巫奇譚(カムナギキタン)
シチュエーション


東方の地に、『東日出国(あずまひのもとのくに)』と呼ばれる国があった。
その国は常にある存在の脅威に常に晒されているのだという。

脅威。
それは、『妖魔』と呼ばれる存在。
闇より現れ、現世に恐怖と破壊を振りまき、そして闇に消える人ならざる異形。
ただ、人に仇成す為に存在する、人の天敵。

だが、それらを祓い現世の安寧を護る者達がいた。
その生涯を戦いの場に置く、善なる女神の信徒たる巫女。
白亜と緋色の衣を纏い、刃を掲げ妖魔に立ち向かう彼女達を人はこう呼んだ。
―――『巫(カムナギ)』、と。

****

「んぐ……あふっ……ひぁぁ……あ、ああ…あっ…ひぁぁぁぁ!!」

まるで絡み合った毛玉のような触手の塊に拘束され、あたしは悲鳴のような喘ぎ声をあげる。
身に纏った白衣と朱袴も、あちこちが引きちぎられあたしは裸身を晒していた。
艶やかで美しいと褒められた長い黒髪は、白い汚濁液に汚れ見る影も無い。
はだけた白衣からこぼれる胸を触手が絡めとリ、露になった秘部は蠢く触手が貫いている。

「くっ……ひぅっ……いぃ……いぁぁぁ……くぁぁああぁぁっ?!」

あたしの秘部を貫く粘液に塗れた触手が、激しく中を擦りあげる度に頭の中に花火が爆ぜるような快感が襲い掛かる。
声を出すまいと食いしばった歯も、その途方もない快感の前には容易にほどけてしまう。
逃れようとどんなに足掻いても、全身に絡みついた触手がそれを拒んで離さない。
それどころか触手はあたしの手足をさらにきつく締め上げ、今度は全身を愛撫しはじめた。

「あっ、んあぁっ! む、胸ぇ……! そんな……乱暴……に…はうぅ……もっと、やさし……くぅ…!」

先ほどまでは不快でしかなかった胸を縛り上げる触手すら、今では脳が焼け付いてしまいそうな快感を与えてくる。
あたしの全身を嬲る、性感という名の拷問。
上り詰めていく体が、とうとうその限界を向かえる時がきた。

「い、いぁ……な、なにか来る……! ひあぁっ!来る!来るぅ!なにかくるぅぅうぅぁぁぁぁぁあッ?!」

あたしの頭の中が真っ白な光に覆われる。
拘束された体が、まるで雷にでも打たれたかのように伸び上がった。
続いてあたしの体に襲い掛かる、快感を伴った気だるい倦怠感。

「ん……ひぁ……ひぅぅん……ぁ……」

―――気をやってしまった。
あたしは、こんな哀れな状況で、女としての幸せを感じてしまった。
火照る体とは引き換えに、あたしの心はその事実に絶望に染め上げられていく。
だが、そんな物はまだまだ序の口でしかなかった。

「ん……はっ……はっ……? ぅひゃぁぁぁぁぁ?!」

気をやったばかりで、いまだ敏感な体を再び触手が責め上げる。
乳房を、秘部を、あたしの性感帯という性感帯が再び快感を脳に送り込んできた。

「ひっ……ひぁぁっ……もう、許し……こんな……耐えられ……んぁぁぁぁっ!!」

――殺される。
このままではあたしはこの快感に犯し殺されてしまう。
その恐怖と悦楽に思わずあたしは懇願の悲鳴を上げていた。
そんなあたしの無様な姿を、薄ら笑いすら浮かべて眺めている女の姿。
絶頂のあまり飛んでしまいそうな意識が、視界の端に移ったその女の姿を見て再び覚醒する。
折れてしまいそうになった心に、再び活力が戻る。

「……おまえ……なんかに……負けるわけにぃ……ッ!」

そうだ、あたしはあの女に負けるわけにはいかない。
あたしはぎりときつく歯を噛み締め、女を睨みつける。
脳裏に思い返される光景が、快感に消え入りそうになるあたしの理性を繋ぎとめていた……。

****

巫(カムナギ)。
それは、善なる女神に仕え、その神威を持って闇をはらう戦巫女。
巫(カムナギ)。
それは、戦う宿業に生まれた女達の名。
巫(カムナギ)。
それは、あたし…神楽坂・沙耶(カグラザカ・サヤ)の宿命。

