セイレーンの乙女
シチュエーション


ブノア王国の第二王子ラファエルは、戦火の広がる街を丘の上から満足げに眺めていた。
眼窩に広がるユベール公国の首都が、彼の手に落ちるのも時間の問題のようだ。
今回のユベール公国侵略の任についてから、一度も被る機会のない兜を小脇にかかえ、
赤褐色の頭髪を風になびかせながら、にやりと笑う。
どうやって、世に名高いセイレーンの乙女たちを屈服させようかと、ラファエルは
琥珀色の瞳に好色の光を浮かべていた。
大陸の南に位置するユベール公国の民には、南の海に住む精霊の血が混じっている
という古くからの言い伝えがある。
実際、民の中には、精霊の力と思われる不思議な術を使う者がいるらしい。
俗にセイレーンの乙女と言われ、言霊で男を操るとされる魔性の女たちだ。
その力のせいか、ユベール公国の君主の座は、代々直系女子にのみ引き継がれ、
巧みに不可侵条約をとりつけることで、大国からの侵略を免れていた。

「口で丸めこまれるなら、交渉のテーブルにつかなければいい」

ラファエルはそう言って、今回の武力によるユベール公国侵略の算段を練り、
自ら父王に提案してその全権を任された。
現ブノア国王の御世になってからというもの、ブノア国はその領土を拡大し、
近隣諸国より恐れられる存在になったが、その功績の影には、この二十歳そこそこの
第二王子の働きもあった。

「ラファエル殿下」

今回の遠征でラファエルの右腕を勤めるヴァンサンが、兜を脱いで跪く。

「主城が開門いたしました」
「そうか」

ラファエルは余裕の笑みを浮かべて身を翻し、白亜の街を見下ろす丘から
出立することにした。

ラファエルが、無駄な殺戮と略奪を固く禁じたためか、ユベール公国の主城の中は
静かなものであった。
中庭には、武装を解除して降伏した騎士たちが集められ、侍女や小間使いは別室に
集められている。
階上の渡り廊下を歩きながら、中庭の様子をうかがったラファエルは、
女騎士が多いことに驚き、またその器量のよさにも感心した。
わざわざ遠征した甲斐があったというものだ。
ユベール公国の女は美女揃い。というのも、公国にまつわる伝聞の一つだった。

「殿下、主の間はこの奥です」

ラファエルの頬が緩くなったのを見て、ヴァンサンが話しかける。

「ああ」

ラファエルはきりりと表情を正し、自分に続く精鋭からなる一個小隊に、
当初の作戦を実行するように命じた。
騎士たちは頷いて、耳に栓をする。
主の間に入って以降は、手によるサインで支持を出す作戦だ。
もはや主城は完全にラファエルの軍に制圧されている。
むやみに抵抗してくるとも思えなかったが、念のため、セイレーンの乙女に対する
対策だけはしておくことにした。
唯一、ブノア王国の要求をつきつける立場のラファエルだけは、耳栓をしていない。
彼には、乙女の力に負けないという根拠のない自信があった。
操るといえど、実際のところは、少々カリスマ性があってその言に逆らえなくなる
というのが本当だと、ある人から聞いていた。
そんなものは、気高く生まれた自分に通用するはずがない。
ラファエルは悠然と構えて、主の間の扉が開かれるのを見ていた。

高い天井と奥行きのある主の間は、訪問者の視線を遮るように天井から幾重にも
垂らされた薄い絹の幕が揺れ、それに天窓から差しこむ日の光が反射して幻想的な
空間になっていた。
ラファエルとその一行は、薄布を忌々しげに払いながら、奥を目指した。
あと一枚。
薄い絹の向こうに玉座が見える。

「止まれ!」

不意に響いた鈴の鳴るような女の高い声に、ラファエルたちは、反射的に足を止めた。
ラファエルは驚いて目を見開く。
女の声は耳栓に遮られることなく、騎士の耳に届くのだろうか。
誰も止まれのサインを出していない。

