家出少女福森あかね
シチュエーション


とある平日の昼下がり、消化できなかった休日を突然にまとめてもらった自分はなんの予定の無いまま無為に時間を過ごしていた。

「そうだ、風俗にでも行ってみるかな」

唐突に思い立った。
暇を持て余していた自分は、このしょうもない思い付きに善は急げと街に出かけたのだった。
そう、それがこれから起きる数奇な出来事の始まりだとは思いもしなかった。

さて、街に着いたは良いが実は自分は風俗の経験がない。
かと言って知識が無い訳でもなく、どこに店があるのかも、そこが優良店である事も知っている。
そこへ向かう途中の通り、唐突に声を掛けられた。

「ねえ、ちょっと」

声をした方を向くと、そこには如何にもな感じのギャルメイクとファッションの女の子が立っていた。
その通りは風俗店がある場所だけあって、独特の雰囲気がある。
そんな場所で声を掛けられると言う事は、客引きか最悪ボッタクリの類だろう。

「今時間ある?ちょっとさ、お願いがあるんだけど」

ほら来た。これは間違いなく予想通りの展開だろう。

「いや、ごめん。行く店もう決まってるから」

ここはさっさと立ち去るのがベストだろう。
そう思い断りの言葉を述べ立ち去ろうとした所、手を掴まれてしまった。

「あ、まってそう言うのじゃないから。もちろん援交とかでもないし。話し聞いてくれない?」

やれやれだ。ここで振り切ってしまうのも簡単だがどうしたものか。
客引きは大概そう言うものだ。
まあ、流されるつもりはないが少し付き合って見ようか。

「君、客引きとかじゃないの?」

こちらが話を聞く素振りを見せると、その女の子は嬉しそうに話しかけてきた。

「ん、違う違う。そー言うんじゃなくてさ、ほんとお兄さんにお願いがあってさ。お兄さんこれからヘルスとか行くんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「でしょ?だったらさあたしが相手してあげるからさ。ホテル代おごってくれない?」

なるほど要するに売春な訳か。

「悪いけど、俺手持ちそんなに無いよ」
「ホテル代ぐらいはあるでしょ?ホテル代だけで良いんだ。実はさあたし家出中でずっとお風呂入ってないんだよね。だからさ、ちゃんとしたのに入りたくてさ。
お願いしたいんだけどダメかな?」
「シャワーだったらマンガ喫茶とか使えば済むんじゃないのか?」
「だからさ、ちゃんとしたのが良いわけ。シャワーじゃなくてお風呂」

道理には適っているな。
もしホテルに行ったとして、今の自分の手持ちは1万5千円ちょっと、他に貴重品は携帯ぐらいか。
風俗で使う予定の金額と照らし合わせてみて、これが罠で持ち逃げされたとしても痛い額でもないな。
携帯は保障効いてるし。
まあ、正直こう言う経験をして見たいとも思うしな。

「ま、良いけど。その話のっても」

ちょっと考え返事をしてやると、女ん子は嬉しそうに笑った。

「ほんと?やったー。じゃ行こ行こ。あ、言っとくけど本番はなしね。フェラとかでガマンしてね」

さすがにホテル代だけで犯らせてはくれないか。
それでも良い取引だとは思う。
そうして自分はギャルの女の子に案内されるままホテルに向かうのだった。

ホテルに到着後、女の子は嬉々として浴室に直行して行った。
さすがはラブホだけあってお風呂は充実した物のようだ。
かなりご満悦な様子で歌まで歌っている。

「お待たせ、お兄さんも入って来てね」

かれこれ30分近くもお風呂を楽しんだ女の子は、満足した様子で自分に風呂を勧めて来る。
ギャルメイクを落としたその顔は、正直先程までの彼女とは違う人物に見える。
しかも髪型はウィッグだった様で、黒髪のショートだ。
付まつ毛が外され、チークもグロスリップも落され、さらにウイッグを外した顔は、先程のあれだけ派手な印象とはうって変わって何所にでも居るような普通の高校生の様だ。
悪くは無いがちょっと興ざめするな。

