ご奉仕します! ‐聡子の場合‐
シチュエーション


「――またか」

秀麗な眉を寄せて天井を見据えながら聡子は吐き捨てるように呟いた、と同時にロングスカートを翻して唐突に走り出していく。


「ご主人!」

スパンと勢いよく襖を開き、聡子は仁王立ちして室内の主を睨みつける。
先ほどまで何を行っていたかは一目瞭然。シャツの裾を引っ張って露わな下半身を隠しながら、誠一は驚愕と困惑と羞恥を足して三で割って二掛けした表情を聡子へ向けた。

「学生の本分は勉学だ。ご主人が学生である限り学ぶことからは逃れられず、またその苦しくも実りある学業という行為に喜びを見いださねばならん。かくあるべしと先代も申している。理解しておらぬわけではあるまい、ご主人」

嘆かわしいといった体の聡子に素直に謝ればいいのか怒って追い出せばいいのかわからずに誠一は曖昧な返事を返す。
とりあえずズボンを履かせてくれ、頼むから。心中で頼み込みながら脱ぎ捨てたズボンに手を出そうとした途端、聡子から再び檄が飛ぶ。

「それを貴様は何だ。一昨日も昨日も今日も自慰に耽り、勉学を疎かにしている」

何で知ってるんだろうかと自らの赤裸々な下半身事情に羞恥で顔を赤くする誠一を見下ろし、聡子は目を細めた。

「貴様は盛りのついた雄……犬?いや、猫?まあ、とにかく!畜生にも劣る行い、我が主として実に嘆かわしい。先代とて草場の陰で泣いておろう」
「聡子さん、親父死んでないから。っていうか、十六歳男児として健全な行為だと思うんだけど」
「先代の御前にて、ご主人が当主として真っ当な道を歩むよう誠心誠意お仕えすると私が誓ったことをお忘れか?貴様の邪なる欲望が勉学の妨げとなるならば、この聡子が誠心誠意ご奉仕するのみ」
「いや、なにそれ、俺が当主になることと関係なくない?」
「案ずるな、ご主人。この聡子、ご奉仕のためなら手段は選ばん」
「聡子さん、ちょっと意味わかんないんですけど!それは最早奉仕じゃな――――え、ちょっと、やめっ!うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

戒められた手首はいくらもがこうと緩みもしない。暫く抵抗を試みたが聡子にかなうはずもなく、誠一はがっくりと頭を垂れた。

「……何かすごく間違ってる気がする。主従の力関係って普通逆じゃね?メイドに夜のご奉仕を強要するのがご主人様であって、メイドにご奉仕を強要されるご主人様っておかしくない?絶対おかしい。俺はこんなこと断固として認めん」

ブラウスのボタンを外し、聡子は自らの豊満な乳房を露わにする。

「往生際が悪いぞ、ご主人。さっきからぶつぶつと何を言っているのだ」

聡子を見れば白く張りのある肌と淡い色をした突起が嫌でも目に入り、誠一はなるべくそちらを見ないように苦心しながらも素直な反応を示してしまう愚息に呪いの言葉を吐いた。

「う、あっ……っ、く……」

傍らに座り込んだ聡子の指先が太股に触れる。そのまま触れるか触れないかの絶妙な加減で聡子は誠一の太股を撫でた。

「諦めて私のご奉仕を受けるがいい。貴様が二度と自慰などという愚かな行為に走らぬよう教育してやる」

誠一はぐっと歯を噛みしめた。奉仕を受けることから最早逃れられぬと悟ったからこそ、誠一は戦うことに決めた。それならばせめて、聡子の奉仕よりも自慰の方がいいのだと思わせて聡子をやりこめてやるのみ。勝率は限りなく低いが負けるわけにはいかない。

「こんなに堅くして、どうやら貴様には羞恥心がないものとみえる。戒められて従僕にいいようにされることがそんなによいか」
「違っ……うあッ」
「ふふ、貴様の性癖なぞとうに把握済みだ。貴様のことで私の知らぬことなどないのだよ、ご主人」

白魚のごとき聡子の手が誠一の猛った陰茎を握りしめた。痛みはない。快感だけを呼び覚ます程よい力加減で陰茎に指を絡め、聡子は手を上下に動かす。
既に先端からは滴るほどに先走りが零れ、それを潤滑油代わりにして聡子は滑らかな動きで誠一に快楽を与えた。

「気持ちがいいか、ご主人。貴様の汚れた欲望がここにたっぷりと溜まっているようだな。思うさま出し尽くすがいい」

空いた手で聡子は陰嚢に触れる。やわやわと優しく揉みほぐされ、誠一はぎゅっと目を閉じて快感を堪える。
この世に生を受けて十六年、性的な意味合いを込めて他人に触れられたのは初めてのこと。誠一より幾らか年上とはいえ美しい盛りの女性に愚息を撫で回されてはたまらない。

男の手とは違う繊細で柔らかな感触が目を閉じたおかげでより鮮明に感じ取れ、誠一は先ほどの決意が嘘であったかのように呆気なく吐精した。

「……早いな」

勢いよく飛んだ精液ははたはたと誠一の露わな腹部に落ちた。
さも愉しげに口角を上げる聡子を誠一は羞恥心いっぱいに見上げた。早いなどと言われてはそれがいくら事実であったとしてもプライドが傷つく。