「女大公の御前である。膝を折り、頭を下げろ!」

騎士らに動揺する気配がある。

「控えろ!」

続く女の声に、ラファエルは辛うじて耐えた。
女の言葉通りに、膝を折りそうになったのだ。
が、後ろの騎士たちは、一斉に跪いて頭を垂れた。
本人たちの口からも、自分の行動が信じられないというような苦しい息遣いが漏れた。
これが、セイレーンの乙女の力なのかと、ラファエルは密かに舌を巻いた。
相手のペースに乗せられてはいけない。
賢明なブノア国の第二王子は即座に判断した。

「ふっ。いまだ自分たちの立場が分かっていないのか。ユベール公国は今日をもって、
その歴史に幕を閉じたのだ。その玉座も今やブノア国王のもの」
「何を言う! この簒奪者め!」

怒りに上擦った女の声は意外に幼く、ラファエルはおやと思う。
感情のままに叫ぶのなら、こちらに分がありそうだ。

「大人しく渡さぬというなら、こちらにも考えがある」

ラファエルが挑発のために剣の柄に手をかけると、薄布の向こうでも動きがあった。
剣が鞘走る音と、長靴が大理石の床を蹴る音がした。
薄絹が人の形に膨らんでくる。
ラファエルも抜刀し、床を蹴った。

「殿下!」

ヴァンサンが叫ぶ。
次ぎの瞬間、布ごしに剣がかち合い、金属音が主の間に鳴り響いた。
相手は声の女だとラファエルは確信していた。
なかなかの打ち込みだったが、切り結んでしまえば、力はラファエルの方が
圧倒的に強い。
女の力を測りながら押し合い、相手が全力で押してきた瞬間に、剣を弾いた。
互いに間合いを取ると同時に、薄絹が天井から落ちてくる。
遮るものがなくなり、初めて相手の顔を見た瞬間、ラファエルの身体に衝撃が走った。

――ものすごい好みだ。

思わず口角が上がりそうになるのを、ラファエルは必死に抑えた。
表れた女騎士は、年は16、17といったところで、まだまだ女性の丸みに欠ける
細身の身体つきだったが、胸まで届く淡い金色の髪と、意志の強そうな
薄青色の大きな瞳を持った、なかなかの美少女だった。
陶器のようになめらかな白い肌の中、怒りのために紅潮させた頬と、
固く結ばれたピンク色の唇が愛らしい。
真っ直ぐにラファエルを睨みつける眼力も鋭くて、それにもそそられる。
ユベール公国最初の女は彼女にしようとラファエルは勝手に決めて、
彼女の第二撃を受けとめた。
剣の筋も悪くない。
女の非力をカバーするため、しなやかな全身のバネを使って攻撃してくる。
ラファエルは、懸命に剣を繰り出す彼女に半ば見とれて、その剣を受けとめていた。

「フェリシテ。お止めなさい」

玉座に座る女大公が初めて口を開いた。
艶のある静かな声だった。
その容姿も、銀の真っ直ぐな髪に紺碧の瞳と、高貴な女性が持つ華やかさを
供えている。女騎士の初々しさとは異なる成熟した美しさを持つ女性だった。
女大公の命令に、フェリシテと呼ばれた女騎士はラファエルを一睨みすると、
大人しく剣を引いて女大公に跪いた。
その姿を見ながら、ラファエルはユベール公国公家の家系図を頭の中で思い描く。
女大公の妹の娘が、確かフェリシテといったか。
ラファエルは、当初の戦略をどう修正しようかと、即座にいくつかの案を捻り
出していた。

「あなた様は、ブノア王国の第二王子ラファエル殿下であらせられますね」
「ええ」
「投降した者、力なき者の命をお助けくださり、ありがとうございます」
「当然のことです」

