星天使スターナイツ(仮題)
シチュエーション


「う、うわぁぁぁぁぁ!た、助けてくれぇ!」

夜の街に恐怖と絶望の悲鳴がこだまする。光の無い真っ暗な廃ビル群の間を、明らかに人間ではない異形のモノ達が走っていた。
ソレを追うのは、紅いドレスに身を包んだ一人の少女。ところどころにフリルがあしらわれ、肌は肘までの白い長手袋と黒いニーソックス
に覆われている。ショートカットの黒髪が風になびき、夜の闇と相まって神秘的な美しさを醸し出す。

その手には、まだあどけなさを残す顔に似つかわしくない抜き身の剣。すでにその刀身にはわずかに人間のモノではない血が付着し、これ
までの戦いを物語る。
しばらくの後、ついに異形は袋小路へと追い詰められた。観念したのか、異形はその顔を追走者へと向け、飛び掛る構えを取った。

異形の脚に力がこもり、剣を手にした少女へと跳躍する。そのスピードは生半可なものではなく、自動車などあっさりと抜き去ってしまう
ほど。
しかし、少女は動じなかった。ゆっくりと、剣を握り締め―――――

一閃。

異形の動きが止まる。次の瞬間、その体は二つに別れ、地面へと堕ちていった。

「―――ふうっ。これで、三匹目…あとは――――」

呟いて、少女は剣を鞘に収めた。




「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう…何なんだ、何なんだあいつは…!」

同時刻、廃ビル群の外れ。一匹の異形が、恐怖に身を震わせながら呪詛の言葉を繰り返していた。

異形たちは、4匹でチームを組んで「人間狩り」に来ていた。人間は、もろかった。異形たちが爪や牙を立てればすぐに壊れたし、ちょっ

と脅せばすぐに泣き叫んで許しを請うた。異形たちにとって、人間は格好の「獲物」であり、「玩具」だった。
だが、あの少女は違った。細い小さな体が光ったと思うと、仲間の一匹が真っ二つになっていた。少女の手には、剣があった。
残った三匹の異形たちは、たまらずにその場から逃げ出した。逃げる途中、バラバラになった。仲間を気遣う余裕はなかった。とにかく、
恐怖に駆られて走った。しばらくすると仲間の断末魔が聞こえてきた。逃げた。必死で、殺されないように逃げた。

「…はぁ、はぁ…まあいい、なんとか撒いたみたいだ…とにかく、一度本部に帰って…」

追手の足音が聞こえないのを確認すると、異形は大きく息をついた。廃ビル群に憎々しげな視線を投げかけて、言った。

「…本部に戻って、体勢を立て直して…必ず、必ず殺してやる!…いや、それだけじゃねえ。引ん剥いて、輪姦(まわ)して、あの忌々しい顔を絶望に染めてから、細切れにしてやる…」

ビルに背を向け、異形はよろよろと歩き出す。ふと立ち止まり、もう一度ビルのほうに向き直り――――

「この俺様を生かしたこと、必ずこうか―――――が?」

異形の額から、真っ白な矢が生えていた。

「あ、が、が、が?あ、ぎぃやぁぁぁぁ!」

矢から激しい閃光が生まれ、夜の闇を切り裂いていく。そして数瞬の後、異形の体は閃光とともに爆散した――――




それをビルの上から眺めていたのは、蒼いドレスに身を包んだ少女。手には、弓。腰まである長い黒髪をビル風になびかせ、『紅色の少女
と寸分違わぬ顔で』微笑んだ。

「――――これで四匹。全滅、だね」


「ええい、どいつもこいつも役に立たん!」

廃ビル群からは遠く離れた山中の研究所。その中に、秘密結社『七つの大罪』の総帥・グリモワールの怒声が響き渡った。
先程まで四匹の異形の視界を映し出していたモニターはただ耳障りなノイズを発し続けている。

「奴らを――――スターナイツをなんとかしなければ世界征服の悲願は果たせんというのに…なんだ、この様は!」

怒りに満ちたグリモワールの声に、あたりにひしめく異形たちの動きが一瞬硬直する。
しばらくの後、一匹の異形が恐る恐る口を開いた。

「グ、グリモワール様…お言葉ではございますが、スターナイツはめっぽう強く、我々が何匹束になったところで触れることすらできないのでございます…ど、どうかお許しを…」

怯えた眼で主に許しを求める異形。グリモワールが次の言葉を発しようとした瞬間、異形の体に異変が起こった。

「あ、ぴ?……ぎゃ」

一瞬の間に異形の体に無数のヒビが入り、異形は断末魔をあげる暇もなく次の瞬間バラバラに砕け散った。辺りには赤黒い血が飛散し、異様な臭いが立ち込める。その後ろには、身長2メートルはあろうかという大男が巨大な斧を携えて立っていた。

「はっ…最初から勝てねぇ勝てねぇ言ってる雑魚に用はねぇんだよ。…グリモワール様、強欲のマモン、ただいま到着いたしました」
「ふぅ、どうして男ってこう品がないのかしら。…同じく、色欲のアスモデウス、ここに」

巨漢の背後から妖艶な動きで姿を現したのは、いやに露出度の高い衣装を身に纏った褐色の美女。二人はグリモワールの前に傅き、頭を垂れた。

「おお、マモンにアスモデウス…『七大悪魔』のお前らを呼んだのは他でもない。…こいつらを始末してもらいたい」

グリモワールはそう言うと2枚の写真、そして書類の束をマモン達に手渡した。

「これは…同一人物でしょうか?」

アスモデウスが訝しげに問う。
渡されたのは紅と蒼の少女の写真。ドレスの色と髪の長さだけは同じだが、その顔には全く相違点が見当たらない。

「いや、別の人間だ…どうやら双子らしい。…まったく、姉妹そろって厄介なやつらよ…」

忌々しげに吐き捨てるグリモワールを前に、マモンとアスモデウスはゆっくりと立ち上がった。

「要はこの小娘どもを再起不能にしてやればいいわけですね。…かしこまりました、1週間以内に果たして見せましょう」
「おお、任せたぞ。その他の情報はその書類に記録してある…では、行け!『七大悪魔』の名に懸けて、スターナイツの首を取ってくるのだ!」

グリモワールの叫びとともに、二人の姿が掻き消える。後には、静寂と暗闇だけが残されていた――――――



「ほぉ…神崎朱里、シャインスター…こっちは接近戦が得意ってわけか…」
「神崎蒼姫、スイートムーン…弓による遠距離射撃、ね…?」

研究所を出たマモンとアスモデウスは街中に取っていたホテルに戻り、グリモワールから渡された書類に目を通していた。

「おい、アスモデウス。俺はこっちの赤い方に行くぜ…文句はねぇよな?」
「ええ…じゃあ私はこっちの青い子、妹ちゃんの方にいくわ。うふふふ、楽しみねぇ…」

薄暗い部屋の中で、それぞれが自分のターゲットを決めていく。その様子にはどこか余裕すら感じさせるものがあった。

「くははは…気の強そうな目つきしてやがるぜ。こういうやつを犯して泣き叫ばせるのが一番おもしれぇんだよ…」
「うふふ、いかにも清楚なお嬢様、って感じよねぇ…ああ、この子を淫乱な色狂いに染められるなんて…興奮しちゃうわぁ…」

東京都心、あるホテルの一室。二人の劣情の加速は止まらない。

これが終わりの無い淫辱の宴の始まりであることを、双子の戦士・スターナイツはまだ知らない――――――――






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