鈴と王様 realize
シチュエーション


好きな人が凄い人だと良いな。そういう風に考えた事はある?
凄い人って言うのはそう、あんまりこ難しい意味じゃなくて、単純に凄いって事。

例えば、…王様とか。

あ、いやいや、ね、ま、王様とかはね。ちょっと。とか思うかもしれないけれど
素敵な騎士様(実際の騎士様はお爺さんが多いけど。)位なら女の子だったら考えたりした事あるんじゃないかな。と思う。

何でも出来ていつもクールだけど自分の前でだけはおっちょこちょいの騎士様とか。
いつも人を笑わせてばかりの3枚目だけれど、自分の前でだけ、真剣な自分の気持を教えてくれる騎士様とか。
普段はアウトローな渋い男だけれど実は女の子は苦手、な騎士様とか。
後、いつも自分を抑えてて、妙な所で他人には優しい泣き虫な王様とか。

ふむう。まあ、悪くはないよね。そういうのってさ。
ちょっとドキドキしちゃうよね。
あ、最後のは無い?まあ、良いじゃないか。
意外とそういうのに限っていざとなると頑張ったりもするんだから。

髪は銀髪で目は青みがかっててさ。剣の腕は並ぶもの無しの腕前ながら勿論体型はスマート。
それだけじゃない。何か問題が発生した時には数に優る敵をきりきり舞いにさせてしまうような策も持ってるクールな頭脳派。
それでいて私が絶体絶命!の瞬間には自らマントを翻し、剣を抜いて自ら助けに行っちゃう行動派でもあったりして。
走る馬車から突き落とされた私を間一髪馬上で受け止めて、
汗一つかいていない顔でにっこりと白い歯を見せながら爽やかに笑ってこう言うの。

「大丈夫かい、お嬢さん。」

馬上で抱きしめられた私はきゅんと胸を締め付けられながらこう言う訳。

「ああ、私の騎士様・・・」

うん。
そんなのだったら、素敵だよね。

ま、そうじゃない場合もあるかもしれない。
髪は黒髪でぼさぼさ、顔は、まあそこそこかな。うん。悪くはないかも。でも剣は出来ないね。運動神経無いから。
体型はスマートだけど痩せてるって言った方が良いかも。本当はもうちょっと食べた方が良いんだけどね。
珍しいよね。貴族って大抵太るものなのに。お父さんもお爺さんもそうだったから血かも。
頭、は悪くないけど頭脳派って訳じゃないなあ。どちらかというと実直な感じ。

私が困った時には死ぬって訳でもないのに持ち前の権力で周囲の迷惑を省みずに我侭の限りを尽くして助けてくれるの。
城から出て辺境にすっ飛ばされて名前だけ立派な荒地に住んで食うや食わずの生活を3代も続ければハイ解決、
の話を蒸し返すもんだから大騒ぎになって回りの人間が辻褄合わせの為におおわらわ。
もうさ、我侭はその辺にして諦めなよ。皆色んな所でメンツとか決まりとかあるんだからさ。
ってのを分厚いオブラートに包みながら誰が言っても頑として聞かないで1人でハンスト。
叱ろうがすかそうが脅そうが頑として口も開かず。

しょうがないから長老やら側近の人達やらが本気で泣きそうになりながら
あちこち駆けずり回って話し合って辻褄あわせとか皆のメンツとか今後への影響とか王様の我侭を秤にかけて
何日も寝ないでうんうん唸った挙句、誰かがど田舎の誰も知らないような土地の仕来りを引っ張ってきて
法律とメンツと宗教と旧来の仕来りを極大にまで解釈させた上でこれに従えばまあ、いいかな。
皆もまあ、納得するかもっていうラインっぽいものを引いてようやくまとめあげて。

それなのにそうやって出来た苦心の上のその案をさあこれでどうでしょう王様と差し出した所、
最初に出たのが「こんなの駄目。」
その後もこれ以上はもう押しても引いてもどうにもなりませんという説得にもがんとして首を縦に振らず何も食べず飲まず。
先々代からの国王の側近で王様の育ての親とも後見人とも自負しているような普段はそれはそれは恐い側近のご老人が
水だけは飲んでくれなきゃ今すぐ私はここから身を投げますと涙ながらに懇願するも無視。
引っ込みつかなくなったそのご老人が止めてくれるなと窓に向かって走るのを皆で必死に抑えていたら
いつのまにか抑える方も悲しくなってきて皆で団子状になって号泣しながら説得した挙句、数時間を経てようやく渋々と納得。

