情事契約
シチュエーション


広い屋敷の中で黒いお仕着せを着た使用人の男が一人、とある部屋のドアを開けた。
中を見渡し、そこが空き部屋である事を素早く確認する。
そのまま半身をねじり振り向くと、彼は背後に控える人物に向かって手招きをした。

「……お嬢様、お先に中へどうぞ」

彼が呼んだのは十代半ばであろうか、モスグリーンのワンピースが良く似合う愛らしい少女であった。
波打つ黒髪にはワンピースと共布でできたリボンをつけている。

呼ばれたものの、少女はためらうようにつま先を動かしたがその場から動こうとはしなかった。
容易に従いたくないというような表情をしている。
ため息をついた男が彼女の腕を引くと、ばっとその手を振り払い声をあげた。

「なにするのよ!」
「ぐずぐずしてると人目につくでしょうが」

あきれたようにそう言うと、少女は眉を寄せて男をにらみつけてきた。
だが、正直恐くもなんともない。
なだめるようなことを言いながら、男は少女の背を押して部屋の中へと連れ込んだ。

がちゃり。

男は室内へと自分も入ってしまうと後ろ手で中錠をおろした。
金属が動く音に少女がはじかれたように振り向いてやや後ずさる。

「鍵をかける必要があるのかしら? わたしは逃げも隠れもしないというのに」
「まあ、一応。念のためにというやつですよ」

彼が指にひっかけてくるくる回しているのはこの部屋の鍵だった。
別に彼女がこの場から逃げるなど考えていない。

この人は妙に義理堅いからね。男は心中でひとりごちる。

……俺が気にしたのは邪魔が入るってこと。
こうしちまえば中から開ける以外この扉は自分と彼女とを外から隔絶してくれる。
そう考えて男は自分の口元が思わず笑みの形になったのに気がついた。
少女は何やら不穏な気配を察し、足摺ながら男から距離をとった。
だが、それを見透かしたように低い響きで男は少女に声をかけた。

「分かってますよねお嬢様? これは俺とあなたとの間のギブアンドテイク。
コトをなしで済まそうなんて……例えば説得するだとか。そんな甘い考えは捨ててくださいね」

少女の頬がかっと赤く染まった。怒りのためか、羞恥のためにかそれは分からなかったが。

鍵をくるくる回しながら自分を見据える男を前に、少女はしばらく唇を噛み締めながら
わなないていたが、やがて意を決したように自らのスカートの裾を掴んだ。

「脅迫で他人の体を自由にしようなど、お前は本当に性根の腐った男ね」
「なんとでも。俺はもぎとれる果実は自分のものにする性分なもので」

少女は優雅なしぐさで裾を持ち上げた。まるで円舞の前に礼を取るように。
裾のフリルをたなびかせながらスカートは緩やかに持ち上がっていく。
そして彼女の指が胸元まで持ち上がっていき、白いドロワーズに包まれた
少女の秘められた場所が男の目の前であらわになった。

それを見て満足そうに笑んだ男は少女に近いてその腰に手をあてた。
スカートをかかげたままの細い体がかすかに震える。

「足を少し開いて」

男は少女にそう、命じた。

男の挙動に、少女は瞳の端に強く光をきらめかせた。
本来ならこの屋敷では少女が彼に命令をする立場であるのだから。
だが無駄な抵抗は、獲物が暴れれば暴れるほど狩人を喜ばせるように
男を喜ばせると少女は分かっていた。だからこそ大人しく男の言葉に従う。

「あ……っ!」

小さな叫びがもれた。男の指がドロワーズの隙間に触れて、その間を擦っている。
きれいな刺繍がなされたその下着は股の部分が割れており、布ひだを引っ張ってしまえば
すぐに少女の恥丘がむき出しになった。

男の指の腹が少女の割れ目をなでさすり刺激する。
中指で中心を押さえ親指で陰核をこねくると、吐息に混じって少女の艶やかな声がかすれた。

「あ、あ……やぁ…っ」

スカートが揺れている。掴んでいる少女の手が震えているのだ。
手だけではない、彼女の膝も男の愛撫によってがくがくと震え始めていた。
ぬるりとにじんだ愛液を指にまとわりつかせて男は更に隙間を指でうめていく。
潤ってなめらかになった穴につぷ、と男の指が刺さった。

「――――――っ!」
「……指だけでこんなに感じるなんてお嬢様、淫乱の素質がありますね」

揶揄する言葉に少女はいやいやと首を振った。

「や、いや……ちが、そんなの違う…!あ、ああ……っ、ん、うう…」

狭い場所に指をいれたままその中で動かされ、少女は身悶えた。
男がずるりと指を少女の秘所から引き抜くと、それだけで少女の体からがくりと力が抜けた。

「おっと」

その体を受け止めてそのまま座りこむ。

「このまま……するつもり?」
「よくご存知で」

背後から抱きすくめるように抱えると、男は少女のスカートをたくしあげた。
そのまま膝を抱え、足を開かせる。

「や……」

羞恥をあおるような姿に少女が自らの顔を両手で覆った。耳まで赤い。

「こんな、こんな格好でなんて……」

消え入るような呟きに男はくす、と思わず笑いをこぼした。

「可愛いですよ、お嬢様」

そう囁いて耳朶を甘噛みする。それだけでうなじのほつれ髪がふる、と震えた。
ちゅくちゅくと水音が部屋の中に響き、長い指が少女の体を翻弄する。
いつの間にか胸元の釦も外されて少女は、コルセットの上から胸元に手を差し入れられていた。
乳房を乱暴にもみしだれながら秘部をいじられて少女は段々と声を抑えられなくなっていく。

