『存在』
シチュエーション


「本当に、本当にやるんだな?」

そう問いかける親友の裕治に、無言で返事する。
今日は大安吉日。めざまし占いで乙女座は1位。
通学途中にある神社で引いたおみくじは大吉。
さらにチョコボールからは金のエンゼルが出現!
びっくりするぐらい、今日の運勢は絶好調。告白するなら今日以外にありえない。

「じゃ、行って来い!」

強く背中を叩かれて気合を入れてくれた裕治を背に、俺は『戦場』に向けて歩き始めた。
ターゲットはいつものように廊下で談笑している稲葉ゆかり。
艶やかに伸びた黒髪に優しげに見えるぱっちりした瞳。
通った鼻筋と形のいいくちびる。
整った顔立ちの女の子に対して『人形のよう』だなんてよく言うけど、
彼女以上にその言葉が似合う娘はいないんじゃないかと思うほど、本当に綺麗な子だ。
しかし、綺麗なのは顔だけじゃないのが彼女のすごいところ。
いつも一番早く登校して花瓶に花を生けているとか、
美化委員でもないのに校内清掃に参加しているとか、
地域ボランティアで児童保育所の手伝いをしているとか、
とにかく彼女に関するいい人エピソードは枚挙にいとまがない。
そんな彼女だから当然モテるかと思いきや、意外や意外、彼氏がいるなんていう噂はひとつもない。
男子連中がお互いけん制しているとか、既に許嫁がいるとか、いろいろな説が飛び交っているけれども、
一番有力なのは……

「アンタ、ゆかりになんの用?」

彼女とおしゃべりしていた女の子が、稲葉さんを守るかのように俺の前に立ちはだかった。
180cm近くある身長にスレンダーな体型。キリリとした顔立ちとショートヘア。
まるでマンガの中から飛び出てきたような『女の子アイドル的存在の女の子』と言った感じの彼女――牧野茜は、
稲葉さんに近づく男子を片っ端から追い払っている、まさしくボディーガード的な存在なのだ。

「うん、ちょっと話がしたくて」
「ゆかりは話したくないってさ」

手でどこか行けとゼスチャーする牧野さん。
切れ長の目が露骨に敵意を示していて、視線だけなのに痛さすら感じる。

しかし、ここで怯んではダメだ。
今日は、今日こそは思いのたけをぶつけると固く誓ったんだ。

「牧野さんじゃなくて、稲葉さんに聞いてるんだけど」
「だから!ゆかりはアンタとは話さないって言ってるの!」
「稲葉さんがいつ言ったのさ!」
「ゆかりは気が小さいから、代わりに私が言ってあげてるの!」
「じゃあお前が勝手に言ってるだけじゃないか!」

売り言葉に買い言葉。牧野さんとの言い争いがヒートアップして
取っ組み合いの喧嘩にまで発展しそうになったその時、
稲葉さんが牧野さんの服の裾をつかんで小さくつぶやいた。

「……話、聞くから。私、守屋くんの話聞くから」
「いいの!?こんなヤツと喋る必要なんてないんだよ?」
「茜ちゃん」
「……っ!じゃあ勝手にすれば!」

稲葉さんが自分の意思を示したのがちょっと気に入らないのか、
牧野さんはイライラを周囲にまき散らしながら一歩後ろに下がった。

「で、なんでしょうか?」

先ほどまでの喧騒がなかったかのような微笑みを浮かべる稲葉さん。

「……ここじゃ話しにくいから、ちょっといいかな」
「……うん。

茜ちゃんはちょっと待っててね」

「あ、ゆかり!」

叫ぶ牧野さんを後目に、俺は階段の陰まで稲葉さんを連れて行った。

「ええと、その……」

いざ告白のチャンス!そう思ったら逆に緊張で声が出ない。
手のひらにじっとりと汗がにじみ、口の中がカラカラに乾いていく。
しかし!ここが一世一代の勇気の見せ所!
すぅと大きく息を吸い、絞り出すかのようにその一言を紡ぎだした。