「ああ、そうするよ。あのさ、悪いんだけど俺がシャワー使ってる間に、またメイクしておいてくれるかい?
そっちの方が良いんだよね」
「そうなんだ。いいよー盛っておくから。ゆっくりねー」

女の子は二つ返事で承諾してくれた。
自分はそのままシャワーを浴びる。
罠だとしたらこの時が持ち逃げさせる絶好の機会なんだよな。
しかし女の子は先程の言葉通りメイクに勤しんでいる。
この分だと大丈夫そうだ。
そう言えば美人局の可能性もあったよな。
でも本当にお風呂を使いたかった様だし可能性は低いか。
そんな事を考えてシャワーを終えて彼女のところへ戻ると、まだメイクの途中だった。
あれだけのメイクそんなに直ぐに出来るものでもないか。

「あ、もうちょっと待っててね。」

出来上がりまで待つよりないので、ゆっくりと待つことにする。
そう言えば、名前を聞いてなかったな。
自分も名乗ってないし。

「そう言えばまだ君の名前を聞いてなかった。俺は佐伯良輔(さえき りょうすけ)だ。そっちは?」
「そうだったっけ?あたしは、あかね。よろしくね良輔」

あかねか、家出中らしいし偽名かもしれないがそういう事でいいか。

「さてと、完成!さ、いつでも良いよ。まず口でやってあげる」

どうやら準備完了の様だ。
早速ベッドへ移って事を始める事にするか。

事が済んでホテルのベッドの上、正直良かった。
まさか4回も抜いてくれるとは思わなかった。
おかげでだらしない事に少し疲れてしまいベッドに仰向けになっている有様だ。

「どうだった?なかなかだったでしょ?」

あかねが得意気に聞いてくる。

「ああ、かなりの大満足だったよ。本当に良かった」

これでホテル代を持つだけとはかなりの得だったと言える。

「そっかそっか、ふっふっふん」

自分の返事にあかねは満足気だ。
そんなやり取りの最中、なんだか眠気が一気に差してきた。
チェックアウトの時間もあるので眠る訳にはいかないと思いつつも、睡魔に勝てず不覚にもそのまま眠りに入ってしまった。

・ ・ ・ ・

どれ位時間が過ぎたのだろうか、目が覚めた時にはそこにあかねは居なかった。
慌てて時計を見ると、時間はそれほど経ってはいなかった。せいぜい10分ほどだろうか。
次に思ったのは財布を持ち逃げされたのでは無いかと言う事だ。
自分の衣類を確認しようとした所、服が無くなっていた。
代わりにあかねが着ていたギャル系の服が置いてある。

「まさか、悪戯で俺の服を着て行ったのか?」

想定外の事に思わず独り語ちる。
良く見るとそこに1枚の手紙があり、手紙にはあまり上手とは言えないくせ字でこう書いてあった。


『良輔へ
最初は絶対信じないと思うんだけど、あたしと良輔の立場を交換させてもらっちゃいました。
訳わかんないでしょ?
でも本当の事なんだよね。ちょっと良輔の家の事思い出してみて。
ね?思い出せないでしょ?自分が住んでたところ。それだけじゃなくて良輔の身の回りの事何も思い出せないでしょ?
そう言う事なんだよね。
今から、良輔はあたしになったんだよ。家出少女の福森あかねにね。
自分では分からないかもしれないけど、周りから見たら良輔はあたしに見えてるんだよね。だから安心してあたししてね。
あたしは良輔になって良輔の部屋でゆっくり過ごさせてもらうから。
そう言うわけだからよろしくね。