様々な仕来りによって城の内部には入れず、でも処分も決まってないし、もう処分決まってるんだし城の牢屋に入れるのもねえ、
でも近くに置いとかないと王様が。というこれまた誰も考えたくない類の難題に皆が頭を絞った挙句、
折衷案として城の門のすぐ前にある王様の側近中の側近(奇しくも飛び降りようとしたご老人)の屋敷の離れの家とも小屋とも軟禁場所ともつかない場所にいた私の所に側近振りほどいて城門を突破してきた挙句(それも異例の事態)鼻水たらした泣き顔でこういうの。

「ごめんね、鈴、ごめんね。」

そして物凄い勢いで王様が走ってきてるから。お前そのボロ着てるのはさすがにヤバイから何でも良いから早く着替えろ。
ええい、そこにあるのでいいから持って来い。
という理由で慌てて着せられたその側近の一人娘の一番のお気に入りの素敵なドレスにぐしぐしの鼻を擦り付けてくる王様の頭を撫でながら私がこういう訳。

「君ねえ、何でそんな無茶するの。」


あ、そういうのは無し?
無しだろうねえ。
うん。


でも、まあ、結構ドキドキするよ。
やるだけやってくれたんだから。
涙出たし。
私の家は父が行ってしまった罪が決まるまで数年間、
ずっと私の家は処分の決まらないままの半分だけ罪人って扱いの家で、
そんな時に先代の王様が亡くなってその男の子が王様になってさ。
不安だったろうに、右も左もわからなかったろうに、周りには頭の良いのやら頑固なのやら
王様の手を煩わせずになんでも決められる位に経験を積んだ側近が一杯いてさ。
そういうのは、恐いんだよ。王様だって平気で叱り飛ばしちゃうんだから。
きっと毎日、言われた事にはいはいって答えるだけだって大変だったろうにさ。

他人にいいえって答えるのにだって悩むような男の子が、その泣き虫が、
幼馴染の一つ年下の、泣き虫の男の子が、
私の為にもう一回決まってしまった事をひっくり返そうと、一生懸命頑張ってくれたのだから。

話がずれちゃったね。
最初の質問に戻ろうか。
好きな人が凄い人だと良いな。そういう風に考えた事はある?
そんな話だったね。

もしあるというのならそれに対する私のアドバイスはこうだ。
いい事もある。あるかな。まあ、あるかも。
多分ね。

でも、そうじゃないにこしたものではないし、行きすぎってのは何にせよ大変だ。
多分あなたが考えているよりもずっと、ずっとね。
あんまり高望みせず、手近な所で済ませた方が良いんじゃないかな。
程ほどにしとくといいよ。
例えばクールな騎士様のお気楽な次男坊とかあたりがぎりぎりじゃないかな。
その位のライン。
まあ、若しくは…なんだったら、近所のなんでもない、気の知れた幼馴染あたりにしておいた方が良いかもしれないよ。

まあ、もう好きになってしまった、とか?
その幼馴染が凄かった、というのならしょうがないのだけれどもさ。

@@

男の子と私が仲良くなったのはそう、お互いが大分幼い頃だった。
私が子供の頃、父の位は伯爵で、これは国の中では相当に高い地位だった。
国を作った初代の国王様が兵を挙げた時に私の祖父も他の地域で同時に兵を挙げていて、
ある戦争を切っ掛けに初代の国王様と共に戦ったという縁でその結果多くの領地を拝領して、
父も祖父を継いでその領地を治めていた。

父の領地は国土の東の山脈に連なる広大な平原を中心としていたけれど、
国土の西にある祖父の持っていた領地も飛び地として治めていた。
つまりは先祖代々の土地という奴だ。

祖父と初代の国王様が戦を共にした所謂戦友であったのと同じように私の父と2代目の国王様も戦友であり、
誤解を恐れずに言えば肝胆相照らす仲の友人だった。
父は他の伯爵、侯爵とは違い殆ど領地へは帰らず、
国王の城の側に屋敷を持って暮らしていた。
無論、私もそこに暮らしていて、
父が城に上がる事が多い関係上私もよくその後をついて行き(そういえば当時はそれだけ自由でもあった)、
必然的に周りは大人ばかりだったから、まあ、
城の中で出会った、同年代の、つまり2代目の国王様の息子であるという泣き虫の男の子と良く遊ぶ事となったのだ。

