謀略工作
シチュエーション


共和国が和平の盟約を一方的に破棄し、大軍をもって王国との国境線を越えたのは
昨年の春であった。不意を突かれた王国の国境警備隊は敗走し、王国の豊かな
国土は共和国軍の兵士に蹂躙された。共和国は王国に対し、領土の大幅な割譲
を求める和平案を提示し、持久戦の構えを取った。

冬に入ると、共和国の本土と前線との補給線が王国軍のゲリラ部隊により寸断され
始めた。持久戦の前提が崩れ、決戦を焦り始めた共和国軍に王国軍の本隊が近づいて
いるとの情報が入った。王国軍の兵数は共和国軍の三分の一。共和国軍は決戦を求め、
平原に陣をとった。

結果は、共和国軍の惨敗であった。王国騎士団の若き将軍アルベルトの率いる
王国軍は、軍師パウルスの巧みな作戦指揮の下、共和国軍を散々に打ち破った。
共和国軍は共和国本土からの援軍を糾合し、王国軍に倍する兵力をもって国境
付近で迎え撃ったが、王国軍の前に再び敗れ去った。

そして、今年の春。王国軍は共和国軍を国境外へ押し返すと、国土を解放する
だけに飽き足らず共和国を懲らしめるべく、共和国との国境線を越えた。
そして――

――共和国の首都。総統の執務室。

マルス「どの面下げて、戻ってきた、モーガン将軍。私は、お前にどれだけの
兵を預けたと思っている。夥しい数の我が将兵を失っただけでなく、国土防衛
の拠点たる要塞都市まで陥とされるとは…、今すぐギロチンにかけてやるから、
首を洗って控えておれ。」

眼下に跪くモーガンを見下ろしたマルスは怒気を孕んだ声で言うと、敗軍の
将たるモーガンは平伏したままの姿勢で声を絞り出す。

モーガン「敗戦の責めは全て私めが負っております。その罪、万死に値する
ことは百も承知でありますが、復讐戦の機会を賜りたく、恥を忍んで閣下の
前に参上いたしました。」

マルス「バカか。二度とお前になぞ、兵を預けるか。アルベルトとかいう小僧に
三度も負けて、まだ勝てると思っておるのか。」

マルスが吐き捨てるように言うと、モーガンは顔を上げる。

モーガン「閣下。そうは言いますが、我が軍は王国軍とは違い、国民皆兵と
言えば聞こえはいいですが、寄せ集めに過ぎません。それに、先年のクーデター
の折、熟練の将軍を粛清したのは、閣下ですぞ。私を処刑した後、共和国軍を
率いる将がおりますか?」

モーガンの言うとおり、マルスが権力を握ったのは、モーガン率いるマルス派の
軍の一部がマルスの指導でクーデターを起こし、共和国の首脳部であった元老達を
排除したからである。そして、権力を握ったマルスが総統の地位に付くと、自分への
忠誠に疑問のある将軍達を大量に粛清したのであった。

マルス「ぐぬぬ……。それで、そこまで言うからには、何か策があるのであろうな。」

モーガン「はい、もちろん。私もタダで要塞都市を明け渡したわけではございません。
彼の地に毒を仕込んでまいりました……」

マルス「まさか、井戸水に毒を流したのか?そんなことをしたら、王国軍だけでなく
都市の住民にまで危害が及び、誰も住めなくなるではないか。」

モーガン「違います。毒とは、その毒ではございません。寡兵の王国軍が共和国
軍に勝ち得たのは、アルベルトとパウルスの二人がいるからです。この二人さえ
除けば、我が軍にも勝機が見えてまいります。」

マルス「ふんっ、両軍の違いは軍を率いる将の違いか。確かにそうだな。しかし、
そう簡単に暗殺など出来るのか。」

マルスは皮肉交じりの口調で言うと、モーガンを睨みつける。

モーガン「暗殺なんて一か八かの賭けは致しません。そんなことをしたら、仮に
成功したとしても王国を怒らせ、今行われている和平交渉もうまくいかなく
なることでしょう。」