剣を収めて、ラファエルは丁寧に答えた。相手が礼節をもって接してくるのであれば、
こちらもそれ相応の態度で臨む。元来、ラファエルは女には優しい性質だった。

「私達は、これ以上、無益な血を流すつもりはございません。そちらの要求に従い
ましょう。ただし、いくつかお願いがございます」

来たなと、ラファエルは内心思った。

「いいでしょう」

戦に勝った余裕が成せる優雅な笑みを浮かべて、ラファエルは交渉のテーブルに
つくことにした。

交渉の相手として、ユベール公国の女大公は、確かに手強かった。
結局、ユベール公国の名は、今後も地図に残る事になったが、その実権はブノア
王国が握ることとなり、ラファエルも父王に胸を張って報告できる結果となった。
ユベール公国はこの後、18歳になる第一公女のミレーヌを現ブノア国王の側室として
差しだし、6歳の第二公女セレスティーヌの婿として、ブノア国の第四王子である
3歳のダミアンを迎えるのだ。そして、ダミアンが次期大公となる。

ラファエルは、交渉の結果に満足して、主城で一番豪華な客室の寝台に寝転がっていた。
彼にとってはこれからがお楽しみである。
いや、本番とでも言おうか。
セイレーンの乙女を完全にモノにするには、ここからが重要なのだ。
ノックの音に、ラファエルはニヤケ顔を正して、寝台の上に起き上がった。

「入れ」

遠慮がちに室内に入ってきたのは、昼間主の間で剣を交えた女騎士のフェリシテだった。
さすがに無骨な鎧は脱ぎ捨てて、白い簡素なドレスを身につけている。
女大公との交渉の最後に、今日の閨にとフェリシテを所望すると、その願いはあっさりと
聞き入れられた。
公女もブノア国王に嫁ぐことになった今、公族として、フェリシテも我を通す訳には
いかないのだ。

「こっちに来い」

昼間の威勢のよさはすっかり影をひそめ、フェリシテは重たい足取りで、寝台の上に
上がってきた。
その白い腕を少し力を入れて引き寄せると、フェリシテは困ったように視線を下に向けた。
金色の長い睫が白い頬に影を落とす。
形のよい顎に手を添えて上を向かせると、今度は薄青い瞳としっかり目があった。

「昼間は……ごめんなさい」

艶やかなピンク色の唇から、殊勝な言葉が紡がれて、ラファエルは表情を崩さずに
感激した。すぐにでも押し倒してしまいたいのを堪える。

「気にするな。なかなかの腕前で、楽しめた」

フェリシテの眉頭がぴくりと動く。格下に見られたのが癪に障ったのだろう。
それさえも今は可愛く思えて、ラファエルはその艶やかな唇に口付けた。

唇を奪った瞬間、フェリシテの身体がピクリと震えた。
全身を強張らせるフェリシテを怖がらせないように、ラファエルは軽く唇をついばむ。
我ながら優しいなと、恋も戦も負けしらずのブノア王国第二王子は心の中で
自画自賛した。
公族として大切に育てられた16歳の少女。
剣を持つなど男勝りではあるが、おそらく初めてのキスだ。
それを裏付けるように、舌を入れようとすると驚いたように目を開き、ラファエルの
肩に手をかけて身体を引こうとする。
その背中に左手を回し、右手で顎をくいと下げて唇に隙間を作ると、ラファエルは
固く閉じられた歯列に舌を這わせた。
執拗に唇を吸っていると、息苦しさに顎が開く。
その瞬間に、ラファエルの舌がフェリシテの口内に忍び込んだ。
一度舌が入ってしまえば、あとはラファエルの独壇場で、逃げようとする小さな舌に
ねっとりと唾液を絡ませる。

「んっ」

口内を弄りながら、うっすらと目を開けてフェリシテを窺えば、固く瞳を閉じていて、
男の責めに耐えようと一生懸命の様子。
両の手のひらは、ラファエルの服を強く握り締めている。
ラファエルはその反応に嬉しくなって、彼女の腰を引き寄せた。
より深く唇が重なって、フェリシテの唇の端から、どちらのものとも言えない唾液が
溢れた。

「んんっ!」

不意に、胸板を強く叩かれて、ラファエルは口付けを中断した。

「ばかっ、息が、できない」

唇を拭って、はあはあと肩で息をするフェリシテに、ラファエルを自然に微笑んだ。

「そういうときは、鼻ですればいいんだ」
「うう……」

もっともなラファエルの言に、フェリシテは言葉をつまらせ、耳の先まで赤くする。
そんなフェリシテの細い絹糸のような金髪を優しく撫で、ラファエルは彼女の呼吸が
落ち着くのを待つ間、頬や耳たぶ、髪にキスを落とした。
唇の端に口付けると、けなげにもフェリシテが瞳を閉じたので、ラファエルは唇への
キスを再開することにした。
優しく舌を差しこむと、彼女の柔らかい舌が遠慮がちに絡んでくる。
ラファエルは、そろそろ色々我慢ができなくなっていた。