「稲葉さん、好きです。俺と付き合ってください!」

永遠の長さに等しい数秒間の沈黙の中、自分の心臓の鼓動だけがうるさいぐらいに響き渡る。

「……ごめんなさい」

あっさりと、ためらいもなく。

「あの、その……たぶん、知っていると思うのですが……」
「……うん」
「あの、私には、その、ええと、既に恋人が……」
「牧野さん……ですね?」

自分の問いかけに、無言で肯定する稲葉さん。
わかってた。わかってたんだ。すべて噂通り。
いつもいつでも一緒にいて、不必要なまでに過剰なスキンシップを繰り返す彼女たちが、
ただの仲の良い親友同士じゃなくて一線を越えてしまった関係だってことぐらい、
そんなにゴシップに耳聡い方ではない俺ですら知っていたことだ。
だからといって言わなければ、告白しなければ、一生後悔すると思っての行動だった。

「だから、その、……ごめんなさい」

再び深々と頭を下げて、稲葉さんはこの場から逃げだすように歩き出した。
気がつけば、彼女の傍らには寄り添うように牧野さんが立っている。
一瞬だけこちらに向けた顔は、まるで「当然だろ」と言わんばかりの勝者の顔をしていた。

「ま、残念だったな。
相手が悪かったというか、相手の趣味が悪かったというか」

裕治に慰められながら、とぼとぼと駅へ続く道を歩く。

「しかしガチでレズだったとはなぁ、そりゃアタックしても砕け散る野郎が絶えないわけだ」
「俺以外に告白したって話、あまり聞かないけど」
「いや、なにね。大概は直接告白できずにラブレター止まりらしいけど、
今月に入ってもう10人目らしいぞ、お前含めて。
気づかなかったのか?」
「……まったく」
「稲葉だけじゃなく、あの牧野もかなり人気なんだぜ、実際。
こっちもなんだかんだでラブレター貰ったり呼び出されたりしてるって話だ。
ま、半分は女子らしいけどな」
「よくそんなことまで知ってるな」
「まぁな。
なぜかこういうゴシップが俺のところに集まってくるんだよな、な・ぜ・か」

と、裕治は声を上げずに笑った。
俺と違って裕治は男女問わず交友関係が広く、そのせいなのかこういう噂話をよく拾ってくる。
その拾った噂話はなぜか俺にしかしゃべらないのも不思議なのだが、
前に一度聞いてみたところ

「誰彼かまわずしゃべっちゃうと、噂話が入ってこなくなるからな。
噂話をしゃべりたい欲求は、お前に話す事で解消することにしてるんだ」

だそうだ。
まぁあまり友人のいない俺だったら、やたらめったら噂話を広めないって算段なんだろう。

「だけど、やっぱり……稲葉さんと付き合いたかったなぁ」

思い出すと悲しくなって涙がこぼれそうになるが、それでも思い返さずにはいられない。
自分でもびっくりするぐらい、彼女の事が好きだったんだと実感する。

「稲葉はレズだったんだから、お前が女じゃない段階で無理だったんだよ、あきらめな」
「でもなぁ……やっぱり」
「それともあれか?女になるってか?」
「いまから女になるぐらいなら、最初から恋人同士の牧野さんになった方がよっぽどいいなぁ」
「お前、そっちのほうが無理だろ」
「だよなぁ」

「その願い、かなえましょうか?」
「うわぁ!」

突然後ろから声をかけられ、あわてて振り向くと、そこには正体不明の黒い影が立っていた。
振り向いた瞬間は親父っぽかったのに、気がつくと幼稚園ぐらいの女の子に見え、
まばたきしたら今度は老婆、青年、女子大生と黒い影は目まぐるしく姿を変える。
いや、姿を変えるというのは間違いだ。
目の前に立っている黒いヒトガタは、1ミリたりとも形を変えていない。
なのに受ける印象は1秒ごとに変化し続けている。

「あ、あんたは……」
「ああ、名乗るのを忘れていましたね。
私の名前は人間の発声器官で表現するのは無理なので……
そうですね……『存在』とでも呼んでください」

裕治の問いかけに対し、黒いヒトガタはうやうやしく頭を下げた。

「で、俺たちに一体何の用なんだ?」

いつでも逃げだせるように少し腰を落として身構えつつ、『存在』の出方を待つ。
さすがに突然獲って食うような真似はしないとは思うけれども、そこは正体不明の物体。
何があるかわかったもんじゃない。

