高貴な頭脳労働者にとってそれはかなりのダメージとなるのだぞ…!

「早くぅ、ゴハン〜!」
「う…うるさ…い…」

これからリゼのねぐらへと帰り、料理に掃除に風呂の支度までさせられる。ああ…地獄だ。
絶望と共に見上げる空には、パタパタとコウモリの羽を羽ばたかせるリゼの影がある。

私を悩ませる、憎たらしい小悪魔の――






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