神楽坂(カグラザカ)。
それは巫の中でも名門と呼ばれる中の一門である。
あたしはその神楽坂の娘としてこの世に生を受け、そしてその次代当主として育てられてきた。
ただの娘としての人生を否定され、ただ、戦う術だけを教えられる厳しい修行と、鍛錬の日々。
その日々はあたしの心身を鍛え、いつしかあたしを『沙耶』という名の少女ではなく、『神楽坂当主』と言う名の、一振りの太刀へと変えていった。
齢17を迎え、成人の儀を終えたことで正当に神楽坂の当主となったあたしは、神楽坂の当主として一つの仕事を受け持つ事となる。
その仕事というのは、とある山中に現れたという妖魔討伐に向かったまま、行方が知れなくなった巫一団の捜索という任務だ。
神楽坂当主としての初陣。誇らしさと幾ばくかの緊張を胸に秘め、部下と共に現地に辿り着いたあたしだったのだが……そこにあったのはまるで平穏な山中の空気。
思わず気抜けしながらも、あたし達は巫達が行方知れずになったという場所の捜索を開始した。
捜索を開始してまもなくの事だ。
さっそくあたし達は、そこで数体の『屍(カバネビト)』と呼ばれる妖魔を発見する。
屍とは呪いや怨みを受けて生まれた動く死体のことだ。
妖魔としては決して強いわけではなく、熟練した巫にとってみれば脅威足りえない。

それゆえに、あたし達の間に油断が生まれた。

あたし達は逃げ出した屍を追い、逃げ場の無い峡谷に奴らを追い込んだ……いや、今となっては『誘い込まれた』というべきだろう。
気がついた時にはすでに遅かった。
突如として崩された岩場によって退路を絶たれ、残された出口に待ち構えていたのは、恐ろしい数の屍の群れ。
そこから先はまさに泥沼だ。
一体一体の屍は弱くとも、束になればそれは恐ろしい力となりうる。
たとえ熟練の巫といえど、分断され数で押されればいつかは倒れる。
あたし達は敵の策に嵌まり、一人、また一人と脱落していった……。

****

「はぁっ……はぁっ……」

倒しても、倒しても。
まるで無限に湧き上がるように現れる屍を斬り捨てながら、あたしは渓谷の出口を目指して走っていた。
白衣も、緋袴も、泥と敵の返り血に塗れ見る影もない。
先制をとられたことが、あたし達にとってこれほどの不利になるとは。
だが、なによりもあたし達の不利になった物は別にあった。
それは、屍に殺された者は屍に成るということだ。
屍によって倒れた仲間が、今度は敵として立ちふさがる。
たとえそれがもはや人でなき妖魔だとしても、そこに躊躇いが生まれるのは必定。
そういった戸惑いが次の犠牲者を生み、被害を拡大させていったのだ。
そして、今まさにあたしの目の前で屍の手にかかったであろう巫の少女がむくりと起き上がる。

「―――ッ!」

あたしは、彼女が動き出す前にその首を太刀で刎ねた。
再び「死体」へ戻る彼女の躯。
せめてもの情け……それは、あるいはあたしの傲慢かもしれない。
だが、彼女とて、化け物に殺され化け物に成るなどという結末を望んでいたはずもないだろう。
―――いや、あるいは。

「殺された方がまだましかもしれないか……」

屍はまともな理性を持たず、ただ、己に残された『欲』を満たすためだけに行動する。
あるものは食欲を満たすべく、生者の血肉を喰らい。
あるものは破壊欲を満たすべく、目に映る物全てを叩き潰し。
そして、あるものは―――

「あぁぁぁぁ! いやぁぁ! こんなの、こんなのいやぁぁぁぁ!!」
「は、入ってるぅ……私の、中に、変なのがぁ、変なのがぁぁ!!」
「んぶっ…う、うぇぇ…臭い…気持ち悪…もう嫌…もう…やめ…うぶぅっ…ん…んむぅっ……」

性欲を満たすべく、女を犯す。
それは、屍に捕らわれた者の哀れな末路。
腐れ、ずるずるになった指によってその柔肌を蹂躙され、腐汁の垂れる男根を咥えさせられ、秘部を突き上げられ、汚濁液を中に外に全身に浴びせかけられ、そして文字通り「死ぬまで」犯される。

「たすけ……いも……かみさま……ひぃ…たす…あっ……んあぅっ…あぁぅんっ!」

屍に背後から獣のように犯され、助けを求める者。

「ぁ…ぁぁ…ぅ…ぁー…」

激しい陵辱の果てに忘我に陥るも、それでもなおも陵辱され続ける者。

「あはっ、あははっ、あはははははははははははあははあはは…!」

化け物に犯される。その事実に心が壊れてしまった者。
かつての仲間を無慈悲に斬り捨て、助けを求める同胞すら見殺しにする。
自分の無様に、唇を噛んだ。
それでもあたしは彼女達に目をそむけ、走る。
彼女達を助けに戻れば、今度は逆にあたしが窮地に陥る事になるだろう。