「そこのアナタ」

ずい、と指(らしきもの)を俺の方に突き出しながら、『存在』が一歩接近してきた。

「さっき、『牧野さんになった方がよっぽどいい』とおっしゃりましたよね?」

無言でうなずく俺。

「ワタシがその願い、かなえてあげましょうか?」
「そ、そんなこと、できるはずないだろう」
「それができるんです。ワタシなら、ね。
原理はアナタたちに説明してもわからないと思います。
なにせ『ワタシどもの世界』の技術は、アナタたちにはいわゆる魔法にしか見えないのですから」

と、言うと『存在』は何もない空間に手を突っ込んだ。
ある一点から急に消え失せた手は、数秒ほどで元通り俺たちの目の前に現れ、
そしてその手には1羽のスズメが止まっていた。
まるで空中に見えない引き出しがあって、そこに仕舞ってあったスズメを取り出したような、
あまりにも信じられない光景。

「さて」

スズメを撫でながら『存在』が問いかけてきた。

「これはなんでしょう?」

あまりにもバカにしすぎている。

「スズメに決まってるだろ」
「不正解です」
「どう見てもスズメだろ!」
「いいえ、これはネコなのです」

すると『存在』に抱きかかえられているスズメがニャーと鳴いた。

「え?」
「これはですね、『スズメ』という立場になったネコなんですよ。
アナタ方にはスズメにしか見えない、
いえ、人間たちのどんな分析機械にかけてもこれは『スズメ』としか扱われないのです。
たとえ、耳がピンと立っていて、尻尾があって、4本足で、羽が生えていなくても、です」

確かに言われてみれば、目の前のスズメはキラキラと輝く肉食獣のような瞳をしていて、
灰色がかった虎っぽい模様をしている。羽もないし、それどころかゴロゴロと喉を鳴らしている。
しかし、何度見てもこれはスズメにしか見えない。
いや、いつも街中で飛んでいるスズメそのものだ。

「ちょっとあちらの電線を見てください」

言われるがまま視線を上げると、スズメの群れが電線に止まっているのが見える。
茶色い羽毛に包まれた小さい体にくちばし、チュンチュンというさえずり。
どこからどう見てもスズメだ。

「あれがスズメです。
では、こちらは?」

大きくあくびをして、めんどうくさそうにニャーと鳴くスズメ。
違いなんてあるはずがない。

「スズメだろ?」
「つまり、そういうことなんですよ」
「どういうことだ」
「ワタシの力を使えば、他人の立場になるなんて簡単な事なんです。
アナタの望み通り『牧野さん』になることだって」

ごくり。喉が鳴る。
こいつは、俺を、牧野さんに、つまり、稲葉さんの恋人にしてくれると言っているのか。

「ただ1つだけ条件がありますけどね」
「……魂を寄越せ、ってやつか?」

俺の代わりに裕治が問いかける。
古今東西、こういう取引をしてくるやつは悪魔と相場が決まっていて、
まず間違いなく対価として魂を要求してくることになっている。
『魂を受け取るのは死んだ後だから、今は気にしなくていい』とかなんとかうまいことを言って契約を結び、
そしてなんだかんだで契約者を破滅させて魂を奪い去っていくのだ。

「いいえ、魂なんていただきません」
「そんな都合のいい話なんてあるものか」
「アナタ方にとってみたら都合のいい話かもしれませんが、
ワタシはそんな対価なんていただくような真似はいたしません。
ただ、望みを叶えたいだけなのです」
「信じられないな」

