黒の誘惑と白への回帰<エピローグ>
シチュエーション


「くそっ、どうしてこんなコトに……」

浄魔部隊エクサイザーズのリーダー、穂村憲一ことルビーフレイムは歯噛みしていた。
彼らの秘密基地は、宿敵たるDUSTYの急襲を受け、すでに一般警備員による第一次防衛線は突破されていた。
幸いにしてこの第二次防衛線には、彼らエクサイザーズの3人が駆け付けたため、何とか持ちこたえてはいるが、敵の数が多い上に厄介な相手がいるため、このままではジリ貧だった。

「オーホホホホ!あなた方も愚かですわねぇ。我々にとっくに場所を知られている秘密基地に、ロクに警戒もせず居座り続けているだな・ん・て」

高笑いと共に、敵の指揮官らしき黒衣の女性が癇に障る物言いでコチラを挑発してくる。
その姿は、パッと見はかつてエクサイザーズと死闘を繰り広げていた女幹部・魔隷姫サブキュースによく似ていた。
ただし、サブキュースの額当ては金属製で2本の角のようなものが左右に付いていたが、この女性が頭部に被っているそれは、茶褐色のどことなく有機的な素材から出来ており、何より角が左右、そして額中央部の3ヵ所から突き出ている。
また、サブキュースが杖と指輪を装備した魔術師タイプだったのに対して、彼女は闇が実体化したような漆黒の長い鞭を得物としているようだ。

「お前は!?パール…珠城なんだろ?どうして……いや、聞くまでもないか。DUSTYの洗脳を受けたんだな」

炎の戦士に相応しく熱血漢なフレイムは、ギリッと奥歯を噛みしめる。

「チッ、悪い予想が当たっちまったな、馬鹿ストームめ」
「珠城さん……正気に戻って!」

戦闘員達を強引に押し返したオーシャンとガイアが戻って来て、フレイムの左右で身構える。

「フフフ……珠城?パール?いったい、誰のことかしら。あたくしは、濁魔帝国DUSTYの三幹部のひとり、魔妾姫エシュベイン。この高貴なる名を、しかとその哀れな脳味噌に刻み込みなさいッ!」

エシュベインと名乗る女性が、ヒュンッと軽くその闇の鞭を振るっただけで、カマイタチのような衝撃波が発生して、エクサイザーズの3人を打ちすえる。
「ぐぅ……」「イテテ!」「はぅっ」

致命傷とは程遠いが、exスーツ越しなのに骨まで響くようなダメージを食らい、3人が呻く。不意を突かれたとは言え驚くべき威力だった。

「それと……何か勘違いしているようですわね。あたくしは、自分の意志で偉大なる総統閣下に忠誠を誓っておりますのよ」

男女問わず目を見張るような妖艶さと、見ているだけで圧迫感を感じずにいられない程の威圧感。ある意味、両立し難いふたつの要素を、エシュベインは兼ね備えていた。
その両目からは、DUSTY総統への確たる忠義心と強い意思が見てとれる。
いずれも、密かにワガママで残念なドジっ子扱いされていたパールストームとは、およそ縁の遠い資質だった。

「──本当に、あの女性、珠城さんなのでしょうか?」
「まぁ、悪堕ちしたヒロインが強力なボスキャラになるってのは、ある意味お約束とも言えるけどなぁ」
「──いずれにしても、ここは全力でアイツを倒すしかない。

いくぞ、オーシャン!ガイア!」

「「了解っ!」」

***

魔妾姫エシュベインは内心驚いていた。
フレイム達3人の戦闘能力は、半月前サブキュースが倒された時と比べても、格段に進化していた。
おそらくは、パールストームが抜けた穴を3人で補えるよう、必死にトレーニングを重ねたのだろう。exスーツにも随所に改造の痕跡が窺える。
しかし。
そのパワーアップした彼らの動きでさえ、今の彼女には余裕で見切ることが可能だった。

敬愛するスカイゴワールの言葉が脳裏に甦る。

「そなたが十全に力を発揮できなかったのは、そなたの責任ではない。むしろ、霊的ポテンシャルに関して言えば、サブキュースは元より、エクサイザーズの他の3人の誰よりも高いのだから」

それでは、何故かつての自分──パールストームは、あれほどヘッポコだったのだろう?

「ふむ。ひと言で言えば、適性と方向性の問題だな。そなたの力の方向は、無理に矯めず鎮めず、心の赴くままに解放してこそ、真価を発揮する。
嵐や竜巻を人が無理に押さえつけ、制御しようとしても、どこかで無理が生じるようなものだ。
だからこそ、下手なしがらみで雁字搦めになっていた自らの心を、余の配下として解放したそなたは、潜在能力を一気に開花させることができたのだ」

(嗚呼、やはり総帥閣下は正しかったのですわ!)

