宿なし汚ギャルは電波系
シチュエーション


「ふーっ、面倒な」

おっと、つい声に出してしまった。
俺は高校教師をしている。
とは言っても片田舎の三流高校のだ。
そして今は平日の昼間だと言うのに町外れを流れる川沿いの鉄橋に来ている。
別にサボっている訳ではない。
この鉄橋下に高校生ぐらいの少女が居付いているらしいと学校に電話があったのだ。
なんでも昼夜度々に姿が目撃されているとか。
そんな事は警察に任せても良いはずなのだが、
地域振興のため地域と学校の密接な関係構築を図ると言うお題目にてこうして教師が駆り出されていると言う訳だ。
そして面倒な事にその鉄橋と言うのが道路からは遠く、歩かなければ辿りつかない場所なのだ。
今の時間は受け持ちの授業が無いとは言え、やる事は沢山ある。
その時間を余計な事に取られるのは甚だ迷惑な事だ。
その分は残業か持ち帰りになるだろうしな。
ま、愚痴っていても仕方がない、まずは確認だ。
その少女とやらは居るのかな?って居た居た。
黄色いダウンベストに原色系のロンTにピンクのサロペットスカート、
これまた派手なオレンジのネオンカラーロングスパッツにパステルカラーのハイカットスニーカー、
おまけに金髪の様な脱色した髪と水色とピンクの蛍光キャップが遠目にも目立っている。
サーフ系コーデのギャルの様だがこんな場所に居れば浮きまくっている事請け合いだ。
なんでこんな所に居るかは知らないが、さっさと補導するなり保護するなりして済ませたい所だな。
まあ、その前に尾崎先生に連絡だな。
尾崎先生と言うのは一緒に少女を探しに来た同僚だ。
どちらに居るのか分からないため反対岸の方を探しに行っている。

「あ〜もしもし、尾崎先生ですか?例の少女こちらに居ましたよ。これから話し掛けてみますので…。はい、お待ちしています」

さて、これでよし。
では、接触開始しますか。

俺は鉄橋下へすたすたと近づき、少女の元へ寄る。
少女もこちらに気が付いた様だ。

「あ〜君、ちょっと良いかな?」

俺は努めて平然とした表情で話しかける。

「なんですかぁ?なにか用事ですか?」

この少女、見かけのよらず敬語を使えるようだ。
イントネーションはともかくとして。

「いや、こんな所で何をしているのかと思ってね」
「別に何もしてないですよ?ちょっと一人になってただけだし」
「何か考え事かい?」
「そうかなー?そうなのかも」

のれんに腕押しな答えだ。
少女を改めて見ると、全体的になんだかすすけている感じがするな
髪の毛もべたついた感じだし、そう思うと何だか臭う。
いや、確実に臭っているぞこの娘。
風呂入って無いんだろうな確実に。
顔はまあ、かわいい部類なんだが不潔が残念な娘と言った所か。
汚ギャル系なら重ね塗りメイクで酷い事になってると思いきや、意外な事にメイクはしていない様だ。

「もしかして流行りの家出だったりするのかな?」
「関係無いですよ。わたしの事じゃないですか?かまわないでほしいんですけどぉ」

拒否入ったな。
こっちだって仕事じゃなきゃかまわないんだが

「いや、関係無くないんだよ。実は僕は高校の先生をしていてね」
「先生なんですか」
「そう。だから放っておけなくてね」
「補導って言うのですか?わたしされる覚えないんですけどぉ?」

ギャルは派手な配色なネイルとおもちゃの様なライトイエローの何かのロゴが入ったバンクルを付けた右手を
顔の前でひらひらさせて拒否を示しているらしい。

「補導とかそう言うのじゃないんだ。何か困っている事があるなら力になろうと思ってだね」
「わたし自分の事は自分でしますからいいですよぉ」

ここで引き下がる訳にはいかない。
まだまだ押しだ。

「話だけでも出来ないかな?そうだ食事でもしながらでどうだろう?」
「おごってくれるんですか?ナンパ?」

良し食い付いた。
家出ギャルは食べ物で結構簡単に釣れるって言うのは本当なんだな。

「ナンパと言うと不謹慎になるかな。僕は教師だしね。ただ君の親身になって助けになれたらと思っての事なんだよ」
「ふーん。そんなに言うんだったら、話しても良いですよぉ」
「本当かい?」
「ただしぃ、絶対に私の気持ちになってちゃんと聞いて下さいよぉ」
「ああ、約束する」

