ミス・テイラー
シチュエーション


「今日はここまで」

分厚い歴史書を閉じると、向かいに座った少年はにこりと微笑みました。

「ありがとうございました、ミス・テイラー」

淡い金髪に青い目、この天使のように美しい少年は、わたしの教え子であり、この屋敷のご当主です。
早くに父親を無くされ、十三歳にして爵位を継がれました。
そのせいでしょうか。
歳の割に随分大人びていて、時折自分が恥ずかしくなることもあるぐらいです。

「あの、先生。お時間はありますか」

今日はきりのいいところで切り上げたので時間は早めでした。

「ええ、大丈夫ですよ。何でしょうか」

坊ちゃまは遠慮がちに尋ねます。

「教えて頂きたいことがあるのです」
「まあ、何かしら」

何て勉強熱心なんでしょう。わたしは感動してため息を漏らしました。
わたしのこれまでの教え子で、これ程出来の良い、賢い子はいませんでした。
ですから、多少甘やかしていたところがありました。
今思えば、それはこちらに付け込む第一歩だったと言えるでしょう。
しかしそのときは、気づいていませんでした。
坊ちゃまは柔和な笑みを浮かべたまま、机を廻ってわたしの傍らに立ちました。

「今日の授業で分からないところがありましたか?それとも……」

みなまで言うことはできませんでした。
坊ちゃまが急にわたしの両手を捩り上げたのです。

「なっ……」

華奢な外見に似合わず、凄い力でした。

「な、何するの……」

抵抗しようとしましたが、無理でした。
坊ちゃまは隠し持ったハンカチで、わたしの手を後ろ手にきつく縛り付けました。

「さて」

満足げに頷くと、坊ちゃまはわたしを見下ろします。

「何の悪戯ですか、坊ちゃま。
せ、先生は坊ちゃまがそんな人間ではないと知っていますよ」

あの天使のような坊ちゃまがこんなことをするなんて。
わたしは動揺していました。
分かったような口を利きながら、何が起こっているのかまるで理解できませんでした。

「何を言っているんです、ミス・テイラー」

坊ちゃまが微笑みます。

「教えて欲しいんです、言ったでしょう?」
「……何を?」
「先生、あなたのことですよ。理由に思い当たりませんか?」
「わたしのことなら、何でも教えてあげます。
こんなことをしなくても……」
「本当に?」

そう言うやいなや、坊ちゃまはわたしの服の裾をめくりあげました。
思わず悲鳴を上げるところでした。

「これでも、ですか?」

大きく脚を開かせられ、下着の合わせ目から肌が覗きそうになりました。

「やめて、お願い」

自分の声が震えていました。
人が変わったような豹変ぶりに、わたしは怖くなりました。

「何でも教えて下さるって、さっき言ったばかりなのに?
ねえ、ミス・テイラー」
「何だっていうの、坊ちゃま、本当に」
「授業中ではありません、ミス・テイラー。今は屋敷の当主として話しているんです」
「は、はい。失礼しました……サー」
「知っているんですよ、うちの使用人に手を出したでしょう」

わたしはかぶりを振りました。

「違います。わたしは、そんなことは」

それに、使用人同士の恋愛は推奨されることではありませんが、ここまでされる謂れは無いはずです。
それでも坊ちゃまは憎しみをこめた表情でつぶやきました。

「僕の従者と逢い引きしているところを見ました。
……顔を赤らめてこそこそと。
言い逃れはできませんよ」

「違うの、それは……っ、ああっ!」

思わず声を上げてしまいました。坊ちゃまが内股を撫で上げたのです。

「ふうん、あいつにはこんな声を聞かせているんだ」

ひとしきり腿の感触を味わった後、今度は上着の釦を外しにかかりました。

「やめて、坊ちゃま、いえ旦那様……お願い、やめて」
「僕にも教えて下さいよ、ミス・テイラー。あなたがどんな声を出すのか」

胸元がはだけられました。コルセットを締めたままの胸に、坊ちゃまが吸い付きます。

「あ、だっ、駄目です、そんなところを」

寄せた胸の谷間を辿り、坊ちゃまの唇は下着の奥、その先端ぎりぎりを強く吸い上げました。
痺れるような快感が襲います。

「あ、あっ!だめぇっ……!」

坊ちゃまは更に、舌先を伸ばし、ちろちろと乳輪の縁を舐めました。
届きそうで届かない、じりじりとした刺激がわたしを高ぶらせます。

「や、あっ……」
「あいつには触らせたんですか?聞くまでもないでしょうけど」
「坊ちゃまっ、本当に、違うの、信じてっ……ぁんっ!」

鎖骨、首筋、うなじへと、巧みに唇が這い、わたしはその度にぴくん、ぴくんと震えてしまいます。
思えば、坊ちゃまがどこでこんな技術を身につけたのか。
このときのわたしには、そこまで意識が回りませんでした。

「随分、反応がいいんですね」

坊ちゃまはそう言いながら、コルセットを解きにかかります。
こんなお屋敷の坊ちゃまに見せるのは恥ずかしいような安物の下着はあっさりと外され、見せるのは更に恥ずかしい肌があらわになりました。
しかし坊ちゃまは躊躇いもなくその先端にしゃぶりつき、ちゅうちゅうと吸いはじめました。