かつてコンプレックスをもたらした同僚達と、3対1でさえ優位に戦い、追い詰めているという実感は、エシュベインの背筋にゾクゾクするような興奮をもたらした。

「オーホホホ…やはり3人では、この程度ですの?」

そうだ。半人前扱いしていた自分の抜けた穴の大きさへの後悔と、その半人前だったはずの女の力に蹂躙される無念を、思う存分噛みしめるがいい!

「レベルを上げて物理で殴る」というのは、もっともシンプルで芸のないRPGの攻略法だが、だからこそ有効な手段でもある。隔絶した実力差は多少の小細工では覆せないものだ。
今のエシュベインは、まさにそれに近い状態だった。
さして力も込めていないように無造作に振るわれる闇の鞭の衝撃波が、恐るべきスピードと連続性で、エクサイザーズにダメージを与えていくのだ。
国内有数の剣術家であるフレイムや、武僧のハシクレであるオーシャンはともかく、女性かつ後衛タイプのガイアは、そろそろ限界だろう。

「フフッ、ご安心なさい。今日のところはご挨拶のつもりでしたから、皆さんを殺しはしませんわ。もっとも、この基地に関しては、徹底的に……」

脳裏に感じる予感に、言葉を切って、シュタッと3メートル程跳びすさるエシュベイン。

──シャッ!……ボムッッッ!!

間一髪、一瞬前まで彼女がいた場所に矢が突き刺さり、同時に込められた霊気が爆発する。

「皆さん、無事ですか!?」

そこに現れたのは、純白のexスーツをまとう女戦士。
背中からは光の翼が生えて、2メートルほど宙に浮いているようだ。
かつてのパールストームも白を基調としていたが、あれが「絵具の白」だとすれば、こちらの印象は、まさに「白い光」そのものだった。

「クッ、何者!?」
「わたしは……エア。エクサイザーズの風の戦士ダイヤモンドエアです!」

鋭く睨みつけるエシュベインの誰何にも、臆すことなく白の戦士──ダイヤモンドエアが答える。

「姉さん……」
「ははっ、騎兵隊参上、ってか?」
「助かりました、さや…じゃなくてエア!」

エアとエシュベインが睨み合っているうちに、他の3人も体勢を立て直し、エアの元へ合流する。

久しぶりに4色4人揃ったエクサイザーズを見て、エシュベインの中に僅かに残った真奈実としての部分が、微かな郷愁を感じる。
だが──あの4人の輪の中に、もはや真奈実の居場所はない。
地水火風の「風」のポジションは、あのダイヤモンドエアと名乗った女に奪われたのだ。おそらく、彼女の正体は、かつてサブキュースとして操られていた憲一の姉なのだろう。
そして……逆に現在は、自分がDUSTYの魔姫としての立場にいる。
ある意味、最後の拠所(みれん)が完全に打ち砕かれたとも言えるわけで、ほんの一瞬だけ瞳に切なげな色を浮かべたものの、二三度まばたきすると、彼女はすっかりエシュベインとしての表情を取り戻していた。
運命とは皮肉なものだが、後悔する気は微塵もない。

「──あら、ようやっと4人揃いましたの。これで少しは歯応えのある戦いが……」

できるのかしら、と続ける前に、エシュベインに総統からの撤退を促す思念波が届いた。

「あなた達、どうやら悪運だけは強いみたいですわね。今日のところはこれで引いて差し上げますわ」

シュンシュンと風のような速さで、エクサイザーズと距離をとる黒衣の女幹部。

「ま、待て、パール!」
「言ったでしょう。あたくしの名は、魔妾姫エシュベイン。エクサイザーズの皆さん、また近いうちにお会いしましょう。それでは……ご機嫌よう」

軽く一礼し、マントをばさりと翻すエシュベイン。
次の瞬間、一陣の風とともに、その姿は消え失せていた。

「て、転移魔法!?それも、この基地の中から……」

エアが驚いたように呟く。いくらか破壊されたとは言え、この基地内にはドクター・ハミアの張った光の結界が生きている。
にも関わらず、闇の力を源とするDUSTYのあの女幹部は高度な転移魔法を一瞬で発動してみせたのだ。それだけで、彼女の並みならぬ魔術の力量が知れた。
それまでの戦い方からして、てっきり戦士タイプだと思っていたのだが、どうやら魔術の腕もかつてのサブキュースに匹敵するようだ。

「厳しい戦いに、なりそうですね……」

***

かくして、浄魔部隊エクサイザーズと濁魔帝国DUSTYの戦いは、互いの女戦士をひとりずつ入れ替えながらも、ますます激しさを増していくのだった。
光が闇を撃退するのか、闇が光を飲み込むのか。
あるいは、両者が和解する道が残されているのか。
いずれにせよ、その結末に至るまでは、いましばし時間がかかるようだ。






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