変態と忠犬
シチュエーション


「おい、変態」

神様ってもんがいるなら今が奇跡の見せ所。さあ、俺の手を縛り付ける忌々しい縄を解いてくれ。天に向かって願っても縄が外れるなんてことはなく、俺は変わらず間抜け面を晒すしかないわけで。

「お嬢様に手ェつけてたっつーお前の不敬にゃ目つむってやっからよ。とりあえずこの縄ほどけや」

俺の存在など忘れてましたと言わんばかりの顔で桐生は俺を見た。浮かんだ笑みが本当に腹立つ笑い方で殴りたくてたまらない。だが、顔だけはいい。ムカつくが顔だけは本当にいいんだ、この男は。

「羨ましいですか?」
「ぜんっぜん」
「あなたがお嬢様に懸想していたことくらい存じておりますよ。羨ましいですよねえ、あなたの憧れのお嬢様を好きなときに好きなだけ抱ける私が」
「……死ね。ロリコン。変態。サディスト」

桐生が悪役じみた笑い声を上げて髪をかきあげる。映画に出てくる変態美形科学者みたいで妙に絵になるところが腹立たしい。というか、こいつが視界に入るだけでイラつくという事実についさっき気付いた。

「そうなの?」

弱々しい声が聞こえ、俺は自分でも情けなくなるほど表情が強張っていくのを感じた。
さっきからなるべく視界に入れないように気遣っていたのに、名を呼ばれては見ないわけにはいかない。俺は溜め息混じりにお嬢様の方へ顔を向けた。

「お前、わたくしを愛しているの?」

絶句。
そりゃあお嬢様は俺の天使だ。ちっちゃくて、やわっこくて、めちゃめちゃ可愛い。俺が守る。俺だけの天使――のはずだった。数時間前までは。
今の今まで変態野郎に犯されてたとは思えないほどに愛くるしいお嬢様を見て、俺は柄にもなく言葉につまった。
やっぱりだめだ。お嬢様は俺の天使だ。俺だけの天使じゃなくても俺の天使にかわりない。

「あー、なんつーんですかね、お嬢様。あんたは俺の天使なんですよ。不可侵領域っつーか。愛とかなんとかよりもむしろ崇拝?みたいな」

ごにょごにょと答えれば、変態が声高らかに笑う。お前、マジで死ね。

「これは傑作だ。いや、ロマンチシズムを感じずにはいられませんよ。顔に似合わず乙女ですねえ。ふふ、ははは…ハハ、あーっはっはっはっ」
「うるせぇよ!お前に俺の崇高な思いがわかってたまるかっつーんだよ!いいからとっととほどけ!くそっ、死ね変態!」
「否定はしませんよ。私はロリコンで変態でサディストですから」

「根にもってんじゃねーよ!ねちっこい奴だな」

お嬢様の視線が怖くてそっちを見れない。天使だなんて口走るなんざ俺は本当にアホだ。
早くここから逃げ出したいのに、机の脚に括りつけられた縄は少しも緩まない。

「天使だなんて、わたくしには過ぎた言葉ですわ。でも、嬉しい」

桐生に悪態をついていた俺は思わず耳を疑った。嬉しい。嬉しいとお嬢様は言ったのか。嬉しいって。
じーんと体の奥からこみ上げてくるものがある。

「では、その喜びを表してみてはいかがです」

言うなり、桐生はお嬢様の体をベッドから転げ落とした。

「馬鹿!怪我したらどうすんだ」
「しませんよ。この女は丈夫にできてるんですから」

桐生に促されてお嬢様はのろのろと這って俺に近づく。反射的に伸ばしていた足を自分の方へ寄せる。膝を立てたが、お嬢様は構わずに俺の足に手をかける。

「お、お嬢様?」

今までのやりとりからお嬢様の目的にだいたいの予想はつくが認めたくない。お嬢様は俺の天使だ。不可侵領域だ。

「お礼がしたいの。動かないで」

命令され、俺の体はぴたりと反抗をやめた。忠犬の性かと思えば、うっかり涙が出そうになる。
なるべく反応するまいと俺は必死の抵抗で目を閉じて頭の中で九九を唱える。頼むから、大人しくしててくれよ。
俺の気持ちなど露知らず、お嬢様は慣れた様子でベルトを外し、ズボンのジッパーを下げた。

「桐生のより小さいわ」

萎えて縮んだ俺のモノを取り出して、お嬢様が呟いた。

「可愛い」

見えない分想像が膨らむというもので、九九は四の段すらまともにできなくなっている。お嬢様の吐息がかかるだけで血が滾る。

「んっ」

唾液をまぶされ、ぬるりとした感触が柔らかな手のひらで全体に広げられる。
しごきながら、お嬢様は躊躇いもなく先端をくわえる。
あのお嬢様が俺のモノをくわえている。ありえない。お嬢様には清らかなままでいてほしかったのに、自分からすすんで男に奉仕するなんぞ俺の天使のすることじゃない。しかも上手い。気持ちいい。
たまらずに目を開ければ一心不乱にモノをしゃぶるお嬢様が目に入る。それを認めた瞬間、俺は俺の天使を汚してしまった。

「あ、たくさん……まだ、出てる」

ありえないことに俺の精液を飲み下していったん口を離したお嬢様だったが、残滓を吸い取るように再びくわえだす。

「お嬢様に奉仕してもらうなんて二度とないチャンスですよ。あなたには過ぎた幸せですよね」

お嬢様の背後に膝をつき、桐生がいやらしく笑う。

「他の男のものをくわえてこんなに濡らすなんて、お仕置きが必要ですね」

ぴしゃりとお嬢様の尻を平手で打ってから、桐生は尻を掴んでモノを一気に突き入れた。

「ひっ……あァああああああっ!!!!」

俺のモノから口を離し、お嬢様は挿入の衝撃に耐えている。
桐生は容赦がなかった。お嬢様が落ち着くのを待つでもなく、自分の欲望に正直に腰を振る。大きく腰を突き入れる度にお嬢様の目からは涙がこぼれた。
それでも、桐生の動きに馴染んでくるとお嬢様は俺への奉仕を再開させる。しゃぶりながら突かれることに快感を覚えているようで、お嬢様は虚ろな目をしている。

「この女は天使なんかじゃありませんよ。男なしじゃいられないんです。ほら、こんなにされて悦んでる」

桐生がお嬢様の髪を掴み、荒々しく頭を動かす。俺のモノが喉の奥に当たりそうな動きにお嬢様が心配になるが、確かに悦んでいるように見えた。
快感で頭がかすむ。俺の天使にしゃぶらせてることも、目の前で俺の天使が犯されてることも全部現実味がなさすぎて夢のようだ。だけど、体に与えられる快感だけは生々しく本物だ。
倒錯的な行為に惑わされ、俺は二度目の精をお嬢様の口中に放った。

「次は中で出しますか?」

お嬢様の体から凶暴なモノを抜き去り、桐生が悪役の笑みを浮かべる。
俺が返事をするよりも早くお嬢様が俺の腰を跨ぐ。
ぬめった入り口に先端が擦りつけられるのを感じながら、俺は俺の天使の妖艶な微笑に見惚れていた。






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