フェリシテの白いドレスは、背中に紐がついていた。
キスをしながら、ラファエルが器用に紐を解いていく。
開いた服の間から直接背中に触れても、フェリシテは少し背中を反らせただけで、
拒絶することはなかった。
どちらからともなく唇を離すと、フェリシテは惚けたようなとろんとした表情で
甘い溜め息を吐いた。
形のよいフェリシテの唇から垂れた二人の唾液を、ラファエルが手で拭ってやる。
ラファエルの親指が、赤味を増した桃色の唇をなぞると、その青い瞳に艶っぽい光が
宿った。
まるで男を誘うようなフェリシテの視線に、ラファエルの手は反射的に白いドレスを
脱がしにかかっていた。
背中側から前の方へドレスを引っ張ると、フェリシテは素直に両腕を抜く。
首から鎖骨、肩へと続く、女らしい柔らかなラインが露わになり、二つの乳房に
ラファエルの視線が釘付けになる。
フェリシテはそれを隠すことはなかったが、やはり恥ずかしいのか、目を伏せていた。
ラファエルは、その間に自身も上半身の服を脱ぎ捨てると、乳房の下の丸いラインを
掬うように両手を伸ばした。

「ぁ!」

フェリシテがシーツを掴む。
ラファエルは、そんなフェリシテの反応を観察しながら、まだ弾力のない薄桃色の
頂点を乳房の中に押しこんでみた。

「やっ」

思わず身体を離そうとする少女を、ラファエルが追う。

「!」

ラファエルが押し倒す形で、二人は寝台の上に身体を横たえた。
フェリシテの身体の儚さと柔らかさを、ラファエルはしばらく味わった。
フェリシテも人肌の温もりと重みを感じて鼓動を高ぶらせた。

「わたし……初めてなの」

消え入りそうな声で呟くフェリシテ。

「分かってる。優しくする」

身を起こし、ラファエルはフェリシテの熱く潤んだ瞳を見つめた。
その瞳が閉じられたのを見て、優しく唇を奪う。
そして、頬、耳たぶ、首筋へと、彼女の存在を確かめるように顔を埋めた。

仰向けに寝ているフェリシテから、ラファエルは白いドレスと下着をとりさった。
生まれたままの姿になったフェリシテの全身を見て、ラファエルの口が感嘆の形に
一瞬変わる。
白い肌にはシミ一つなく、豊かな乳房の頂点は、穢れを知らないキレイな薄桃色を
している。
薄い筋肉がついて括れた腰と、適度に脂肪ののったしなやかな太腿から細い足が
すらりと伸びる様は文句なく美しかった。
そして、頭髪よりも少し暗い金色の薄い茂みが被う股間が、男の劣情を誘う。
ラファエルに見られていることが恥ずかしくて、フェリシテは身体をよじった。
それが期せずして、お尻の線と、瑞々しい秘所の一端を見せることになり、
ラファエルの理性が吹き飛びそうになる。

――まずい。

理性は最後の最後まで残しておかなければいけないのだ。
今さらながら、処女のセイレーンの乙女を抱く危うさを思い知り、ラファエルは
ふるふると頭を振った。絶対にコイツはしかけてくると、幾分か冷静な思考を
取り戻して、自分のズボンと下着を脱ぎにかかった。
そんなラファエルを、フェリシテは直視できないようだった。
裸になったラファエルが、再度フェリシテにのしかかる。
下半身に感じる熱くて固い感触に、フェリシテは頬を染めた。
が、すぐに、ラファエルの唇が乳房を這い始め、意識がそこに集中していく。
まるでそれ自体が一つの生き物のような舌が、柔肉を揉み、乳首に粘液を
擦りつける。

