実験その後
シチュエーション


その後、ドーメは助手が持ってきた3匹のk-254によって永遠に思える時間にわたって地獄―むしろ極楽浄土かも知れなかった―を見せられ続けた。

「うっんあああっ!きうぅぅうぅっふぁっあああああぁ…ひああああああっ!ぃやっくるっ!あっぁぁあっ………………」

2匹めのk-254によって、目もくらむような絶頂に達っし続けて6分、ついにドーメは気を失った。意識が無くなっても体はまだびくびくとうち震えている。

ドーメの喘ぎ声が止み突然静かになった。その部屋に響くのはk-254がドーメの愛液を啜る音だけだ。

「…気絶したようです。」
「そうみたいだな。」
「どうなさいますか?」
「放っておけ。その内にまた意識を取り戻すはずだ。」
「分かりました。…どこへ?」

部屋を出ようとするネリアスに訊く。

「研究室だ。まだしなくてはならない事は掃いて棄てるほどあるからな。最後の一匹の“食事”が終わったら連絡を寄越したまえ。」
「はい。」

ネリアスが扉を閉める音が静かな部屋に響いた。

ドーメは目を醒ました。パッと見渡すとそこはまだあの部屋だった。ただ、同じ部屋にいても多少状況が違っている。
まず天井から下がるあのロープに両手を拘束されていなかった。さらにどこから出てきたのかベッドが部屋の隅に配置され、彼女はその上で寝ていた。
部屋に窓も時計も無いため一体何時間寝ていたのか全く見当もつかない。しかし最後に気を失うまで何をされていたのかは鮮烈に記憶に刻み込まれている。
絶え間ない絶頂によって気を暗闇に失っても、また新たに送り込まれる快楽の波によって現実に引き出される。その繰り返しだった。一体何度繰り返したのか定かではない。

ドーメがいまの状況がどういうものなのか考えていると。
ゴンゴンと鉄の扉がノックされる音が低く響き、

「失礼します。」

あの助手が部屋に入ってきた。

「あなた…」

ドーメが呟く。

「気を取り戻されたようでしたから食事をご用意しました。」

助手の手には食事を乗せたプレートがある。

「どうぞ。」

助手はドーメにそれを差し出してきた。

「…ずっとそこで監視してるの?」

ドーメは助手が入ってきた扉に目をやって言った。

「いいえ。この部屋はカメラによって24時間死角なしで監視できますから。」
「…毒入りなのかしら?」

今度は助手の手にある食事に目をやって訊いた。

「いいえ。あなたは貴重な女性の被験体ですから、そのご心配は必要ありません。」
「……そう。」

何の感情も込められていない声で返され、どういう訳かかえって安心した。

「…食事中も監視してるの?」
「はい。」
「監視カメラには死角が無いんでしょ?何でそこにいるのよ?」

ドーメが食事をしてても助手はドーメの側にいた。

「被験後の様子を観察する必要もありますので。」
「…そう。」
「…体調の方に変わりは?」

どこから出したのか記録簿を手に助手が訊いてきた。

「答える必要は無いわ。」
「答えていただけないようでしたら、これから変えさせますよ。」

氷のような声で返される。

「…特に異常は無いわよ。」
「そうですか。」

例の実験からというもの、特に何かを強要されたりする事無く、ただ時間が過ぎていった。
何とか逃げようと部屋を調べて回ったが、外鍵の鉄製扉以外に部屋を出る術など存在せず、扉の外には監視兵がいるため、脱出は不可能という結論に至った。
やがて8度目の食事が与えられた際、助手が言った。

「これを食べ終わり次第、部屋を移って頂きます。」
「…どこに?」
「研究所内としかまだ申せません。」

(いよいよガス室送りかしらね…。)

ドーメは悲観的な予想を立てたが、それはまたネリアスの実験台になるという点において当たっていた。

「何よ、この部屋?今度は何するつもりなのよ?」

…つもりなのよ…なのよ…よ……

ドーメの出した声が部屋にエコーして響きわたる。

「ここは音に纏わる実験を行う部屋でね、今回は一番よく響く環境にしてある。」

…してある…ある…る……

今度はネリアスの声が飛び交う。
後ろで手錠をされ拘束されたドーメにネリアス、そして助手がいるここは第6実験室。可動式の天井にコンクリートの壁、円柱系の形をした部屋だ。

