続・そこはとあるお屋敷 その2
シチュエーション


朝食を済まし片付けをした遥人は雛子に付き添われ寝室に来ていた。
ベッドのシーツを交換するためである。
遥人は雛子の指導通りシーツを交換する。
難しいものではなかったが、雛子はいつも5分で済ませると言う。
遥人はたっぷり15分も掛ってしまった。
その事を責められたりはしなかったが、
今度は外したシーツ類とリネン庫にある洗濯物をカゴに入れてリネン室にもって行くように言い渡されたのだ。
洗濯は全て外注となっているため、週3回の回収日には事前に出しておかなくてはいけないためだ。

「いや、それって他の人に会うかも知れないし、どうしてもしないと駄目かな?」
「なんだ雛子、メイドの仕事をサボる気なのか?そんな悪い娘にはお仕置きが必要だな」

ご主人様モードで雛子が答える。

「お、お仕置き?」
「メイドに対するお仕置きと言えば、決まっているだろ?ベッドで喘ぎ声を…」
「わーっ、行きます行きます。だからそれは無しで」

雛子の言葉を最後まで聞かず遥人はシーツを持って慌てて部屋を出てい言った。
このお屋敷のリネン庫は全て隠し扉になっており目立たないように出来ている。
部屋と言うよりクローゼットの様な作りだ。
遥人も雛子も子供の頃はかくれんぼでよく隠れたものだ。
洗濯物の入っているカゴにシーツも入れると、それを手に持ちリネン室の方へ歩く。
願わくは誰にも会いませんようにと思いながら。
空調の効いている屋敷内は廊下と言えど涼しく、肌の露出のほとんど無いメイド服を着ていても暑くは無い。
だが、遥人は嫌な汗を滲ませていた。
着けている雛子のブラジャーが熱でこもる。
廊下が迷宮の回廊の様にずっと続くのではとすら感じてしまう

「う〜、どうか誰にも会いませんように」

思わず胸の内を呟かずにはいられない。
そしてようやくリネン室に着いた遥人は恐る恐る中を覗く。

「よかった」

幸いな事に誰も居なかった。
遥人はほっと胸を撫で下ろし、急いでカゴの中から回収用のリネン車に洗濯ものを移す。
その時だった。

「すいませーん。清川クリーニングですが、回収に来ました。解錠をお願いします」

外につながる勝手口から男性の声が聞こえた。
遥人は焦る。
ここには遥戸の他には誰もいない。
自分が対応するしかないのだが人前に今の自分の姿をさらすのは憚られる。
ここは居ないふりをしようかとも考えたのだが、
変にまじめな所がある遥人は緊張に強張りながらもドアを開けるべく勝手口の方へ行く。
そして一呼吸息を整えるとドアを開けた。
するとクリーニング屋の青年が驚いたようにこちらを振り向いた。
なんと、クリーニング屋の青年はインターフォンに向って話していたのだ。
それを遥人は勘違いして対応してしまったのである。

「毎度です、受領のサインお願いします」

クリーニング屋の青年は洗濯済みのものを乗せたリネン車を押し中に入って来ると遥人に伝票のサインを求める。
遥人の事は普通のメイドに見えている様で特に訝しまれる様な事は無いようだ。
だが、先程インターフォンで連絡したのならもうすぐに他の者がここへやって来るだろう。
そしてそれは確実に遥人の事を知っている人物だ。
このままではこの姿を知り合いに見られてしまうと考えた遥人は、直ぐにその場を去ることにした。

「た、ただいま担当の者が来ますので伝票はその者にお渡しください。失礼します」

思わず声が裏返ってしまい、結果可愛い声で答えた遥人はその事に顔を赤くし、
ちょこんとお辞儀をするといそいそとその場を去ろうとし、慌ててつまずき転びそうなるが、何とかこらえた。
それでさらに顔を赤面させその場を去っていった。
その仕種がまるで人見知りな少女のそれで、クリーニング屋の青年を密かに萌えさせたと言うのは余談である。
この場に雛子が居れば萌え悶えて大騒ぎ間違いなしだったろう。

「お帰り雛子、無事に仕事は果たせたかい?」

遥人が部屋に戻ると直ぐに雛子がご主人様モードで声を掛けてきた。

「はい。おかげ様で」
「誰かに会わなかったかい?」
「あ、クリーニング屋さんに・・・」
「クリーニング屋さん?他には?」
「…それだけです」
「そう。(残念。他の屋敷の人だったら面白かったのに)」

実は雛子にとってはとても面白く遥人にとっては恥ずかしい事があったのだが、遥人がその事を話す訳がない。

「さて、雛子には次の仕事をしてもらうかな。温室に行こうか?」
「かしこまりました」

温室は庭とは別の場所にあり、遥人の部屋のある場所からは裏口から出た方が早い。
距離も少しあるため、夏の日差しが強い今時間は堪えるだろう。

「雛子、日傘を忘れずに持つんだ」

言われ、裏口ドア近くあるインテリアに見える細かい意匠が施されたベンチボックスを開け、中を確認する。
雨用の普通の傘の他に日傘も何本かあった。
遥人はその中からシンプルな黒のものを取り出そうとしたのだが、
横から雛子が手を伸ばしプードルの刺繍がされた白いフリルの日傘を取り出した。