「あっ」

ぷくりと起き上がった乳首にラファエルが歯を立てた瞬間、フェリシテの背筋に
悪寒にも似た疼きが走った。

「だめ、こんなの……」

今まで感じたことのなかった疼きは背徳感を呼び起こし、これ以上の刺激に身を委ねる
ことに、恐れを抱かせた。
そんな処女の胸の内を知ってか知らずか、ラファエルの剣ダコのある固い手のひらは、
白いの乳房を揉みしだく。
乳首を摘まみ、薄桃色の乳輪の淵を親指でなぞると、フェリシテの背中が仰け反った。

「ぁんっ!」

フェリシテの甘い喘ぎ声に、ラファエルの男根がさらに固くなった。
セイレーンの乙女の喘ぎ声は、普通の女以上に、男をその気にさせる魔力が
あるようだった。

「やっ、やめっ」

今更ながらの拒絶の声に、ラファエルは耳たぶを唇で舐りながら訊ねた。

「どうした、怖いのか?」
「っ!」

答えの変わりに、フェリシテの手がラファエルの胸板を押しのけるようとする。

「わたしが、わたしで……なくなっ…ちゃうっ!」

腹筋を撫でられ、フェリシテが身体をよじらせる。
瞬間、ぎゅっとつむった瞳から、涙の筋が流れた。

「大丈夫。……お前は、お前だ」

フェリシテの頬を大きな手で包んで、ラファエルは言った。
流れた涙を舌で舐めとってやる。

「快楽に抗うな。悪いことじゃない」

そう言って、ラファエルが深く口付けると、フェリシテの手がラファエルの頭を
強く抱いた。
フェリシテの喉が嚥下の動作で上下する。
ラファエルから注がれた唾液を、自然と受け入れるようになっていた。
激しいキスにフェリシテの身体は解けていったが、男の手が太腿に伸びると、
再び緊張で身体を強張らせる。
それでも、フェリシテの秘所はすでに潤いを蓄えていた。
割れ目に沿って指を動かせば、確かに卑猥な粘着性の水音が聞こえてくる。

「はぁぅっ!」

ラファエルの中指が、慎ましやかな肉芽を探り当てた。
円を描くように軽く押しつけると、フェリシテは首を左右に振って身悶える。
新たに溢れ出た愛液が、ラファエルの手のひらを濡らした。
水音は、ますます激しく淫らになっていく。

「んんっ!」

肉襞に蜜を塗り込めていたラファエルの中指が、ゆっくりとフェリシテの
膣内へ沈んでいった。

ラファエルの陰核と秘唇への愛撫によって、フェリシテのそこはしとどに濡れ、
入り口を指でさすれば、異物を飲みこもうと、ひくひくと動くまでになっていた。

「もう、だめ……おかしく、なっ…ちゃう」

白い肌は、いまや全身が桃色に染められ、汗を滲ませていた。

「はぁん!」

自ら吐き出した蜜の塊が膣内を流れるだけで快感を感じている。

「入れるぞ」

前後不覚に陥っているフェリシテのために、一応断りを入れたが、拒絶の言葉は
返ってこなかった。
時間をかけてほぐしたとはいえ、処女の中は狭い。
先端が入っただけで、かなりの圧迫感があったのか、フェリシテは初めて
彼の名を呼んだ。

「ラファエルさまぁ……」
「!」

名前を呼ばれただけで果ててしまいそうで、ラファエルは焦った。

――恐るべし、セイレーンの乙女。

自分の欲望のままに事を終わらせることは簡単だったが、フェリシテへの
配慮が、ラファエルの頭の片隅を支配していた。
こんなときでも女に甘い自分にラファエルは苦笑する。
これは負けられない戦いだというのに。