「実験室……また私に得体の知れない実験をするのね?」
「察しがいいな。最も君は実験用のモルモットなのだからな、その役割を自覚してもらえるというのはありがたい限りだ。」
「ひ、人をモルモット扱いしないで!」

大きくドーメの声が響く。

「安心したまえ。実験用と言っても粗末な扱いはしないつもりだ。」

ネリアスはどこかズレた答えを返す。

「…何より君は貴重な女性体のサンプルだからな。君に行う実験はよく選んぶつもりだ。」

ドーメはその言葉に怖気を感じた。

「…また、私を辱めるつもりね。」
「君がまだ羞恥心を持っている限り、だな。」

ふん、と鼻を鳴らしてネリアスは返した。

「さて、時間もそんなに無いんだ。早速始めさせてもらおう――頼む。」

手にした通信機を通じて助手か誰かに実験の開始を命じた。

「了解。」

くぐもった声が通信機から返ってくる。

(――っ!)

ドーメは襲いかかってくるであろう何かに身構える…しかし10秒20秒たっても一向に何か得体の知れぬ生物や兵器が出てくる兆しはない。

(……何なの、今度は?)

それがかえって不気味に感じられる。
…やがてどこからか、

ピィーーーン

透き通るような高い、細い音がし、木霊した。

(……?)

ピィーーーン

…まただ。一体どこからするのだろうかと見渡していると、

「よし、ちゃんと鳴っていそうだな。」
「そのようですね。」
「何なのよ、この音は…何するつもりなのよ?」
「何、すぐにわかるはずだ、実験が成功すればな。」

どうして体の後ろで手錠をされたのか、ドーメは遅蒔きながら気が付いた。耳を塞がれては困る、つまりこの音が耳に入る事で何かドーメに作用するのだ。
突然、ネリアスがドーメに近づいてきた。何よ、と口にする前にネリアスはテープでドーメの口を塞いだ。

「ん〜〜っん〜〜!」

ドーメが抗議の声を上げても全て意味のないうめき声になる。

「君の事だ。大声でも出して音を聞き入れないようにでもする前に口を塞がしてもらった。」

ネリアスは言った。

ネリアスが実験の開始を命じてから15分、相変わらずあの高くて細い、透明な音は響き続けていた。
しかし、ドーメの体には何らかの変化が起きたり、変化の兆しは一向に見られなかった。

(この音にどういう効果があるのよ?)

そんな状態のドーメを見てネリアスが助手に命じる。

「…やりたまえ。」
「はい。」

ネリアスの助手を長年務めているせいか、あの一声でネリアスの意思がくみ取れるらしい。

「失礼します。」

そして助手はドーメのスカートと下着に手をかけると一気に下へとずらした。

(あっ!)

両手が使えない状態ではどうしようも無い。数日前あれだけの辱めを受けても、また顔を赤くした。
助手は露わになったドーメの秘所に顔を近づけて観察し、

「…特に膣液の分泌は見られません。」
「本当かね?もう効果の程が確かめられても良いはずだが…。」

ネリアスは腕時計に目をやって言った。

「君、後を任せる。40分程したらまた戻ってくる。もし、それまでに何か異常などが認められた時にはまた連絡してくれたまえ。」
「……分かりました。」

助手の返事を聞いたネリアスは静かに実験室を出ていった。

さらにネリアスが部屋を出て10分が経った。
相変わらずドーメの体調に変化は見られない。

(…実験は失敗だったという事?)

先ほど助手が自分の……に変化の兆しを見つけようとしたこと、実験開始前のネリアスの言葉から察するに、恐らくこの音には媚薬効果が見込まれるはずなのだろう。その他に何かあるとしても検討もつかない。
ドーメを先ほどからずっと観察している助手に尋ねようにも口を塞がれていては、テープを外して欲しいという要求を視線に込めて助手をじっと見てる他になかった。

もう1、2分が経過し、ドーメが―ごく僅かではあるが―変化に気づいた。
ドーメを見つめる助手の眼だ。
いつも氷のようで人間の温かみを全く感じさせない、その眼が微かに揺らいでいるように思えたのだ。