『存在』を睨みつける裕治に、無言でうなずく俺。

「こればっかりは『価値観の相違』としか言いようがないのですが。
まぁ強いて言うなら……混乱を引き起こしたい、と、そんなところでしょうか」
「混乱?」

今度は俺が問いただす。

「ええ、混乱です。
このスズメとネコのような『立場の交換』を何度も繰り返すと、
ワタシどもの世界で困る人がでてくるのです。
ワタシは、その人を困らせ、混乱させたい。
それだけなのです」
「つまり、俺にはなんの代償もない、と、そういうことなんだな?」
「その通りです。
『今の人生を捨てなくてはいけない』というのが、最大にして唯一の代償ですかね」
「で、俺が『牧野さん』になったら、牧野さんはどうなるんだ?
まさか同じ人間が2人になるわけにはいかないだろ」
「いい質問です!」
待ってましたとばかりに受け答える『存在』。
「『牧野さん』でしたっけ?彼女になったアナタの代わりに、
彼女が『アナタ』になるんですよ」
「つまり、魂が入れ替わるってことか?」
「違います。
生物の魂を入れ替えるのはワタシではなく同僚のシゴトです。
ワタシはただ『立場を入れ替える』だけなのです。
立場だけを入れ替えるので、当事者の肉体や記憶には一切変化が起きません。
1つだけ入れかえられないものがありますが、それは特に問題はないでしょう」
「入れかえられないものって?」
「『名前』です。
苗字は立場を交換したときに入れ替わるのですが、名前だけはそうもいきません」
「なんでさ」

そう尋ねると『存在』は少しばつの悪そうな顔をして頬を掻いた。

「恥ずかしながら、『名前』にはワタシの力が通用しないのです。
それだけ『名前』には力があると申しましょうか……」
「なるほどね……。
で、どうやったら入れ替えてもらえるんだ?」
「お、おい浩志!」
「止めないでくれ!俺は何としても稲葉さんと恋人になりたいんだ!」
「浩志……」
「さぁ『存在』さん、とっとと入れ替えてくれ!」
「わかりました、行きますよ?」

そう言って『存在』が右手を挙げると、視界が暗闇に包まれ音すら消えた。

体が宙に浮きあがるような感覚に襲われた次の瞬間、耳に音が戻り、視界が元に戻る。
体には何一つ異変は起きていない……
と思って足元を見たら、脚が制服のズボンではなく黒々としたストッキングに包まれて、
スニーカーの代わりに黒のローファーを履いていた。
脚だけじゃない。
太もも半ばぐらいまでの丈しかないチェックのスカートに、濃紺色のブレザー。
ワイシャツの代わりにブラウス、襟元はネクタイではなくリボン。
見えないけれども締めつけ具合からすると、下着も女性ものをつけているに違いない。
数秒も経っていないのに、一瞬にして俺は女子の制服に着替えさせられていた。
胸ポケットに入っている生徒手帳を見ると、生徒名は本来の守屋浩志ではなく『牧野浩志』と書いてあり、
性別の欄には女子にマルがついていた。

「はい、入れ替えは終わりました。
くれぐれも、帰る家を間違えないでくださいね」

そう言うや否や、『存在』の姿は消えてしまった。
夢か。いや夢ではない。
夢じゃないことは、今の俺の姿が証明している。

「あれ?俺、なにしてるんだ?」

今までの出来事をすべて忘れたかのように、裕治が辺りを見渡している。

「って、なんで牧野がいるんだ!?
おい、牧野。茜のヤツ知らないか?
さっきまで一緒にいたはずなんだけどな」

おかしいな、としきりにこぼしながら、さっきまで一緒にいた親友の『俺』を無視し、
牧野さんを探す裕治。
いや、牧野さんは既に『守屋』になってるんだった。
すると通りの向こうから男子の制服に身を包んだ牧野さん、いや『守屋さん』が走ってきた。
そして俺を見つけるなり、とんでもない怒りの形相で襟をつかんで激しく揺さぶった。

「貴様、私に何をした!」
「お、おい茜!相手は女の子だぞ!」

『親友が女の子に暴力を振るっている』ようにしか見えないのだろう、
突然やってきて俺に激しく詰問する守屋さんをやっとの思いで引きはがし、
羽交い絞めにして動きを止める裕治

「離せ!それにこいつが女なはずがあるか!」
「何言ってるんだ、茜!」
「うるさい!お前に茜と呼ばれる筋合いもない!」
「……なるほど、本当に『入れ替わった』んだな」

