シリウスとメル
シチュエーション


部屋の主は先日爵位を継いだばかりの友人とその一行に連れられて狩りに出かけてしまった。
メルは安堵の吐息をついて部屋へ足を踏み入れた。
狩りに出たということは当分戻ってこないということだ。
今のうちに部屋の掃除を済ませてしまおうとメルは手にした掃除用具を握りしめて決意した。
掃除を始めて一時間。
最近は早く部屋から出ようと急ぐあまりに少々手抜き気味だったおかげで普段は目に入らぬような隅々に僅かながら埃が溜まりはじめていた。
それらをすべて取り除き、ふと壁に掛けられた時計を眺めるとそんなにも時は過ぎていた。
しかし、たかだか一時間やそこらで狩りが終わるはずはない。
そうは思えどなぜだか悪い予感がし、メルはそそくさと掃除用具の片づけを始めるのだった。
掃除用具をすべて仕舞い終え、メルは仕上げとばかりに花瓶に花を生けていた。
庭に咲いている白百合だ。

「綺麗だね。ミュラが育てた花かい?」

唐突にかけられた声にメルの体は文字通り跳ね上がった。
おそるおそる声の方へ顔を向けると狩りに出たはずの部屋の主がそこにいた。

「狩りに行かれたのでは……?」
「つまらなかったから早めに抜けてきたよ。狩猟は僕の得意分野じゃない」

少し長めの髪はそれでも清潔感は損なわれておらず、狩りをしていたためかちょこんとリボンで括られていた。
穏やかな笑みをたたえた瞳は髪とともに黒色。
部屋の主の名はシリウス・アスター。
アスター家の次期当主となるべく定められた御仁だ。

「僕は狩りをするよりも僕の白百合を愛でている方が好きなんだ」

対するメルはアスター家に仕えるメイド。
栗色の髪は仕事の邪魔にならぬようにきっちりと編み上げられ、小柄な体はメイド服に包まれている。
顔立ちはまだ少し幼さが残り、本人はとても気にしているのだがそばかすがある。

「いい香りだね」

シリウスはメルの傍らへと近づき、彼女の髪へ顔を近づける。

「食べてしまいたくなるよ」

メルの髪を留めていたいくつかのピンをシリウスは引き抜いた。

「し、シリウス様!」

メルが僅かに身を引くと髪が波打って解けた。

「僕は下ろしている方が好きだ」
「それでは仕事になりません」
「僕の目を楽しませることは重要ではないと?」
「私の仕事はシリウス様を楽しませることではありません」

ぎゅっと拳を握りしめ、メルはうつむいて靴の爪先を眺める。
シリウスと見つめ合っていてはまともに反論など出来ないからだ。

「そう。つれないね」

メルが離れた分だけシリウスは彼女に近づき、髪を一房手に取った。

「けれど、そんなところも魅力的だよ。僕の白百合」

髪に口づけられ、メルは体を強ばらせる。

「メル」

顎を掴まれ、上向かされる。

「僕のことが嫌いかい?」
「……いいえ」
「よかった。では、キスしてもかまわないかな」

メルが答えられずにいるとシリウスは質問を変える。

「僕にキスされるのはいや?」

少し迷ってからメルは小さく首を振る。
嬉しそうに微笑んだシリウスはメルの唇に唇を重ねた。

「んっ……」

シリウスの舌がメルの唇をなぞる。
反射的に唇を開いたメルの咥内へシリウスは舌を差し込んだ。
上顎を舐め、舌を絡ませて、溢れた唾液を飲み下す。
思うままに堪能してから、シリウスは唇を離した。
二人の唇を銀の橋が伝う。

「可愛い」

抱き寄せられ、メルはシリウスの胸に顔を押しつけられる。

「愛しているよ、僕のメル」

真っ直ぐに愛情をぶつけられるのは今日が初めてではない。
二人きりの時はいつも、場合によっては他人がいようとお構いなしにシリウスはメルに愛を囁く。
身分違いも甚だしいとメルは戸惑うのだが、シリウスは身分の差など気にしていないようだ。
そして、拒みながらもメルは最終的には彼の行為を受け入れてしまう。
拒みきれない自分が嫌でメルはシリウスを避けるのだが、彼はそのことに気がついていないかのようにメルを追いかけ回す。

「唇だけじゃ足りないな」
「あ、あのっ」
「もっと欲しい」

シリウスの手が背中を伝い、メルの腰を撫でる。
びくりとメルの体が跳ねた。
いつもそうだ。
メルの唇を易々と奪い、誰の邪魔も入らないと確信したシリウスはメル自身を欲しがる。

「だ、ダメです。お掃除が、まだ……あんっ」
「後で僕も手伝ってあげるよ」
「やっ、あ……シリウス様っ! ああっ」

器用に服を脱がせ、シリウスはメルの肌に直に触れてくる。
メルは抵抗しようと彼の胸を押したがまったく効果はない。
それどころか腕を掴まれて、再び唇を奪われる。
舌を吸われ、衣装を剥ぎ取られ、体の自由を奪われたメルはやがて諦めたように体の力を抜いた。

「愛してるよ。君が欲しくてたまらないんだ」

熱っぽく囁かれればメルにはもう抵抗できない。
結局のところ、メルもシリウスを憎からず思っているのだから。

「シリウス様、わたし……んっ」
「大丈夫。全部僕に任せてくれればいい」

今日もまた、メルはシリウスに求められるままに愛を交わすことになるのであった。






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