「……………。」

まただ。助手の表情には変化が見られないが、その冷たい眼光が移ろうさまが一瞬、見えた。


さらに2分が経過した。
助手の眼に宿る光が時々、ふっと揺ぐ事に次いで、今度はその足がふるっと震えた。
震えたと言ってもごく僅かですじっと助手を凝視していなければ分からない程度だ。しかしドーメはその様子を見逃さなかった。
それから暫くの間、不定期に助手の眼の光と足が揺らいだ。


助手の足が揺らぎ始めてからおよそ7分後、また助手の様子に変化が現れた。

「…………っ。……ふ…。」

今度は助手の吐息がこれまでやや大きく、ドーメの耳には聞こえたのだ。


その2分後、相変わらず視線を交わしていた二人だったが、助手がその眼を突然すっとそらした。まるでドーメに様子を見られる事を避けるように。

それからというもの、助手はドーメにちらちらと目をやるが、目をそらしがちな様子は変わらず、足を震わせて―時にはモジモジと―、僅かに呼吸が乱れがちな状態が続いた。

ドーメは確信した。恐らく彼女の想像通り、この音波は媚薬効果を持っているのだろう。
ただ、どういう訳か被験体である筈のドーメにその効果が発揮されず、一緒にいる助手の方に効果が出てきているようなのだ。
何とか助手も何気ない様子でいようとしているが、ドーメも数日前に違う形ではあるが、媚薬を投与され、それがどういう事になるのか分かっているのだから見間違えようがない。

暫くしてから、音も立てずに実験室の扉が開きネリアスが入ってきた。

「………何だ、被験体の体調に変化が無いように見えるが?」

ドーメを上から下まで見回して言った。

「私が部屋を出てから彼女に何も無かったかね?どんな些細な変化でも構わない、君?」

ネリアスは助手に尋ねる。

「……はい…、被験体の様子に、一切の変化は、見られませんでした…。」

ネリアスが入ってきた途端、助手は僅かな呼吸の乱れを正した。だが、心なしかいつもに比べて声に冷たさが足りないようにドーメには思える。
しかし、ネリアスの方は気が付くことなく、