遊んだといっても私の方が一つ年上であったのだから、
どちらかといえば私が遊んであげたのだ。
お転婆だった私は木の枝を持っては殴りつけ、花を摘ませては花冠を作らせ、
虫を捕まえては背中に入れてやり大層泣かしたものだ。

まあ長ずるにつけ、さすがに私も2代目の国王様の息子であるその男の子は将来国王様になるのだと云う事に気がつく事となり、
と共に女の子としての礼儀をさすがにまずいと考えた周囲に教えられる事となり、
男の子を木の枝に殴りつける事は無くなったけれども。
でも基本的に私と男の子のその関係は変わらなかった。

城の中で長い昼間を一緒に過ごしながら
男の子のいくら女官に整えられてもすぐにぼさぼさにしてしまう髪を整えてやり、
儀式で失敗して誰それに怒られたと言っては泣くその男の子を慰めてやり、
こっそりと二人で城を抜け出して街に遊びに出かけては一緒にしこたま怒られ、
女官が隠し持っていたどこそこの文学者崩れが書いたという少々品の無い物語を持ち出してはソファに寝転がり、
ページをめくりながら二人で読んだ。

さらにもう少し時が経ってその男の子はいつの間にか王太子と呼ばれるようになって背もそれなりに高くなり、
そしてそんなには泣かなくなったけれど、
やっぱりそれでも私達の関係はあまり変わらなかった。
呼び方が少し、変わったくらいだ。

大きくなって私が城に上がる事が少なくなっても、
何となく気弱なその男の子は悩み事があるとすぐに私に手紙を書いたし、私も返事をした。
舞踏会があればずっと昔からのまま、その男の子は私を見つけるなり真っ先に私のところに駆け寄ってきたのだ。

まあ、その後のことは、さっき話したよね。

@@@

ゆっくりと舌を這わせる。柔らかい肌の感触を舌に感じると共に汗のにおいとすこししょっぱい味が舌先にぴりぴりと感じる。
ゆっくりと滑らせて舐め取るように動かす。
私の舌で、綺麗になるように。
まあ私は元々唾が多いから良いのだけれど、これは結構大変だ。
両脚から両腕。首周りと胸、お腹とその、お尻、と、ええと、まあ、大事な部分?
まあ、一部の隙も無く、という訳ではなく、腕とか足とかは汚れている部分を中心に。
首周りや胸、お腹は丁寧に。
ええと、それ以降は、丹念に。凄く。
まあ、よろこぶ、から、ね。
うん。

首元に顔を近づけると、ん、と悶える。ぺろぺろ、と喉から顎にかけて舐める。
男の子の顔は、真っ赤だ。何回しても顔を真っ赤にしていて、可愛い。
女の子、知らないわけじゃないだろうに、何でいつまで経ってもこう初心なのだろうか。
目をぎゅっと閉じて私の舌の動きに身を任せている。
ま、顔を真っ赤にしているのは私も一緒なのだけれど。

特に右半身をぎゅっと緊張させているのが判る。
理由はええと、多分、素裸の私が、右半身に身体を擦り付けているから。
私の顔の動きに合わせて実は大きさにはそこそこちょっと自信のある胸が彼の胸に当たって、
その度に最近少しは厚くなってきた上半身が律儀にぴくんと反応してくる。

きっと当たるたびに、私の胸が当たってる、なんて事を考えているのだろう。
丁寧に喉を舐めていると、くっと顎を引いてきた。
最近覚えた技だ。

「どうしました?王様。」

聞いてやると、その響きにからかいの空気を感じたのだろう。
男の子は

「お願い、鈴。」

と小さい声で言ってきた。

その一瞬で体が火照って、きゅうっと下半身が熱くなるのを感じた。
男の子の唇に覆いかぶさろうとして、その瞬間に自分が今までしていた事を思い出す。
体が熱くなって、頭の中が性的な興奮で一杯になって、でも頭の片隅のほんの一部、
ほんのちょっとだけ残った部分で今まで自分が何をしていたのかを思い出す。
男の子の唇に覆いかぶさる一瞬手前で踏み止まって、
そのままキスしたい。そのままキスしたい。
そのまま覆いかぶさる事を望んでいる頭の中の大部分の意見を強烈な意思で無理やり押しやって