逃げる為、ではない。
神楽坂の名を継ぐ者として、妖魔を前に退く事は許されない。

本来、屍にはまともな理性や知恵というものが存在しないのだ。
そんな屍がこのような策を練るとはとうてい考えにくい。
ならば、結論は一つだ。

「こいつらを指揮している頭がどこかにいるはず!そいつを叩けば―――!」

襲い掛かる屍を両断しながら、あたしは敵の首領を探し再び走り始めた。

****

そこには―――闇が在った。
暗がりというわけではない。ただ、闇だけがあった。

その闇の中に浮かぶ、白い人影。

一糸も纏わぬ裸体を晒す女性。
染み一つなく、まるで絹布のように滑らかな白い肌。
ふくよかに張り出した胸と、括れた腰。
まるで、闇をそのまま漉いたような長い黒髪。
切れ長の目の端に紅をさし、同じく真赤な紅を引いた唇。
聖人ですら思わず男の物をそそり立たせそうな、艶やかな女。

「うふふ……貴女、とてもとても可愛いわ……」

女が、妖艶な笑みを浮かべる。
見れば、女の腕の中には一人の少女の姿があった。
年の程は12、3といったところか。彼女もまた、女と同じように裸体を晒している。

「や、やめ……やめて……おねが……」

少女が怯えながら懇願する。
だが、そんな懇願などお構い無しに、女の手がまだ成長しきらない少女の胸に触れた。

「ひっ……!」

ぴくりと怯えるように跳ねる少女の体。
女の指がやわやわと少女の胸をまさぐり、優しく、感じるところを探るように女の手が少女の身体を這って行く。

「あっ! ひっ!」

女の指が蠢くたびに。女の指が少女の肌をなぞる度に。少女はまるで楽器のように吐息を漏らした。

「ふふ……本当に可愛い……もっと可愛くしてあげる……」

ぺろりと少女の頬を舌で舐めると、細い指が彼女の白い肌をなぞり、腹をなぜ、やがて彼女の幼い蕾へといたる。

「ここをね……こうするの……そうすると、とても気持ちいいのよ?」

そして、女の指がその蕾の周囲を指の腹で擦りあげた。

「ひぅっ!」

溜まらず悲鳴を上げる少女。
女はその声に笑みを浮かべると、今度は浅く彼女の中に指をうずめ、ゆっくりと出し入れする。
最初はゆっくりと……やがて激しく。最初は浅く……やがて深く。

「〜〜〜!〜〜〜!!」
「どう……気持ちよくなってきたかしら?」

女が女を犯す。
その歪な性行為に、少女の幼い性は高ぶりを見せていく。
肌は桃色に染まり、蕾はしっとりと染み出した愛液に濡れ、その瞳はとろんと蕩けるような色を見せていく。

「そろそろ……食べごろかしら、ねぇ?」

女はぺろりと舌なめずりをしながら妖艶に笑うと、少女の唇にその口を寄せた。

「〜〜〜〜〜〜?!」

声にならない悲鳴を上げて、びくびくと体を振るわせる少女。
その少女の口に、まるで貪るように吸い付く、女。
少女はその魔手から逃れようと暴れるが、女の腕に絡めとられ動けない。
一体、女のその細い腕のどこにそんな力が在るのだろうか。
暴れる少女の体を片手で押さえ込み、まるで彼女の中身を吸い尽くすかのように女は彼女の口を貪る。

いや―――文字通り女は少女の『命(なかみ)』を吸い上げていたのだ。

見る者がみればみれば判っただろう。
少女の体を流れる生気が、女によって吸い上げられていく様が。
生気は生きようとする生物の行為に比例してその力を高める。
そして、性行為という物は生気を最も引き出す行為なのだ。

女の腕の中で暴れる少女の動きが、どんどんと緩慢になっていく。
やがて、満足したのか女は少女の口を離した。
つぅ、と二人の口と口の間に、唾液の橋がかかる。

「ふふっ……御馳走様。とても美味しかったわ……」

女は少女の頬を優しくなでると、その体を無造作に投げ捨てた。
少女は白目を向いて暫くの間ひくひくと痙攣していたが、それもやがて収まっていき…ついに息絶えたのか動かなくなる。
よく見れば、彼女の側には同じように打ち捨てられた少女達の姿が在った。
その中には、行方不明になった巫達の姿もある。

「……ふふっ。こちらは準備は全て万端……」

含み笑いを浮かべ、伸ばした女の手の上に、闇から溶け出すように銅鏡が現れた。
その銅鏡に映し出されるのは、孤軍奮闘する一人の巫女の姿。
長く艶やかな髪を紅い髪帯で一つに纏め、杓子星の文様の掘られた太刀を振るう、巫の姿。

「久しぶりの再会ですもの……盛大に出迎えてあげないと」

女が何事か小さく呪を唱える。
すると、闇が彼女の裸身を包み込んだかと思うとやがて彼女の衣服へと姿を変えた。
漉ける霞のような千早。
まるで雪のように真白な白衣。
闇の中にあって尚目立つ濃(こき)色の袴。
長い髪を結う、水引き。
それは、祭事の際に巫女が纏う装束のそれを思わせる。