マルス「それなら、どうするというのだ。そろそろ手の内を明かしてみせよ。」

モーガン「――女です。女の毒によって、アルベルトとパウルスの間を裂き
王国軍を戦わずして弱体化させてみせましょう」

マルスは顎に手をやり、考え込む表情を浮かべる。モーガンとは十年来の付き合い
であり、これまでマルスの権力奪取に役立ってきたが、この男の本領が軍隊の
指揮てばなく専ら他者を陥れる謀略工作であることは、マルス自身がよく知る
ところであった。モーガンが合図をすると、モーガンの背後に控えていた男が
初めて顔を上げた。

モーガン「ここに控えるは、今回の毒を仕込んだネールです」

マルス「王国騎士団といえば、清廉で自己を律することに厳格であると聞いて
おる……アルベルトやパウルスが女なんぞに惑わされるとは思えんが。」

ネールは、共和国の最高権力者を前にしても表情を変えることなく、静かな声で
話し始める。

ネール「だからこそです。女に対する免疫がなければ、それだけ女に嵌りやすい
といえましょう。パウルスは、10年前に妻を亡くしてから独身で、亡き妻に
想いを残しているのか、新たな妻を迎えようとしておりません。アルベルトは
王族の許婚がおりますが、相手はまだ10才です。おそらく、アルベルトは
未だ女を知らないでしょう。いくら許婚との契りがあるにしても、情欲という
ものは抑えきれぬもの。今まで抑えつけていたのであれば尚更です。」

淡々と話すネールの口調は確信に満ちており、マルスを納得させるに十分であった。

マルス「ふむ……。それではその作戦を許可する。しかし、期間は一ヶ月だ。
その間に成功しなければ、我が共和国は屈辱的な条件で王国と和平を結ばねば
なるまい。その時は、お前達両名の命はないと思え。」

アルベルト率いる王国軍は、要塞都市から共和国軍を駆逐した後も、パウルスの
進言により、要塞都市近くの小高い丘に陣を敷いていた。理由は三つある。
一つは、つい先日まで共和国の領内にあった街を占領することはそれ自体困難を
伴うこと。共和国軍が来襲してきた場合、篭城したものの、要塞内部に呼応する
動きがあれば、簡単に敗れてしまうだろう。

二つ目は、現在陣を取っている丘こそがこの要塞都市の死命を決する要地であり、
そこに軍を置く必要性が高いこと。今回、短期間でこの要塞を陥落できたのも、
この丘から大砲を撃ち込んだ故であった。

そして、三つ目はいくら軍紀に厳しい王国軍であっても、街に入れば、略奪や
陵辱といった不祥事が起こらないとも限らないこと。アルベルト率いる遠征軍が
首都を発ってから早半年。兵士の一部には共和国領内に入れば、共和国軍が
王国領内でしたような略奪や陵辱が許されると考えていた節もある。しかし、
アルベルトはそれを決して許さず、軍紀を犯した者には厳罰で応じていた。

パウルスが挙げたこの三つの理由からアルベルトは軍を要塞都市内部に
進めることを控えていたが、王国本土からは、この要塞都市を占領することで、
既成事実を作り上げ、和平交渉を有利に進めたいという腹積もりもあった。
アルベルトとしては、その本国からの指令に従いたいという気持ちもあったが、
最も信を置くパウルスの進言に従い、要塞都市内部に軍を進めることはなかった。

パウルスはこの遠征軍の副将であり、今回の戦争の全ての作戦を考案した軍師
であった。年齢は36才。長身で肩幅が広く胸板の厚い偉丈夫で、灰茶色の短髪に
年齢よりも老成した印象を与える皺の刻まれた容貌であった。その細い目は、
遠く敵軍の将の心を読むとまで言われており、これまで悉く共和国軍の裏を
かいてきた。

また、戦術面では、パウルスは本来守備に用いるとされた大砲を野戦においても
効果的に運用する砲兵という概念を作り上げた。王国軍は、大砲の集中運用と
騎兵の機動性を活かした作戦で倍以上の兵力を有する共和国軍を三度にわたり
叩きのめした。

そして、このパウルスの作戦を指揮実行したのが、25才の若き将軍アルベルト
であった。代々軍人を輩出してきた名家に生まれ、14才で騎士団に入ると、
めきめきと頭角を現し、その勲功と家柄の良さも手伝って22才の若さで将軍の
地位を得た。