「ちょっと待って。」

小さな声で言って、ベッド脇の水差しに手を伸ばす。

水を唇に含んで飲み干す。
少しでも男の子には不快には思われたくなかった。
私の事で、もう充分、この男の子は傷ついて、そして今も悔やんでいるのだから。

もう一度水で口の中を洗い流してからさっきと同じ体勢に戻る。
私の裸の肌が男の子に触れた瞬間、また男の子がぴくん、と震える。
いやらしい気持で、肌が火照っている。男のこの上半身に絡みつく私の上半身。
男の子の上半身は私の唾と、そして男の子の汗で濡れていて、そこに私の肌を押し付ける。
男の子の温かい肌が心地よい。
男の子にとっても心地よいものであれば良いな。とそう思う。
先程と同じ体勢で顎を引いたままの男の子の上に今度こそ覆いかぶさる。
私の唇と男の子の唇が触れ合うほんの一瞬。
ほんの一瞬手前で、さっきよりももっと強烈な衝動を堪えながら唇を止めた。

出来るだけ意地悪く聞こえるように、
勿論ドアの外で耳をそばだてている意地悪な女官に聞かれないように小さな声で。

「本当はしちゃだめっていわれてるんだけど。」

私がその声を出す為に動かした唇の動きだけで、ちょっとだけ男の子の唇に触れてしまう位の位置。
私の吐息が、男の子の口に吹き込まれる。

男の子が目を開けて。そして懇願するような。
そして私にごめんね、鈴、ごめんね。と言ったあの時と同じような。
そして一緒に昔、悪戯をした時と同じような。
それの全てが混ざったような目で、私を見つめてきた。

「お願い、鈴。」

言い終らないうちに、唇を押し当てた。舌を口の中に入れて、男の子の口の中で躍らせた。
男の子がついばむみたいに唇を動かす。
その動きに合わせて舌を引いて、唇と唇だけでお互いについばむみたいに唇を合わせる。
男の子がおずおずと、そう、おずおずと舌を出してきて、優しくそれに自分の舌を絡ませる。

頭の中が爆発しそうになる。
この男の子は、私に持たなくてもいい罪悪感を持っていて。
私が王様への奉仕、いや、役目として好きでもないのにさせられていると思っていて、
そして私がこれをする度にいっつも泣きそうになっているのに。

私はこんなにも興奮している。
男の子の唾液を舌先に感じる度に胸の奥底が興奮にくっと締め付けられて
私の唾液が男の子の口に含まれる度に背筋の先からぞくぞくとする。

心を奥から焼くような興奮が吹き出てきて、私の右手が自然と股間に伸びて、
自分を慰めようとする度に気がついて、思い直してシーツを掴む。

男の子が堪らないように私にしがみ付こうとする。

もう駄目だ。

このまま抱きしめ合うか、それとも。
抱きしめたらもう、終わりだから。我慢できないんだから、絶対にしちゃ駄目。
毎日鏡に向かって唱えるその言葉が頭の中に浮かぶ。

唇を離す。
男の子が名残惜しそうに、ほう、と溜息を吐いた。

「鈴…お願い・・・」

もっと、とせがむ様にする男の子から顔を離す。
これ以上は駄目。そう言うと又、罪悪感と、懇願が入り交じったような目になる。
そして一瞬だけ、私の顔を見ていた男の子の目がほんの一瞬だけ動いて、その視線が私の裸の体をなぞる。
ほんの一瞬だけのその動きを恥じるようにはっと視線を逸らす。
ぞくぞくする。
だから。と。
だから、もっと気持ち良くさせてあげる。
口には出さずにもう一度視線を合わせた後、身体をベッドの後ろの方へ滑らせた。
男の子の足の間まで下りて、奥へ向かって顔を埋めた。

肛門に舌を這わせた瞬間、男の子がうめいた。
明らかな快感と、そして戸惑いの声でうああ、と。
舌先に感じる汗と、ぴりぴりとした感触。

自分の行為に頭が焼け付く。
あああああ。
又股間に手をやりそうになって、ぎゅうとシーツを握り締める。
変わりに舌を押し付け、唾を丹念に塗り付けるように塗す。

「ごめんね、鈴。ごめんね。」

耳に入る声。
焼け付くみたいな興奮。
シーツを掴んだ手を求めて、ひとりでに腰がいやらしく前後する。
自分で慰められないから、頭の中でだけ興奮が倍化していく。

「おねがい、もう、鈴。おねがい。」

泣きそうな声。
キスするようになってからだ。
その前はこんなじゃなかった。
私がいくら男の子の身体を舐めても、その、そこを舐めてもこんな風にはならなかった。
ただちょっと悲しそうな、罪悪感に塗れた顔をして、
鈴、ごめんね。と言って、私の口内で達したり、途中で止めたりもした。