「フェリシテ……」

際奥よりも手前で行く手をはばまれ、ラファエルは腰に力を入れた。

「んんん! あーっ!!!」

内臓を串刺しにされたような激痛に襲われたフェリシテの瞳が見開かれ、
その身体が跳ねた。

「ぃい痛っーーーーーー!!」

そんなフェリシテの身体を強く抱きしめ、ラファエルは最後まで腰を進める。
フェリシテも夢中でラファエルの身体にしがみついた。

「あなたが初めての人でよかった……」

まだ痛みの収まらぬフェリシテが、自分の身体を撫で、顔の至るところにキスを
しているラファエルに向かって呟いた。
瞳に徐々に光が戻ってきている。
これも作戦のうちかもなと、一瞬、ラファエルは穿った捉え方をしてしまったが、
それでも、やはり最後は素直に嬉しく思う。

「光栄だ」

ラファエルは、フェリシテの目尻にキスをした。

「もう、平気だから……」
「ああ」

フェリシテが無理をしているのは分かったが、このままじっとしていても、完全に
痛みが消えることはないので、ラファエルは円を描くようにして、腰を動かし始めた。
わざと陰核をさするようにし、乳房の柔らかさと突起の感触を楽しむように胸板を
密着させる。

「んっ……ん…っ…」

少しづつ腰の動きが大胆になる。
結合分にちらりと視線をやると、男根も秘所も破瓜の血に染まっていた。
ラファエルは思わずにやりと笑ってしまった。

「ぁ…ぁん…ん…あっ……熱っ……熱いのっ」

しばらくすると、フェリシテの声に甘さが混じり、すらりとした白い足が
ラファエルの腰に絡みついてきた。
背中にまわされた手に導かれるように、ラファエルがその艶やかな唇を舐めると、
可愛らしい舌が差し出される。
貪るように吸ってやると、膣壁がわなないた。
そろそろくるかなと、ラファエルは思った。
なるべくフェリシテの声に集中しないよう、腰を振ることに専念し、処女の膣内を
蹂躙し続けた。

「ラファエル様……」

狭い膣壁がさらに締まった。
背筋を駆け上る快感に耐えきれず、ラファエルはフェリシテの耳元に顔を埋めた。

「好き」

頭に直接響くような、セイレーンの乙女の言霊。

「フェリシテ…っ!」

ラファエルは、もはや彼女の身体を労わることも忘れて、己の欲望を
放出することだけを目的に本能的な往復を開始した。
フェリシテの肩を押さえて、より深くつながるようにと角度も変えた。

「あっ…あっ…んっ…ゃっ…ぁん!」

フェリシテの口から漏れる甲高い嬌声が、ラファエルの脳をチリチリと焦がす。
その上、微妙に腰まで振ってくる。ラファエルは密かに舌を巻いた。

「ラファエル様ぁ……愛しています」

その冷めた色合いとは対照的な熱い光の篭もった瞳で、ラファエルを見つめる
フェリシテ。
心臓が大きく脈打ち、頭を殴られたような衝撃がラファエルを襲った。
さらに秘肉が根元から搾り取るようにラファエルの男根を締めつけて、
主の意志を無視して暴発寸前の状態に誘う。

「ずっと……私を、愛して、永遠に」

フェリシテがラファエルの背中をすがるように抱きしめて、言霊を発する。

「!」

その言霊を合図に、ラファエルは、フェリシテの際奥に己の欲望の楔を
強く打ちつけた。

「あああああっ!!」

白い喉を晒してフェリシテの身体が反り返り、男の背に爪を立てる。
全身を震わせて、今処女が果てた。

「……おねがい」

イった後に繰り返される膣内のぜん動運動に、ラファエルは何とか持ちこたえた。

『俺も愛してる』

承諾の言葉を必死の思いで飲み込み、交わる前から決めていた残酷な言葉を
紡ぐため、口を開いた。

「お前の愛には、応えられない……」

そう言った瞬間、初めての絶頂に恍惚としていたフェリシテの顔が、引き攣った。

「いやーーーー!!」

悲痛な叫び声に、膣内がきつく締まる。
ラファエルは、滾る欲望を放出するために、激しいピストン運動を再開させた。
一度絶頂を極めたフェリシテの身体が、再び燃え上がり、快感と絶望の相反する
感情に翻弄されて、キレイな顔を歪ませていく。