「ねぇ―――沙耶?」

女の顔に、亀裂のような笑みが浮かんだ。


『う、うえぇ、ふぇぇ……』

幼い頃……まだ、あたしが沙耶という名の一人の少女だった頃。
その頃のあたしは、とても泣き虫だった。
辛い修練、苦しい鍛錬。
あたしはいつもいつも泣いていたような気がする。

―――けれど。

『どうしたの、沙耶? また、お叱りを受けたの?』

あたしが泣いているその時、必ず傍にいてくれた人がいた。
その人は優しく微笑むと、あたしの涙をその袖口でそっとふき取り、あたしを優しく抱きしめてくれた。
抱きしめられたその胸の中で聞く、彼女のとくんとくんという心臓の鼓動。
その音を聞いているだけで、あたしは酷く安らいだ気持ちになれたことを良く覚えている。

『大丈夫よ、沙耶。そう、大丈夫。……私が護ってあげるから。絶対、護ってあげるから』

あたしを優しく抱きしめてくれたその人は、とても優しい香りがした―――。

****

斬撃が光り、屍の体がどうと地面に倒れ臥す。

「くッ…しつこいッ!!」

切り伏せても切り伏せても、叩き潰しても叩き潰しても。
あたしの前に立ちふさがる屍の姿は、一行に減る気配を見せはしない。

「ここを抜ければ渓谷を抜けられるのに……!」

奴らの背後に見え隠れする渓谷の出口が、あまりにも遠く感じる。
妖魔としてもここが最後の防衛線、恐らく最も多くの兵力を集めている事だろう。
あたしの足元には既に何体もの屍の残骸が転がっていた。
何時までもこんな所で足止めを受けていたら、いつかはその物量に押し負ける。

……奥の手を使うしかないか!

あたしは覚悟を決めると、すぅと大きく息を吸い込んで目を閉じる。
――意識を統一し、一切の我を捨て、無心の境地へと至るべく。

「<我が言葉(ことのは)を通じ神威をここに示さん>…」

祝詞と共に太刀を天頂めがけて突き上げ、足を大きく踏み鳴らす。

「<『言(こと)』は転じて『事(こと)』と成る――>」

左手の指で五芒星の印を切る。
それに応えるように、緋袴をはためかせながら蒼い光が足元から沸き立ち、
周囲が清浄な気配に満たされていく。
あたしに襲い掛かろうとしていた屍が、その気配に気おされるように退いていった。

「<この『息(いき)』は転じて『域(いき)』と成る――>」

深く吐き出したあたしの息に応えるように、周囲を取り巻く清浄な気配が
精練され、立ち上る蒼い光もまたその輝きを増してゆく。

同時にあたしの脳裏を焼く、ちりちりとした不快感。

あたしはその不快感を押さえ込み、自身の意識を鋭く尖らせていく。
――鋭く、もっと鋭く。
意識だけで全てを穿ち、打ち抜く事ができるほどに、鋭く……!

「<この『意(い)』は転じて『射(い)』と成す――>!」

沸き立つ蒼い光が収束し、何本もの光の矢と成って私の前に現われる。
たじろぐ屍達に睨みを利かせ、あたしは振りかぶった太刀を握る手に力を込めた。

「浄滅せよ! 絶技・蒼弓(そうきゅう)!」

裂帛の気合と共に振り下ろされた太刀。
それに合わせ、幾条もの光線となって放たれる光の矢。
慌てふためく屍の群れに、光条はまるで引き寄せられるかのように突き刺さる。
同時に、こうっ、という音とともに矢が弾け、立ち上る光の柱。
その光の柱に飲み込まれ、屍たちが声無き断末魔と共にまるで砂像が崩れ去るように光の中に消えてゆく。

やがて光の柱が収まった時、渓谷の出口を塞いでいた屍の群れは一掃されていた。
運良く攻撃を逃れた屍も、辺りに満ちる清浄な気の前に近付く事が出来ずにいる。

これが巫の切り札。
大神の力を借り、その力の一端を具現化する技。
神威をもって妖魔を討ち祓う、絶技。
この技を持つが故に、巫は唯一妖魔を相手に戦う事ができるのだ。

だがしかし、その力は無制限に揮う事ができるものではない。
何故ならば―――

「…ぅあんッ?!」

突如としてあたしを襲う、体の疼き。
その疼きに、思わず口から漏れる甘い悲鳴。

「こ、れ、は……?!」

全身を支配する、切ない渇望感。
背筋を駆け上がるぞくぞくという悪寒にも似た快感。

「はっ……はっ……はっ……!」

剣を杖代わりに、思わずへたり込みそうになる足をこらえ、あたしは荒い息を上げた。
半開きになった口から覗く舌が、物欲しげに空を彷徨う。
乳房の頂点が立ち上がっているのか、巻いたさらしと襦袢の擦れる感覚が、
痺れるような快感を送り込んでくる。