「そちらの計器測定ではどうだったかね?」

今度は手にした通信機に尋ねる。

「はい、確かに被験体に変化はこれと言って見られませんでした。」

マイクからはの声は助手の言葉を肯定した。

「そうか…。先日の媚薬の実験の際は完全なものとは言えずとも、効果は現れたのだがな、今回は完全に失敗だな。」

ネリアスはガリガリと頭を掻いて、

「あ〜仕方がない…君、被験体にそれを着せて部屋に戻しておきたまえ。」

助手に命じ、部屋を後にした。

「……わかりました。」

部屋に残された助手は床に落ちたスカートと下着を手にし、

「…失、礼します…。」

ドーメにそれを着せた。
近くに助手がやって来てよくその顔をみると、真っ白なその頬にほのかに赤みがさしているのが分かった。

「付いてきて下さい、お部屋まで、お連れ、します。」
「〜んん(テープを外して)!」

助手はドーメの訴えを無視したのか、あるいは聞き取れなかったのか、部屋に戻るまでテープを外さなかった。

「ウィン、お疲れ〜」

被験体を部屋に連れ戻した後、休憩所にネリアスの助手、ウィンが入ると、カールをかけた明るい感じの女性が労いの言葉をかけてきた。

「……。」

ウィンはコクリと頭を下げて返した。
声を掛けてきた女性はアリーマ。ネリアスの助手の一人で、ウィンより6歳年上で確か23になる筈だ。

「はい、新作のクッキーだよ〜。」

部屋の真ん中にある大きな丸テーブルの席に着いたウィンに、アリーマがクッキーと思しきものが乗った皿を寄越して、

「………ありがとうございます。」

ウィンは控えめな声でお礼を返して、クッキーを口にした途端、

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

途轍もない辛さがウィンの舌を襲ってきた。辛い物は彼女が最も苦手とするものだ。
その様子を見たアリーマが、

「あ、ウィンってば辛いモノ、ダメだったっけ!」

と言って、慌てた様子で水差しに入っているものをコップに注いでウィンに渡した。

「けほっけほっ…ありがとうございます。」

受け取った飲み物を急いでコクコクと飲むウィン。コップに入ったうちの半分程飲んで、

「…………?」

怪訝な顔を浮かべる。

ごく僅かだが何か味がする。

「…水じゃない…?」

アリーマにその顔を向けて訊く。

「あ、分かった?」

アリーマは怪しげな笑みを浮かべている。それを見たウィンが再度尋ねる。

「何ですか、こ―――」

最後まで言葉を言う前に突然視界が暗転し、ウィンは気を失った。


「ぅ…………?」

ウィンが目を醒ますと、そこはコンクリートの壁に囲まれていた。

「どこ―――?」

辺りを見回そうとすると、

ジャラッ

という音が後ろでした。

「―――ぇ」

ウィンは一体自分がどういう状況にあるのか分からなかった。いや、分かりはしたが頭がそれを受け入れられなかった。
ウィンは立っていた。背中には一本の鉄製の棒があり、さらにその後ろで両手を手錠で繋がれていた。つまりウィンは拘束されているのだった。

(どうして―?)

最後に覚えてる事は確か…休憩所に行ってアリーマと一緒に―そうだ、彼女に手渡された飲料を飲んで気を失ったのだ。
つまり、ウィンを拘束したのは――

「お目覚めかしら?」

―アリーマの声だ。ただしスピーカー越しだ。しかもやたらと部屋の中で反響している。

「………ここは…?」

アリーマが答える。

「第6実験室よ。机に頭をぶつけて忘れちゃったかしら?」

ウィンが改めて部屋見回すと、なるほど、壁に角がなく、終わりが見えない高い天井、エコーする音、確かにウィン達がいた第6実験室だ。

「なぜ―――」

ここに?と訊こうとする前に、

「ウィン、あなたテープどうして取らなかったの?」

アリーマがウィンの声を遮って尋ねてきた。

「え…?」
「テープよ、テープ。あの被験体の口に貼ってたテープよ。どうしてあれをここでさっさと剥がさないかったの?」
「……………?」

いきなりそんな事を訊かれても、何のことを言ってるのか分からない。

「所長の前で口にされるのが怖かったのかしら?」
「………何を?」
「決まってるじゃない、あなたがあの実験で発情してたことよ。」

突然言われて脳裏からあの実験についての記憶が引き出される。

「ぁ……。」
「そうなんでしょ?」

アリーマの楽しそうな声が部屋に響く。

「…そんな事…無いです。」

ウィンが小さな声で呟いた。

「あら、そうかしら?」
「あの実験で被験体に変化は見られませんでした…。」
「被験体には、ね。あなたはどうだったの、ウィン?」

ウィンは下を向いて、

「私にも……。」
「あら、嘘は駄目よ、ウィン。」
「嘘なんか…。」
「あのね、私はこの第6実験室のモニター室でその部屋の中の状態を測定してたのよ?」
「………。」
「確かに被験体の体調には変化は無かったわ、でも。」

アリーマは言葉を区切る。

「あなたはそんな事無かったわよ、ウィン。サーモグラフィーで見てたけど、あなた実験が始まって5分も経たないうちに、凄い勢いで体温が上がっていったわ。」
「………それは……。」
「つまりこれの示すところは、あの音波が確実にあなたに影響を及ぼしていたという事よね?媚薬効果が出ていたっていう。」
「…………。」

サーモグラフィーでの測定結果に嘘があるとは流石に言えない。

「でも、さっきあなたは私にそんな事無いって言ったよね?これってつまり、先輩の私に嘘ついたって事だよね?」

意地の悪そうなアリーマの声がまた響く。

「そんな悪い子にはお仕置きしちゃうから♪」
「え………?」

妙に明るいアリーマの様子に、ウィンは嫌な予感を感じた。一体何を……?

