一富士二鷹三茄子(非エロ)
シチュエーション


いつも唐突で突然で、それがやや右斜め上なのが多嘉山家当主、多嘉山那須の特徴である。

「突然だが、僕の枕元に一晩侍れ。いや、僕の枕になれ」
「はい?……あの、理由を伺ってもよろしいでしょうか」

頓珍漢なお坊ちゃん……などと言ってはならない。
あくまでも「純粋で、素直すぎる一面がやや強い」所のある那須様は、
たまに目的設定とそれを実現する手順とが大幅にずれていることがあるのだ。
林檎をひとつ取るために林檎の木を根っこから切り倒せと命令するような突拍子も無さ、
と説明すればいいだろうか。
なので、那須様が何事か言い出した時には分かるまでじっくり話を聞く。
それが御当主付きのメイドとしては欠かせない資質であった。

「大したことではないのだが、初夢はこれからの一年を占う大事な物だと聞く。
今年始めてみた夢次第で今年一年の善し悪しが左右される物だそうだ。重要だ」
「はあ」
「何でも、枕の下に自分の好きな物を敷いて寝ると、それについての夢を見る確率が高まるらしい」
「はあ」
「そこでだ、真冬に僕の枕になってもらいたい。
いや、下に敷いて寝るのだったな。枕の下になって欲しい」
「………………えっと、それはご命令でしょうか」

そこで、からの話の飛躍にくらくらと眩暈をおぼえながら婉曲的に『嫌だ』の意を
伝えようとはするが、幸か不幸か那須はそんな真冬の心に気がつくことは無い。
むしろ『御主人様ノ許可ヲイタダキタイ』的な意味に取ったらしく、大仰に頷いている。
思考は既に明後日の方向へ、強風に煽られた凧のようにくるくる跳んでいるようだった。

「必要ならばそうしてもいい。

それと、枕の下に敷いて寝るのだからそれ相応に薄くなくてはならん。
しかしだ、古来より枕にするのは膝であると決まっている。太股ならばなおのこと良い。
だが、真冬の太股は枕の下に敷いて寝るには太すぎる」

「何気に喧嘩売ってますか、ご主人様」
「そう言うわけで真冬、太股を薄くしろ。しかし適切な弾力は残さねばならんぞ。
弾力は太股に必須事項だ」
「申し訳ありませんが方法を伺ってもよろしいでしょうか。
わたくしも、足を細くする方法についてはあながち無関心なわけでは御座いませんので」
「知らん。真冬が考えろ」
「っ……!!それが出来たらどんなにか!!!…………いえいえ、何でもありません」

真冬はついつい固く握りしめてしまった拳をスカートの陰にさっと隠した。
御主人様相手に暴力はいけない、暴力は。
我を忘れかけた心をどうにか落ち着かせて咳払いで誤魔化すと、ぴしりとひびの入った
微笑みを気付かれないように素早く修復してゆく。
この修復作業においては、真冬は誰にも引けを取らない一級の腕の持ち主である。
にこやかに、穏やかに、心がけるは天使の微笑み。
全てを包み込むような満面の笑みを浮かべると、その時だけは有り難いことに那須も思考を停止するのだ。
真冬は、その思考が停止した一瞬の隙を付いて那須の両の手を取ってそのまま胸に押し頂いた。
真冬の豊満な胸に両手を押し抱かれ、息を飲んだ那須へと距離を詰める。
間髪を入れず上目遣いの目線で見上げると、みるみるうちに那須の頬が赤くなっていく。
真冬は勝利を確信し、今度こそ本当に心からの笑みを浮かべた。

「ご主人様」
「なっ、何だ?」
「私の足を細くするより、まずは枕を薄くされる方をご検討頂けると嬉しいのですが」
「あ……そうか、成る程言われてみると尤もだ」
「それでは、そのように用意をして参りましょう」

言うが早いか押し頂いていた両手を放し、流れるようなお辞儀をする。

「あ……ああ」
「では、失礼致します」

狐につままれたような顔の那須を残して退出しながら、真冬はスカートの上から足をさすった。
この後、那須が寝るまで延々と膝枕をしなければならないのだ。
その荒行をこなした後に、足に襲いかかってくるだろうしびれを考えただけでも両足が引きつる。

爆弾処理班――。
ご当主付きメイドの事を、屋敷の者達は密かにそう呼んでいる。
真冬はそれを聞いた時、それまで腑に落ちなかったことの全てに納得がいったものだった。
でなければ、代々この家の使用人でもない真冬が御当主付きのメイドとなれるはずもない。
高給が約束された多嘉山家のメイドとなれたのは、果たして幸か不幸か。
真冬にはどちらとも判じがたい。
多嘉山家のお坊ちゃんのお相手をするのは真冬にとって骨が折れることだったが、
次から次へと頓狂な事を言う那須の傍にいると、毎日が驚くほど早く過ぎてゆく。
めまぐるしい日々は、真冬にとって有り難いものだった。
退屈は怖い。
特に、余計なことを考えてしまうような、何もない時間は真冬の一番恐怖するものだった。
だから、那須のことも最後の最後でどうあっても嫌うことが出来ないのだ。

ともあれ、爆弾処理班の夜は長い。
恐らく今年の初夢は見れないだろう事を覚悟しながら、『膝枕用の枕』なる物を作るため
真冬は裁縫箱を取り出した。






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