                   あかねより 』


にわかには信じられなかった。
しかし手紙の通り自分が佐伯良輔の記憶を思い出そうとすると何も思い出せないのだ。
あまりの事に愕然とする。
しかしながらどう言う訳か、自分が福森あかねになってしまったと言う自覚が出来てしまっている。
いったいどう言う事なんだろうか。

途方に暮れていても仕方がない。
自分は家出少女の福森あかねなのだ。
意識や思考は元の良輔のままなのに、否応なしにそう自覚してしまう。
自分になったあかねを追いかけなくてはと思う。しかし、なぜかその行為がはばかられる。
差し当たってはまず服を着なければいけないのだが。

「これを着るのか」

手に取って見た服は、オフショルダーのボーダーTシャツに3段フリルのティアードスカート、花柄レースの7分丈レギンス、ギンガムチェックのブラとお揃いのショーツといったコーディネートだ。
周りから見れば自分はあかねに見えているのだから、これを着ても問題ないはず。
確認した訳ではないがその事は何故か自覚していた。
まずショーツをはいてみる事にする。
しばらく風呂に入っていないと言っていたが、着替えもしてなかったのだろう、ショーツのクロッチ部分が明らかに汚れている。
しかしはかない訳にもいかず、足を入れる。
ブラも同じようなものだ。女の子の体臭と汗臭さが鼻につく。
レギンスをはいてスカートをに足を通し、シャツを被る。
肩が空いているためブラのひもが見える形だ。
どれもこれも長い間着続けていたのか、着用感が強くあかねの匂いが立ち込めている。
鏡を見れば女装した自分が映っている。情けない様な感情とこれが当たり前な気持ちが混ざって感じる。
服を着た所で、今度はメイクをしなければいけない衝動に駆られた。
すぐに追いかけなくてはと思う反面、メイクをしなければ外には出れないと言う強迫観念が強く襲う。
そして結局はメイクをすることにしたのだ。
出しっぱなしになっていた、化粧ポーチから液体ファンデーションを取り出しスポンジは使わず、手で顔全体に伸ばす。
それだけで顔の色が整い女性ぽい肌色となる。
コンシーラーの要らないタイプでこれ一つで済む。
メイクの仕方は何故か知っていた。
次にチークを頬に入れる。薄いピンクが色付きギャルっぽさが出てくる。
さて次はアイメイクに移るのだが、何と言ってもギャルメイクの決め手はここにある。
まずはアイライナーでふち取りをし、3色のアイシャドウをブラシで丁寧にグラデーションを作っていく。
それが出来たら、今度は付まつ毛だ。ビューラーを使ってまつ毛をカールし付まつ毛をつける。
もうこれでギャル特有の目許の出来上がりだ。
本当なら眉の手入れもしておくべきなんだが、全部剃って描くとなると後で困るような気がしたため、それはしなかった。
幸いもともと眉は太い方ではないので問題なさそうだ。
最後の仕上げとしてパールピンクのリップグロスを塗れば完璧なギャルメイクの完成だ。
ウイッグを被りブラシで整えれば、そこには完璧なギャルがいた。

「うん、完璧」

時間をかけて完成したその出来に満足すると同時に、もう探しに出ても追いつかないと言う諦めが自分を苛む。
どうしたものか考えるが、どのみちチェックアウトはしなければいけない。
大きなサイズのエナメルトートバッグに荷物をしまい肩にかけると、入口に置いてあるブーツサンダルの元へ行く。
ちょっと気になりブーツの匂いを嗅いでみる。

「うっ、くっさ」

思わず声に出してしまった、つま先や踵が開いているブーツサンダルなので匂いは籠らないと思っていたが、脱がずに素足でずっと履き続けていたのだろう。
かと言って他に履く物もなく仕方がなしにそのブーサンを履いた。
そう言えばウイッグも汗臭い気がする。
家出少女の衣類は元の持ち主の体臭と汗臭さでいっぱいだった。
その事にげんなりすると同時に、今は自分がその「家出少女福森あかね」なんだと強く思うのだった。






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