「あ…はぁ…!」

もう……耐え切れない!
思わずあたしは空いた左手で自ら己の胸をまさぐり、揉みしだく。

「ん、くぅっ!」

敏感な胸から襲い掛かるその切ない快感に、あたしは一瞬小さく腰を跳ねた。
その快感をさらに求めて、あたしの左腕はさらに乱暴に己の胸を攻め立てる。

「あっ…あっ…あぁっ!」

指が蠢くたびに胸が形を変え、痺れる様な快感が脳を焼き尽くす。
潤む瞳。桃色に染まり行く肌。

「…きもち…ひぃんっ?!」

あたしは無意識のうちに、立ち上がった胸の頂点を指で捏ね上げていた。
刹那、まるで雷撃にでも撃たれた様にあたしの体が大きく跳ねる。

「あ、あ、あ、あ……」

半開きにしたあたしの口の端から、つうぅと倒れ落ちる唾液が一筋。
胸を揉みしだき、指で頂点を撫でさすり、あるいはつまみあげ、快感を貪って行く。

「はぁ…ふぅ…んんぅ…!」

まるで振り子か何かのように、あたしの腰がゆるゆると楕円を描いた。
あたしの中心が熱を持ち、じゅわりと湿り気を帯びていく。

「ひ…ぁ…」

もっと、欲しい……もっと気持ちよくなりたい……!
太刀を地面に突き立て、今度は空いた右手を袴の裾から秘所へと伸ばし、その湿った中へと指が―――。

「ぐ……く……! やめ…ろぉっ!」

行為に至るその刹那。
すんでのところで蘇った理性が、その手を留めた。
あたしは頭を振って頬を叩き、それらの疼きを飲み干すように何度か大きく深呼吸をする。
それにあわせ、ゆっくりと体の火照りが収まっていく。

無様……『神威』に当てられたか!

焦って術を制御し切れなかった反動だろう。
あたしは、自分の失態に舌を打つ。

これが、絶技を滅多に使うことのできない故だ。
たとえ大神に仕える巫女といえど、所詮は人の身。
大神の「神威」を前にすれば、それを完全に御することは困難だ。
その神威に「当てられ」れば、人は精神や肉体に何らかの不調をきたす。

「あんなふうになるとはちょっと予想外だったけれど……」

先ほどの余韻がまだ少し残った体。
足を踏み出すと、まだほんのりと残っていた秘所の水気が、小さく音を立てたような気がした。
今まで自分を慰めるという行為をしたことが無いわけではないけれど。
それでも、さきほどの痴態を思い返して気恥ずかしくなる。

「あたしも修練がまだまだ足りないな……」

あたしは地面に突き立てた太刀を引き抜くと、渓谷の出口へと走りながら頬を染めて呟いた。

****

「あらあら、まだまだ修練が足りないわね」

闇の中で、女がくすくすと銅鏡に映し出される沙耶の姿を見て笑う。
その笑いは、彼女の無様を嘲笑うと同時に―――まるで幼子を見守る母親の笑みにも似て。

「そうね……久しぶりに修練に付き合うのも、一興かしら?」

そう言って女は小さく笑うと、身に纏った巫女装束をふわりとはためかせて闇へと躍り出る。
そのまま、闇に溶けるかのように消える、女。
後には、わだかまる闇だけが残っていた。

****

「はぁ…はぁ…」

絶技によって切り開かれた渓谷の出口へ向けて、あたしは走っていた。
清浄な気は妖魔にとって毒の霧も等しい。
あたしの周囲を取り巻く清浄な気配は、まるで透明な壁のように屍の侵入を拒んでいた。
だが、それも時間の問題。
少しずつではあるが、奴らの放つ瘴気がその気配を侵食し始めている。

「完全に侵食される前に、ここを抜ける……そうすれば!」

そのまま、敵の頭を探し出して叩く!
勝算は低い、だが、やってみる価値はある。
あと少し。
後ほんの少し。
あそこまで走れば―――

「――-?!」

あるいはそれに気がつけたのはただの幸運だったのかもしれない。
あたしは、突如として発現した『殺意』を感じ、思わず背後に飛び退る。
刹那、耳に届く風を切る音と、視界に迫る白刃!

「なんとぉっ?!」

慌てて体を捻り、右足を軸にぐるりとその白刃の軌道から身をずらす。
紙一重で直撃を避けた白刃が、あたしの戦装束の袖を切り裂いた。
まるで突如湧き出したような敵の出現に混乱しながらも、あたしは太刀を
構えなおそうとする―――が。

「くぁっ?!」

それよりも早く、敵の刃があたしへ襲い掛かった!

「ちぃぃぃっ?!」

あたしは、その斬撃をかろうじて刃で受け止める。
キィンという鋭い金属音と、飛び散る火花。

……速い、そしてなによりも鋭い!

