生徒会の通学
シチュエーション


溜息がこみ上げてきた。あたしはその溜息を、あくびと一緒に噛み殺す。

最初の躓きは、土曜の夕方だ。
夕食は彼と一緒にレストランでという約束だったのが、
彼に急な仕事が入ってしまってお流れになった。まあ、よくあることだ。
夜更けには片がつくはずだという言葉を信じてあたしは窓の外が白むまで待ったが、
結局彼は連絡一つよこすこともなくて、馬鹿らしくなったあたしはシャワーを浴びて寝た。

で、はっと目が覚めたら日曜は半分以上過ぎ去っていて、試写会に行く予定は綺麗に吹き飛んだ。
厳密には、目覚めたまさにその瞬間、試写会が始まる時刻だった。まあ、よくあることだ。
それでまあ、グダグダとメールを書いたりRSSを消化したりTLを眺めたり、
知り合いのダンスグループ(のようなもの)が始めた奇妙な実況動画を見たりしていると、
ようやく携帯電話に彼からの着信が入った。
ムカついたので2・3回無視していたが、4回目で根負けして電話を取る。
案の定、埋め合わせをしたいから今からそっちにいくよという陽気な挨拶。死ねばいいのに。
そう思いながらシャワーを浴びなおして身支度し薄く化粧をする自分自身も、ちょっとどうかしている。

でも、まあ、よくあることだ。うん。

それで、4時間ほどしてからようやく彼は私の部屋のベルを鳴らして、
10秒後くらいに部屋に上がってきた彼と1時間くらい玄関でセックスして、
それからいつもみたいに中華のデリバリーを取って(なんでいつも中華なんだろう?)、
彼はMJの古いCDをデッキに放り込んでご機嫌、あたしはようやく自分が空腹だったことに気がついた。
シュリンプだのトーフだの、いかにもなデリバリー・チャイニーズを食べてから、
ソファで都合1回戦、シャワーを浴びて、ベッドに潜って、さらに1回戦。
うっかり寝すぎてたあたしはまだ眠くなかったし、彼は彼でストレスが溜まっていたみたいで、
ちょっとしたアルコール補給時間をはさんで、その後もスローな感じでいちゃいちゃ。
気がついたら夜が明けていた。

そこで、突然あたしは当然の現実に思い当たる。
今日はもう月曜じゃない! うっかりしていた。脳内は完全に土曜日だったのだ。
必死の思いで長袖の制服を掘り起こす。紺のセーラー服。それから、首の周りがしっかりと隠れるカーディガン。
なぜそんなものが必要かは、あえて言うまい。
大慌てでシャワーを浴びていたら、彼がバスルームに入ってきて、
時間がないというのについ勢いに押されてもう一戦。アホかと。馬鹿かと。

いや、だって、ものすごく良かったのだ。
私はどちらかというと挿入でイクことは少なくて、クリトリスで頂点を迎える系という自覚があるが、
昨日から今日にかけてのセックスは本当に凄くて、何度も膣でイってしまった。これって、滅多にないこと。

時差登校の計画は破綻して、職場に向かう彼と二人で満員電車の旅をしている。
まったくもう。彼ならタクシーで出社しても、というか重役出勤でも全然問題ないはずだ。
だのに「日本の通勤ラッシュも経験しておきたい、それが君と一緒ならなおいい」などと言いやがって、
ついうっかりあたしはその申し出に頷いてしまったのだ。

その段階で、変態紳士な彼が何をたくらんでいるのか、考えるべきだった。
私と一緒に、ただ文庫本片手に満員電車を体験しようとする、そんなはずがない。

さっきから、少しずつ彼の手があたしのスカートをめくり上げている。
ひとつ前の駅で扉が開いたとき、彼はあたしを人波から守ってくれた。
で、そのせいであたしはちょうど扉の端と椅子との間にある、狭いスペースに追い込まれている。
何もなかったら、結構良い場所だ。もたれかかる壁があるというのは、とてもいい。
でも今は、ちょっとした密室だ。おまけに、こちら側のドアはあと8駅、開かない。時間にして約20分。