「今日はこの日傘の気分だな」

そう言い遥人にその日傘を持たせる。

「遥人様は随分少女趣味でらっしゃいますね」

その日傘を見て遥人は少し雛子にやり返してみた。

「そうさ、この可愛らしい日傘は可憐な雛子に良く合うのさ。可憐なメイドの差す日傘に
一緒に入り外を歩く美少年な俺。うーん、絵になるねぇ」

駄目だ。
さらに倍になって返ってくる。

「遥人様ってそんな性格をしておられましたのですか?」
「何を言うんだい雛子、俺はもともとこんな性格さ。完全無欠の美少年、人呼んで完璧王子の遥人様とは俺の事さ」

今度はポーズまで決めている。
完全にアレな人だ。

「あの、それやってて恥ずかしくない?」

遥人は思わず素で訪ねてしまう。

「俺は遥人だから恥ずかしくなど無い!」

対する雛子は更にターンとステップまで加えたオーバーアクションでまだまだやる気だ。
そのうち歌い出しかねない。
これが雛子クオリティと言うものだろうか?
一応彼女の名誉のためにお伝えするが、今日は特別であって普段メイドをしている時の雛子は、
厳かで品のある立ち振る舞いを『演じ』(←ここ重要)全てにおいてそつなく仕事をなすとても優秀なメイドである。
仕事中に遥人をからかう事等は絶対に無い。
仕事中には…。
遥人はこれ以上何を言っても今より悪化しそうなので、そのまま直ぐ外に出て温室に向う事にした。

「では、遥人様参りましょうか?」

ドアを開けると途端に外の熱気が入り込んでくる。
遥人はそのまま外に出て控えると、雛子が出て来るのを待ち、出てきた雛子の後ろからそっと日傘を差す。
使用人が主人に傘をさす時の正しい作法だ。
しかし雛子は差された傘をそっと押し戻すと、黒いシンプルな自分の分の日傘を差した。

「俺はこの日傘を使うから、その日傘は雛子が使いたまえ」

そう言うと雛子は歩き出して行った。
遥人が日傘を雛子に差すとどうしても遥人は傘よりはみ出し日差しを浴びる事になる。
その事を配慮しての行動だったのだろうが、遥人がメイド服で可愛い日傘を差しているのを良く見たいと言うのもあるのだろう。
遥人はなんとなく雛子の魂胆が見えていたが、そのいつもと変わらない配慮に感謝して大人しく後に続いたのだった。

照りつける夏の日差しの中、遥人達は温室の前に到着した。
日傘を差していたとは言え外での夏の暑さはかなりのものだ。
ましてや遥人の着ているメイド服は肌の露出がほとんどない、これで暑くないと言うのは普通ではない。
15分程度の道のりだったが、長いスカートがまとわり付く感覚が慣れ無いのも相まって、
遥人は到着するころにはすっかり疲れてしまっていた。

「雛子大丈夫かい?ほら、これでも飲んで一息つくと良いよ」

雛子が水筒から冷たいお茶を入れ遥人に差し出す。
どこから水筒を出したのかと思うと、雛子は小さなデイバッグを持っており、そこにしまってあった様だ。

「ありがとう御座います」

受け取りお茶を飲む遥人。
ジャスミンティーだろうか?鼻を抜ける香りが心地よく暑さを和らげる。
赤いチェックの小さなデイバッグはきっと雛子の私物なのだろう。
立場入れ替えなどと言い今日は暴走気味な雛子だが、そうした配慮は欠かさない。
遥人が人心地ついたのを見計らい、空のフタを受け取ると次の指示を出す。

「さあ、雛子スカートのポケットから鍵を出して戸を開けてくれるかい?」
「はい、ただいま」

言われてメイド服のスカート手探る遥人だが左側にあるのを見つけると、そこから鍵を取り出す。
鍵はアンティークなデザインだが、温室そのものはドーム状でアルミフレームに特殊ガラスの現代式のものだ。
戸に鍵を差し込み回転させるとカチャリと解錠され、戸もすんなり開く。
温室の中は意外な事に暑くは無かった。
中心部分に噴水があり、そこから伸びる水路の水が温室内を巡回しているためだ。
もともとここは旧邸宅跡地で水源も地下水を利用している。
小さい頃には遥人も母親と一緒に良く訪れたものだ。

「久しぶりだな。変わってない」

遥人も思わず声に出して懐かしむ。
白いベンチやティーテーブルとセットの椅子。
花園と言うよりガーデンラウンジの様なレイアウトは遥人の母親の趣味だ。
他種なバラを中心に白い花が多いのもそうである。

「ほら、雛子。ぼーとしないでこっちに来るんだ」

いつも来ている雛子は特に感慨も無く中に入ると、遥人を招き入れ仕事の手順を説明して行く。
遥人も指示に従い水やりと、テーブルやベンチなどの掃除を行う。
その間、雛子は花の説明や遥人では任せられないデリケートな作業を何気にこなしたりしている。
そして、掃除も一通り終わった頃の事だ。
ちょっとした充実感を遥人が感じていると、温室のドアが開き誰かが入ってきたのだ。

「っ!?」

気配に声にならない驚きを上げる遥人。
温室にやってきた人物、それは…。






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