「もういいだろ。離せよ」

常よりも荒っぽい口をきいてしまったのは仕方のないことであっただろう。

「まさか。自慰など馬鹿らしいと思うほどの快楽を体に叩き込むと言っただろう」

聡子は立ち上がり、スカートを脱ぎ捨てた。

「え……?」

白いレース付きの下着を脱ぎ捨て、誠一の腰を挟んで膝を突く。

「ちょっと、待って!聡子さん、それはさすがに」

慌てて腰を振って逃げようとするが膝で挟まれて身動きがとれない。しかも、聡子の半裸姿を目の当たりにしたおかげで愚息は既に臨戦態勢に入っている。
聡子の手が陰茎に添えられ、ゆっくりと腰が落ちる。滑った場所に先端が押しつけられ、すぐにそこへ潜り込む。

「ほんとにダメだって!」

半分泣きながら懇願すると聡子はぴたりと動きを止めた。

「何か問題でも?」
「俺、その……は、初めて、だから、その」

恥じらいながらも意を決して告げた次の瞬間、聡子が一気に腰を落とした。
とんでもなく気持ち良くてものすごく滑って狭い場所に迎え入れられる感覚は想像以上に誠一に快楽を与えた。ともすれば一瞬で果ててしまいそうだ。

「さ、聡子、さん……」
「初めてだと?そんなことは百も承知だ。古来より若君に性の目覚めを促すのは従僕の役目と決まっている。問題などない」

きっぱりと言い切られ、誠一は脱力した。聡子の思考回路はやはり誠一には理解できない。
しかし、聡子の中は気持ちよかった。もうどうなってもいいと思えるほどに。

「動くぞ、ご主人。遠慮なく喘ぐがいい」

それが女の台詞かとつっこみたい気持ちはあれど、現実に誠一ができたことは女のように喘ぐことだけだった。
聡子が腰を揺する度に全身が震えるほどの快楽が走る。たゆんたゆんと揺れる豊満な乳房や赤らんだ聡子の顔、結合部から響いてくるいやらしく粘着質な音。何もかもが未経験だった誠一を刺激する。

「さとこ、さ……手、といて」
「ん、だめ、だ……ッ」

あくまで誠一へのご奉仕というスタンスを貫き通すためか、聡子は何かを堪えるように眉根を寄せていた。自身が楽しまぬよう自制しているのかもしれない。

「胸、さわりたい」

聡子はしばし無言で誠一を見下ろし、やがて動きを止めた。
身を屈めて誠一の頭上へ手を回し、手首の戒めをといた。

「いいだろう。存分に味わうがいい」

そうして、聡子は再び動き出した。
誠一は揺れる乳房に手を添え、初めての感触を堪能する。聡子の乳房は柔らかく、揉んでいるととても気持ちがいい。

「っ……ん、くっ……ご主人」

堅くなった突起を指で弄りだすと聡子が小さく声を漏らした。その艶めいた響きに誘われるように、聡子の腰に片手を添えながら誠一は強く腰を突き上げた。

「あッ……んんっ」

ぎゅうっと中が締まり、誠一に吐精を促してくる。

「聡子さんっ!俺、もう……」

遠慮会釈なくがむしゃらに聡子を突きながら、誠一は悲鳴に近い声で訴える。

「かまわない。出せ。私の、中に……ああっ、ご主人……出してッ」

腰を引き寄せるようにして一際強く聡子の中に潜り込んだ瞬間、誠一は二度目とは思えないほどに勢いよく射精した。全身が強張り、徐々に力が抜けていく。

「どうだ、ご主人」

表面上はいつもと変わらぬ尊大な態度ながらも、聡子の頬は赤らみ呼吸も少し荒い。

「気持ち、よかったよ。自分でするよりも」

素直に告げれば、聡子は喜色満面な微笑を浮かべた。年よりも幼く見える屈託のない笑顔を向けられ、誠一の胸が一つ大きく鐘を打つ。

「そうか。さすがは我が主。必ずや聡子の言い分を理解してくれると思っ――うあっ!」

突如として聡子は前のめりに倒れ、後頭部をさすりながら体を起こした。

「聡子!あ、あなたという人は……!騒がしいと思って来てみれば、私の若様になんということを」

聡子の頭越しに一人のメイドの姿が見える。

「しかも……な、中出しだなんて、そんな、破廉恥なっ」

真っ赤な顔でわなわなと震える明葉は崩れるようにうずくまり、ぽかぽかと聡子の背をグーで殴る。

「ご主人が一人遊びのし過ぎで馬鹿にならんよう躾ただけのことだ」
「若様だって、お年頃なんだからそのくらいいいじゃない」
「毎晩自慰に耽って勉学を疎かにしては問題だ」
「だからって、若様にこんな、こんな……っ」

自分そっちのけで自分についての討論を交わされるというのはものすごくいたたまれない。いたたまれないが、聡子が退いてくれないと席を外すことすらかなわない。

「あの、聡子さん、そろそろ抜いてほしいなあなんて」

おそるおそる声をかけた誠一へ二人のメイドの視線が向けられる。

「なんだ。まだ抜き足りんのか。若いな、ご主人」
「違っ、そういう意味じゃなくて」
「聡子なんかに若様を好きにさせません。若様、ご奉仕ならば私が、誠心誠意を込めて若様に尽くさせていただきます!聡子なんかより私の方がずっと若様を大事に思っていますからっ」
「男も知らない明葉がご主人を満足させられるわけがないだろう。せめてツーサイズは上げてから言え、貧乳め」
「む、胸が大きければいいというわけじゃないもの!私には若様への愛があります」

やいのやいのと再び始まった討論に口を挟む気力がもてず、誠一はぐったりと力無く布団にすべてを預けた。

「……さよなら、俺の童貞」

ご主人様としての威厳ってどうしたら身に付くんだろう。制御不能なメイド二人を押しつけられた日から幾度となく感じた疑問を誰にともなく投げかけながら誠一は諦めに満ちた吐息を零した。






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