彼の手が、あたしのショーツに触れた。ねっとりと絡みつくように、ショーツの上から秘裂がなぞられる。
背中がびくりと震える。やばい。ついさっきまでヤっていた身体は、まだ熱を持っている。
あたしは必死の思いで、彼の顔をにらみつける。でも彼は、執拗にあたしの秘所を撫で続けた。

「……っく」。

声が出そうになって、唇をかむ。あの部分が、湿り気を帯びてきたのを感じる。
いや、これは湿り気なんてもんじゃない。身体は、まだまだ快楽を求めている。

ショーツの内側に、彼の指が侵入を開始する。いや、ちょっと、それはさすがに、やばいって。
やや怯えた目で彼に訴えてみるが、彼の指はまるで躊躇を見せない。
始めはクリトリスを探り当てようとしていたが、裂け目の中から溢れる体液の量に気がついたのか、
つぷりと指をそこに沈めてきた。カバンを持っている手が痙攣する。顔が上気しているのが、自分でも分かる。
太いけれど繊細な彼の指は、次々にあたしの内側に快楽を呼び覚ましていく。
やばい。本当にやばい。声が漏れてしまいそうだ。でもでも。それは。

2本目の指が忍び込んできた膝がガクガクと笑っている。
電車がカーブに差し掛かり、ぐらりと大きく揺れた。乗客がぎゅっと押し寄せてくる。
さすがの彼もその圧力には耐えられず、あたしの内側にあった指が深々とあたし自身を抉った。
痛みが脊髄を走りぬけ、その痛みは必然的に――より大きな快楽を呼び覚ます。
くっそう、誰だ、こんな身体にしたのは!
悔しさと期待感が入り混じって、あたしの頭はぐちゃぐちゃになり始めた。

痛みと快楽を堪える表情を読んだ彼は、3本目の指をねじこんだ。
さすがに、それを楽々と迎えられるほど、身体の準備はできていない。苦痛に軽く眉をひそめる。
ああ、いや、違う。眉をひそめたのは、こんな非常識なことをされていることに対して、だ。きっとそう。
でも彼の指が動き始めると、あたしは口を半開きにして深呼吸を繰り返すことを余儀なくされた。
やばい。これ、ほんとにやばい。
なんだか乗客全員がこっちを見てる気がする。
そう思ったとたん、身体の奥からどっと体液が吹きこぼれていく。
すがりつくように、彼の右手に手をかける。

もっと。

もっと、激しく。

もっと、激しく、してほしい。

でも彼は甘い笑みを見せると、私の耳に囁いた。

「ここで君がイってしまって、大声をあげようものなら、私のキャリアはおしまいだ。
そして当然、私は自分を守るために、君とのことも洗いざらい証言する。そうすれば君もおしまいだ」

くっそう。何がおしまい、だ。目の前がチカチカして、心臓がバクバクする。
言われなくたって、危なすぎる橋を渡っているのくらい分かっている。
でも改めてそういわれると、心臓は一層、高鳴った。恐怖と、期待と、興奮と。

電車が止まる。あと4駅。

あたしは彼のズボンのジッパーを下ろし、ブリーフのボタンを素早く外した。
リスクを楽しむっていうなら、徹底的に楽しんでやろうじゃないの。

彼の息子はガチガチになっている。あたしはそれを外に引きずり出すと、自分の下腹部へと引き寄せた。
彼は不敵な笑みを見せ、ご自慢のイチモツをあたしの中に挿入し始める。
ちょっと手間取ったものの、やがて彼の分身はすっかりあたしの内側に飲み込まれた。あと3駅。

電車が動き始めると、その振動で、自然に細やかなピストンがあたしを突き上げていく。
額にじっとりと汗が浮かぶ。すぐにもイってしまいそうだ。
もしこれで彼が本気で突き上げたら、あたしは数秒と持たずに大声を上げてしまうだろう。
そうなったら、あたしたちは間違いなく警察のご厄介だ。今だってもう法の定める一線は踏み越えている。
にも関わらず、彼は少し腰を引いた。