ごめんね。頑張っている君にこんな思いをさせて。

口を離して顔を上げて男のこの顔を見る。
私の男の子が、私の前で、こんな風になっている。
あああああ。
きゅうっと下半身に力が入った。
頭の中の快楽が爆発しそうになるのを必死で堪える。
まだいってしまったら駄目。

口を開いて、男の子のそれを口の中に入れていく。
少し苦い、あああああ、凄く刺激的な味が口内に入って夢中で吸い付く。舌を絡める。

「いっぱい出して。飲んであげるから。我慢しないで。いっぱい。ぜんぶ。」

口を離していたら言えない、言ってはいけない言葉を口内一杯に男の子のそれをほう張りながら呟く。

「ごめんね、鈴。ごめんね。」

男の子が腰を押し当てるように私の顔に押し当てて来て、ぶるっと身を震わせる。
かちかちに硬くなっていた私の口内のそれが一瞬、ぐぐぅっと引っ込むような動きをした後に膨張する。
どくん、どくんという動きと共に、私の口内一杯になめらかな苦味が広がる。
先端に舌を当てて軽く吸いながら次々と放たれるそれをこぼさないように口内に溜めていく。


ああ、
本当に、本当に、私は、幸せだ。

@

「ねえねえ、鈴、大丈夫かな。怒られないかな。」
「大丈夫だから、こっち来なさいってば。ほら。」

ソファーをばんばんと叩くと、おどおどと隣に座ってくる。
女官の部屋にこっそり忍び込み、見つかりそうになって慌てて走り回って逃げたおかげで
ぐしゃぐしゃに髪の毛を乱した男の子の膝に、本を広げてやる。

「ええと、あ、ほら、やっぱり子供向けだよ。絵がついてるもの。ほら。これが魔女だよ、きっと。
タイトルは・・・ええと、『物語の好きな魔女の話』」

読んであげる。私がそう言うと、男の子がにまあって笑う。
私は優しい気持ちになって、男の子の頭を撫でる。

「ほら、恐いね。魔女。」
「…鈴も恐い?」
「私は年上だから、恐くなんてないよ。」
「凄いなあ、鈴は。」

目を丸くする男の子に凄いでしょ。と笑いかけてあげる。
本当は凄く恐かった。
その本の魔女の挿絵は年寄りの魔女の口が耳まで裂けてこちらに笑い掛けてきていたのだ。
でも私の方が年上なのだから、男の子より強いのだから、恐いなんて事は、言えなかった。

いつも当たり前だった、いくらでも同じような事があった。

頭の中が、快感で弾ける。
あまりの快楽に口が緩んで、こぼしそうになる。
口の中のものを必死で飲み下すうちに快感が頂点に達して、ひとりでに私の下腹部が何かを締め付けるようにきゅうっと収縮する。
腰が自分の意思に反して物欲しそうにいやらしく前後に動く。


いつも私は、そんなある日の事を思い出しながら、そうやって達していく。

@@

「・・・うん、僕って何をすればいいのかなって。やっぱり考えちゃうんだ。」

なんだって、すれば良いじゃない。と、私は男の子の横に座って笑いながら言う。
王様なんだからさ。
あの時とは違って、小声だけれど。

「そんな、鈴が言うみたいに簡単じゃないんだよ。」

はあ、と溜息を吐く男の子を見る。
本当は背を叩いて、励ましてあげたいのだけれど。
頑張れ、大丈夫だよって。
あの頃みたいに。

男の子が望んでいる言葉を、私は知っているのだけれど、言わない。
だから私達はその言葉を繰り返す

「僕って何をすればいいのかなぁ・・」

男の子は、きっと私の言葉を待っているのだろう。そう思う。

でも、私は信じている。
だからその言葉を私から言う事はないだろう。
多分男の子が望んでいて、そして何よりも私も望んでいる言葉を。

この男の子に、これ以上罪悪感を持って貰いたくなんて無いし、
それに私は充分幸せで、男の子が助けてくれた事を、凄く嬉しく思っていたし、
それに私はの方が年上なのだから、これ以上の事なんて、言えなかった。
言ったら実現してしまうような気がしたから。


