動物⇔女の子
シチュエーション


「んじゃ行ってくるからな」

ワタシの頭をひと撫でしてから、ご主人様は元気よく学校へと行ってしまった。
誰もいなくなったベッドはまだほんのりと温かく、寝転がるのにはもってこい。
ぴょんとベッドの上に飛び乗って、1つ大きく伸びをして丸くなる。
シーツから、掛布団から、枕から、そこらじゅうからご主人様のにおいが漂ってきて、
とっても幸せな気分になってくる。
幸せなにおいに包まれながらベッドの上で丸くなっていると、
ぐぅ……とおなかが小さく鳴った。
ご飯まだかなぁ……おなかすいたなぁ……と思っていたら

「ミーちゃーん、ご飯よー」

と、ご主人様のお母さんが呼ぶ声がした。
待ち望んでいた朝ごはん!
ベッドの上から跳ね起きて、エサ皿がある玄関まで一気に階段を駆け下りる。
今日のご飯はカリカリのまぐろ味。
なんとなくぽそぽそしてあまりおいしくない。
不満を鳴き声で漏らしても、ご主人様のお母さんは

「あらあら、おいしい?」

なんて言って私の頭をなでるだけ。
これがおいしく見えるなんて、相当飢えている野生のネコぐらいだろうけど、
きっとヒトにはおいしそうに見えるのだろう。
一度もヒトがカリカリを食べてるところなんて見たことないけど。

たんまり盛られたカリカリを食べたら、もうやることはなにもない。
ご主人様がいたら一緒に遊んでもらえるのだけど、
火事に忙しいご主人様のお母さんはワタシを邪魔そうに飛び越えたりするだけ。
エサ皿の近くにある毛布の上で丸くなってお昼寝をすることに。
まだ朝だから二度寝の範疇かもしれないけど、とにかくお昼寝。
コタツがあったら最高なのになぁ……と思いながら毛布の上で丸くなっていると、
不意に玄関のチャイムが鳴り響く。
続いて聞こえる声からして、宅配便のお兄さんだ。
はいはい、いま行きますよ……なんていうご主人様のお母さんの声がして、玄関がガチャリと開く。
すると急に冷たい風が吹き込んできて、ワタシの体を切り刻もうとする。
寒い! 早く閉めて!
そう鳴くと、

「ごめんねミーちゃん、寒かった?」

なんて適当に謝るご主人様のお母さん。

「おや、猫ですか。かわいいですね」
「ええ、ミーちゃんっていうんですよ」

褒めてくれるのはうれしいけれども、冬の冷たい風が体にばしばし当たって寒いことこの上ない。
早いところ用事を済ませて出て行ってくれと祈っていると、
ようやく荷物を置いて宅配便のお兄さんは去って行った。
もう二度と来るな! 風邪ひいたらどうしてくれる。
ぶるり。
寒さで体が震えてしまい、急に尿意が近くなる。
あわてて廊下の隅の方にある砂トイレまで行っておしっこタイム。
じょぼぼぼぼぼぼぼ……。
なんとか間に合ってよかった。
もしも廊下に粗相しちゃったら、どんなに怒られるかわかったもんじゃない。

また冷たい風に当たるのが嫌なので、また階段を上がってご主人様の部屋へ。
大好きな、大好きな、ご主人様のベッドの上に飛び乗り胸いっぱいににおいを吸い込むと、
幸せとはちょっと違う感情が。
昔はいつも、一緒にいたいと思っていただけの大好きなご主人様。
それが今では毎日一緒に過ごせる幸せ。
そのささやかな喜びをかみしめるように、ベッドで横になる。
ふかふかのベッドの上はぽかぽかした日差しに照らされて気持ちよく、
うっとりとした暖かな眠りをもたらしてくれる。
こんな時に見る夢は、決まってワタシがご主人様と同じ学校に通っている姿。
いつも思うのだけど、ネコのワタシが学校で何を学べばいいのだろう。
そんなありえない夢を見ていると、ふと部屋の扉ががちゃりと鳴った。
全身を耳にしてぴくりと起き上がると、愛しのご主人様が立っていた。
もう下校の時刻だったのか。
おかえりなさい! とご主人様に飛びつこうとしたら、
横に見たことない女のヒトが立っている。

「ああ、これ、うちのネコ。
かわいいだろ、美由紀って言うんだ」

ワタシの頭を撫でながら、ご主人様は連れてきた女にはにかんだような笑顔を見せる。
なんだか無性に腹が立って仕方がない。

「ところでさ……今日、親は出かけてていないんだ
だからさ……その」

上ずった声で女のヒトに話しかけるご主人様。
だめ! その続きは聞きたくない!
そんなワタシの悲痛な鳴き声が聞こえているのかいないのか、
女のヒトは甘えるような声でご主人さまに抱きついた。

「じゃ、美由紀、ごめんな」

部屋の外へ追い出されるワタシ。
閉まり際、ご主人様と『恋人』がささやきあう甘い言葉が、
ワタシのココロをズタズタに引き裂いた。
あの言葉は一生忘れられないだろう。

「愛してるよ、ミルク」
「んにゃ〜ん♪」






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