ピィーーーーン…

透明な、高くて細い音が部屋に響いた。
――――あの音だ。

アリーマがモニター室から第6実験室に媚薬音波を流し始めて5分。サーモグラフィーを通してみるとウィンの体温がみるみるうちに上昇していくのが分かる。

「ほら、やっぱり効果が出てるわよ、ウィン。」

アリーマはマイクを通して楽しげにウィンに言った。

「……………。」

ウィンからは返事は無い。
アリーマが高解像度カメラで撮されるウィンの様子を眺める限りは未だ何も変化が無いように無いように見える。しかし、恐らくウィンの秘所はすでに湿り気を帯びてきている筈だ。
なぜ連れてきた被験体には効果が現れず、ウィンには効いたのか。その理由は「個人差」から来るものだろう。
ただ単調にピンピンと鳴っているようにしか聞こえないこの音波だが、実は高低様々な周波数が混じった複雑な「和音」だ。
人間の耳に感知できる音の高さはおおよそ20Hz〜20kHzだ。しかし、これには往々にして個人差があり、さらには20歳を超えた辺りからすでに聴力の退化というのは始まっているのだ。

ウィンは今17歳、もともと五感がとても優れていた。
アリーマがウィンの飲む紅茶に何か新発明の薬品を仕込んでも、口にされる前にその敏感な嗅覚で看破される事が多かった。
今回は策を練って、ウィンの苦手とする激辛クッキー(無臭化にどれほど苦労したことか)を与えてパニックにした状態にし、アリーマが開発した強力な気絶剤を混ぜた水を飲ませたのだ。

音波の再生から10分、カメラ越しのウィンの様子を見る限りは変わりは無かった。サーモグラフィーで見る限りではすっかり茹で上がっているが。

「あなたって本当に強情よね。もっと素直によがってくれれば面白いのにね。私だったらコレが効いたら10分も、多分5分もじっとしてられないわよ、きっと。」

アリーマが声を掛ける。

「………………。」

ウィンは相変わらず黙り込んでいる。

「ま、そんな所がウィンのいいところなのよね。」
そしてアリーマはそんなウィンがよがり狂わせてみたいのだ。
「所長は…どうするつもり、ですか?助手の姿が見えなくなったら…」
「あら、所長が私たちを探す心配は要らないわよ。」
「………ぇ?」
「長官に呼ばれたみたいでね、首都に向かってる筈よ、今頃。研究所に帰ってくるまでどんなに早くとも、あと4時間は掛かるわね。」
「……………。」
「それにね、ウィン。」

アリーマは言葉を続ける。

「所長が帰ってくるまでには、あなたをすっかり素直にさせてあげるから♪」
「………………。」

ウィンは何と返したらいいのか分からなかった。

「さっき50分間この音波に堪えてたみたいだけど、今度はどの位もつかしらね、ウィン?」
「…………………。」
「そんなずっと黙っててもつまらないわよ、ウィン。それとももう声をだす余裕も無いの?」
「………………。」

ウィンは相変わらず黙り込んで、そんな彼女にアリーマはため息をつく。

「うん、決めた。」
「……?」
「あなたが自分から声を上げるまでこの音波、流したままにしてあげるから。」
「………っ。」

ウィンはその言葉に息を飲む。

「もし音波を停止して欲しかったらちゃんと言うのよ、どうかやめてください、お姉さまって♪」

その口調はまるで何かを閃いた時のように嬉々としていた。

「音波を…止めてください。」ウィンは小さく呟いた。
「あら?」
「どうかやめてください、お姉さま………。」

呟くように続けた。

「駄目よ、ウィン。そんな呪文みたいに言われたって。もっと心をこめて言わないと。」
「………。」
「もっとウィンがいっぱいいっぱいの状態になってからじゃないと意味がないの。」

意地の悪そうなアリーマの声が響く。

「………。」
「じゃ、頑張ってねウィン。」

音波を流し始めてから20分後。

「あら?」

ウィンの様子を見てアリーマが声を出した。

「……っ……っ………ふ……………」

先ほどから僅かに大きくなったウィンの呼吸音が実験室に木霊していたが、今度は体が震え始めたように見える。

「ねぇ、ウィン?」
「…っ………?」
「さっきから体が震え始めて来たけど、あとどれくらい保ちそう?」
「…………っ」

アリーマの言葉を聞いてウィンはすっと背筋を伸ばした…が、まもなくふるふると体がまた震えだす。

「何も無理しなくていいのよ、ウィン。もう降参します、って思いながら言えばいいのよ?」

そのヒネた口調はまるでネリアスのそれだ。

「…………っ…………ぅ……………っ…………」

ウィンはそんなアリーマの言葉を耳にする度に、そんな事を口にしたくないという気持ちが強くなっていく。
言えばすぐに音波が停止するのに、そんな事言いたくないがために、自ら自分の首を絞めている、といった悪循環だった。