何とか反撃を試みようと1度大きく背後に飛び、現れた敵と距離を離す。
そこにきて、ようやっとあたしは目の前の敵の姿を捉える事が出来た。

あたしに襲い掛かった敵の正体――それは、一人の女だった。

その身に纏う、目にも鮮やかな濃色の袴の巫女装束。
その手には、一振りの両刃の直刀が握られ、艶やかな黒髪が彼女の顔を隠していた。

―――こいつ、一体何処から?!

姿は人なれど、油断できる相手ではない。
あたしは、手にした太刀を構え、女へと向き直った。

「貴様、一体何者だッ?!」
「…あら、酷いわ。もう、私の事を忘れてしまって?」

叫ぶあたしに苦笑するように、伏せた顔を上げる女。
切れ長の瞳が細く伸び、真赤な紅を引いた唇が、微笑の形を作り上げる。

「え―――」

その女の顔を見たあたしは―――酷く、間の抜けた顔をしていたことだろう。

「思い出してもらえたかしら。…久しぶりね、沙耶?」

そう言って場違いなほど優しい笑みを浮かべる女。
だが、そんな女の言葉は……その時のあたしには、まるで遠い世界の出来事のように思えていた。

それほどまでに。その女の存在はあたしにとって予想外であったのだ。

対峙する、二人。
女は笑顔を浮かべたまま。
あたしは、太刀を女へ向けたまま。

「何故…貴女が…ここにいるのか」

刹那の――だが、永劫にも近しい一瞬の後、あたしの口から搾り出すように紡がれる言葉。

そう……あたしは、この女を知っていた。

その、優しかった笑顔を。
その胸の中で聞いた、心音を。
その、心休まる優しい芳香を。

太刀を握る拳に、力が入る。
目の前の女を、その眼に怒りの焔を灯らせてあたしは凝視した。

・ ・ ・
「何故貴女がここにいるッ! 『姉さん』……いや、霧華ぁっ!」

激昂するあたしを、女…霧華は、能面のように張り付いた笑顔で答えた。

****

『ねえ、きりかおねえちゃん』
『うん、なぁに、沙耶?』
『あたしね、おおきくなったらね、きりかおねえちゃんみたいになりたい』
『あら、どうして?』
『だって、きりかおねえちゃん、きれいだし、すごくいいにおいがするんだもん!』
『ふふ……そうね、沙耶ならきっと、私よりもずっと綺麗になれるわ』
『えへへ、そうかなぁ、そうかなぁ』
『ええ、そう…きっと。きっと、ね』

――それは、もう戻らない、あの日々のこと。

****

東方の地に、『東日出国(あずまひのもとのくに)』と呼ばれる国があった。
かつてこの国を創生した大神には、二人の娘がいたという。

大神を凌ぐ神力と英知に優れ、多くの民に崇拝される姉神。
神力こそ姉神に劣るものの、森羅万象のその全てを愛する心優しき妹神。

ある時、力の衰えを知った大神は二人の娘のいずれかにこの国の守護を任せることに決めた。
大神はおおいに悩み、その末に妹神に己の地位を譲ることを二人に告げる。
それを不服に思った姉神は怒り、嫉み、ついには妹神に対して戦いを挑んできたのだ。

それより今日まで、善なる妹神と悪しき姉神は終わりなき戦いを続けているのだ、という……。

****

神楽坂 霧華(かぐらざか きりか)。
それは、神楽坂一門の歴代の中で、稀代の才覚の持ち主であっただろう人物の名。

戦場に立てば常勝無敗。
その剣技は、まるで舞を舞うがごとく。
その絶技は、あらゆる悪鬼妖魔を調伏せしめ。

そして、何よりも彼女は美しい人だった。
艶やかな黒髪と、透き通るように白い肌。
切れ長で、理知的な輝きを持った眼。
まるで、春の柔風のように優しい、笑顔。

彼女のその美貌と才能に、多くの巫達が憧憬の念を抱き、
あたしもまた先輩として、何よりも自身の姉として尊敬し、慕っていた。

そう―――『あの時』、までは。

****

「何故、貴女がここに居るッ!」

あたしは怒気を霧華へぶつけるようにして、叫んでいた。

「そう、怒らないで? 私は、貴女の怒った顔よりも笑顔のほうが、好きよ」

そんなあたしの様を見て、霧華は少しだけ困った表情を浮かべる。
その口調は、まるで、我侭を言う子供をたしなめるかのようで。

「それに―――その理由、貴女にはとうの昔にわかっているのではなくて?」

そう言って、彼女はほほほ、とまるで鈴を転がすかのように笑う。
その「笑顔」が、その「笑い声」が、「あの頃」のままと変わらぬそれが、酷く苛立たしい。

「つまり、行方不明になった巫達も、あの屍人も……全部、あたしをおびき出すために……!」
「ええ……今の私はまともな方法では貴女に会いにいけないから。会いたかったわ、沙耶」

にっこりと、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる、霧華。

「ふざけるなッ! この―――『裏切り者』ッ!」

太刀を突きつける。
そうだ、目の前の女は裏切り者だ。
あたしをおびき寄せるためだけに、数多の人を犠牲にした悪人だ。
―――あたし達の信頼を裏切った、裏切り者だ!

