奇妙な夢
シチュエーション


「健やかなるときも、病めるときも」神父が厳かに読み上げる。「真心を尽くすことを誓いますか」
「誓います」

私は朱唇を動かして、そう応える。

今日は妻と死別してから20年、男手ひとつで育ててきた息子の結婚式だ。
身内の贔屓かもしれないが、中々真っ直ぐな好青年になったと思う。
嫁となる女性も、気のきくしっかりした、好感の持てる美人だった。

「新郎の父親が式場で泣くのはどうなんだろう」

そんなことを思いながら、式場についたのが今朝のことだ。
係の女性に案内され、ついた先で着替えとメイクをさせられる。鏡の中には、礼服をきた男性ではなく、
純白のドレスで身を包んだ美人が映っている。
小柄で細いほうとは自覚しているが、それでも中年男性では絶対入らないような細身のドレスだ。両手で
掴めそうなウェストと、弧を描く背のラインが女らしい。
顔は嫁そのもので、それが何故か自分の動き通りに動く。

「奇妙な夢だな」

ありえなさ過ぎる事態に遅まきながら気づいた。何か私は、そういう願望を持っていたの
だろうか。

その姿のまま会場に入る。
新郎の家族席に座る「自分」を見つけ少し強張った。よく見ればそれは自分ではなく嫁なのだが。
式は恙無く進行し、誓いのキスもして完了した。

……結婚式から3年過ぎた今も、夢はまだ醒めていない。
毎晩仕事で夫の帰りが遅いのが不満だが、それ以外は普通の新婚生活にも慣れた。
夫の実家に帰るたび、義父(の姿をした嫁)に、「子どもはまだなのか」と訊かれるのが少し憂鬱ではあるけれど。






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