なんかあっさりだな。
今の娘って心変わりが早いんだろうか?
まあ、しめたものだ。

「じゃあ、私の事どう思いますぅ?」
「どうって、何か事情があってこんな所に居る女の子かな?」
「それじゃ次ね。先生は今の生活は充実してますぅ?」

なんだ質問攻めか?
まあ、会話の糸口だまずは向こうからの話に合わせて行くか。

「それは、まあ充実しているかな?」
「そうなんですかぁ、じゃあ、わたしの事かわいそうだって思います?」

脈絡もなくかわいそうだとか聞かれてもな。
さて、どう答えるか。答えは

「いや、そうは思わないよ」
「本当ですかぁ?」
「ああ、本当だとも」
「じゃあじゃあ、お願いなんですけど私と代わって下さい。良いですよねぇ?わたしかわいそうじゃないんだしぃ」

は?言っている意味が分からないぞ?
この娘はギャルじゃなくて電波な娘だったのか??
俺が混乱していると、ギャル電波が満面の笑みを浮かべ、そうかと思うと俺はその瞳に吸い込まれる様な感覚におちいった。

眩暈にも似た視界のぼやけと共に浮揚感を感じた後、
意識を取り戻した俺は自分が自分ではない様な不思議な気持ちになっていた。

「今のはいったい?」

思わずあたりを見渡すと、そこに奇妙なものが、
それは俺の服を着たさっきのギャル電波だった。

「代わってくれてありがとうございますぅ」

ギャル電波はさっきの満面の笑顔をしたままに言う。
俺は訳が分からず手を額に当てようとしたのだが、視界に有り得ないものが飛び込んだ。
ギャル電波がしていたのと同じ派手な配色なネイルとおもちゃの様なライトイエローのバンクルだ!
慌てて自分を見下ろすと俺は先程までギャル電波が着ていたあの派手な原色のギャル服を着ている!?

「んな!? なんで俺がこんな服を??」

意識すると物凄い違和感だ。
恥ずかしさもあるが、着心地も悪い。
なんと言うかベトつくと言うかムレている感覚がするのだ。
特に靴の中が酷い、
水の中に靴を突っ込んでそのまま濡れたままにしている様なぐちょぐちょした感じと言えば伝わるか。
加えて臭いだ、垢と乾いた汗のすえた臭いがこの衣類から立ち込めるのだ。

「これはいったいどういう事なんだ?」
「だから、わたしと代わってもらったんですよぉ。わたしと立場を交換してもらって、
先生にはわたしとして問題を解決してほしいんですよぅ」

意味は分った。
だがそんな事がおきてたまるものか。

「根本先生お待たせしました」

まずいこのタイミングで尾崎先生が来た。
俺のこの格好をどう説明すればいいんだ?

「あ、尾崎先生。この格好はですね」
「ん?君は私の事を知っているのか?と言う事はうちの生徒なのか」
「え?尾崎先生なにを言っているのですか?」

尾崎先生の言葉に俺は戸惑う。

「まあ、そんな恰好をしていたら誰かわからないのは確かだ。君の名前は?」

尾崎先生は完全に俺の事をあのギャル電波として扱ってくる。

「名前?そう言えば名前はなんだっけ?」
「なんだ、記憶喪失のふりとかか?まあいい、とにかく一緒に学校まで来なさい。話はそれからだ」

言って俺の手を引く尾崎先生。

「尾崎先生も行きますよ」
「了解です」

俺の服を着たギャル電波に声を掛け、それに答えるギャル電波。
完全に立場が入れ替わっているようだ。
されるがままに歩かされる俺。
俺の立場になったギャル電波はニヤニヤとこちらを見ながら付いてくる。
このまま学校へギャル電波として連行されるのか?
一体俺はどうすればいいんだ?






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