なりきらされる世界
シチュエーション


「じゃあ、このもんだいは川上さんにやってもらいますね」

あてられた。

「はい」

返事をし、教壇へ向いチョークを受け取り黒板に答えを書く。
拙い字。
もっとまともな字が書けたはずなのに。

「はい、せいかいです。ちゃんとくり下げが出来てますね」

頭を撫でられた。
どこにでもある様な小学校一年生の算数の授業風景。
それはさも当たり前のように。
だが違う。
違うんだ。
教壇に立っている人物は先生か?
先生だとして、それはサイズの合わない大人の服を着た幼女がそうなのか?
身体に合わない女の子の服を着こんでいる自分は本当に女子児童なのか?
おかしい。
おかしいはずだが、世界がそう望んでいるが如く逆らう事は出来ない。
ただ演じる事。
そうせざるを得ない。
サイズの合わない大人の服を着た幼女に頭を撫でられ嬉しがる女児服を着た男。
異様な光景なはずだ。
しかしこの教室はそれに留まらない、とても小学一年生に見えない者たちが老若男女と席に座っている。
年相応の子がいても男児が女児の服を着ていたり、その逆もある。
こんな混沌とした状況であるにかかわらず、その事で騒ぎ立てるものは誰一人として居ない。
混沌の中で保たれる平穏。
そして、この異常な状況は何もこの教室この学校だけの事ではない。
いつの頃だったか、まだ自分が自分であった頃。
世界は変わった。
突然自分と他の人間の存在が入れ替わってしまった。
自分は自分のままなのに存在が他の人間になってしまう。
おかしい筈なのに自分は入れ替わってしまったその人になりきってしまうのだ。
心では自分は違う人間だと思いつつも。
他の人も同じか解からない。
なぜなら、その事を尋ねる事が出来ないから、いくら思おうが行動に移せない。
ただこの異常な出来事を享受し日々の営みを続けるだけ。
入れ替わりは1回だけで終わる訳ではない。
挨拶を交わした時、顔を合わせた時、すれ違った時、人と人が出会う時にそれは唐突に起こる。
もう自分は元の自分の名前さえ思い出せない。
いまは川上愛美と言う小学一年生の女の子だと言う事は解かるのだが…。
それすらも次の瞬間にはどうなっているのか解からない。
次はどんなに人物に入れ替わって演じる事になるのか。
人々は入れ替わりを繰り返し、この混沌は蔓延していると言うのに世界は以前と変わらぬ在り様を保つ。
混沌の中の秩序に自分たちは抗う事は出来ない。
それがこの世界の意思なのだろうから。
いまこの世界は不条理に満ちている。






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