お洋服と柏が好き
シチュエーション


「あの子チョーかわいい」
「お人形さんみたいー」
「ウホッ…いいゴスロリ…」

自惚れじゃなく、私のことだと思う。
周りを見てもゴスロリ着てるの、私だけだもんな。
でもごめんね、そんなゴスロリ娘が今考えてることは

「(鶏が…足りない…)」

なんです。

別におなかが空いてるわけじゃないんです。
先ほどクラシカルロリータな友人とケーキセットを食べたので。

「そんなに鶏分が足りないのでしたら、今ここでハーブチキンサンドを注文なさればよろしいのに」

あ、ちなみにこの友人は私が鶏DAISUKIな事をよく知っているようなフランクな仲です。

「今夜…彼とディナーで食べるんです…先日コルセットセミオーダーしたのであまり財布にも余裕がないのです…」
「まぁ羨ましい!では私は遠慮なくこのザッハトルテを頂きますね。」
「あなたを、犯人です」

ちなみにこの友…悪友はカカオDAISUKIです。
喫茶店なので多少かしこまった話し方をしてますが、喫茶店を出て別れた後には

[ルームシェアの友人からKFCお土産るね!メールキタ━( ゜∀゜)━━!今夜はバーレル大変うまいです(^q^)]

という大変フランクなメールをくださいました。

[そこは氏んで詫びるところだろ、JK…]

と返信しときました。

私もお洋服好きの端くれ、店まで歩いてケーキのカロリーを消費です。

(ちなみにフランボワーズをいただきました)

先ほどの悪ロリとは違う曲が流れました。
これは…

[仕事が立て込んでいる。15分ほど待つ形になるが、了承頂きたい]

15 分 ほど 待つ …だと…?

<〜という訳で私オワタ!ふじこ!>

街角のみなさん、この娘は彼氏ではなく鶏肉を食べられない事に絶望ツイートしていますよー。
いや伸びただけで食べられないわけではないんですが。
そして彼氏がどうでもいいわけじゃないんですががが。

<空腹は最高のスパイスって言うじゃないですか>
<逆に考えるんだ…15分間あれこれナニソレを妄想する猶予ができた、と…>
<今夜の鶏肉はソテーか?焼き鳥か?そもそも胸か?脚か?カリッとした皮か?鉄分抱負なレバーか?今のあなたには酷な話かもしれない。だが、あなたは今夜鶏を食べるんじゃないか…!>

ジョジョや修造好きで本当に良かった。
ツイッターありがとう。
おかげで空白の15分間を過ごさずに済んだよ…!

「待たせたね」
「…紺のネイルエナメルひとつで手を打ちましょう」
「欲しいのはそれだけですか?」
「えっ?」
「さぁ店に入りましょう。電話はしてありますが、あまり待たせるのは良くない」
「はっ、はい」

もちろんこの方もゴシックめいた服が好きなのですが、今日は仕事帰りなのでスーツです。
眼鏡はかけたり外したりですが、今日はかけていますね。

「君はコース鶏肉で良かったかな?」
「はい。」

口は冷静でしたが、既にはらわたは飢餓状態です…(チキンエキス的な意味で)

「では自分はコース鴨で。ロゼと日本酒の冷や…それと鶏肉のフリッターを単品で、早めに持ってきてください。」
「かしこまりました」

給仕が遠ざかったのを確認して、いつもの挨拶。

「毎度毎度、すみません…」
「いいんですよ。鶏が好き。服が好き。そして自分の事が好き。それだけでとてもありがたい事です。」
「アルコールとフリッター単品でございます」
「さあどうぞめしあがれ。口紅をぬぐうのを忘れずにね」
「はいっ!!!」

うん。すまない。
日本酒は私が飲むんだ…
ワインは嫌いじゃないんだけど。

「グラスに残った口紅も良いけど、お猪口に残った口紅の跡もいいよね」
「えっ?!わー、すみません!」
「構いませんよ。どうせ後で全部取れてしまいますしね」
「!それは…!」

リアルに吹き出しそうになった。

…前から思ってたんだけど、この人ほんとに草食系なのかなぁ。
実際あんまり肉食べなくて(鴨は私が食べる)、まぁ魚は食べるけど、前菜とか私の分まで食べてるし。
豆腐…草系たんぱく質?
白ワインのつまみに冷や奴食べてたりで、部屋の冷蔵庫が空って訳でもないし。
人付き合い嫌いだけど仕事うまくやってるんだよね…

「お金を稼がない事には、あなたに鶏を食べさせられませんし、第一衣類を手に入れられませんからね」

って言ってたけど別に嫌な表情じゃ無かったな…
でも、部屋は殺風景だから隠す場所も無いけど、強いてそれっぽい本と言えばゴスロリバイブル、それっぽいフォルダと言えばゴスロリ(全年齢)

…分かんないなー。

「今日もフルーツパンチは頂いても良いのですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。鶏は満足しましたか?」
「…はい、とても」
「それは良かった。残業するのは悩みますが、また来月も一緒に食べましょうね」
「はいっ!」

ところでいつも支払いに使ってる金色のカード、どこのなんだろう。

「さて」
「…」
「今夜も自分の部屋、来ますか?チキンナゲットくらいしかありませんが」

返事の代わりに、手を繋いだ。
脚がふらつくのは日本酒と高いヒールのせいだけじゃないと思う。

マンションのエレベーターの扉が閉まると

「ヒールの高さは両方同じですか?」
「足の爪はあまり伸ばしてはいけませんし、切りすぎてもいけませんよ」
「そう言えば、手はダークレッドのネイルですが、足は?」

などと言っていたと思うんだけど、正直あんまり覚えていない。
空いてる片方の手で、首筋を撫でられていたので…

「さぁ着きましたよ、降りましょう」

手が離れたところで我に返る。

「は…い…」
「靴を脱ぐ間に、レモン水を用意しましょう」

革靴の彼は、私が靴を脱いでいる間に上着を脱ぎ、足湯ができる状態にまで準備していた。

「一日の疲れと冷えを取ってくれるんですよ」

彼は毎日の足湯を欠かさない。

「理由は色々あるんですが…座敷に上がった時に恥ずかしくないように、ですかね。」

でも彼、いっつもライムみたいな匂いなんだけど…
いつ何時でも。






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