「裏切り者……か。ふふっ……裏切り者、ね」

ふ、と。
霧華の顔が、一瞬だけまるで泣きそうな顔に見えたのは、あたしの気のせいだっただろうか。

「そうね……では、裏切り者は裏切り者らしい姿になるべきかしらね?」
「――く、ぅっ?!」

刹那、彼女の身体から吐き気すらもよおす様な瘴気が立ち上り始める。

何を―――?!

その瘴気に当てられそうになり、あたしは慌てて一飛びに背後に飛び退る。
霧華の身体から立ち上る瘴気は変わらず、いや更なる陰気をもって彼女を包んでいた。
それはさながら瘴気で出来た薄衣を身にまとうかのように。
その瘴気の中で、霧華の姿もまた変容していた。

長く伸びた艶やかな黒髪が、夜の闇のような瞳が、まるで血で染め上げたかの
ように赤く、紅く染まっていく。
もぞりと両のこめかみから牡鹿を想わせる一対の尖角が生え揃い、額の肉が
ばくりと縦に割れたかと思うと、その下から真紅の宝玉が盛り上がり、
まるで涙に濡れる瞳のように妖しく煌めいた。
あたしの目の前に立ちふさがる女……それはもう、あたしの知っている霧華ではなかった。
人であることすら止めた―――異形の姿だった。

「おいで、沙耶。久しぶりに遊びましょう?」

にたりと口を半月にゆがめ、口の端から牙のように鋭く伸びた八重歯を覗かせ、
真紅の目が笑う。

ただ、その口調だけは。
まるで、あの頃。幼かったあたしを誘う優しい姉のそのままで。

「そうまでして……人の身を捨ててまで復讐を果たそうというのか!
そんなにも…そんなにもあたしが憎いのかッ!」

怒りが、そして、それを上回る哀しさが胸からこみ上げてくる。
かつての自分が憧れた存在が堕ち、穢れていく様が哀しくて悔しくてならなかった。

「……どうして、そう思うの? 私はこんなにも貴女のことを―――」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れッ!!」

―――苛立たしい。

あの頃と変わらぬ優しい言葉が、その笑顔が、何もかもが苛立たしい!
こちらを嘲笑するかのような彼女の言葉を、あたしは自身の叫びで掻き消した。
零れそうになる涙を堪え。
漏れそうになる嗚咽を歯で食いしばり。
あたしは、目の前の妖魔をきっと睨みつける。

「もはや語る言葉はないッ! 霧華、いや、忌むべき妖魔よ! あたしがここで貴女を誅すッ!」
「ふぅ……困った子。これは、すこし灸を据えないと駄目かしら」

太刀を手に、異形となった霧華に向かってあたしは駆ける。
そんなあたしに嘆息しながら、彼女は右手で剣を構え振りかぶった。

風に舞う緋の袴と濃色の袴。

鋭い金属音。
袈裟斬りにしようとした太刀が、逆袈裟に切り上げられた剣に阻まれる。
一合。

鋭い金属音。
水月に向かって突きこまれた剣を、太刀の腹で受け流す。
二合。

鋭い金属音。
双方の真っ向上段から振り下ろされた太刀と剣が互いに弾かれあう。
三合。

双方、そのまま背後に下がり互いに距離をとる。

「<我が言の葉を通じ神威をここに示さん―――>!」
「<黄泉ツ平原に住まる姉神に願い申し上げる―――>」

蒼い光が。冥い光が。
双方の足元から立ち上る光が収束・精鋭化・指向性を持つ攻勢の力へ転換される。

「絶技、『蒼弓(そうきゅう)』!」
「冥技、『骸弾(むくろつぶて)』」

放たれた蒼い光の矢と、冥い瘴気の塊が互いに打ち消しあいながら消滅していく。

それを確認する前に、双方が相手に向かって駆ける。
互いに振りかぶった太刀と剣。

火花と澄み渡る金属音。

互いに擦れ違いながらの一合。
間発入れずに振り向きざまに一閃。

散る火花と、金属音。

再び相手と距離をとるべく、双方互いに背後へ下がる。

何処か、まるで演舞であるように呼吸の合った攻防。
妖魔の顔に、ほうと感心したような表情が浮かぶ。

「……<読心>か」

呟く妖魔。

「力量では確かに貴女に及ばない。けれど、手の内さえ読めれば術はある!」

あたしはそんな妖魔を『青く輝く瞳』で見据え、叫んだ。

神楽坂が何故名門と呼ばれるのか―――

それはひとえにこの異能故にである。
神楽坂の血を引く女性は、生まれついで『心を読む』能力を持っている。
相手の目を凝視する事で相手の心の表層を読む事ができ、直接触れる事さえ
適えば相手の深い心理まで読み取る事ができる、異能。
その力の優劣により、次代の当主の座が決定されるのだ。