金髪に碧眼の整った容姿は宮廷の淑女令嬢の視線を集め、女性のような白い肌に
どちらかといえば小柄で細身の肉体は軍人離れしているが、そのしなやかな肉体から
繰り出される剣技が王国随一であることは、王国軍の全ての人間が知っている。

アルベルトは、生まれもったそのカリスマ性と戦時における勇敢さから兵士からの
信望は厚く、彼の指揮する王国騎兵による勇敢な突撃により何度も共和国軍の
堅陣を突き崩し、敗走させたのであった。


6月1日

共和国軍が要塞都市を放棄してから一週間後、要塞都市の市長から王国軍の
進駐を求める使者がやって来た。使者が言うには、王国の敗残兵が要塞の一部に
立てこもり、街の治安を乱しており、王国軍に彼らを追い出して欲しいとのことであった。

街の住民にとって、本来味方であるはずの共和国軍を追い出して欲しいと言う
使者の言葉を訝しんだアルベルトは、使者にさらに内情を問うと、使者によれば、
戦争が始ってからのこの一年というもの、常に共和国軍が街にいて横暴な振る舞いをし、
街の住民は窮屈な生活を強いられたとのことであった。今では、街から共和国軍を
追い出してくれた王国軍に感謝するほどであるとまで使者は言った。

アルベルト「どうであろうか、パウルス。要塞都市の内部がこのような状況で
あるとすれば、我が軍をもって治安の回復に当たるべきではないか。ここで
住民たちの信頼を得ておけば、今後の和平交渉により、この要塞都市が
王国領になった時にも役立つと思うのだが。」

パウルス「――しかし、使者の言葉が真実とは限りませぬ。もしかすると、
罠やもしれません……。ここは慎重に動いた方がよろしいかと。」

アアルベルト「それでは、もし真実であれば、どうする。住民の平和な生活を守る
ことこそ、軍の役目ではないのか。」

パウルス「……分かりました。それでは、進駐の準備を進めましょう。指揮は
誰に任せますか。エドワルドかライアンか……」

アルベルト「私が直接指揮をする。要塞都市内部の状況を見究めてこよう。」

パウルス「それはいけませぬ。閣下は我が軍の主将。もしものことがあったら
どうされますか。状況判断が必要であれば、ここは、私が行きます。」

アルベルト「いや。パウルスの頭脳こそが我が軍の至宝である。私にもしもの
ことがあったら、その時こそ、全軍をもって要塞都市を占拠し、共和国軍の
残党を打ち払った後、手はずどおり、共和国の首都を一気に突いてくれ。」

こうして、王国軍はこれを機に、軍の一部を要塞都市に進駐させることに決定した。
進駐軍の指揮はアルベルトが取るが、共和国軍の残党を片付け、内部の様子を
確認した後は、アルベルトはこの野営地に戻り、パウルスが要塞都市に入り
進駐軍を率いることになった。要塞都市内部には、共和国軍に関する情報が
あるかもしれず、パウルスがそれを分析し、今後の作戦に活かすためであった。


6月3日

夜明け前。アルベルトが直接指揮する200人の騎兵は、音もなく要塞都市に近づくと、
手はずどおりに内部から門を開けさせた。王国軍は、そこから一気に騎馬を走らせ、
共和国軍の残党の占拠する要塞の一部を急襲した。戦闘らしい戦闘も起きぬまま、
約150人の残党は、捕縛されるから殺された。戦いを終えると、いつの間にか
集まっていた住民から歓声と拍手が沸き上がる。王国軍が報告のために市長の
屋敷に向かう道沿いには住民が鈴なりとなって、まるで凱旋のパレードのようであった。

――市長の屋敷
ロイド「アルベルト将軍閣下。この度は、我が街を解放して頂き、誠にありがとう
ございました。住民を代表して、市長たる私めが感謝の意を表させて頂きます。
どうか、他の方々もお寛ぎ下さいませ。」

市長の屋敷に入ったのは、アルベルトと王国軍の仕官5人、アルベルトの近習を
務めるピエールの計7人であった。市長の屋敷は、王国貴族の屋敷のように
内装から調度品も全て豪華なもので、その広さは一体いくつ部屋があるのか
分からないほどであった。アルベルト達は大食堂に通され、この半年間、戦地では
味わうことの出来なかった豪勢な料理でもてなされた。