だからこの話はこれでおしまいだ。

あんまりすっきりとしないかな。
そうだね。
なかなか物語と同じように、って訳には行かない。
素敵な騎士様が、手を伸ばしてくれてめでたしめでたし、って訳にはね。

でも、最後にもう一つだけ、私からのアドバイスがある。
いや、アドバイスじゃないな。だってそうなるのかどうか、まだ誰にも判らないから。
だから、これは私の勝手に信じている事って、そういう事にしよう。


人生は時々、酷く大きな力で私達を殴ってくる。
高い壁は天まで届いていて、それが地平線の先まで続いている。
上っても迂回しても、向うにはたどり着けそうに無い。
そんな気分になる事もある。

でももし、そんな時にあなたに好きな人がいたら。
それが髪は銀髪で目は青みがかっててさ。剣の腕は並ぶもの無しの素敵な騎士様だったら。
ううん、例えそうではなくても。
泣き虫で、私が守ってあげなきゃと思っていたような頼りない男の子でも。

もしかしたらあなたが考えてもいないような方法であなたを助けてくれるかもしれない。

だから信じてみたらどうだろう。
絶望する前に、もしかしたら、何かが起こるかもしれないって。
泣き喚く変わりに、自分に出来る事をして、そして信じていれば何かが起こるかもしれない。
そう信じてみたらどうだろう。
私はそう思う。
その人が凄いってあなたが思っていて、そしてもしあなたの心の隅でほんの少しでも頼りにしていたら。
こうして、ではなくて、こうしなさい、ではなくて信じて待ってみたらどうだろう。

私には確信がある。
私がどうあれ、この男の子は、凄い王様になるって。
私だけの男の子にしては駄目だって。
贔屓目かな。贔屓目かも。

でも信じている。
まだ頼りないけれど、いざとなったら他人の為に頑張る事の出来るこの男の子が王様なら、
きっと幸せになる人が一杯いるはずだ。
少なくとも、1人は幸せになった人間を、私は知っているのだから。
良い王様は沢山の人を幸せに出来るはずだ。

だから私は私なりにその男の子に出来ることをやってあげる。
ありがとうって意味だけじゃなくて、私がそうしたいからという理由で。
男の子が私と一緒にいたいというのなら、いつまででも一緒にいてあげる。
君が王様で、少なくとも私だけは幸せになってるんだよって判らせてあげる。

一生懸命王様をやっている私の男の子を、何がどうなったって私だけは大事に大事にしてあげるのだ。
昔と同じだ。もし男の子が酷く大きな力で殴られたって感じたら、私が守ってあげるのだ。
男の子が私がそうなった時にしてくれたようにね。
そう、君が望む限りそれをするよ。

だから私はその言葉を言わない。
言ったらこの男の子はきっと皆を幸せにできる王様を捨ててでもそうしそうだから。

自意識過剰?
でもなあ。前科があるし。しかねないよね。

でもね。
でも、そう思うんだ。
そう思う。

そう私は思う。そして心の底では確信してもいる。

男の子が望んでいて、私も望んでいる、そんな幸せな結末を得る事はきっとできるのだって。
だって、泣き虫のあの子にあんな事が出来たんだから。

勿論、今はそんな方法は見つかりそうに無い。
私は反逆者の娘で、私の男の子は王様だ。
高い壁は、越えられない。
昔のように話すなんて事は出来ない。
声を潜めて、誰にも聞かれないようにしなければ普通に話す事も出来ない。
こんな形でしか、一緒にいる事も出来ない。

でももしかしたらあの時みたいに。
いやあの時よりももっと上手に。
男の子が王様らしい解決方法で、私を救ってくれるかもしれない。
勿論私だってただ待っていたりはしない。
だって私の方が年上なんだからね。それが本当に、良い方法なら。

そんな事ある訳無いって?
そのうち飽きられて、いつの間にか見向きもしなくなるって。
うん。そうかもしれないね。


それでも--
あの時以来、心の奥で自分でも奇妙に感じる位に私は確信している。
あの男の子に不可能なんてない。
ううん。私の好きな人に、不可能なんて事は無いって。

だって凄いんだよ。王様なんだから。


私の男の子は、優しくて、可愛らしくて、そして私と男の子はとっても仲良しだ。
今までずっとそうだったから、これからもきっとそうだろう。
だから私があの男の子と昔みたいに遊んだり話したりできるようにきっとそうなる時がくる。

いつかは判らないけれど、私はそう信じている。

そうしたら、昔と同じように。
暖かな日には男の子の隣に座って、二人で一緒の本を読もうって、そう思っているのだ。






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