トン、と彼があたしを軽く突き上げる。思わずのけぞり、後頭部を壁にぶつけた。痛い。
ゴツンという音に、近くのサラリーマンがこちらを見る。
あたしは慌てて文庫本を目の高さに上げ、そしらぬ風を装った。
すぐにそのリーマンは興味を失って、細く折りたたんだスポーツ紙に視線を戻す。
助かった。
が、そこでまた、トンと突き上げられる。
今度は耐えた。喉の奥であまり良くない音が鳴った気がするが、ガタンガタンという電車の音に紛れる。

太ももの内側を、生ぬるい体液が滴り落ちていく。
太くて硬い彼の分身は、あたしをしっかりと貫いている。
列車が大きく揺れるたびに、あるいは彼が乗客の波に押されるたびに、
あたしの中には意識が飛びそうなくらい強い快感が吹き荒れる。
でも、ここでその快感に身を任せるわけにはいかない。

視線を文庫本に固定し、片手で口元を押さえる。
さっきからずっと、目は同じ行しか見ていない。いや、何が書いてあるのか、さっぱりわからない。
押さえた口元からは、熱い呼吸が漏れ続けている。

そのとき、ギギィっと大きな金属音が響いて、電車が急停止した。

ズドン、と身体の一番深いところを強く突かれる。

一瞬、意識が宙に舞った。
文庫本が手から落ちそうになり、彼がそれを支える。
大きな声が漏れそうになったが、その声は彼の胸板の中に消えた。

「……失礼、レディ」

電車が完全に止まると、しれっとして彼はあたしに謝罪してみせる。
いつのまにか、彼は怒張をズボンにしまいこみ、ジッパーも閉じていた。
あたしの内腿には自分の愛液が気持ち悪いくらいに垂れていて、下腹部は欲求不満に激しく疼いている。
ほとんど半泣きの目で彼を見るが、まるで他人のふり。くそう。くそう、くそう、くそう!

「ただいま、○○駅で線路に人が立ち入りました。安全が確認され次第、運転を再開いたします。
お急ぎのところ申し訳ございませんが、今しばらくお待ちください」

車掌のアナウンスが流れる。車内にはやれやれという空気が漂った。

数分ののち、電車はもう一度動き始めた。イラつくくらいゆっくりと、駅に滑り込む。
ドアが開いて、あたしたちは駅のホームへと吐き出された。
彼の長身が、人波の向こうに消えていく。挨拶ひとつなしか。
というか、この駅は彼の会社からまだまだ遠い。つまりは、そういうことだ。まったく、もう。

とりあえず、途中のコンビニで靴下を買おう。タオルも。
ショーツは、諦めたほうがよさそうだ。諦めたくないが、どうしようもない。
そりゃあコンビニでショーツだって手に入れることはできるけれど、
学生服を来た女子高生が、月曜朝のコンビニでショーツを買う、そんな風景はどうかと思う。

それより問題は、学校についてから、だ。
授業は、いい。なんとでもなる。
昼食も、お嬢様なクラスメイトたちと食べれば、それでなんとかなる。
でも放課後、司書ちゃんの隣で仕事を始めたなら。
彼女は、この手のことに、すばらしく敏感だ。とても無事でいられるとは思えない。

もう一度、溜息がこみ上げてきた。
あたしはその溜息を、あくびと一緒に噛み殺して、学ランとセーラー服の群れへと合流する。
幸いと言っていいのかどうか、今日は特にこれといって差し迫った仕事もないし、予定も何も入っていない。
無事で済まないなら、それもまた一興というものだ。
彼女を家に呼んで、お酒を振舞ってみる。それがいい。そうしよう。是非。
クラスメイトに挨拶しながら、あたしは少し気分が浮き立つのを感じた。

うん。これはなかなか、いい一週間になりそうだ。






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