しかも、屋敷内には市長と老執事以外は男は見当たらず、専ら若く可愛らしい
メイド達が甲斐甲斐しく世話をするのであった。王国軍の仕官といえば、皆貴族の
子弟であり、このような対応に慣れていないわけではないが、この半年というもの、
女性と接することもなく、言わば女性に飢えている状況であったこともあり、
ついメイド達に視線が行き、愛想の良いメイド達の笑みにのぼせ上がっていた。

そのような市長のもてなしに対し、アルベルトは終始不機嫌であった。このような
軟弱な気風をアルベルトは好まず、王国内でも舞踏会や晩餐会といった宮廷の
催しには背を向け、狩猟や剣技の訓練など、およそ女性のいる場所には
寄り付かなかった。しかし、今は占領地の住民代表の感謝を受ける場として
割り切って、応じているのであった。

食事を終えて、食後のお茶が出されると、皆がそれを飲み終わるのを待たずに、
一刻も早く立ち去るべくアルベルトは市長に礼を言った。

アルベルト「市長。ご馳走になった。今後もよろしく頼む。それでは、我々の宿舎に
案内してくれ。」

ロイド「閣下や仕官の方々は、僭越ながら、この私めの屋敷にてお世話させて
頂きます。屋敷には部屋はまだまだ余っておりますし、あと10人は軽くお世話
させて頂きますがいかがでしょうか。」

アルベルト「……そうか。それでは世話になるとしよう。但し、過度のもてなしは
不要である。特に食事などは他の兵士達と同じにするように。」

ロイドが両手を叩くと、先ほどまで食事のサーブをしていたメイド達が現れ、士官たち
5人に各1人のメイドが付いて、部屋に案内していった。戦場では死をも恐れぬ
騎士団の精鋭が、すっかり鼻の下を伸ばしてメイドの後を付いて行くのを苦々しく
見送ってから、アルベルトは立ち上がると近習のピエールに馬を引いてくるように命じる。

ロイド「閣下……?閣下にももちろんお部屋を用意させて頂いておりますが……」

アルベルト「私は、野営地に戻る。進駐軍の指揮はパウルスに委ねる。」

ロイド「――そんな。閣下がおりまさねば、住民たちの不安が……。」

アルベルトは絶句する市長の言葉を無視して楽しげに見下ろして「それでは
失礼する」と言うと、軽やかに立ち上がる。――その時、ドアが開き、メイド服
ではなく、白のワンピースに同色のボレロを身に纏った女性が室内に入って来る。
ブルネットの豊かな髪は真ん中で分けられ肩の少し上で切りそろえられている。
その肌色は健康的で頬は僅かにピンク色に染まり一瞬幼げにも見えるが、
長い睫毛が印象的な理知的な瞳は吸い込まれそうな黒色で大人っぽさも
感じさせる。通った鼻筋と頬から顎のラインは美の女神が彫った彫刻のように
完璧で、口角の上がった大き目の口が、その完璧な美貌に愛嬌を与えていた。
アルベルトは、その女性を見た瞬間から目が離せず、歩き出そうとした姿勢のまま、
動きが固まった。

ヒルダ「ご挨拶が遅くなり、大変申し訳ございません。ロイドの娘のヒルダと申します。」

ロイド「おぉ、ヒルダ。此方が、王国軍の英雄、我々を共和国軍から救ってくれた
救世主であるアルベルト将軍閣下だ。きちんと感謝の気持ちをお伝えしなさい。」

ヒルダは静々とアルベルトに近づく。ヒールの高い靴を履いてるせいか、170cm弱の
アルベルトと肩を並べるヒルダは、アルベルトの背後から軽く両肩に手を触れ、
その耳元で「お座りになって」と言うと、アルベルトは力が抜けたように椅子に腰を
落とした。ヒルダは、丁寧スカートを押えて、椅子に座ったアルベルトの足下に跪き、
深々頭を下げた。

ヒルダ「この度は、私たち、この街の住民を救って頂き、心から感謝致します。
この街の住民の全ては、向後は閣下、閣下の軍の方々にこのご恩を返していく
所存でございます。」

