お嬢様の結婚が決まった
シチュエーション


お嬢様の結婚が決まった。
相手も申し分ない。家柄は言わずもがな、大変ご優秀なお方である。
一介の使用人である自分に対してもよくしてくれるし、何といってもお嬢様を何より大切にしてくださる。
お嬢様のほかに、この家の跡継ぎはいない。
お家はいずれなくなってしまうではあろうが、血を残すことはできる。

何より、自分の中で日に日に大きくなっていく想いを断ち切ることもできる。
お仕えすべき方にこのような邪な想いを抱くなど、あってはならないこと。
あってはならないことなのだ。

お嬢様がこの家を出られ、嫁いでいくまで後数日となった。
いつものようにお嬢様が寝られるのを確認し、屋敷の見回りをし、自分の部屋に戻る。
あとわずかでお嬢様の部屋に行くことはなくなる。
今までの日課が、あと数日で変わってしまうのだと考えると、寂しいものがある。
だがしかし、この日課が終わることは喜ばしいことなのだ。
そう自分に言い聞かせ、仕事着を脱ぎ、寝る体勢に入る。

ここ数日はどうにも寝つきが悪い。
横になっても落ち着かない。眠いのに、眠いはずなのに、眠れない。
そんなときは茶を入れることにする。花の香りがするその茶は、安眠効果があるらしい。
行きつけの店で買ったものだ。この店の茶は、お嬢様のお気に入りでもある。
だが、うっかりしていた。ここのところ毎晩のように飲んでいたせいか、いつの間にか茶葉がなくなっていたようだ。
そういえば、この間店主がなにやら見知らぬ茶葉をくれたような気がする。いつも買ってくれてるから特別だよ、と。
気分がもやもやしているときにいいらしい。
安眠効果があるかは知らないが、少なくとも気分は晴れるだろう。そうすればすっきり眠れるに違いない。

茶葉に湯を注ぐと同時に、部屋の戸を叩く音が聞こえた。
この屋敷はもろもろの事情で、使用人が自分と自分の養父母しかいない。
そのどちらかだろうと思い、戸を開けると
そこにいたのは寝巻き姿のお嬢様だった。

自分とはあまり年が変わらないはずだが、お嬢様はずっと年上のような、大人びた雰囲気をお持ちだ。
年老いた大旦那様、若くしてなくなられた若旦那様に代わり、ここ数年、ずっとこのお家を支えてきたのだ。
かつての繁栄は見る影もなくなってしまったが、この家の名は衰えていない。
お嬢様は気高く、凛々しく、美しい。
だが今、目の前にいるお嬢様は、ひどく幼く、そして弱弱しく見える。
只ならぬことがあったのかとも考えたが、自分と話がしたいだけだと言う。
確かに、最近は婚礼の準備で忙しく、あまり話をしていなかったように思う。
それにしても、夜更けに寝巻きで、しかも若い男の部屋に来るなど、無防備にもほどがある。
普段なら追い返すところだが、―そもそもこのように来たことは一度も無かった、が、部屋に招きいれた。

甘く、不思議な香りが部屋を満たしている。先ほど入れた茶葉の香りだ。
お嬢様はもの珍しそうに部屋を見まわしている。面白い部屋だ、といい、笑った。
自分はあいまいな返事をする。なぜだか、お嬢様から目が離せない。
いつもはまとめている髪が、お嬢様の首筋周りを覆い、肩に、鎖骨に、触れている。
寝巻きの端からのぞく白い肌。お嬢様を形作るなだらかな曲線。目を離せないことに気づき、自分がいやになる。
茶を入れる動作に移ることで、目をそらす。変に思われてはいないだろうか。
自分の中の、奥のほうから湧き上がってきた何か、は、目をそらしたことで抑えられた。
この部屋には幸いカップが二つある。しかし、お嬢様に差し出せるような代物ではない。
迷っていると、なにやら楽しそうなお嬢様の声。私に茶はくれないのか、と言う。
戸惑ったが、茶の入ったカップを渡した。汚れているわけではないが、渡すことに抵抗がある。
気にする様子も無く、お嬢様が茶を飲む。私も口をつけた。甘く不思議な香りが、口の中に広がる。