「……っや、や、だめ、は、あぁっ……そんな、あ、んんっ」

嫌だと言いつつ、いつの間にかその胸を突き出している自分がいました。

「いやらしいミス・テイラー」

坊ちゃまはいつものように、優雅に微笑みます。
その中にひとかけの愉悦を含んで。

「あ、ああ……そんな、わたしは……」

恥ずかしくなって、わたしは顔を伏せました。
あのきれいな坊ちゃまに、こんな淫らなものを見せてしまうなんて。

淫らに、されてしまうなんて。

「ほら、こんなに」
「やぁっ……」
「僕みたいな子供にだってこんなに感じるなんて、ミス・テイラーはいやらしい人なんだね」
「やっ、そんなこと……あ、あっ、言わないで……は、はっ、だめ、掻き混ぜないでっ……」

くちゅくちゅと卑猥な音が、静かな勉強室に響きます。

「これは折檻ですよ、ミス・テイラー。
そんなに悦んでいいんですか?」

その合間に自分の喘ぎ声、坊ちゃまの囁くような尋問。
わたしは気が遠くなりそうでした。


「あいつには使わせたんでしょう?どのくらい?もしかして、毎晩?」
「してない……」
「まだ?」
「まだ、も、何も……っ。わたしとその方とは、何もありません」
「じゃあ、この間、顔を赤らめて彼の部屋から出て来たのは何故ですか」
「……人には言わずに済ませるつもりでした。ばれてしまったからには、仕方ありません」
「何を?」

質問の合間にも責め苦は続きます。

「わたしは、……恥ずべき人間です。許されることではないと、思っていました」

攻め寄せる快感に抗いながら、わたしはうわごとのようにつぶやきました。

「坊ちゃま、わたしがお慕いしているのは坊ちゃまです」

不意にわたしの身体を苛む指が止まりました。

「……言い逃れですか」
「いいえ、いいえ」

もはや無我夢中でした。
涙を浮かべた目で、わたしは坊ちゃまを見上げました。

「坊ちゃまは素敵な方です。歳の差など感じさせないくらい」

今度は坊ちゃまが当惑しているようです。

「ミスター・ウィンストンは教えて下さったのです。
坊ちゃまの、わたしへの想いを」

坊ちゃまは呆然と話を聞いています。

「言われて初めて、気がつきました。わたしの坊ちゃまへの気持ちもまた、教師と生徒のそれだけではないと」

あれだけ暴れたからでしょう。手を縛るハンカチは緩んでいました。

「ミスター・ウィンストンはこうもおっしゃいました。
屋敷の主人と使用人、家庭教師と生徒……使用人同士の恋愛以上にご法度でしょう。
遂げるためには、実力行使しかない、と」

坊ちゃまの気が削がれた隙に、わたしは手枷を解き、坊ちゃまにつかみ掛かりました。
今度は坊ちゃまが机に乗り上げる形になりました。
降りようとするところを、わたしは素早く坊ちゃまの下履きを脱がせました。

「まさか」

坊ちゃまのそれは、子供ながらがちがちに硬くなっていました。
わたしの痴態を見て興奮して下さったのでしょうか。
可愛らしい坊ちゃま。

「それからは、坊ちゃまと来たるときのために色々勉強しましたわ。
ご存知でしょう?わたしは勉強が大好きなのですよ」

坊ちゃまが口を開きましたが、返答を待たずにわたしはそれを口に含み、扱き始めました。
形成逆転したことで、どうしたらよいか分からないのでしょう。
坊ちゃまは恐れおののくような、快感に耐えかねるような、歪んだ表情になりました。
まあ、いいお顔。坊ちゃま、気持ちいいんでしょう。
ですが、あの天使のような可愛らしさでこんな悪いことを企んでいたなんて。
せっかく、わたしが時機を図って待っていたというのに。

「悪い子には、お仕置きしなければいけませんね……」

わたしは、坊ちゃまの大事な部分がよく見えるよう脚を持ち上げました。
赤ん坊がおしめを替えるときのような格好です。
流石に恥ずかしくなったのか暴れだしましたが、今度わたしが攻める番です。
容赦はいたしません。

「ミス……で、出ちゃう」

そんなお声を出されたら、ますますやる気になってしまいます。

先端を舌先で突き、筋をなぞり、唇で根本から扱くたびに坊ちゃまの身体がのけ反ります。
ああ、感じて下さっているのかしら。

次第に動きは小刻みになります。限界が近いようです。

「さあ、先に言うことはありませんか?
……もっと、よくなりたいでしょう?」
「ええ……ミス・テイラー、好きです、ミス・テイラー……あ、あっ!」

内股を撫でさすると、ぴくんと身体が震えます。

「わたしもです、坊ちゃま。お慕いしております。
嬉しい……」

わたしは坊ちゃまの上着に手を差し入れ、脇腹を優しく愛撫しました。

「う、ああ……っ!」

とぷっ、と口腔に熱いものが満ち溢れました。
決して美味ではありませんが、このときばかりは甘美な味に感じられました。
有り難くそれを押しいただき、飲み干しました。

*

気づけば、二人とも汗だくになっていました。

「坊ちゃま、嬉しいですわ。わたしを想って下さっていたなんて」
「……僕もです、ミス・テイラー」

怠そうに椅子にもたれながら、坊ちゃまはいささか悔しげでした。
あれから更に二度ほど、して差し上げたのです。
わたしの手技で存分にいかされて、幼いながら矜持の高い坊ちゃまにはいささか屈辱だったようです。

可愛らしい坊ちゃま、女においたをするにはまだ早かったようですね。
ですが、想いのあまり手込めにしようとするなんて、子供のわりに積極的です。
……まだまだ時間はあります。

「……次の授業は、ミス・テイラー、あなたのことを教えて下さいね」

そうですね。
まだ、わたしの『中』はお預けでしたからね。
わたしはにこりと微笑みました。

「ええ、何から教えましょうか?」






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