「貴女が、次期当主に選ばれなかった故……忘れたとは言わせない!」

あたしの言葉に無言で自嘲気味に笑う、妖魔。
能力で姉に劣っていたはずのあたしが何故当主に選ばれたのか……。
そう、あたしの姉には、一切の読心の才能が無かったのだ。

「―――貴女はその決定を逆恨みし、あろうことか悪神へ忠節を誓った!」

当主に選ばれなかった事を不服に思ったあたしの姉は、故に外道に堕ちた。
あたしがそれを知ったのは、全てが終わった後。
いち早く姉の背信に気付いた者達に、彼女が処断された、という話を聞くまでは。

「信じたくは無かった。何処かで嘘だと思っていた―――だが、こうして今、貴女と見えて確信した!」

太刀の表面に刻まれた杓子星の意匠を指でなぞると、太刀の表面がうっすらと蒼い光を放つ。

「矢張り貴様は処断されるべき裏切り者だ!
神楽坂当主として、改めて貴様に引導を渡してくれる!」

輝く太刀の光が、あたしの意思に答えるかのように輝きを増す。
外道、誅すべし。
あたしの手の中で、ちゃきりと太刀がなった。

「覇ァァァァァァァッ!!」

裂帛の気合と共にあたしは妖魔に向かって真っ向から斬りかかる!
妖魔はそんなあたしを止めようと、手にした剣で反撃を試みようとするが、無駄だ。
相手の動きは、文字通り手にとるように判る。
妖魔の攻撃をかわし、受け流し、あたしは相手へと肉薄する。

「―――っ!」

打ち込んできた相手の攻撃を切り払い、体勢を崩す。
思わず無防備に晒される妖魔の身体。

これで、最後――ーッ!
あたしの太刀は、今度こそ間違いなく妖魔の胴体を薙ぎ払―――?

その時、あたしは見た。
絶対の危機にあるはずの妖魔が、「にたりと笑った」のを。

次の瞬間、あたしの視界をよぎる、『真白い』何か。
それが何であるかを理解する前に、あたしの太刀はその白い何かに絡めとられていた。

「こ、れは……ッ?!」
じゅうじゅうと太刀を包む蒼い光に焼かれるそれは、白い触手。
白く長い触手が、妖魔の懐から伸び、あたしの太刀を掴んでいるのだ。
思わず混乱するあたしの隙を見過ごさず、今度はさらに何本もの触手が彼女の
懐から伸び、あたしに迫る。
「しま……!」
あたしの手足を、彼女の胸元から広がる触手の束が絡めとっていく。
触手の一本が腕を絡めとり、あたしの腕から太刀を奪い取った。
「ひ、ひうっ?!」
触手の何本かが袴の裾や服の袖からから入り込み、その粘液に粘つく表面で
あたしの手足を縛り上げる。
「や、止め…!」
懐にもぐりこんだ触手が、あたしの胴体に絡みつく。
巻いていたサラシが、触手の粘液に濡れてぐちょりと音を立てた。
「うッ…くッ!」
ぬと付く触手の表面が、肌の上をのたうつたびに。
その表面から臭うなんともいえぬ生臭い匂いが鼻腔を擽る度に。
あたしの背筋にぞわりと怖気が走った。
「確かに貴女は私の心を読んだ。 けれど、『この子』の心までは読めなかったようね?」
「く…ッ!」
無様に宙に貼り付けにされたあたしを笑う彼女の胸元から、ずるりと真白い触手の塊が
這い出してくる。

……迂闊だった。

読心はあくまで眼を見た相手の心しか読む事が出来ない。
それを逆手にとって、あたしの目の届かないところに別の妖魔を仕込んでいたのだ。
「卑怯な!」
歯噛みするあたしを、妖魔は鼻で笑う。
―――こいつは最初から、これを狙っていたのだ。
あたしが慢心し、最大の隙を見せるその時を。
「……戦とはいつだって2手3手、もしもの事態を予測して行うものよ、沙耶」
にたりと笑いながら、妖魔は触手の一本を手に取ると、まるで犬を愛でるかのように愛しげに
触手を撫で擦る。

「醜撫迩虞螺(しゅうぶにぐら)……やってしまいなさい」
「ぐっ…うッ……?!」

妖魔の言葉に従い、しゅるりと伸びた触手が首をぎゅうと締め上げる。

息が…でき…ない?!

「うっ!くっ!ぐぅぅっ?!」

ジタバタと暴れもがくが、触手はびくりともしない。
暴れれば暴れるだけ、肺の中に残っていた空気がどんどんと消耗していく。
だんだんと気が遠くなっていく。
目の前がどんどんと暗くなっていく。

こんな―――こんなところで―――!

「そう簡単に殺したりはしないわ……今は、ゆっくりお休みなさい、沙耶」

そんな妖魔の声と、笑い声を最後にあたしの意識は闇に堕ちた―――。






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