振りほどこうと暴れる『守屋さん』と裕治の様子を見て、ようやく実感がわいてきた。

「『入れ替わった』ってどういうことだ!」
「簡単にいうとね、立場を入れ替えてもらったんだよ」
「……なっ!?」
「なんで一瞬にして男子の制服に着替えていたのか。
なんで急に裕治が馴れ馴れしくなったのか。
それはね、あんたと俺の立場が入れ替わったからだよ。
あんたはこれから男子高校生として生きていくんだ。
俺はあんたの代わりに、女子高生として、稲葉さんの恋人として暮らしていくんだ」
「そんなバカな!」
「バカなって言っても、これが現実なんだよ」

俺にとってはもはや意味のない言い争いをしていると、
通りの向こうの方から稲葉さんの声が聞こえてきた。

「浩志ちゃん!」

俺のそばに駆け寄ってきた稲葉さんは、ようやくお母さんを見つけた迷子の子のように
心から安心した笑顔を見せてくれる。

「ゆかり!どうしてそんな奴のそばに!」

それを見た『守屋さん』が彼女の名前を呼ぶが、びくりと震えて俺の陰に隠れてしまう。

「浩志ちゃん……私、怖い」

叫ぶ『守屋さん』におびえ、俺の制服の裾をつかんで震えている。

「ゆかりはね、男の人が怖いんだってさ。
特にあんたみたいに怒鳴り散らすヤツが、ね」

稲葉さんを『ゆかり』と呼ぶ優越感に、脳の奥がしびれるような快感を覚える。
それが自分の事を『ゆかりの恋人』だと信じ込んでいる哀れな人の前でなら、なおさらだ。

「なんだって!?」
「こんな怖い人のそばにいたら何されるかわからないから、
さっさと家に帰りましょう、ゆかり」

俺がそっとゆかりの手を握ると、彼女も優しく握り返してくる。
柔らかい手のひらから彼女の体温が伝わり、幸せな気持ちが胸の中にあふれてきた。
背後で聞くに堪えない罵声が響いているが気にしない。

「じゃあね『守屋くん』」

後ろ向きに手を振って、ゆっくりその場から歩き出す。
なんだか笑いが止まらない。
たぶん今の俺の笑顔は悪魔のような形相に違いない。

「本当、怖かったね」

どことなく甘い香りのする稲葉さんの部屋のベッドに並んで座り、
彼女が語る恐怖の出来事に耳を傾ける。
『守屋くん』に告白され、断り、親友の『俺』と下校していたはずなのに、
気がついたら横に『守屋くん』がいて……。
彼女の口から聞く今日の出来事はどれだけ彼女を怖い目に合わせたか、
自分が引き起こしたこととはいえ、なんだか申し訳なく思えてくる。

「やっぱり男の人は怖い……。
私、浩志ちゃんがいれば!大好きな浩志ちゃんがいれば!
浩志ちゃんの愛さえあれば!」

本来ならば牧野さん――今は『守屋さん』に向けられているはずの愛の言葉を一身に受ける。
本当に俺は彼女の恋人になったんだと、心から実感する。

「浩志ちゃん……好き……」
「ゆかり……」

瞳を閉じた彼女の顔が近づき、柔らかな唇が俺に触れる。
やがて触れていただけの唇はお互いの舌を絡めあう。
彼女の舌が俺のほほの内側を舐め、歯茎を撫で、唾液を交換し合う、深い深いキス。
どのぐらい口づけを交わしていたのだろうか。
ゆっくりと彼女の顔が離れていき、お互いの唇から唾液がビーズのような珠を作って糸を引いた。

「ホント、浩志ちゃんはキスに弱いんだから」

あまりの気持ちよさにぽーっとしていると、ゆかりがなにやらベッドの陰から取り出して
まるでパンツを履くようにそれを身に着けた。
普段学校で見せるような優しい笑顔とは違う、どこか小悪魔的で肉食獣のような微笑を浮かべる彼女の股間には、
黒光りするペニスバンドがそそり立っている。

「さ、今日も可愛がってあげるからね」

数分後、俺はゆかりのオンナになった。






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