「ど、おして? ……なんで、なんで、拒否するの!?」

青い瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
その瞳からは光が失われ、激しく突かれるままに、中空を見つめている。
その姿は、痛々しくもあったが、ラファエルは強烈な劣情を掻き立てられた。
白い太腿の裏を抱えてより深く挿入し、悲しみにむせび泣く彼女の顔と妖しく
揺れる乳房とをまじまじと見つめて腰を振る。

「はうっ……ぁんっ……ひどいっ……ぃやぁ…こんなぁ」

二度目の絶頂に向けて、フェリシテの身体は強制的に昇り詰めさせられていた。
結合部からは愛液が飛び散り、肉のぶつかる音が鳴り響いている。

「ラファエルさま……ラファエル…さ、まぁ……」

官能の渦に意識が混濁しているのか、甘えるように名前を呼ぶ。
伸ばされた腕に応えて、ラファエルは強くフェリシテを抱きしめた。
フェリシテの足がラファエルの腰に絡みつく。
ラファエルは、小刻みに最奥をついた。

「あ、ぁあーー! ラファ、ラファエル様ー!!!」

怒張が、引き千切らんばかりに締めつけられた。

――くっそ。たまんねー

ラファエルの視界で光が弾け、女の膣内に初めての白濁液が放たれた。
男根が脈打つ度に、何度も熱い滾りが子宮口を叩く。
フェリシテに体重を預けたまま、ラファエルは全身で呼吸した。

――勝ったな。

瞳を閉じて荒い息に胸を上下させているフェリシテから、本懐を遂げた男根を
引き抜くと、秘裂から鮮血の混じった白い粘液がとろりと零れ落ちた。

「どうして……」

目を開けたフェリシテは涙を拭き、寝台の天蓋をじっと見ていた。

「純潔まで捧げたのに……」

可哀想ではあったが、ラファエルにはこうするしかなかった。

「私のこと、そんなに嫌い?」

ラファエルは、流した涙で頬に張りつく金髪をそっと梳くった。

「俺が幼少のみぎりに通っていた王立学院の師に、若い頃諸国を旅していた
という変わった男がいてな。そいつが言うには、セイレーンの乙女の純潔を
散らす場合には、かなりの覚悟がいるというのさ」
「あなた! 知っていたのね!」
「ああ。セイレーンの乙女は、破瓜の際に、相手の男を一生自分に縛りつける
ように言霊を発するとな。操り人形になりたくなければ、愛の言葉を返すこと
なく拒絶しろと教わった」

ラファエルは、爽やかに笑う。

「ひどい人!」
「ふっ。何を言うか。自分たちだって、俺を篭絡して、講和条約をユベール
優位にするつもりだったんだろーが」
「処女を奪ったんだから、責任をとるのは当たり前でしょ!」
「女大公の旦那のように骨抜きにされて、いいようにこき使われるのが、
責任のとり方とはお笑いだ」
「でも、二人は愛し合ってる。幸せになれるわ!」
「俺は、そんな、砂糖菓子みたいな幸せはいらない……」
「最低!」

完全に頭に血が上ったらしいフェリシテは、そそくさとドレスをまとうと、
覚束ない足取りで出口へと歩いた。

「ちょっと、待て」

ラファエルの声に、フェリシテの動きが不自然なくらい、ぴたりと止る。

「俺は何も責任をとらないとは言ってない」

振り向いたフェリシテの頬が強張っている。

「お前のことは、ちゃんとこれからも可愛がってやるよ。下僕としてな」
「ふざけないでよ!」

ぷいっと顔を背けて、フェリシテは今度こそ部屋を出ようとする。

「お座り!」
「きゃあっ」

膝がくずれて、フェリシテはその場にしゃがみ込みんだ。
何が起こったか分からない様子で、目を瞬かせている。
ラファエルは満足そうに笑みを浮かべた。

「純潔の契りで相手の男をものにできなかったセイレーンの乙女は、その男に
心を捕らわれ下僕となる。まさか、ここまでのこととはね。最強の人心掌握術
には、それなりの対価が伴なうって訳か。爪が甘かったな、フェリシテ。
お前の腰の動き、初めてにしてはなかなかよかったぞ。セイレーンの乙女は、
男を虜にするために、処女でも感じるって本当だったんだな」