「あんっ、あ…っ、嫌……。ううっ、ふぅ…」

声と共に奥の泉から水蜜がじわぁっ、と溢れてくる。

「そろそろ大丈夫ですね」

ぬるぬるになった少女の入り口の湿り具合を確かめると、男は自らのズボンの前をくつろげはじめた。
背中越しのその感覚に、少女の心は自らの中を満たすであろう“それ”を拒絶していた。
少なくとも彼女はそう信じている。
だが、男が触れたその場所は来訪者を待ち望むようにひくついており、肉体と心の狭間で
少女の魂は揺れに揺れた。その迷いを断ち切るように男は背後から一息にさしつらぬく。

「んぁあっ!」

少女は質量を受け止めかねて、前のめりになりながら床に手をついた。
異物感をごまかそうと息をつくが、どこか嬌声のような響きを帯びた声が出て
少女はおののいた。

「―――あっ、……だめ、そこはいやっ……あああっ」

男の腰は少女を試すように動いていた。
肉の壁がこすれる感覚に妖しい快感が高まっていく。
頂上直前まで高めかと思うと寸前で引いていき、しばらくそれを繰り返し
少女と男は、水音と肌が触れ合う音とを用いた卑猥な音楽を奏で続けていた。

「んん……うぅっ、ふ…」

最奥まで収めたまま、少女は胸元を床に押し付ける形で腰を抱えられていた。
伸びをする猫のような格好だ。快楽に朦朧とする頭でふとそんな事を思う。
猫といえば、この男。自分を蹂躙しているこの男を昔、猫のような顔をする、と
思ったことを思い出した。一歩引いて、眺める時の無関心な瞳。
彼の指は、爪は残酷だ。すぐさま自分の弱い場所を探し当て、そこを責めるのだから。
花芯をひねられて少女は、びくっと肩を震わせた。
しびれるような鋭い感覚が脳天から足先まで突き抜けていく。
きゅうっと内腿から体の奥へと収縮がおきるのを感じる。

「う……」

少女は男が低く呻く音を聞いた。
中にあるものが一瞬膨らみを帯びたかと思うとはじけるように体内で熱い液体が溢れた。

これで終わりだと分かっていたが、男が不意に顔の辺りに手を伸ばしてきて少女は身を固くした。
だが、彼は彼女の髪の一房をつかみそれを唇に押し当てただけだった。

「なん、で……」

そんな事をするのか。そう聞きたかった。自分を陵辱するだけならそれだけでいいのに
この男は時折こういう事をするから訳が分からない。それが余計に彼女を苛立たせた。
彼女の曖昧な問いに男もまた曖昧に答えず、ただ微笑んだだけだった。



「お手伝いしますよ」

男がそう声をかけたのは、コトが終わり少女が自らの衣服を整えていたその時であった。
コルセットを上手く締めなおせないようで腕をひねっては悪戦苦闘していた。
男が背後にまわって紐をつかもうとすると、硬い表情で少女が振り向く。

「やめて」

ぱしっと乾いた音が響いた。

「触らないで」

手の甲のささやかな痛みに男は苦笑する。そしてわざと大仰に手をふった。

「……別にいいですけどね。それならメイドを呼びますか?
そんな乱れたご様子を見せてもよろしいなら」

無言のまま少女はなおも紐を引っ張っていたが、やはり上手くいかないようだった。
しばらくの沈黙の後に口を開く。

「………直して頂戴」
「かしこまりまして、お嬢様」

コルセットを直し、服の釦をはめなおし、チリを払う。
されるがままに服を着せられながら少女はぽつりと言った。

「約束は分かっているわね?」
「もちろんですよ」
「信用できないから確かめてるの。
約束がなければお前とこんな事するものですか」
「ひどいなぁ」

堪えた様子もなく男は言うと、はいできあがり、と少女の背中をぱんと軽く叩いた。
少女はそれで男に用がなくなったのか踵を返し扉の傍へと向かった。
鍵を開け外に出て行こうとする少女に男は声をかける。

「……俺に抱かれるのが嫌なら、全てを明らかにすればよろしいのに」

少女の瞳がすいっと細くなり、その中心に揺らめく光が見えた。

「できるはずもないでしょう。……嫌な男ね」

扉の隙間からの明かりが逆光となり少女の表情を見えづらくする。
男がため息をつくそのひと間に少女はするりと出て行って、扉は
光を遮りながらゆっくりと閉まっていった。






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