そのまま他愛の無い話に移る。自分がこの屋敷にもらわれてきた当時の話や、お嬢様のしたいたずらの話。
お嬢様と自分が出会ってからの数年、いろんなことがあった。楽しかった。
ふと、先ほどまでの楽しそうな雰囲気が消え、お嬢様がはうつむいた。そのままぽつり、ぽつりと話し始める。


話は結婚することに対しての不安だった。ように思う。
うつむいたお嬢様を見て、抑えていた何かがまた湧き上がってきた。
話を聞けない。体の奥底から湧き上がってくる「何か」を抑えることで精一杯だ。
頭がぼんやりとする。甘い香りが、霞となって目の前を覆っているような感覚。

お嬢様が顔をあげた。
いつも凛々しく輝いていた瞳が不安げに揺れている。今にも泣き出しそうだ。
柔らかそうな唇はわずかだが開いている。
そしてひどく小さく、頼りなげに見える。

名前を呼ばれた、気がした。
気づけば、自分はお嬢様を掻き抱いていた。
小さく見えていたのは嘘ではなかった。お嬢様の肩は細く、今にも崩れてしまいそうだ。
こわばってはいるが、柔らかい。
抱きしめたまま少し体を離し、視線を合わせる。
そのまま唇を重ね、何度も何度も重ねたが、重ねるだけでは飽き足らず、そして

少しだけ開いていた唇を開かせ、舌を入れる。
お嬢様のものと、自分のもの。2つの舌が絡まり、ぬるりとした感触が伝わってくる。
突然のことに驚いているのか、お嬢様ははされるがままだ。
つ、と細い糸がのびた唇を離すと同時に、ベッドに押し倒し、お嬢様に覆いかぶさる形に体を移動させる。
驚きとおびえの混じった瞳が、自分を見上げている。
お嬢様が唇を動かした。何か言いかけたようだが、言葉にならない。いや、よく聞き取れないのだ。
自分の体に湧き上がってきた何かは獣であるらしい。獣に支配された自分に聞こえるのは、狂おしくも艶かしい啼き声だけだ。
その啼き声はどうすればもっと聞けるのだろうか。もっと聞きたい。
そのまま首筋にむしゃぶりつく。狩りのときに獣が、そこに噛み付くように。
だが、噛み付いて殺してしまってはいけない。啼き声を聞きたいのだから、急いてはいけない。

首筋に軽く噛み付く。そのまま舌を這わせたり、ついばんでみたりする。
啼き声とは別に唇で味わう感触も、非常に美味なものだ。鼻腔をくすぐる、甘く不思議な香りとそれとも違う極上の香りもたまらない。
本来ならば、自分のようなものが、その存在を耳にすることも味わうことも無いはずのものだ。
こんなことは二度とないだろう。そもそも、今起こっていること自体が、靄の向こうのように感じられるのだから。

顔を移動させ、鎖骨を舐める。同時に、寝間着の裾に手をかける。全てを味わうのに服は邪魔だ。
白い肌があらわになる。服は着ていないはずだが、小さく震える白い肌は薄紅色の衣をまとっているように見える。
乳房を揉みしだき、先端をつまみ、弾き、銜え、しごく。熟れた果実は柔らかく、自分の手の動きに合わせ、やわやわと形を変える。手のひらに吸い付くような柔らかさと、たっぷりとした重さを感じる。
先端の蕾は硬い。そっと舐めると、まるで咲きほころぶように、びくりと身体が跳ねる。

なだらかにくびれた腰に手を這わせる。それはひどくなめらかで、乱暴に扱えば壊れてしまいそうだ。
細かな装飾品や陶器など、繊細なものを壊さぬよう丁寧に扱うことは得意だ。ただ、いま丁寧に扱えているかどうかは自信が無い。
その証拠か、小刻みな震えが、ときどき大きな跳ね上がりとなる。壊してしまっては味わえない。

ふと、自分の体に何かが絡み付こうとしているようなこそばゆさを感じる。お嬢様の指だと理解するのに、わずかだが時間がかかった。






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