音波を流し始めてから30分後。

モニターのウィンを見ると、明らかに足をもじもじとすり合わせる様が映っている。
さらにモニター室のスピーカーからは、ウィンの悩ましげな(というにはまだ容姿は幼い感じが残るが)吐息が響いてくる。

「ねぇ、ウィン?」

音波の媚薬効果を必死に堪えるウィンに声を掛ける。

「もうあれから30分経ったわよ?そろそろ音を上げてもいい頃じゃない?」
「……っ…………っ…っ……」

しかしウィンは潤んだその目をカメラ越しにアリーマに見せるだけで何も言わない。

「ホンっト強情なのね、あなたって。k-254を初被験したときにはあんなに素直だったのにね?」

アリーマの言葉にウィンの記憶の底からあの時が蘇ってくる。

「もうこっちも待ちくたびれちゃった、ウィン。だからね……」
「………っ?」
「ちょっと攻めてあげる♪」
「………?っ――――――!!」

下向き加減だったウィンの顔が上に跳ねる。

ウィンが身につけた下着の秘所にあたる部分が突然振動し始めたのだ。

「どう、驚いたでしょ?」
「くぅっ…ふぁ……ぁ…っ……―――っ!」
「折角ウィンが珍しく倒れてたんだもん、何もしないって手はないからね。ちょっと玩具を仕込んだ下着に履き替えさせたの。」

明るいアリーマの声が響く。

「どう?付け心地は?ねえ?」
「や、やめてっ……くだ…さいっ…、お、お姉さ…まっ……!」

零れるような声でウィンが言った。

「あれ、降参する?もう限界なの?」
「はやく…と、とめっ……てくだ…っ…!」
「どっちを?音波の方?それとも振動の方?」

わざとらしく訊いてくるアリーマに、

「両…方とも……で、す、くぅっ……」
「はいはい、今止めるからね♪」

やがてあの高く響いた音波とウィンを襲った振動がとまり、

「はぁ……はぁ………ふぅ………」

ウィンの吐息だけが木霊した。

「ねえ、ウィン?」

そこにアリーマの声が木霊に加わり、

「何回イったの?」

と訊いてきた。
しかし、

「はぁ…っ………はぁ………」

返ってくるのは吐息だけ。

「ね〜え?」

とまたアリーマの声が響くと同時に、

「くぅっ………っぁ………!!」

ウィンの秘所をまたも振動が襲ってきた。

「に……2回…で、す…っ…!」

絞り出すようにウィンが答える。

「へ〜、あんな短い間に2回もイっちゃったんだ〜。スゴいんだね、あの音波。」

今度はアリーマの声と同時に下着の振動が止まった。

音波が止んでから3分後、実験室にアリーマが入ってきて、

「ウィン、お疲れ〜」

休憩所の時と同じ言葉を掛けてきた。

「スゴいんだね、あの音波。耳にしててどんな感じなの、ウィン?」

ウィンは潤みきった目でアリーマを睨んだ。

「ね〜え、答えてよ〜?」

カチッという音がアリーマの手から聞こえると、

「っ―――――!」

またウィンの秘所に振動が送られた。

「どうだったの〜ねえ〜?」

じゃれつくようにアリーマが訊いてきて、

「だん…だ、ん…頭が…ぼ、ぼーっとし、て…きまし…た………っ」

ウィンが答える。

「ふ〜ん、そうなんだ。」

またカチッと音がして振動が止まり、ウィンの吐息が部屋に木霊する。

「ホント、ウィンの喘ぎ声って可愛いんだから♪」

カチッとまた音がして、

「くぅっや、やめてくだ、さ…いっぁっ……ぁっ――――――!」

ウィンがびくびくと体を震わせて、へたりと床に座り込んだ。

「あ、またイっちゃったの?」
「とめて…くだ…さい…、お願、い…しま…すっ…」
「お姉さま、は?」
「お、お願い…します…ぉ…お姉…さ、ま…っ!」
「はい、よく言えました♪」

カチッと音がして振動が止む。しかしウィンの体は暫くの間ふるふると震えていた。






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