オタク文化⇔女の子のファッション文化
シチュエーション


「ただいまー」

誰もいないのがわかっているのに、ついつい言ってしまう帰宅の挨拶。
電気をつけると、自慢の部屋が蛍光灯に照らし出される。
自分で言うのもなんだけど、家具のチョイスや配置とか、
雑誌とかのモデルケースに使われてもおかしくないほどハイセンスにまとまってると思う。
部屋着に着替え、ベッドに寝転がりながら今日買ってきたファッション誌に目を通す。
女子大生たるもの社会情勢にも精通しておかないと、と、BGMはテレビのニュース。
相変わらずよくならない社会情勢を流し聞きしながら、ファッション誌のページをめくる。

『愛されネルシャツしか欲しくないっ!』
『今日から私、バンダナ使いの達人です!』
『冬のかわいいを完成させる 主役ケミカルウォッシュはコレ!』
『どっちも毎日のコーデに必要だから! カジュアル軍手VSフェミニン指貫グローブ』
『結論! 使えるのは黒ウェストポーチ&ディパック!』
『おねだりしてもカレシもナットク! Xmasプラモ&フィギュア』

ステキでカワイイ厳選されたファッションアイテムの数々と、
それを身にまとって微笑むトップモデルたち。
どのページも見ているだけで胸がときめき、自分も早く冬物をゲットしに行かなくてはと気が焦ってくる。

「しかしみんなスタイルいいなぁ……」

同じぐらいの年頃に絶大な人気を誇るファッション誌のトップモデルたちだけあって、
みんなでっぷりとウェストが出て、スキンケアもしっかりしてるのかニキビがたくさん吹き出ている。
ヘアスタイルだってところどころに天使の粉が浮いているマットブラックな長い髪を、
髪の毛と同系色のゴム製ヘヤアクセでまとめている最新のもの。
自分もスタイルに自信があるほうだし、たまに街を歩いているとスカウトに声をかけられるぐらいだけど、
彼女たちを見ているとそんなものがどこかに吹っ飛んでしまう。

『……それでは最新のアキハバラ・オタク事情を見てみましょう』

テレビにふと目を移すと、最近なにかと目にするオタクの特集が始まっていた。
特集といっても、どちらかといえば動物園の珍獣を見るような、そんな感じのものばかりで、
今日も案の定というかそのような内容だった。
『世界に誇る日本のコスメ』とか『アキハバラのドレスアップ文化を世界に発信!』とか、
見ているこっちが恥ずかしくなるような、そんなワードを連発するナレーション。

「ほら、これが新作のマスカラで、つけるだけでまつげがバサバサいうぐらいに長くなるんですよ!」
「こんなに口紅の種類が揃っているのは日本ならでは!」

聖地と呼ばれる秋葉原を歩いているオタクたちは
誰も彼もが気持ち悪いほど痩せてて肌もツルツルと荒れ放題と不健康そのもの。
やれシフォンワンピがどうだのトレンカがどうだの、
新作ファンデが肌へのノリがどうだのと、まるで暗号のような言葉を並べ立てていて、
いい年して気持ち悪いことこの上ない。

「もっともっと、オタク文化をアピールしていきたいですね!」

髪を茶色く染め、ゆるいパーマを当てている奇妙な髪型をした男のオタクが、
満面の笑みでなにやら力説している。
髪型だけでなく服装も何段もヒダがついたスカートや白いブラウスなど悪趣味そのもので、
足許なんていまどきありえないような細かい模様で構成されたストッキングや、
かかとの高さが5cm以上あるヒールなんていうオタク丸出しのファッション。
あれで街を歩けるなんて、本当に恥ずかしくないのかしら。
もしもあんなのが自分の彼氏だったら、あまりの恥ずかしさに死んでしまう。

「ホント、マーくんが彼氏でよかった♪」

携帯を開き、保存してある愛しの彼氏の写真を見る。
太いブレイドヘアにシルバーフレームの眼鏡、
ダメージ加工したワンピースとスニーカーでキメたモデル並にカッコイイ男の子が、
私だけに見せてくれる笑顔で写っている大事な写真。
テレビに映っていたオタクとは比べ物にならないぐらいにオシャレな、
誰に見せても恥ずかしくない自慢のボーイフレンドだ。
ふいに携帯が鳴り、メールの着信を知らせる。
マーくんだ。

「明日『学校の中心で軽音楽を奏でる』見に行かない?」

今日、大学の友達と「見たいね」と話していた、
女の子4人がバンドを組んで学園祭に挑むという話題の感動巨編だ。
話題作だって言っても『こいそら!』みたいなオタク向けの映画だったらどうしようかと思ったけど、
そこは流行に敏感なマーくん。
ちゃんと私の見たい映画の好みもわかってる。

「明日、なにを着ていこうかなぁ」

マーくんに返信したあと、自慢のワードローブを広げて、
明日のデートに備えて勝負服の選定をはじめる。
やっぱかわいいところをカレシに見てもらいたいよね。
女の子だもん。






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