ヒルダの感謝の言葉は俗物めいたロイドの言葉よりも余程真心が感じられ、
アルベルトを感じ入らせた……はずであったが、アルベルトの視線はヒルダの
胸元に吸い寄せられていた。白の清楚なワンピースの胸元の切り込みは然程
大きくないはずだが、上から見下ろす形になると、その胸の谷間がわずかに覗き、
薄桃色の下着の端まで微かに見えていた。アルベルトは、視線を外さねばと胸の内
では強く思いながらも、視線を外すことが出来なかった。

アルベルト「……いや、我々は、我が王のために……この戦争をしているのであって
……恩を感じるのであれば、それは我が王に……熱ッ」

王国内であれば貴族令嬢達の追従の言葉を冷笑で報いるアルベルトであるが、
ヒルダの美しさ故かあるいは、胸元を凝視している罪悪感故か、歯切れ悪く王国軍
主将としての口上を返していると、いつの間にか背後から近づき、アルベルトの
カップに紅茶を注ごうとしたメイドの手元が狂い、アルベルトの太腿に熱い紅茶がかかる。

ヒルダ「何てこと……閣下、我が家の者の不始末、どうかお許し下さい。――何を
しているの、早く氷をお持ちなさい。閣下が火傷をされたら、どうするの。」

ヒルダの美貌は狼狽しても些かも翳ることなく、的確な指示をメイドに与えると、自らは、
アルベルトに跪いた姿勢のままにじり寄りテーブルの上のナプキンをアルベルトの
太腿に優しく押し当てる。それと同時に、アルベルトの膝にはヒルダの柔らかく
豊満な乳房も押し当てられていた。アルベルトはその感触を味わうだけで太腿の
熱さを忘れた。

遠目に見ていた際には思いも寄らなかった程に、膝に押し当てられるヒルダの胸の
膨らみは豊かで、少し目を落とせば、その膨らみがぐにゅりと歪んで、服の間からは
さらに谷間が覗けた。アルベルトの鼻腔にはふんわりとヒルダの柔らかな甘い香りが
漂い、必死にナプキンを押し当てるヒルダの全身の柔らかさがアルベルトの下半身に
ヒルダの体温と共に伝えられた。

――このままでは……まずい――アルベルトは股間の中心に熱が滾るのを感じていた。
ヒルダの顔は今やアルベルトの股間から数センチしか離れていない。――このままでは
気付かれる――アルベルトは、ヒルダの柔らかな手に軽く触れて(その瞬間、ペニスが
ビクンと反応した)、その手をどけると立ち上がり、椅子の背後に回って、椅子の背で
膨張しかけた股間を隠した。

アルベルト「もう結構。大したことはない。」

ヒルダ「ですが……制服のおズボンにも染みが残ってしまいます。お部屋を用意
しますから、一度おズボン脱いで頂けますか。」

いつの間にか戻って来たメイドはアルベルトの足元にすがりつくようにして太腿に
氷を押し付ける。そのメイドの手はアルベルトの太腿の内側にまで入り込み、氷を
擦りつける手がふぐりにまで触れる。さらに、もう一人メイドが現れ、アルベルトに
「此方です」と言って、別室に案内しようとする。ヒルダも、真剣な表情で、「早くお部屋に」と
アルベルトを急きたてる。大軍に包囲されても眉一つ動かさない男が、この時ばかりは
どうしいいか分からぬといった様子で焦燥の表情を浮かべる。

――すると、そこに、ドアが開く音。馬を準備し終えたピエールが全く部屋の空気を
読めないままに入ってきて、きびきびとした態度で一礼をすると、「閣下、出立の準備が
整いました」と透き通る声で言った。アルベルトは心底ホッとした表情を浮かべると、
やや手荒に足下に縋りつくメイドの身体を振り払うと、ヒルダに背を向けて、背後を
振り向きながら言った。

アルベルト「ご令嬢、大丈夫ですから、本当に。市長、それでは私はこれで失礼する。
後は、万事パウルスに任せている故、何でも彼に相談してくれ。……ピエール、行くぞ。」

アルベルトは歩きながらポケットに手を入れ、ペニスの位置を調整すると、足早に
逃げるような足取りで食堂から出て行き、ピエールは室内に一礼してから、ドアを閉めた。

――当然、アルベルトの耳には、ドアが閉まった後のヒルダが舌打ちした音は、届いては
いなかった。






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