ラファエルはそこまで言うと、フェリシテの肩が震えていることに気がついた。
嗚咽の声も漏れている。
ラファエルは黙って赤褐色の髪を掻いた。そこまで苛めるつもりはなかった。

「来いよ」

ラファエルの声に、フェリシテの泣き声が止む。
が、一向ににラファエルの方へ来る気配はない。

「来い」

語気を強めて繰り返すと、フェリシテは緩慢な動きで立ち上がって、
ラファエルのいる寝台まで歩いた。
今となっては、ラファエルに逆らうことなどできないのだ。
彼の言霊には絶対服従。
それでも瞳は伏せたままのフェリシテを、ラファエルは強引に自分の側に
引き寄せた。

「許せ、フェリシテ。俺は女に主導権を握られるのが嫌いなんだ」

ラファエルの真剣な顔を見て、フェリシテの頬を新たな涙が伝った。

「あなたのことなんて、好きでもなんでもないし。これだって、ユベールの
ためだもん」

男の残滓が新たに秘所から吐き出され、その感触にフェリシテは身を震わせた。

「ちゃんと、あなたを好きにならなかったから、こんな結果になっちゃったんだわ。
言霊の力が足りなかったみたい。自業自得ね。まだまだ未熟だったんだ、私」
「フェリシテ……」
「でも、ユベールにはまだまだ優秀な乙女がいるから、あなたなんて、明日には、
陥落しているはずよ、きっと。そうなったら、見物ね。骨抜きにされちゃえば
いいんだから! あっ」

悲痛な涙を流して喋り続けようとするフェリシテの唇を、ラファエルのそれが塞ぐ。
もがくフェリシテを押さえつけ、ラファエルは荒々しく口付けた。
十も数えないうちに、フェリシテは降参する。
初めて感じたこの激しい気持ちは偽ることができないことを悟った。

「フェリシテ……俺は、明日もお前がいい」

今までで一番長いキスの後、ラファエルがそう言うと、フェリシテは熱く潤んだ
瞳で愛する男を見つめ返した。

「嫌か?」
「そんなこと、ない」

フェリシテは慌てて首を横に振った。
まだヒリつく膣内がきゅんと縮まって、新たな蜜が滲み出る気配がする。
自分に淫乱な素質があるような気がして、フェリシテは眉根を寄せた。

「初めてでも腰を振る淫らな女は嫌い?」
「いや、悪くない」
「じゃあ……終わったばかりなのに、すぐ欲しくなる女は?」

ラファエルは少し驚いたが、勇気を振り絞るように、頬を紅潮させて訊ねる
フェリシテの姿を見て、琥珀色の瞳を細めて微笑んだ。

「望むところだ」

すでに彼の分身も固い。
ラファエルは、再びフェリシテを押し倒し、寝台の上に組み敷いた。
二人の初めての夜は、まだまだ終わりそうになかった。

一ヶ月後。
戦の後始末と講和条約締結のための諸手続きを終えたブノア王国第二王子
ラファエルは、故国へと凱旋するため、ユベール公国を後にした。
その軍の中には、武装して帯剣するフェリシテの姿もある。
彼女は第二王子付きの近衛騎士として、あらたな人生をスタートさせた。
純潔の契りで失敗したため、下僕という屈辱的な立場であったが、それでも
フェリシテは幸せに似た温かい感覚に包まれていた。

「フェリシテ! こっちに来い!」

呼ばれてフェリシテはあわてて馬を進めて、ラファエルの一馬身後ろにつけた。
その隣では、ヴァンサンが渋い顔をしている。
フェリシテのお蔭で、ユベール公国の他の女たちの操は守られ、
下手にブノア王家の子種を残すということはなかったのだが、
ヴァンサンはフェリシテの扱いに困っていた。
ただの臣下なのか、愛人なのか、それとも未来の――。
そんなヴァンサンの苦悩を余所に、当の王子はブノア王国に関する知識を
喋り倒している。
王子の晴れやかな顔を見ていると、ヴァンサンも苦言をはさむことができず、
ただただ王子の幸せを祈るばかりだった。






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